132 / 310
ラカトリア学園 高等部
131 仕組まれた冤罪 1
しおりを挟む
レフリアは、その手紙をテーブルの上に叩きつけた。
予想されていたことが、着々と現実のものへと変わっていこうとしている。
「一緒に居た冒険者は十人と言っていましたね」
「はい、間違いはありませんわ。わたくしの側には冒険者が護衛と称しておりました」
アレスがメアリをここに連れてきてからそれなりの時間が経っている。
そして、メアリがダンジョンに入ってから、既に何日も過ぎている。
既にもう遅いと感じたレフリアだったが、この情報は一刻も早く伝えるべきだと判断していた。
「時間的に考えるとアトラス様がいる街に近い。貴方はここに居て、決して動かないで!」
「かしこまりました」
レフリアは慌てて、男爵の所へと走った。
冒険者達はメアリを置いた後何処へ向かった?
メアリは、ロンダリア家から追放されたのか?
なぜ、すぐには殺さず、そのままダンジョンで放置され殺害を企てた?
そんな疑問だけが幾つもよぎる。
彼女を信じるのなら、冒険者たちがこの辺りに潜んでいるということ。それが何を意味しているのか?
アレスによる街の破壊。それを自分たちの手でやろうとしている。
「男爵様。至急お伝えしたいことがあります。アトラス様の街に冒険者が潜んでいる可能性があります」
「詳しくお話を願えますかな?」
男爵にメアリの話をして、この情報は役に立つか分からなかったが、二つの街に早馬を出した。
メアリの情報だけでは不明点も多く、ただ可能性の話でしか無い。
男爵は新たに書状を書き、バセルトン公爵に向けて送った。
現状において、メアリの存在は重要になる。
レフリアは、彼女の元へまた走った。まだ其処にいるかを確認するために……。
勢いよく扉を開けると、彼女は姿勢を正したまま静かに座っていることを確認して、レフリアはその場で座り込んでいた。
「はぁ、よかった」
「何かございましたか?」
「いえ、メアルーン様が居なくなったのではと少し心配をしました」
「先程も申したようにわたくしには……行く宛てもありません。それに、アレス様は私をここに置いてくださったのは、レフリア様が居たからだと思われます。レフリア様のご迷惑になるように事は、アレス様を裏切るようなもの。そのようなことをわたくしに出来るはずもございません」
家の後ろ盾も無くなり、威張り散らしていた彼女の面影は何処にもなかった。
その姿に慣れていないレフリアにとってはそれが異様であり、やはり何処か信用を置けない。
レフリアの前にいるのは、紛れもないメアルーン・ロンダリア本人なのだ。
そんな彼女は、あの時にアレスを見下していた。それだと言うのに言葉を信じ込んでいることを到底理解が出来ない。
この数日に何が……そして、彼女の変わりように、アレスが関わっていることは明白でもあった。
その服装からは到底、似つかわしくない物。
それを時折見ている、その視線をレフリアが見逃すはずもない。
「昔、大好きだったネックレスがありました」
その言葉にメアリは肩をビクリと強張った。視線は右往左往し、凛としていた彼女の表情は、みるみるうちに怯えへと変わっていく。
スボンを握り締め、これは報いなのだと、自分のしてきた行為は今まさに自分に返ってくるのだと。
「それは叔母様から頂いたもので、私が初めて手にした宝石でした」
そのネックレスは幼い頃に何をしたのかを思い出し、メアリは右手で隠すように左手を掴み、手は震えが止まらなかった。
レフリアは、剣を抜き取り、ゆっくりと間合いを詰めていく。
メアリは、自分のしでかしたことに後悔する。
「ですので、代わりにその指輪を頂けませんか?」
不自然に着けられた指輪。
いくら彼女とは言え、学園に居た時ですら指輪をつけてダンジョンに居たことはなかった。
今の身なりは冒険者の格好をしている。それだというのに、宝石のついた指輪を左手の薬指に嵌めている。
メアリは全身から、血の気が引いていく。
レフリアに突きつけられた剣よりも、アレスに貰った指輪を取られることを何より恐れていた。
ソファから下り体を丸め、取られないように必死に握り締めていた。
「下級の人は、上位爵の人に物を献上するのが当たり前、でしたよね? 追放されたのなら、貴方はただの平民。その意味がお分かりですか?」
「あの時は大変申し訳ございませんでした。ですか、これだけはどうか……ご納得頂けないのでしたら、どうぞわたくしの顔に傷をつけるなりお好きにしてください。ですが、どうかこれだけは……お願いします」
必死になって懇願する彼女を見て、レフリアは剣で空を切り、ヒュッと音を立てる。
恐る恐る目を開けるメアリは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「そんなに大切なものなのですか?」
