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第1章 沢田くんと恋の予感
沢田くんと特訓の成果
しおりを挟む沢田くんが「ちん」とか「まん」とか言っているうちに、休み時間の終了を知らせるチャイムが鳴った。(どういう状況)
「沢田くん、次の時間、任せるよ。大丈夫ね?」
「うん……。【もうやるしかない!! 踏ん張れ、俺!!】」
目にはそうと見えないけれど、沢田くんはかなり気合を入れているようだ。
【練習に付き合ってくれた佐藤さんのためにも、命を懸けるぞ……!】
注)沢田くんが挑もうとしているのは、日直の号令です。
教室に戻ると、その場面はすぐに訪れた。日本史の松未先生が既に教壇に立っている。
頑張って、沢田くん!
アイコンタクトをすると、沢田くんが頷いた。
「……起立!」
みんなのどよめきが起きた。
「今の声、誰?」
「沢田じゃね?」
「ウソ、初めて聞いた! めっちゃイケボだったんだけど!」
みんなの驚きの声が一斉に聞こえる。私は密かに優越感を持ってそれらを聞いていた。
どうよ、うちの沢田。やるときゃやるっしょ?
どの立場なのか分からないけど、なんかそんなこと言ってみたくなる。
「……礼!」
沢田くんの号令は、完璧だった。休憩前までピヨピヨしていたとは思えない堂々とした立居振る舞いで、森島くんからファンを最低五人は奪い取ったと思う。
正直、私も惚れ直したし。
「やったね、沢田くん」
着席しながらこっそり話しかけると、沢田くんは驚いたようにこっちを見て小さく頷いた。
【俺……やったのか。無我夢中だったから記憶がない……! そういえばみんながなんかざわざわしてた気がする! やっぱ変な声だったのかな? キモいとか言われてたのかな。記憶がなくて助かった! また新たなトラウマを生むところだった!!】
机の下で小さくガッツポーズをしている沢田くん。
本当のことを言っても、きっと沢田くんは信じないんだろうな。
でも、沢田くんに好印象を持った人が今後彼に近づいていって、いつかは彼も自分がイケてるんだってことに気がついてしまうかもしれない。
やがて彼はクラスの人気者になり、私はまた彼を密かに見ているだけの、ただのモブになってしまうのだ。
うう、沢田くんの成功を喜んであげないといけないのに、なぜか切ない!
勝手に暗くなりかけた私の耳に、沢田くんのつぶやきが届く。
【みんな佐藤さんのおかげだな……】
【そうだぞ、沢田空。お前のようなどうしようもないヘタレでも号令が成功できたのは、あのお嬢さんの特訓のおかげだぞ。あとおじさんの反面教師っぷりも忘れるなよ!】
【……】
【え、無視⁉︎】
沢田くんと土下座おじさんの可愛らしい会話に、私は思わず吹き出しそうになった。
やっぱり沢田くんは面白いなあ──と和んだ時だ。
土下座おじさんが言った。
【沢田空よ。あのお嬢さんに、特訓のお礼をするべきじゃないか?】
えっ? お礼?
やだ、いま私、土下座おじさんにキュンとしちゃったよ!
どうかしてるぜ!!
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