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強者討伐 失われた武器
279 アレス・ローバンの背徳 2
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「俺なら大丈夫だから」
そう言って手を突き出すが、今の俺を見て誰一人として言うことを聞いてくれるはずもなく、両脇にメイド達は寄り添って肩を貸してくれる。
「まてまてまて、動かすな。た、頼むから」
「アレス様?」
「貴方達、そのままアレス様を支えてじっとしていなさい。貴方は早く尿瓶を持ってきなさい」
さ、さすがメイド長こと、メイル様。俺の置かれている状況を察知するが……そんな物を持ってきて、まさかこんな所で出せって言わないよな?
「い、いや、もう少しで着くだろ?」
後二部屋ほど越えると、トイレが有るのだが……メイルは首を横に振り、俺の前に立ちふさがる。
刺激を与えないように、ゆっくりとスボンを下ろしていく。
何という背徳感。
彼女たちからすれば、当たり前のことなんだろうけど。子供の頃ならまだしも、この年になってまでこんな事をされるとは……。
「お待たせしました!」
ぜぇぜぇと息を切らして、手に持っていた尿瓶をメイルに渡す。
それを容赦なく、突っ込まれる。それでも、俺にもプライドの欠片ぐらいはある。
「どうぞ、アレス様」
そう言われるが女性陣が見守る中、出るものも出ないってものだ。
なんとか首を振り、止めさせようとするもののメイルは容赦なく、腹を押してくる。
「ああっ……」
それからはひどい有様だった。
廊下に響き渡る音と、独特な匂い。
結果としてはセーフなのかも知れないが、俺の気分は最悪だった。
出し終わると、メイルの指示により再びベッドの上に戻される。
冷えたお湯を新しい物に変えて、懸命に俺の体を拭いていく。
食事に至るまで、俺が動くこともなく世話をしてくれる。
昨日はそんなことなんて無かったのに、今日はメイルが部屋が出ていくこともなく、つきっきりで看病にあたってくれている。
* * *
「アレス様? お休みになられましたか……」
食事を終えたアレスは、しばらく横になっているとまだ呼吸は荒いものの眠りについている。
メイルは、ベッドの脇に置いてある水瓶を変えるために部屋から出ていく。
「アレスの容態は?」
「今しがたお休みになられました。水を変えた後に、私がアレス様のお側に居ます」
「そうか。メイルが居てくれるのなら安心だね」
そういうもののアークの表情は影を落としている。
屋敷に居る者全員がアレスが無事な姿に戻ってきてくれると信じる一方。もしかしたらと、思うものは少なくはない。
これまでは、風邪を引くこともなく元気に過ごしていたからこそ、今回のことはどうしても不安にかられてしまう。
「アレス様は、なぜ私達を頼られないのでしょうか?」
「何かあったのかい?」
メイルは、先程あったことを包み隠さず報告をする。ローバン公爵家の使用人である以上、ローバン家に仕えるのが当然。
仮に、アレスが粗相をしてとしても、アレスが責められるものではない。
多少理不尽な要求だろうとも、それをこなすのが使用人の努め。
「私達も、これまで何度もあの子に対してかなり無茶なことをしてきた。アトラスから、何度も怒られもしたけどね。『もうやりたくない』ってね」
「私共もあのような事はごめんです」
これまでアレスが行なった我儘は、大したものではない。
使用人に、食事や飲み物を持って来させる程度。英気を養うためにと、誠心誠意仕えられることに、誰もがアレスの行動に対して何かを思うようなことはなかった。
しかし、アレスの行動は、あまりにも自己評価が低い。
少しでも怒らせるように仕向けたみたものの、結果は何も変わらない。
アークたちが束になってもアレスに勝てるはずもないのに、アレスは理不尽すぎる対応にも魔法を使って反抗することはなかった。
言われたことはやり遂げ、誰かに任せることもなく、たった一人でこなしていた。
「あの時はすまなかったね。アレスはもっと甘えてくれてもいいのだけど、私達にも何も語らない。自分で決めた目標があるにせよ、頼られないのは親としてつらいものだね」
「アナタ! アレスは、アレスは無事なんですか?」
「ソフィ。大丈夫だよ、今は眠っているらしいよ」
帰ってきたソフィは、アークの言葉を聞いてその場に座り込む。
セドラから話を聞き、ここまで走ってきていた。
「奥様。お戻りになられたのですね。アレス様は先程お食事を召し上がって、お休みになられました」
しばらくすると、アトラスがソフィと同じようにアレスの容態を確認するためやって来た。
寝ているにも関わらず、アトラスはアレスの元へと向かう。
熱にうなされることもなく、落ち着いているのか、寝息は一定のリズムになっていた。
「まだ少し熱いね。何も心配することはない、安静にするようにね。僕たちのことは気にすることはない」
何度この頭を撫で、苦しいのに笑おうとするあの頃の姿を思い出し、アトラスの目には涙が溢れていた。
「君は君の望む通り進めばいい。アレス、君が誰であろうとも僕たちの弟であることに変わりはないのだから」
そう言って手を突き出すが、今の俺を見て誰一人として言うことを聞いてくれるはずもなく、両脇にメイド達は寄り添って肩を貸してくれる。
「まてまてまて、動かすな。た、頼むから」
「アレス様?」
「貴方達、そのままアレス様を支えてじっとしていなさい。貴方は早く尿瓶を持ってきなさい」
さ、さすがメイド長こと、メイル様。俺の置かれている状況を察知するが……そんな物を持ってきて、まさかこんな所で出せって言わないよな?
