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ラカトリア学園 高等部

131 仕組まれた冤罪 1

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 レフリアは、その手紙をテーブルの上に叩きつけた。
 予想されていたことが、着々と現実のものへと変わっていこうとしている。

「一緒に居た冒険者は十人と言っていましたね」

「はい、間違いはありませんわ。わたくしの側には冒険者が護衛と称しておりました」

 アレスがメアリをここに連れてきてからそれなりの時間が経っている。
 そして、メアリがダンジョンに入ってから、既に何日も過ぎている。
 既にもう遅いと感じたレフリアだったが、この情報は一刻も早く伝えるべきだと判断していた。

「時間的に考えるとアトラス様がいる街に近い。貴方はここに居て、決して動かないで!」

「かしこまりました」

 レフリアは慌てて、男爵の所へと走った。
 冒険者達はメアリを置いた後何処へ向かった?
 メアリは、ロンダリア家から追放されたのか?
 なぜ、すぐには殺さず、そのままダンジョンで放置され殺害を企てた?

 そんな疑問だけが幾つもよぎる。
 彼女を信じるのなら、冒険者たちがこの辺りに潜んでいるということ。それが何を意味しているのか?
 アレスによる街の破壊。それを自分たちの手でやろうとしている。

「男爵様。至急お伝えしたいことがあります。アトラス様の街に冒険者が潜んでいる可能性があります」

「詳しくお話を願えますかな?」

 男爵にメアリの話をして、この情報は役に立つか分からなかったが、二つの街に早馬を出した。
 メアリの情報だけでは不明点も多く、ただ可能性の話でしか無い。
 男爵は新たに書状を書き、バセルトン公爵に向けて送った。

 現状において、メアリの存在は重要になる。
 レフリアは、彼女の元へまた走った。まだ其処にいるかを確認するために……。
 勢いよく扉を開けると、彼女は姿勢を正したまま静かに座っていることを確認して、レフリアはその場で座り込んでいた。
 
「はぁ、よかった」

「何かございましたか?」

「いえ、メアルーン様が居なくなったのではと少し心配をしました」

「先程も申したようにわたくしには……行く宛てもありません。それに、アレス様は私をここに置いてくださったのは、レフリア様が居たからだと思われます。レフリア様のご迷惑になるように事は、アレス様を裏切るようなもの。そのようなことをわたくしに出来るはずもございません」

 家の後ろ盾も無くなり、威張り散らしていた彼女の面影は何処にもなかった。
 その姿に慣れていないレフリアにとってはそれが異様であり、やはり何処か信用を置けない。
 レフリアの前にいるのは、紛れもないメアルーン・ロンダリア本人なのだ。

 そんな彼女は、あの時にアレスを見下していた。それだと言うのに言葉を信じ込んでいることを到底理解が出来ない。
 この数日に何が……そして、彼女の変わりように、アレスが関わっていることは明白でもあった。

 その服装からは到底、似つかわしくない物。
 それを時折見ている、その視線をレフリアが見逃すはずもない。

「昔、大好きだったネックレスがありました」

 その言葉にメアリは肩をビクリと強張った。視線は右往左往し、凛としていた彼女の表情は、みるみるうちに怯えへと変わっていく。
 スボンを握り締め、これは報いなのだと、自分のしてきた行為は今まさに自分に返ってくるのだと。

「それは叔母様から頂いたもので、私が初めて手にした宝石でした」

 そのネックレスは幼い頃に何をしたのかを思い出し、メアリは右手で隠すように左手を掴み、手は震えが止まらなかった。
 レフリアは、剣を抜き取り、ゆっくりと間合いを詰めていく。
 メアリは、自分のしでかしたことに後悔する。

「ですので、代わりにその指輪を頂けませんか?」

 不自然に着けられた指輪。
 いくら彼女とは言え、学園に居た時ですら指輪をつけてダンジョンに居たことはなかった。
 今の身なりは冒険者の格好をしている。それだというのに、宝石のついた指輪を左手の薬指に嵌めている。

 メアリは全身から、血の気が引いていく。
 レフリアに突きつけられた剣よりも、アレスに貰った指輪を取られることを何より恐れていた。
 ソファから下り体を丸め、取られないように必死に握り締めていた。

「下級の人は、上位爵の人に物を献上するのが当たり前、でしたよね? 追放されたのなら、貴方はただの平民。その意味がお分かりですか?」

「あの時は大変申し訳ございませんでした。ですか、これだけはどうか……ご納得頂けないのでしたら、どうぞわたくしの顔に傷をつけるなりお好きにしてください。ですが、どうかこれだけは……お願いします」

 必死になって懇願する彼女を見て、レフリアは剣で空を切り、ヒュッと音を立てる。
 恐る恐る目を開けるメアリは、今にも泣きそうな顔をしていた。

「そんなに大切なものなのですか?」

「今の私には、全てのような物です」

「アレスが……好きだからですか?」

 メアリは、一度だけ頷き、かすれる声で「はい」と言った。
 剣を鞘に戻し、ソファに深く座り項垂れる。
 もしかしたらと思っていたことが……彼女によって真実味が増してしまう。
 それでも、それは一時的なものだと心の中で願ってしまう。

「メアルーン様。申し訳ございません」

 姿勢を正し、深く頭を下げた。
 到底許されるものではないと思っていたメアリは、レフリアの姿にどうして良いのか分からなかった。

「え? あの、レフリア様?」

「現状において、貴方が敵なのかどうか判断に迷っておりました。貴方がまだロンダリアに属しているのではないのかと」

 すっかり冷えてしまったポットから、紅茶を注ぎ一気に飲み干した。
 いつもとは違い、高飛車に振る舞っていた彼女はもうここには居なかった。
 彼女は変わった。父親に騙され、ダンジョンで一人殺されるために残された。そんな中、彼女はアレスに救われた。

 そして……レフリアにとって、新たな悩みのタネになりつつある。
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