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強者出現

164 危険な特訓 1

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 次の日から早朝に叩き起こされ、剣術の訓練が始まる。
 雪が降るので、この辺りには当たり前のように室内訓練場が設けられている。
 姉さんは長剣の二刀流。片手剣ならともかく何であんなのを二つ扱えるのか?
 あの怪力だからできる芸当なんだろうな。

「うわっ」

「ちっ、外したか」

 持っていた剣を投げてくるなんて何を考えているんだよ。
 しかも外したことで、舌打ちするとか……当てるつもりだったの?

「ほらほら、どうしたの? この程度軽く捌きなさい」

「くっ、無茶ばっかり言って。こっちは剣一つなんだぞ!」

「何言ってるのよ、アトラスなら軽くこなすわよ? 一度も勝ったこと無いし。アトラスに手紙送るわよ?」

「ひ、卑怯な……」

 あの剣バカ兄貴と一緒にするなよ!
 兄上の呼び出しを止めることは出来たのだが。やっぱり、父上の娘だけあって剣術の腕前はすごい。

 とはいえ、子供の頃はもう少し可愛げがあった、と思うのに……。
 いや、振り回されていたからあまり変わってもいないか。今は生き生きとした顔をして、俺を容赦なくぶん殴ってくれる。

「今、余計なことを考えていなかった?」

「そんなことはないですよ。ただ、じゃじゃ馬が、暴れ馬になっただけだろ?」

「は?」

「あ……」

 笑顔を見せた姉上は、目が開くと俺はその殺気にたじろぐ……。

「ごめんね、アレス。お姉ちゃんちょっとだけ耳がおかしかったみたいなの。だからもう一回言ってくれるかしら?」

「あ、いや……」

「馬って言うのは聞こえたの。何だっけ?」

「そんな事言ってないです。言ってません」

「そっか……言葉通りに、暴れ馬になればいいのよね?」

「あ、姉上」

「しねぇぇぇええ!!」

 先ほどとは違い手加減は一切なく、二本の剣による連撃を繰り出してくる。長剣を片手で軽々と振り回す。
 離れようにも、父上たちと同じように加速をして一気に距離を詰めてくる。
 それだけじゃなく、態とスキを見せて誘い込んだりもしている。

「やばっ!」

 左右にシールドを展開し耐える。そんな事をお構いなしに連撃の手を休めようとはしない。
 スキを見つけたと同時に、攻撃が繰り出される。つまり、姉上はそれも狙いだったのだろう。

 あの剣を捌きながら、攻撃に移るなんて無理というか絶望でしか無い。
 俺の剣の師匠と言うか先生はセドラなわけで、父上からは一度も教えて貰ったことがない。

 そのため剣の質その物が、俺と比べることがおかしい。
 父上が俺に剣を教えなかったのは、魔法を使って勝ったから。
 だから、俺には敢えて何も教えなかったのだと思う。

「そうやって魔法に頼らないの。剣だけに集中しなさい、そこ!」

 いやいや、今の当たっていたら洒落にならないよ?
 兄上は剣だけで父上を十二歳の頃に圧倒したらしいが……姉さんのこれに勝てるのか。
 もしかして、兄上呼んだほうが早くない?
 攻撃だけで考えたら優秀だけど、この二人を守りつつアイツと戦うなんて無理な話だよな。

 当たらなければいい話だけど、あれを回避するには防ぎきれる物じゃない。俺の防御壁を貫くなんて、普通の剣だと簡単に折られるだろう。
 足にでも当たればそこまでだ……。

「魔法に頼るな!」

「げっ、あぶなっ。少しは手加減してくれよ」

 何度もシールドで攻撃を弾き返していた。
 その数だけ、俺は姉上に対して攻撃を許していることになる。
 魔法を使うなと言われても聞ける話ではない。

「わかった、俺が悪かったから、じゃじゃ馬なんて言ってごめん」

「あらあら、ごめんなさいねー。なんせ暴れ馬な姉なもので」

 やばい、相当怒っている。
 ちょっと待て、今の攻撃は何なんだ? 連撃の回転早くなっていないか?
 今すぐにご機嫌を取らないと、この後何をされるか……。

「俺が悪かったよ。綺麗な姉を持てて嬉しいですよ」

「小賢しいわよ。そんな手に引っかかるとでも?」

 その程度のお世辞を言った所で、姉上の機嫌は収まることもなく、一度言った暴言は元に戻らないのだと初めて思い知らされた。
 こてんぱんに打ちのめされ、ようやく剣術の訓練が終わった。
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