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強者出現

175 運送業はじめました 2

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 ゲーム的に考えれば、強者の存在はただのおまけボスの扱いでしかない。
 だから、あえて倒す必要はない。
 武器が手に入るだけで、それが最強装備というわけでもない。
 この世界において、そんな簡単な話では済まなくなってくる。

 それにあの声。失われた武器、それが何の目的のためにこの世界で存在しているのか? という疑問が残る。
 六本全てを集めた先に何があるんだ?
 収納できない以上、特別な物だということしか今はわからない。

「そうだな。俺だけでは信用はできないだろう」

 ガドール公爵は口角をニッと上げて笑っていた。
 俺の様子を見て、きっと良からぬことを思いついたのだろう……か?

「少し待っていろ」

 ガドール公爵は部屋から出ていき、俺は一人残されてどうするべきかを考えていた。
 しばらく待っていると、一人の少年とともに戻ってきた。

「その方は?」

「俺の……いや、ハルトの弟ヘルディだ」

「始めまして、私はヘルディ・バセルトンです。よろしくお願いします。英雄、アレス・ローバン様」

 英雄? そういやなんか勲章のようなものを貰ったっけ。
 どうでも良すぎて忘れていた。
 ハルトの弟、確かによく似ている気がしなくもない。
 あの時貰った勲章って……何処に行ったんだろう。
 寮か? 別にどうでも良さそうだな。

「英雄というのは辞退という方向で、アレス・ローバンです。よろしく」

 そう言って握手を交わすと、ガッチリと掴まれなかなか離そうとはしてくれなかった。
 ハルトと同じく、こいつも加減というものを知らないのか?

「父上。それで何か御用ですか?」

「俺は明日から、ローバン公爵家に向かう。一時的にお前に一任するがやれるな?」

 ローバン公爵家って俺に家に?
 家族を含めて俺から絶対聞き出すつもりだな。ガドール公爵め、本当に余計なことを思いつくな……。

「なるほど……わかりました。このバルディ、父上に変わりまして精一杯務めさせていただきます」

「いい加減、手を離してくれ」

 俺の方から振りほどくために上下に揺さぶると、何を勘違いしたのか両手で掴まれて嬉しそうに上下に揺らしていた。
 痛い……このバカ兄弟が!

「おっと、もう少し握手を交わしていたかったのですが……残念です」

 手を叩くことでようやく離してもらい、握られていたことで何度も右手を振る。
 その動作をバルディはじっと見てくる。
 何かを期待するような目で見られたため、後ろ手を組んで隠した。
 こいつ、舌打ちしやがった。

「ガドール公爵。父上に何の連絡もなくそのような事が許されると?」

「お前の帰省に付き合うだけだ。大した問題にもならん」

「ですが……やれやれ、何を言っても無駄というわけですね。父上が不在の場合は? なんですか?」

 ガドール公爵は俺に一通の手紙を差し出していた。
 しかも公爵家の印付きかよ……これをどうしろと?

「ローバン公爵家の次男が、バセルトン公爵からの書状を預かれないとは言わないよな? それに、お前なら行けるんだろ?」

 そう言って、人差し指で弧を描いていた。
 要するに先に行けと? また運べと?

 たしかに数日かかる距離でも、俺ならすぐにでも運べる。だとしたら、運送業でもすれば儲かるかもしれないな。
 そんなことを始めれば、たちまち寝る時間が無さそうだな……。
 あの時に急いでいるからと言って、むやみに飛んだのは間違いだったな。

「もしかしなくても、父上に聞いたのですか……行けって何時」

「無論、今からだな。ご令嬢は俺が責任を持って送り届ける」

 謀られた。
 ガドール公爵は俺が話さないことも視野に入れて居たというわけか……。
 これを受け取らないとなると、ガドール公爵は父上に余計なことを報告するはずだ。そうなれば、どの道後できついお仕置きが待っている。
 受け取った以上、反故にも出来ない。
 俺の周りには何でこういう人ばかりなんだよ。
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