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聖女編

200 お嬢様は新しい扉を開く

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 屋敷に戻った私は、クレアたちにご令嬢のことを任せて一人執務室へ入っていく。

「ルビー。これはどういう目的なのかしら?」

「どうと申されましても……私にはお嬢様の仰ることが理解できません」

 しらを切るつもりなの?
 私をあの寝室から連れ出すにはルビーの協力は必要不可欠。それでいて、ソルティアーノでの準備から考えても、あの二人が……その他にも居るのだろうけど協力していたのは明白。

 そもそも、クレアがいい出したお茶会。
 私に仕事を押し付け、大半が私の権限を必要としないものが多くあった。
 それに、朝の私には下着がなかったことから、トパーズさえも協力させたということなのね。

「他のご令嬢達と仲良くなるためか、色違いである私があの二人と親密に関係であることをご令嬢たちに知らしめるため? そんな事をあのクレアが考えるかしら? だとすればメルが?」

「お嬢様。何をお考えになられたとしても、お嬢様がご令嬢の方々をお招きしたことには代わりありません。お嬢様はこの屋敷の主です。あまりこちらに長居するのはよろしくはないかと」

 その言い分もわかるのだけど……私としては、この豪華なドレスを早く脱ぎ去りたいのよね。
 山積みになっている書類は、綺麗サッパリと無くなり残された書類を手に取る。
 内容からしても、私の所に来るのが当然よね。だとするのなら……先に帰ったトパーズが処理をしたということか、私が見る必要のないものをただ作成していたという訳ね。

「ルビー。私は着替えたいのよ。お願いできるかしら?」

「かしこまりました。お着替えでございますね?」

 え、何今の含みのある言い方は……?
 ルビーは、机の上に置いてあったベルを手に取りフフッと笑っている。
 私は慌ててルビーが手に持っているベルを奪おうとするが、高々と腕を上げられると私の慎重だと全く届かない。

「お呼びでしょうか? ルビー様」

 ぞろぞろとやってきたメイド達。ベルを鳴らしたからと言ってもあまりにも早すぎる。
 そして、私ではなくルビーの名前を言っていることからして……これも、想定済みということなの?

「ええ。お嬢様は、お着替えをご所望しております。これ以上、ご令嬢の方々をお待たせする訳にも参りません。早急にお願いします」

「ちょっと……待って」

「それではお嬢様。準備は既に整っておりますので」

 両脇をガッチリと掴まれる。
 今はメイドたちの笑顔が……獲物を捉えた野生動物の目にすら思えてしまう。
 暴れようにも、私の腕の力で逃げられないのは経験済み。

 部屋に明かりが灯され、一着のドレスに私は大きく目を見開いてしまう。
 そのドレスを前に、メイドたちの目がさらに鋭さを増し、私は絶望の淵に立たされるだけでなく、これからそれを身につけるということに戦慄してしまう。

「他の……」

「ございません」

 ふわふわとしたフリルのドレス。
 スカートの両サイドには五段のティアード。裾には小さなリボンが付けられ腰の正面にはやたらと目立つ大きなリボン。
 袖は真っ白な白のレースで、ゴスロリと同様に手首へと向かうほど広くなっている。
 胸には、キラキラと煌く大きなルビーの宝石。
 フリル付きカチューシャのサイドには、バラの花を模したレースがある。

「む……無理」

 一歩、また一歩と背中を押されメイドたちは容赦なく向き合わせようとしている。
 こ、こんな、ピンクのドレスなんて……服を脱がされ、飾っているドレスをメイドたちの手によって取り除かれる。

「みんな……少しは冷静に、ね? 私にはそんな可愛いドレスは似合わないわよ?」

「大丈夫ですよ」

「お嬢様でしたら、どのようなドレスもきっとお似合いになりますわ」

「私達には想像できております。何もご心配には及びません」

 押し問答を続けるが、私に抵抗できるすべはない。
 鏡の前に座らされた私の姿からは、二日徹夜したかのような生気のない顔をしていたが……メイドたちは大いに喜んでいる。

「お嬢様。そのようなお顔をなさらないでください。ご令嬢たちがお待ちなのですから」

 こんなドレスを着て人前に立てっていうの?
 今までなら、この屋敷にいる人以外はクレアとメルだけだった。
 知りもしないご令嬢に、こんな姿を晒せって……どんな拷問なのよ。

「まだ、さっきのドレスのほうが……」

「それでしたら既に処分しましたので、ここにはもうありません」

 ここに居るメイドは主人の命令というものを聞かないの?
 私は皆のためにと思って日々頑張っているつもりなのに……こんなのってあんまりよ。
 ただ、喜んでいるのを見るのは悪くはないのだけど。私を使って遊んでいるようにしか見えないのよ。

「お嬢様? 何をなされようとしているのですか?」

「い、いや……頭を掻こうとしただけたよ?」

 せめてこのカチューシャだけでもと思い手を伸ばすが、隣りにいるメイドは私の考えに気が付きとっさに腕を掴んでいる。

「では、この辺りでしょうか?」

 別のメイドたちによって、セットした髪を乱さないように、頭を掻いてくれる
 何度も私の着付けをしているだけあって、私の考えはお見通しのようだ。
 それにしても……やたらと後ろ髪を触られているのは何で?

「おおー、いいですねー」

 よくないよ!!
 ストレートに下ろしていた髪は、一つに束ねられまたしてもピンク色をしてリボンを付けられている。

「さ、お嬢様。そろそろ参りましょう。それと、無闇矢鱈に頭を触ることのないように。ドレスに至っても同様にお願いします」

「わっ、分かっているわよ。私がそんな事するわけ無いでしょ!?」

 メイド以上に私のことを理解しているルビーは……全てお見通しであり、こんな策略を企てたということね。
 だけどさ……こんな格好でご令嬢たちの前に出たからと言ってどうなるのよ。
 いい笑いものになるんじゃないのかしらね?
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