上 下
260 / 310
強者討伐 失われた武器

259 英気を養う? 1

しおりを挟む
 実家というだけでこんなにも寛げるのがいいよな。
 季節は、夏。俺にとっては最悪の季節だ。
 ただ居ると言うだけで汗は吹き出し、動くのがとても嫌になる時期だ。

 しかし、ここは俺の実家だ。

 あのムカつくダンジョンを攻略して帰ってきたが、父上も母上も兄夫婦すら居ない。まさに天国。
 つまり、俺のやることにとやかく文句を言ってくる人間は少ない。
 ベルを鳴らせば何時でも、俺の好きな物を持って来てくれる。

「ぷはっ。美味い」

 夏にはやっぱりキンキンに冷えた飲み物だよな。
 そして、氷魔法を使い部屋の温度を下げ、とても快適に過ごせている。
 こんなに大々的にやった所で、俺のことは皆知っているから特に咎められることもない。
 しかしまあ……体感温度の違いか、部屋に入ってきた使用人達は『寒い』と言うんだよな。

「しかし、こうも外が暑いと、ダンジョン生活のほうが絶対に楽だよな」

 ダンジョンの中は意外と、寒くも暑くもない。
 ジメジメとした感じもなくかなり過ごしやすい。
 だけど今は、八月がもうすぐ終わる。

 今から行ったとしても、またすぐに帰ってくる羽目になるから、かれこれ三日程こんな生活をしていた。
 外に出る時は、エアシールドを使い空気熱は遮断できていたが、日光は別の物でしか遮ることは出来ない。そんな面倒なこともしたくはないので、晴れていると言うだけで、外には出ない。
 誰かが帰ってくるまでの束の間のバカンスだ。

「アレス!」

 兄上が部屋に入ってくると、窓を全開にしムワッとした空気が流れ込んでくる。

「あ、兄上。どうしました……」

 俺は服を捕まれ、窓へ放り出された。
 猛烈な熱が俺の体へとまとわり付いてくる。

「なんなんだ? うをっ」

「何時までこんな所で、のんびりしているのかな?」

 空中で静止していると、突然置いてあった花瓶を投げつけられる。
 あのですね、物は大切にしましょうか……花瓶だってただじゃないのですから。
 窓に足をかけ、兄上は剣を抜いていた。

「あっつい。というか、一体何なんだよ」

「ちっ、外したか!」

 エアシールドを展開し熱と兄上の剣撃を防ぐ。
 地面に降り立った兄上は空中にいる俺に対して手招きをしている。
 行きたくはないが……ここで放置すると後々面倒にもなる。最近居なかったのに……明日帰ってくるんじゃなかったのか?

「さて、アレス。君は何をしていたのかな?」

「きゅ、休憩ですかね?」

「君の休憩とは随分と長いね。知らなかったよ……それとも僕が居ないのを良いことに、あのような自堕落な生活をしていたというのかな?」

 ええ、まあ……仰るとおりにございます。
 というかですね、炎天下なわけですので……そろそろ中に入りませんか?
 兄上も汗をかいてますよ?
 ほら、暑いじゃないですか?

「さて、これだけ英気が養われているのなら、僕達の相手ぐらい何の問題もないよね?」

「問題有り有りですよ。何でこんなくっそ熱い最中に、剣の訓練をする必要があるんですか?」

「もちろん、アレス君の剣を見るためですよ」

 姉上様に背後を取られ、兄上と同じく剣を向けられていた。
 この似た者夫婦め……とはいえ、ミーア達がそろそろ帰ってくる頃だ。ここで逃げ出せば、あとで何を言われるのかもわからない。
 俺自身ですら忘れているようなことをネチネチと……というかね、いい加減にその首輪を捨ててくれませんかね?

「おやおや、何やら楽しそうなことをしているようだね?」

「ち、父上!?」

 このタイミングでかよ……振り返る時にはすでに遅く、一撃が放たれていた。
 相変わらずの攻撃速度に、シールドがあってもヒヤヒヤするぞ。
 氷の剣を作り出し、防いでいる剣を薙ぎ払うも、当たり前のように回避される。
 何でこんな事を……なんて思っていると、今度は頭上から攻撃をされていた。

「これはこれは旦那様。お早いお帰り何よりでございます」

「ただいま、セドラ」

「まてまて、なんでお前まで俺に攻撃をしてくるんだよ!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。  猫屋敷翔平は鍼灸整骨院を自営していたが、身勝手な母と弟と伯母に騙されて借金を肩代わりさせられた上に、陰で悪い評判を流されて鍼灸整骨院を廃業した。人間不信となり破産宣告をして田舎を捨てて地方都市に移住し、大政党を支配下に置く新興宗教組織に入信して政党と新興宗教の会費を払い、政党新聞と新興宗教新聞を購入する事、更には新興宗教幹部が経営するワンルームマンションに入居する事を条件に、生活保護申請を政党地方議員に代行してもらう。  人間不信の対人恐怖症となり、保護猫サクラと引き籠り生活をしていたが、老猫サクラが衰弱したので、急いで動物病院に行こうとしたところを反社に脅迫されていたところ、愛猫サクラが主人を助けようと爪を立てた。  ケガさせられた反社は激高してサクラを蹴り殺し、猫屋敷翔平にも殴りけるの暴行を繰り返していたところを、古武術の大会のために長野県から出てきていた四人の学生が助けている所に異世界召喚される。  勇気ある学生達は魔物被害に苦しんでいた異世界に召喚され、猫屋敷とサクラも一緒に召喚された。  学生達は異世界召喚特典で強くなるが、死んで身体と幽体が分離していた猫屋敷とサクラはとんでもない特典を手に入れていた。  だが人間不信で対人恐怖症になっている猫屋敷は、それを隠して安全な場所での隠棲を希望する。  人のいい学生達と国王は、罪滅ぼしに魔物は出ないが生活するのが苦しい極寒の北方に領地と支援を与えて移住させてくれるが、サクラの暴走と慈愛、孤児院の子供達を見捨てられない母性によって人助けを始める。  特に自滅願望の古代氷竜アリステアに、猫屋敷とサクラが同時に憑依した事で、魂が猫の自由人気質に染まり、た人間嫌いと対人恐怖症が改善され、陰から恩人の学生徒達と孤児達、更には難民まで助けるようになる。

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

処理中です...