上 下
76 / 310
ラカトリア学園 高等部

75 改変 2

しおりを挟む
 ラスボスを倒すというのは、各キャラに置いて共通する唯一のイベントであってアレスだからというわけではない。
 しかし、最後の最後でミーアを殺すことになるのは俺が耐えられそうにない。
 好きになるはずがないと思っていたのに、この世界のシナリオは残酷だ。

「私は嫌です。離れたくはありません」

「だから、こういう事は止めてくれ」

 ミーアは俺に抱きついて離れようとはしない。
 俺なんかと比べてその小さい体からはしっかりと力が込められている。

「アレス様、あの時にお会いしてからずっとお慕いしておりました。それなのに、こんなことって……どうかお側に居させてください」

「ミーア、ちょっと、おい」

 体勢が不安定だった俺は押し倒されたかと思えば、ミーアは俺に何の躊躇もなく唇を寄せていた。
 慌てて両肩を掴んだものの、押し退ける前に唇は一瞬だけ触れしまった。
 俺がシナリオを拒むことで、こんなにも早く展開を進めるつもりなのか?
 だけど……俺は……嬉しいと思ってしまった。

「ここまでするとは思わなかった」

「はしたなく思われようとも、私の気持ちは変わりません。アレス様が私から離れるというのでしたら、私はその後を追います。命を落とすことになっても……」

 それだけは勘弁してもらいたい。
 このまま一人になれば、後を追わせて殺すつもりだというのか?
 なんでこんなことに、俺は一体どうすれば……どう考えても完全に八方塞がりにされた訳なんだな。
 残された選択は、ミーアとともにいることだけなのか?

「それは止めて欲しい。婚約者だからと言って、そこまですることなのか? それに、破棄すれば……」

「私はアレス様が婚約者だから側に居たいなど、一度も考えたこともありません。本当に好きだから、お側に居たいのです」

 何でこんな事になってしまったんだ。俺はただ彼女を守りたいだけなのに……ゲーム終盤で言うセリフを今ここで使ってくるのかよ。
 この言葉は……果たして正解なのだろうか?
 それとも……俺には、あの結末を変えられることは出来ないということなのか?

「私の思いがアレス様に届かなくとも、例えパメラさんを選ぶことになったとしても、私の思いは変わりません」

「パメラ? ちょっと待て、何でアイツの話が出てくるんだ?」

「アレス様が居ない間に、パメラさんとは色々ありました」

「だけど、ミーアはパメラといがみ合っていただろ?」

 二人は互いに俺に対してアプローチを仕掛け、何かに付けて対抗をしていた。
 そして、俺が居なくなったことで何があったというのだろうか?

「はい、以前はそうでしたが……私が正妻で、パメラさんが妾ということで話はついております」

 ミーアは顔を真赤にしている。
 ついておりますって、ミーアだけでも厄介だと言うのに、パメラまで本格的にルートに入っている。

 何から何までおかしい。
 今までの流れで、そんな風になる要素があったんだ?
 この二ヶ月の間、シナリオは俺を閉じ込めるように動いていたのか。
 ミーアだけでは役不足と判断され、パメラまで投入して来たというのか?

「俺は元々婚約は破棄するつもりで、パメラが妾とかも意味がわからないんだけど。それに、俺は誰とも結婚するつもりもないし」

「私は婚約破棄なんて認めません。だから、どうかお側にいることをお許しください」

 再度、真正面から抱きつかれ、離してくれそうにもない。
 それでも抱きしめることは出来なかった。俺にはそんな資格はないと思ったから。
 最悪の展開は、継続されこれからはこの二人が俺の隣りにいるつもりなのか?

 そんな状況だと言うのに、俺自身も今の抱きつかれていることで、落ち着いていられるのは、やはり彼女に対して特別な感情を持っているから何だと思う。
 離れて欲しいのに離したくない矛盾は、ミーアを思うこの気持ちが原因なのだ。

「負けたよ。今はまだお前たちと一緒にいることにするよ」

「アレス様……ありがとうございます。ですが、私も諦めるつもりはございません。私を選んで頂けるようがんばりますので」

 一体何を頑張るつもりなんだ?
 この状況にまた頭を悩ませる日々が続くのだけど、やっぱりミーアはこの笑顔が一番似合っている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

王女に婚約破棄され実家の公爵家からは追放同然に辺境に追いやられたけれど、農業スキルで幸せに暮らしています。

克全
ファンタジー
ゆるふわの設定。戦術系スキルを得られなかったロディーは、王太女との婚約を破棄されただけでなく公爵家からも追放されてしまった。だが転生者であったロディーはいざという時に備えて着々と準備を整えていた。魔獣が何時現れてもおかしくない、とても危険な辺境に追いやられたロディーであったが、農民スキルをと前世の知識を使って無双していくのであった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

前世は不遇な人生でしたが、転生した今世もどうやら不遇のようです。

八神 凪
ファンタジー
久我和人、35歳。  彼は凶悪事件に巻き込まれた家族の復讐のために10年の月日をそれだけに費やし、目標が達成されるが同時に命を失うこととなる。  しかし、その生きざまに興味を持った別の世界の神が和人の魂を拾い上げて告げる。    ――君を僕の世界に送りたい。そしてその生きざまで僕を楽しませてくれないか、と。  その他色々な取引を経て、和人は二度目の生を異世界で受けることになるのだが……

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

よい異世界召喚に巻き込まれましたが、殺された後でした。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。  猫屋敷翔平は鍼灸整骨院を自営していたが、身勝手な母と弟と伯母に騙されて借金を肩代わりさせられた上に、陰で悪い評判を流されて鍼灸整骨院を廃業した。人間不信となり破産宣告をして田舎を捨てて地方都市に移住し、大政党を支配下に置く新興宗教組織に入信して政党と新興宗教の会費を払い、政党新聞と新興宗教新聞を購入する事、更には新興宗教幹部が経営するワンルームマンションに入居する事を条件に、生活保護申請を政党地方議員に代行してもらう。  人間不信の対人恐怖症となり、保護猫サクラと引き籠り生活をしていたが、老猫サクラが衰弱したので、急いで動物病院に行こうとしたところを反社に脅迫されていたところ、愛猫サクラが主人を助けようと爪を立てた。  ケガさせられた反社は激高してサクラを蹴り殺し、猫屋敷翔平にも殴りけるの暴行を繰り返していたところを、古武術の大会のために長野県から出てきていた四人の学生が助けている所に異世界召喚される。  勇気ある学生達は魔物被害に苦しんでいた異世界に召喚され、猫屋敷とサクラも一緒に召喚された。  学生達は異世界召喚特典で強くなるが、死んで身体と幽体が分離していた猫屋敷とサクラはとんでもない特典を手に入れていた。  だが人間不信で対人恐怖症になっている猫屋敷は、それを隠して安全な場所での隠棲を希望する。  人のいい学生達と国王は、罪滅ぼしに魔物は出ないが生活するのが苦しい極寒の北方に領地と支援を与えて移住させてくれるが、サクラの暴走と慈愛、孤児院の子供達を見捨てられない母性によって人助けを始める。  特に自滅願望の古代氷竜アリステアに、猫屋敷とサクラが同時に憑依した事で、魂が猫の自由人気質に染まり、た人間嫌いと対人恐怖症が改善され、陰から恩人の学生徒達と孤児達、更には難民まで助けるようになる。

処理中です...