「今の私には、全てのような物です」
「アレスが……好きだからですか?」
メアリは、一度だけ頷き、かすれる声で「はい」と言った。
剣を鞘に戻し、ソファに深く座り項垂れる。
もしかしたらと思っていたことが……彼女によって真実味が増してしまう。
それでも、それは一時的なものだと心の中で願ってしまう。
「メアルーン様。申し訳ございません」
姿勢を正し、深く頭を下げた。
到底許されるものではないと思っていたメアリは、レフリアの姿にどうして良いのか分からなかった。
「え? あの、レフリア様?」
「現状において、貴方が敵なのかどうか判断に迷っておりました。貴方がまだロンダリアに属しているのではないのかと」
すっかり冷えてしまったポットから、紅茶を注ぎ一気に飲み干した。
いつもとは違い、高飛車に振る舞っていた彼女はもうここには居なかった。
彼女は変わった。父親に騙され、ダンジョンで一人殺されるために残された。そんな中、彼女はアレスに救われた。
そして……レフリアにとって、新たな悩みのタネになりつつある。
予想されていたことが、着々と現実のものへと変わっていこうとしている。
「一緒に居た冒険者は十人と言っていましたね」
「はい、間違いはありませんわ。わたくしの側には冒険者が護衛と称しておりました」
アレスがメアリをここに連れてきてからそれなりの時間が経っている。
そして、メアリがダンジョンに入ってから、既に何日も過ぎている。
既にもう遅いと感じたレフリアだったが、この情報は一刻も早く伝えるべきだと判断していた。
「時間的に考えるとアトラス様がいる街に近い。貴方はここに居て、決して動かないで!」
「かしこまりました」
レフリアは慌てて、男爵の所へと走った。
冒険者達はメアリを置いた後何処へ向かった?
メアリは、ロンダリア家から追放されたのか?
なぜ、すぐには殺さず、そのままダンジョンで放置され殺害を企てた?
そんな疑問だけが幾つもよぎる。
彼女を信じるのなら、冒険者たちがこの辺りに潜んでいるということ。それが何を意味しているのか?
アレスによる街の破壊。それを自分たちの手でやろうとしている。
「男爵様。至急お伝えしたいことがあります。アトラス様の街に冒険者が潜んでいる可能性があります」
「詳しくお話を願えますかな?」
男爵にメアリの話をして、この情報は役に立つか分からなかったが、二つの街に早馬を出した。
メアリの情報だけでは不明点も多く、ただ可能性の話でしか無い。
男爵は新たに書状を書き、バセルトン公爵に向けて送った。
現状において、メアリの存在は重要になる。
レフリアは、彼女の元へまた走った。まだ其処にいるかを確認するために……。
勢いよく扉を開けると、彼女は姿勢を正したまま静かに座っていることを確認して、レフリアはその場で座り込んでいた。
「はぁ、よかった」
「何かございましたか?」
「いえ、メアルーン様が居なくなったのではと少し心配をしました」
「先程も申したようにわたくしには……行く宛てもありません。それに、アレス様は私をここに置いてくださったのは、レフリア様が居たからだと思われます。レフリア様のご迷惑になるように事は、アレス様を裏切るようなもの。そのようなことをわたくしに出来るはずもございません」
家の後ろ盾も無くなり、威張り散らしていた彼女の面影は何処にもなかった。
その姿に慣れていないレフリアにとってはそれが異様であり、やはり何処か信用を置けない。
レフリアの前にいるのは、紛れもないメアルーン・ロンダリア本人なのだ。
そんな彼女は、あの時にアレスを見下していた。それだと言うのに言葉を信じ込んでいることを到底理解が出来ない。
この数日に何が……そして、彼女の変わりように、アレスが関わっていることは明白でもあった。
その服装からは到底、似つかわしくない物。
それを時折見ている、その視線をレフリアが見逃すはずもない。
「昔、大好きだったネックレスがありました」
その言葉にメアリは肩をビクリと強張った。視線は右往左往し、凛としていた彼女の表情は、みるみるうちに怯えへと変わっていく。
スボンを握り締め、これは報いなのだと、自分のしてきた行為は今まさに自分に返ってくるのだと。
「それは叔母様から頂いたもので、私が初めて手にした宝石でした」
そのネックレスは幼い頃に何をしたのかを思い出し、メアリは右手で隠すように左手を掴み、手は震えが止まらなかった。
レフリアは、剣を抜き取り、ゆっくりと間合いを詰めていく。
メアリは、自分のしでかしたことに後悔する。
「ですので、代わりにその指輪を頂けませんか?」
不自然に着けられた指輪。
いくら彼女とは言え、学園に居た時ですら指輪をつけてダンジョンに居たことはなかった。
今の身なりは冒険者の格好をしている。それだというのに、宝石のついた指輪を左手の薬指に嵌めている。