「い、いや、もう少しで着くだろ?」
後二部屋ほど越えると、トイレが有るのだが……メイルは首を横に振り、俺の前に立ちふさがる。
刺激を与えないように、ゆっくりとスボンを下ろしていく。
何という背徳感。
彼女たちからすれば、当たり前のことなんだろうけど。子供の頃ならまだしも、この年になってまでこんな事をされるとは……。
「お待たせしました!」
ぜぇぜぇと息を切らして、手に持っていた尿瓶をメイルに渡す。
それを容赦なく、突っ込まれる。それでも、俺にもプライドの欠片ぐらいはある。
「どうぞ、アレス様」
そう言われるが女性陣が見守る中、出るものも出ないってものだ。
なんとか首を振り、止めさせようとするもののメイルは容赦なく、腹を押してくる。
「ああっ……」
それからはひどい有様だった。
廊下に響き渡る音と、独特な匂い。
結果としてはセーフなのかも知れないが、俺の気分は最悪だった。
出し終わると、メイルの指示により再びベッドの上に戻される。
冷えたお湯を新しい物に変えて、懸命に俺の体を拭いていく。
食事に至るまで、俺が動くこともなく世話をしてくれる。
昨日はそんなことなんて無かったのに、今日はメイルが部屋が出ていくこともなく、つきっきりで看病にあたってくれている。
* * *
「アレス様? お休みになられましたか……」
食事を終えたアレスは、しばらく横になっているとまだ呼吸は荒いものの眠りについている。
メイルは、ベッドの脇に置いてある水瓶を変えるために部屋から出ていく。
「アレスの容態は?」
「今しがたお休みになられました。水を変えた後に、私がアレス様のお側に居ます」
「そうか。メイルが居てくれるのなら安心だね」
そういうもののアークの表情は影を落としている。
屋敷に居る者全員がアレスが無事な姿に戻ってきてくれると信じる一方。もしかしたらと、思うものは少なくはない。
これまでは、風邪を引くこともなく元気に過ごしていたからこそ、今回のことはどうしても不安にかられてしまう。
「アレス様は、なぜ私達を頼られないのでしょうか?」
「何かあったのかい?」
メイルは、先程あったことを包み隠さず報告をする。ローバン公爵家の使用人である以上、ローバン家に仕えるのが当然。
仮に、アレスが粗相をしてとしても、アレスが責められるものではない。
多少理不尽な要求だろうとも、それをこなすのが使用人の努め。
「私達も、これまで何度もあの子に対してかなり無茶なことをしてきた。アトラスから、何度も怒られもしたけどね。『もうやりたくない』ってね」
「私共もあのような事はごめんです」
これまでアレスが行なった我儘は、大したものではない。
使用人に、食事や飲み物を持って来させる程度。英気を養うためにと、誠心誠意仕えられることに、誰もがアレスの行動に対して何かを思うようなことはなかった。
しかし、アレスの行動は、あまりにも自己評価が低い。
少しでも怒らせるように仕向けたみたものの、結果は何も変わらない。
アークたちが束になってもアレスに勝てるはずもないのに、アレスは理不尽すぎる対応にも魔法を使って反抗することはなかった。
言われたことはやり遂げ、誰かに任せることもなく、たった一人でこなしていた。
「あの時はすまなかったね。アレスはもっと甘えてくれてもいいのだけど、私達にも何も語らない。自分で決めた目標があるにせよ、頼られないのは親としてつらいものだね」
「アナタ! アレスは、アレスは無事なんですか?」
「ソフィ。大丈夫だよ、今は眠っているらしいよ」
帰ってきたソフィは、アークの言葉を聞いてその場に座り込む。
セドラから話を聞き、ここまで走ってきていた。
「奥様。お戻りになられたのですね。アレス様は先程お食事を召し上がって、お休みになられました」
しばらくすると、アトラスがソフィと同じようにアレスの容態を確認するためやって来た。
寝ているにも関わらず、アトラスはアレスの元へと向かう。
熱にうなされることもなく、落ち着いているのか、寝息は一定のリズムになっていた。
「まだ少し熱いね。何も心配することはない、安静にするようにね。僕たちのことは気にすることはない」
何度この頭を撫で、苦しいのに笑おうとするあの頃の姿を思い出し、アトラスの目には涙が溢れていた。
「君は君の望む通り進めばいい。アレス、君が誰であろうとも僕たちの弟であることに変わりはないのだから」
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