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聖女編
189 お嬢様とメルの余計な一言
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聖女の力。
私が思うに、聖女の力とは願いそのもの。
救いたいという気持ちも、滅ぼしたいという気持ちも……だとするのなら、メルはどうしてクレアローズに対して対抗できなかったの?
今のメルから考えて、そこが結びつかない。
殺された最後に、聖女の力が発動し……死ぬ間際に帰りたいと願ったことで、奇跡が起こった?
そう考えれば、記憶を持ったまま過去に戻ったという、無茶な話もわからなくもない。
しかし、これはメルが以前にもこの世界に居たというのを信じればの話になるわね。
「ごめん、最初のことは本当に言いたくはないの。今ここにいるのは、紛れもなく電車での事故が原因よ。でもね、二人に出会えて本当に嬉しかった。クレアはすごくいい子だし……友達にもなれた」
「何言っているのよ、これからは姉妹でしょ」
メルは目を丸くした後、少しだけ笑って「うん」と答えている。
クレアに対して、最初はどう思っていたのだろう。やっぱり、復讐なんて馬鹿なことを考えていたのかもしれない。
いや、それはないわね……一番望んでいたのは、平民としてでもいいからルルと一緒に仲良く暮らせればよかっただけかもしれないわね。
それが辛くても、貧しくても、ルルを見ているあの目は本当よね?
「全部が納得できたわけじゃないけど……こうなってしまった以上、私も協力はするよ。クレアがそんな事にならないようにね」
「ごめんね、ちょっと、嫌に気分にさせちゃって」
「大丈夫だよ、私達年配組はこれからのことを考えればいいだけだよ」
私はメルの頭を撫でてあげる。
私達でなんとかするしか無い。だからもう少しだけ、私を頼ってくれると良いのだけどね。
「よっと、イクミちゃんが一番幼く見えるのだけどね」
メルは立ち上がり背伸びをする。
私の行き場のない手を見て、あの憎たらしい顔を見せてくる。見下ろすメルは多少は元気が出たようだった。
逆に頭を撫でようとする手を振り払った。
「余計なことを言わなくていい!」
メルのように、聖女の力を戦争の道具にさせるつもりはない。
クレアがそんな事を望むことはないと私は信じている。聖女の力は、もっと別の使い道を示すのがいいわよね。
「とりあえず今後のことは良いとして、聖女が何なのかはわからないけど、あのクレアに新たな力が備わるとか……文字通りに鬼に金棒ね」
「ああ、確かに……この世界的に言うとトロールに棍棒だね」
「どういう例えなのよ……いや、言いたいことは分からなくはないけどさ」
「あら? イクミ様にお姉さま。私には少々理解が及ばなかったのですが? 詳しくご説明をお願いできますか?」
聞き慣れた声なのに、私達はぴたりと笑いを止め、ゆっくりと声が聞こえたほう振り向く。
腕を組み仁王立ちするクレアは、足を少し上げ……ドゴンと音を立てた足元には砂煙が巻き上がっていた。
「イクミちゃん。後は任せてもいいかな? 年長者だし」
「ふざけないでよ。私にクレアを止められるわけ無いでしょ。メルは姉なんだから、身内でしょ?」
「親しき間にも礼儀あり。いくらお姉さまと言えど、妹に向かってトロールは些か言い過ぎかと思いますが?」
「い、いや、例えの話よ。ほ、ほら、イクミちゃんはクレアが鬼に例えたからね」
メルの視線は定まることもなく、クレアを避けつつぐるぐると辺りを見渡していた。
このままでは、私もクレアに何をされるかわからないわね。石畳の石ってそんなに簡単に割れるなんて……私はクレアの所へと行き踵を返して、メルを指差した。
「私が言ったのはことわざであって、クレアを馬鹿にしたものじゃないのよ。クレアみたいな可愛い子を、トロール扱いしたメルだけが悪い!」
「あらあら、イクミ様。先程お姉さまのお言葉に、分からなくはないと仰っていたではありませんか?」
クレアの味方に回るために、近づいたのがまずかった。私の両肩を掴まれてしまい、逃げ出す機会を……クレアから逃げられる人っているの?
まずはクレアを落ち着かせるのが先ね。
「そうだそうだ! イクミちゃんは鬼といいつつも、頭の中ではオーガを連想していたはずよ」
なんて余計なことを……まって、クレア!
上からの衝撃に耐えられなかった私は、そのまま膝をついて地面へと倒れ込んでしまった。
あ……このまま気絶したふりをしておこう。
「どうしてそんなに怯えているのでしょうか? お姉さま?」
倒れた私をそのままにして、ゆっくりとクレアはメルの所へと進む。
一歩一歩はかなりのんびりとしてものだけど、メルにとってそれがまた一層恐怖に感じることだろう。
「わわ、私が、クレアに怯えるなんて、そんなこと、あるあるわけないでしょ」
「そうですわね。それでは、先程のお言葉をご説明頂けますわね?」
「ひっ」
それからというもの、気絶したふりをしていたのも見破られ、私達は石畳の上に正座をさせられる。
聖女となったクレアは、今までと何も変わってなんか居ない。おそらく、これまでのどの聖女よりも手がつけられないだろう……あの破滅の聖女でさえ、クレアにひれ伏すのかもしれないわね。
「イクミ様? また何か良からぬことを、お考えになりましたか?」
私が思うに、聖女の力とは願いそのもの。
救いたいという気持ちも、滅ぼしたいという気持ちも……だとするのなら、メルはどうしてクレアローズに対して対抗できなかったの?
今のメルから考えて、そこが結びつかない。
殺された最後に、聖女の力が発動し……死ぬ間際に帰りたいと願ったことで、奇跡が起こった?
そう考えれば、記憶を持ったまま過去に戻ったという、無茶な話もわからなくもない。
しかし、これはメルが以前にもこの世界に居たというのを信じればの話になるわね。
「ごめん、最初のことは本当に言いたくはないの。今ここにいるのは、紛れもなく電車での事故が原因よ。でもね、二人に出会えて本当に嬉しかった。クレアはすごくいい子だし……友達にもなれた」
「何言っているのよ、これからは姉妹でしょ」
メルは目を丸くした後、少しだけ笑って「うん」と答えている。
クレアに対して、最初はどう思っていたのだろう。やっぱり、復讐なんて馬鹿なことを考えていたのかもしれない。
いや、それはないわね……一番望んでいたのは、平民としてでもいいからルルと一緒に仲良く暮らせればよかっただけかもしれないわね。
それが辛くても、貧しくても、ルルを見ているあの目は本当よね?
「全部が納得できたわけじゃないけど……こうなってしまった以上、私も協力はするよ。クレアがそんな事にならないようにね」
「ごめんね、ちょっと、嫌に気分にさせちゃって」
「大丈夫だよ、私達年配組はこれからのことを考えればいいだけだよ」
私はメルの頭を撫でてあげる。
私達でなんとかするしか無い。だからもう少しだけ、私を頼ってくれると良いのだけどね。
「よっと、イクミちゃんが一番幼く見えるのだけどね」
メルは立ち上がり背伸びをする。
私の行き場のない手を見て、あの憎たらしい顔を見せてくる。見下ろすメルは多少は元気が出たようだった。
逆に頭を撫でようとする手を振り払った。
「余計なことを言わなくていい!」
メルのように、聖女の力を戦争の道具にさせるつもりはない。
クレアがそんな事を望むことはないと私は信じている。聖女の力は、もっと別の使い道を示すのがいいわよね。
「とりあえず今後のことは良いとして、聖女が何なのかはわからないけど、あのクレアに新たな力が備わるとか……文字通りに鬼に金棒ね」
「ああ、確かに……この世界的に言うとトロールに棍棒だね」
「どういう例えなのよ……いや、言いたいことは分からなくはないけどさ」
「あら? イクミ様にお姉さま。私には少々理解が及ばなかったのですが? 詳しくご説明をお願いできますか?」
聞き慣れた声なのに、私達はぴたりと笑いを止め、ゆっくりと声が聞こえたほう振り向く。
腕を組み仁王立ちするクレアは、足を少し上げ……ドゴンと音を立てた足元には砂煙が巻き上がっていた。
「イクミちゃん。後は任せてもいいかな? 年長者だし」
「ふざけないでよ。私にクレアを止められるわけ無いでしょ。メルは姉なんだから、身内でしょ?」
「親しき間にも礼儀あり。いくらお姉さまと言えど、妹に向かってトロールは些か言い過ぎかと思いますが?」
「い、いや、例えの話よ。ほ、ほら、イクミちゃんはクレアが鬼に例えたからね」
メルの視線は定まることもなく、クレアを避けつつぐるぐると辺りを見渡していた。
このままでは、私もクレアに何をされるかわからないわね。石畳の石ってそんなに簡単に割れるなんて……私はクレアの所へと行き踵を返して、メルを指差した。
「私が言ったのはことわざであって、クレアを馬鹿にしたものじゃないのよ。クレアみたいな可愛い子を、トロール扱いしたメルだけが悪い!」
「あらあら、イクミ様。先程お姉さまのお言葉に、分からなくはないと仰っていたではありませんか?」
クレアの味方に回るために、近づいたのがまずかった。私の両肩を掴まれてしまい、逃げ出す機会を……クレアから逃げられる人っているの?
まずはクレアを落ち着かせるのが先ね。
「そうだそうだ! イクミちゃんは鬼といいつつも、頭の中ではオーガを連想していたはずよ」
なんて余計なことを……まって、クレア!
上からの衝撃に耐えられなかった私は、そのまま膝をついて地面へと倒れ込んでしまった。
あ……このまま気絶したふりをしておこう。
「どうしてそんなに怯えているのでしょうか? お姉さま?」
倒れた私をそのままにして、ゆっくりとクレアはメルの所へと進む。
一歩一歩はかなりのんびりとしてものだけど、メルにとってそれがまた一層恐怖に感じることだろう。
「わわ、私が、クレアに怯えるなんて、そんなこと、あるあるわけないでしょ」
「そうですわね。それでは、先程のお言葉をご説明頂けますわね?」
「ひっ」
それからというもの、気絶したふりをしていたのも見破られ、私達は石畳の上に正座をさせられる。
聖女となったクレアは、今までと何も変わってなんか居ない。おそらく、これまでのどの聖女よりも手がつけられないだろう……あの破滅の聖女でさえ、クレアにひれ伏すのかもしれないわね。
「イクミ様? また何か良からぬことを、お考えになりましたか?」
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