上 下
293 / 310
強者討伐 失われた武器

292 違和感 2

しおりを挟む
「そろそろ話をしてくれるか?」

 ラストダンジョンのことは伏せたまま、ダンジョンに向かって偶然強者と出くわした事にする。
 腕を組みながらも、俺の言い訳を真剣に聞いてくれるものだから、所々に歯切れの悪いものも出てくる。

 それにしてもアムドシアスとの戦闘に、左腕一本だけで済んだのは幸いかも知れない。
 仮に万全の体制だったのなら、こんな事にならずに済んだのかも知れないが……あの攻撃が体を貫いていたら、今こうして生きていることもなかったのかも知れないな。

「そうか。それほどまでに、魔人は強敵ということか……こんな事を言うのは間違っているのかもしれん」

 ガドール公爵は、窓の外を眺め深い溜め息を漏らす。

「一つの街が滅びるよりも、お前が死ぬことのほうがより大きな被害をもたらす。これから先、同じようなことなりそうであれば、逃げることを考えろ」

 そんな事を公爵家の者、ましてや当主が言うものではないだろう。
 ガドール公爵は、俺の存在を失ったことによる損害と、今生きている人たちを天秤にかけた。

 貴族は民を守るために存在している。

 父上から何度も強く言われた。
 俺だからではなく、俺も貴族の端くれとしてそうあるべきと教えられた。
 今の言葉は、それを覆す。

「それは無理な話だ。俺を認めてくれるのはありがたいが……ローバン公爵家のアレス・ローバンとして、その考えに賛同できない」

 俺の言葉に、そう言われるのが分かっていたのかため息を漏らすと口角を上げニヤリと笑う。

「さすが、アークの息子なだけはあるな」

 カドール公爵は、俺の肩を軽く叩いて、部屋から出ていった。
 
 残る強者はあと一体。
 最強の強者を倒した今。残る強者に対して、逃げるつもりはない。

 その後に残る、ラスボスを倒せることができれば、俺はまともな生活が遅れるのだろうか?
 俺は綺麗に畳まれている、自分の服を手に取る。
 片手だとこういう時はかなり苦労するな。

「さてと……行くか」

 レーヴァテインを持ち、窓を開ける。
 夜の風が部屋に入り込み、不思議と心地よさを感じていた。

「アレス殿!」

「ヘルディか……色々と世話になったな。俺はこれからローバンに戻る」

「お止めください。まだお体も治っていないというのに」

 そんな事を言われても、俺の体からは特別おかしな所は感じない。
 ただ引き止めたいだけなんだろう。
 俺はやるべきことが残っている……いつまでもここにいるわけには行かない。

「大丈夫だ」

 窓から飛び出し、上空に向けて高度を上げていく、何かを叫んでいたへルディの声が届かなり、夜空を眺めていた。
 それにしても不思議な感覚だ。

 三日振りの外だからか?
 それとも、達成感によるものだろうか?

「風が気持ちいいな」

 いつまでもこんな事をしている場合じゃない。
 さて……と、ハルトにこの武器を渡しておかないとな。
 エアシールドを展開して、空を駆け抜けていく。

 俺が作った街道を進み、夜だと言うのに何台かの馬車が街に向かって進んでいた。
 街灯でもあればもっといいのだろうけど……そこまでの余裕は流石にないよな。
 
 ローバン家に戻りハルトを探す。
 索敵を展開すると似たような反応があった。窓の外から覗き込み、中を確認するとハルトは一人で筋トレをしていた。
 軽く窓を叩くと、俺に気がついた。

「アレス?」

 ハルトが窓を開けると、俺は持っていた剣を床に投げ捨てる。
 布でくるまれているが柄の大きさから、それが何なのかを理解していたようだった。
 俺に視線を戻し、何時になく真剣な表情をしていた。

「何をしているの? そんな所に居ないで、入ってくれば? ここは君の家なんだよ」

「これをお前に渡しに来ただけだ。お前なら使いこなせるだろ?」

 そう言い放ちハルトは窓から身を乗り出して俺を捕まえようとする。
 その手は、展開されたシールドによって弾かれる。俺はその場からゆっくりと離れていく。
 ハルトが大きな声で俺の名前を叫んでいる。誰かに気づかれる前に、俺はハルトに手を振る。

「また、後でな」

 聞こえないはずの言葉を投げかけ、空に向かって飛び立つ。

 残る強者はあと一体。

 しかし、残された日数はもう半年しかない。
 最早のんびりとしていられる時間は無くなっていた。
 ここに来るまでの間、何度試しても、左腕から魔法を使うことはできない。
 
 アムドシアスの戦いによって受けたハンデは、これまでの余裕は全て無くなってしまう。
 今の体に慣れるためにも、ダンジョンを攻略しつつ最後の強者を倒す必要があった。

「後、少しだ……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。  猫屋敷翔平は鍼灸整骨院を自営していたが、身勝手な母と弟と伯母に騙されて借金を肩代わりさせられた上に、陰で悪い評判を流されて鍼灸整骨院を廃業した。人間不信となり破産宣告をして田舎を捨てて地方都市に移住し、大政党を支配下に置く新興宗教組織に入信して政党と新興宗教の会費を払い、政党新聞と新興宗教新聞を購入する事、更には新興宗教幹部が経営するワンルームマンションに入居する事を条件に、生活保護申請を政党地方議員に代行してもらう。  人間不信の対人恐怖症となり、保護猫サクラと引き籠り生活をしていたが、老猫サクラが衰弱したので、急いで動物病院に行こうとしたところを反社に脅迫されていたところ、愛猫サクラが主人を助けようと爪を立てた。  ケガさせられた反社は激高してサクラを蹴り殺し、猫屋敷翔平にも殴りけるの暴行を繰り返していたところを、古武術の大会のために長野県から出てきていた四人の学生が助けている所に異世界召喚される。  勇気ある学生達は魔物被害に苦しんでいた異世界に召喚され、猫屋敷とサクラも一緒に召喚された。  学生達は異世界召喚特典で強くなるが、死んで身体と幽体が分離していた猫屋敷とサクラはとんでもない特典を手に入れていた。  だが人間不信で対人恐怖症になっている猫屋敷は、それを隠して安全な場所での隠棲を希望する。  人のいい学生達と国王は、罪滅ぼしに魔物は出ないが生活するのが苦しい極寒の北方に領地と支援を与えて移住させてくれるが、サクラの暴走と慈愛、孤児院の子供達を見捨てられない母性によって人助けを始める。  特に自滅願望の古代氷竜アリステアに、猫屋敷とサクラが同時に憑依した事で、魂が猫の自由人気質に染まり、た人間嫌いと対人恐怖症が改善され、陰から恩人の学生徒達と孤児達、更には難民まで助けるようになる。

処理中です...