上 下
11 / 310
転生した異世界の生活

10 誕生日は疲れる 1

しおりを挟む
 今日は俺が六歳になる誕生日。
 これまでのこともあってか、体格からして他の子供達から比べると少しだけ小さいのかもしれない。
 誕生日であるのだが……今回はお披露目のパーティーでもある。

「それだけで済まないのが……貴族ってものだよな」

 本来は三歳から五歳の間にお披露目としてパーティーが開かれる。だが、その間ずっと病弱だったアレスにはパーティーは開かれてはいない。
 そう思うと、皆からすれば、この日がどれだけ特別なものなのか……使用人の誰もが今日、この日のために準備を進めていた。
 扉の向こう側から漏れている喧騒は、一体どれほどの人が集まっているのか容易に想像できる。その目的は、成長したアレスを一目見ようと言うことだ。

「アレス緊張しているのかい?」

「はい、少し……ですが兄上に挨拶は教えて頂いたので、なんとかなると思います」

 俺の家族は、誰もが笑みを浮かべていた。それを見ている俺が何でこんなにも、嬉しいと思えるのだろうか?

 俺が……アレス・ローバンだからか?

 それとも、姉さん以外にここに居る皆を家族としてみているからか?
 父上に手を握られる。とても大きな手だった……いつも父上や母上を見ると目が合い、微笑みかけてくれる。
 姉上には肩に手を置き、頬が頭に触れいつもとは違い、優しいぬくもりを感じる。

「いたっ」

「緊張するだけ無駄だよ」

 兄上からは額を軽く指で弾かれる。
 不思議だった、あれだけ緊張していたのにまるで魔法のように、緊張が解けていた。

「アトラスの言うとおりだよ。そんなに緊張しなくていいんだよ。間違えたっていいんだ、今日は君の元気な姿を、皆に見せてあげることができればそれでいいんだよ」

 父上は会場への大きな扉を開く。
 会場には多くの人が訪れていた喧騒は静まり返り、人々の視線はこちらへと注視されてくる。
 その中にも、俺や兄上と同じぐらいの子供の姿も見える。

「本日は、我がローバン家においでくださり、誠に有難うございます」

 誰かがした拍手により、会場には……一際大きな拍手が上がる。
 姉上に背中を押され、前に出るように促され、父上の隣にある壇上へと登り、拍手の音は次第に少なくなっていた。
 俺の姿を見て、涙を流す人が何人か見える。
 だけど、俺にはこれが自分のことだとは思えず。兄上に左手を、姉上には右手を繋がれる。

「私達の愛し子、アレスです。彼は生まれつき体も弱く、私達もまた辛い日々でした。会場の中にも心を痛めた方も居られると思います。ですが、皆様! アレスはこうして皆様の前に立つことができました」

 アレスが元気になることを、これだけの多くの人が待ち望んでいたのか?
 だけど、俺は……アレスの皮を被った他人であることを申し訳なく思い、今になって怖気づいてしまう。
 俺で良いのかと……そこに立つべきなのか?

 俺はアレスとして、生きてもいいのだろうか?

「さあ、アレス。皆に挨拶をしないとね」

「大丈夫。何も気にすることはないよ」

 家族に支えられ、一歩前へと踏み込む。
 貴族の子供として転生したことで、これまでの優雅な生活はこれだけの多くの人達によって築かれたもの。
 その責務を子供である俺自身も背負う必要がある。

 だから……俺は、これからもずっと、アレス・ローバンとして生きていくしか無い。

「お初にお目にかかります。ローバン公爵家次男、アレス・ローバンでございます。こうして皆様と出会えたことを心より嬉しく思います。えっと……」

 隣では兄と姉の小さな声援が聞こえる。
 練習していたのだが……セリフが思い出せない。
 
「今後共どうか……どうか、よろしくおねがいします」

 鳴り止まない拍手。泣き崩れる人、肩を抱き喜びに打ち震える人。
 この会場にいる多くの人がアレスの無事を願っていた。
 腰に手を置かれ「がんばったね」と姉上が嬉しそうに言った。兄上に抱きかかえられ「大丈夫」二人の励ましが嬉しいと思った。
 家族として褒められるということに、初めて実感を持てた気がした。

 それからは、俺たちもテラスからホールへと行き、訪れていた貴族達と一通りの挨拶が始まった。
 どこの誰と言われたところで一々覚えてもいられない。
 疲れたため息を漏らし、俺は休憩のために一人部屋に残された。

 鏡の前に立つと小さな少年の姿が映し出される。
 誕生日でさえこの有様。未だに貴族がどういったものかも分からず、今後俺はこの違った世界で、貴族の一員として本当に暮らしていけるのかという不安が芽生えた。

「アレス。お前は俺を許してくれるのだろうか?」

 アレスには五年という短い間、生きてきた記憶があったはずだ。だけど、俺の持つ記憶の中にアレスだった頃の記憶は何一つとして残ってはいない。 
 何を考えても不安は積もるばかりで何の解決にもならない。
 しかし、過去に捕らわれず、これからを家族達と一緒に歩んでいきたい。これが今俺の中にある正直な気持ちだ。

「だから俺は進む。お前が思う家族の形で無かったにしろ。お前が俺を受け入れてくることを望むよ」

 いくら休憩とはいえ、主役がいつまでもここにいては公爵家の示しがつかないだろう。
 少しだけ気持ちを落ち着かせ、会場へと戻ると、色んな貴族たちが俺の元へと挨拶にやって来る。
 それでもやっぱり、愛想笑いにも限界がある。

「もっと頑張らないと、そして強くならないと……」

「アレス様は、ゆっくりでいいんです。焦る必要もありません」

 アレスは、いや俺の体は会場に来ていた同じぐらいの子供と比べるとかなり小柄で、体力もかなり劣っている。
 セドラが俺の身体を心配するのもわかるが、俺はアレスとして生きるしかない。

 次の日から、早朝は屋敷の周りを走り、朝食を終えると午前中はセドラから座学や貴族マナーなど教わる。
 午後からは、筋力トレーニングに剣術訓練。
 辛いと感じる毎日だったけど充実していた。

「お体の方は大丈夫ですか?」

「うん。少しずつ良くなってると思うんだ。もう少しきつくしてもいい頃合いだと思うけど……どうかな?」

 初日なんて、屋敷を走るなんて四分の一すらできなかったし、今は一周ならなんとか走れるようになった。
 とはいえ、セドラからしてみればこの提案は飲めないだろうな。
 元気になったからとはいえ、今までのことがあるからセドラも無理はさせれないだろう。

「私としては、早計かと思います」

「そうだよね……」

「ですが、アレス様をお守りするのが私の勤めにございます。主が望まれること、その支えこそが、私の喜びでもあります」

 たまに思うのだけど、誰か通訳してくれないかな?

「ええっと、やってもいいけど……無理はさせないよってことでいいのかな?」

「かしこまりました。アレス様」

 日課の課題は、一週間ごとに見直し訓練の幅を広げていく。
 そんな生活が二年間続き、アレス・ローバンは八歳の誕生日を迎えた。
 あの時のようなパーティーではなく、内々のものだった。
 身体つきもだいぶ良くなり、同い年の子供とそう変わらないほどに成長していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】異世界転移で、俺だけ魔法が使えない!

林檎茶
ファンタジー
 俺だけ魔法が使えないとか、なんの冗談だ?  俺、相沢ワタルは平凡で一般的な高校二年生である。  成績は中の下。友達も少なく、誇れるような特技も趣味もこれといってない。  そんなつまらない日常は突如として幕を閉じた。  ようやく終わった担任の長話。喧騒に満ちた教室、いつもより浮き足立った放課後。  明日から待ちに待った春休みだというのに突然教室内が不気味な紅色の魔法陣で満ちたかと思えば、俺は十人のクラスメイトたちと共に異世界に転移してしまったのだ。  俺たちを召喚したのはリオーネと名乗る怪しい男。  そいつから魔法の存在を知らされたクラスメイトたちは次々に魔法の根源となる『紋章』を顕現させるが、俺の紋章だけは何故か魔法を使えない紋章、通称『死人の紋章』だった。  魔法という超常的な力に歓喜し興奮するクラスメイトたち。そいつらを見て嫉妬の感情をひた隠す俺。  そんな中クラスメイトの一人が使える魔法が『転移魔法』だと知るや否やリオーネの態度は急変した。  リオーネから危険を感じた俺たちは転移魔法を使っての逃亡を試みたが、不運にも俺はただ一人迷宮の最下層へと転移してしまう。  その先で邂逅した存在に、俺がこの異世界でやらなければならないことを突きつけられる。  挫折し、絶望し、苦悩した挙句、俺はなんとしてでも──『魔王』を倒すと決意する。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...