メアリは全身から、血の気が引いていく。
レフリアに突きつけられた剣よりも、アレスに貰った指輪を取られることを何より恐れていた。
ソファから下り体を丸め、取られないように必死に握り締めていた。
「下級の人は、上位爵の人に物を献上するのが当たり前、でしたよね? 追放されたのなら、貴方はただの平民。その意味がお分かりですか?」
「あの時は大変申し訳ございませんでした。ですか、これだけはどうか……ご納得頂けないのでしたら、どうぞわたくしの顔に傷をつけるなりお好きにしてください。ですが、どうかこれだけは……お願いします」
必死になって懇願する彼女を見て、レフリアは剣で空を切り、ヒュッと音を立てる。
恐る恐る目を開けるメアリは、今にも泣きそうな顔をしていた。
「そんなに大切なものなのですか?」
「今の私には、全てのような物です」
「アレスが……好きだからですか?」
メアリは、一度だけ頷き、かすれる声で「はい」と言った。
剣を鞘に戻し、ソファに深く座り項垂れる。
もしかしたらと思っていたことが……彼女によって真実味が増してしまう。
それでも、それは一時的なものだと心の中で願ってしまう。
「メアルーン様。申し訳ございません」
姿勢を正し、深く頭を下げた。
到底許されるものではないと思っていたメアリは、レフリアの姿にどうして良いのか分からなかった。
「え? あの、レフリア様?」
「現状において、貴方が敵なのかどうか判断に迷っておりました。貴方がまだロンダリアに属しているのではないのかと」
すっかり冷えてしまったポットから、紅茶を注ぎ一気に飲み干した。
いつもとは違い、高飛車に振る舞っていた彼女はもうここには居なかった。
彼女は変わった。父親に騙され、ダンジョンで一人殺されるために残された。そんな中、彼女はアレスに救われた。
そして……レフリアにとって、新たな悩みのタネになりつつある。
0
お気に入りに追加
552
あなたにおすすめの小説
王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。
克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。
克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。
猫屋敷翔平は鍼灸整骨院を自営していたが、身勝手な母と弟と伯母に騙されて借金を肩代わりさせられた上に、陰で悪い評判を流されて鍼灸整骨院を廃業した。人間不信となり破産宣告をして田舎を捨てて地方都市に移住し、大政党を支配下に置く新興宗教組織に入信して政党と新興宗教の会費を払い、政党新聞と新興宗教新聞を購入する事、更には新興宗教幹部が経営するワンルームマンションに入居する事を条件に、生活保護申請を政党地方議員に代行してもらう。
人間不信の対人恐怖症となり、保護猫サクラと引き籠り生活をしていたが、老猫サクラが衰弱したので、急いで動物病院に行こうとしたところを反社に脅迫されていたところ、愛猫サクラが主人を助けようと爪を立てた。
ケガさせられた反社は激高してサクラを蹴り殺し、猫屋敷翔平にも殴りけるの暴行を繰り返していたところを、古武術の大会のために長野県から出てきていた四人の学生が助けている所に異世界召喚される。
勇気ある学生達は魔物被害に苦しんでいた異世界に召喚され、猫屋敷とサクラも一緒に召喚された。
学生達は異世界召喚特典で強くなるが、死んで身体と幽体が分離していた猫屋敷とサクラはとんでもない特典を手に入れていた。
だが人間不信で対人恐怖症になっている猫屋敷は、それを隠して安全な場所での隠棲を希望する。
人のいい学生達と国王は、罪滅ぼしに魔物は出ないが生活するのが苦しい極寒の北方に領地と支援を与えて移住させてくれるが、サクラの暴走と慈愛、孤児院の子供達を見捨てられない母性によって人助けを始める。
特に自滅願望の古代氷竜アリステアに、猫屋敷とサクラが同時に憑依した事で、魂が猫の自由人気質に染まり、た人間嫌いと対人恐怖症が改善され、陰から恩人の学生徒達と孤児達、更には難民まで助けるようになる。
異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。
星の国のマジシャン
ファンタジー
引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。
そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。
本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。
この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる