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学園編

154 お嬢様、ちゃんと見てくれました?

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「わからないのよ。でも、皆は一人でも生きていけるほどの実力を持っている。それなのに私に付き合う理由がわからないのよ」

「お忘れなのですか? お嬢様が、皆の前で頭をお下げになられたことを」

「ルキア達の時の話よね」

「はい。お嬢様はその時に皆の思いを受け取ったのではなかったのですか?」

 ルキア達を助けるためと言うだけで、必要としていた奴隷を買わず、苦労をさせてまで集めたお金を、バナンの制止も聞かず使ってしまった。

 だから、私は、皆に約束をした。

 離れたいものがいれば奴隷紋を開放すると……だけど、誰も解放を望むことはなかった。
 それでも、昔と今とでは状況も変わってくる。
 誰も私に対して反抗的な態度はなく、冗談を言って笑ったり、メイドたちも私に仕えるのが楽しそうにしている。

「今はあの言葉を、お嬢様は信頼されていないのですか?」

 ルビーの言葉に声を詰まらせてしまう。
 はっきり違うと言い返せないのは、私が皆に対して不安をいだいているから?
 皆の思いを受け止められる自信がないから?

「正直に言えば、どう答えれば良いのか思いつかない。私は皆が必要だし、だけど……それで本当に良いのかが不安なのよ。私は皆が思ってくれているほど、立派な人間でもない。クレアのように、立派なご令嬢でもないし、メルのような知識も持っていない」

 私がしていることは安全な場所を用意され、皆の言葉ではない報告書を眺めているだけに過ぎない。
 今まではその報告書を見て、何気に思いついたことをしてきただけに過ぎない。

 それが皆に向き合っていると、私は錯覚をしていた。皆一人一人の色んな思いがあるはず。
 孤児の子供のように、夢を語る子供たち。私その背中を押すが……ここに居た奴隷の子供たちに私は何をしたと言うの?

 何もかもが行き当たりで、無計画そのものに感じられる。

「お嬢様はご自身を過小評価しすぎですよ」

「そうですよ。私達がどれだけいい生活をしているか、お嬢様は全然分かっていないんですね」

「他の冒険部隊の方々も同じですよ。今の生活をより良いものに、お嬢様だけではなく私達奴隷もいい生活をさせようと、今日まで頑張られていたではありませんか?」

「そうそう、そんな小さなお体で夜遅くまで、私達のことを考えてくれるのに、私達がお嬢様のお役に立てないでどうするんですか?」

 メイド達がルキアに連れられやってきていた。
 ルビーの指示なんだろうけど……そんなふうに言われると、何も言い返すことなんて出来ない。
 メイド達に連れられ、執務室へと戻る。
 他のメイドたちも待機していて、一人ずつ私に対して思いをぶつけてくる。

 ああ、そうか……私は、自分のやってきたことを認めて欲しかっただけなのかもしれない。
 間違っていないと、そう、言って欲しかったのかもしれない。

 だけど、私は何の力もない。皆がいるから、私のやりたいことが出来ている。
 不安になっていたんだ、皆が居なくなることに……あの草原を見た時に感じた虚無感は、多分これなんだと思う。

 皆は、こんな私を受け入れてくれる。こんな私を必要だと言ってくれた。
 それが今は嬉しかった。

「星海祭を真似て、私も奴隷たちの意見を受け入れるために、皆の意見を聞こうと思うのだけど。皆はどう思う?」

 私の言葉に、皆からは嬉しそうに声を上げている。
 翌日、まずはお試しに屋敷に残っている人たちからの意見を集めた。

「お嬢様……立ち直って頂いたのは良いのですが。こちらには目を通されないほうがよろしいかと思われます」

「そうも言っていられないでしょ。どれどれ……」

 最初こそ、何の冗談なのかと見ていたが……ルビーの反応からして、どうやらここに書かれていることは本気のようだった。

 私はただ、不満なところや、生活をしていく上での改善点などを期待していたのだが……書かれているものの大半は、自身の欲望が剥き出しになっているものばかり。

「なでなでしたい、だっこしたい、一緒にお風呂に入りたい、添い寝希望……これを書いたのが、全部トパーズなんじゃないかと思えてきたわ」

「トパーズのものはこちらになりますが、ご覧になりますか?」

 名前は書かないように言っていたから、名前は何処にも書いてはいなかった。ただ内容からしてトパーズなのかと疑心暗鬼になったりしていたけど……やっぱり、トパーズは別次元に頭がおかしいわね。

「間違いなくトパーズだけ確定だと思えるわね。よくもまあこれだけ書き連ねたものね……後これなんですが、ルビーも大概だよ?」

「私のだと断定するのは如何なものかと」

 だって、用意しているドレスを週に一度は着ること、着ないのなら普段着を捨てます。就寝は午後十時までに、起床は六時。ダンスのレッスンを月に一度。食事の量を増やすこと。ご自身で行わずもっと使用人を使うこと。

 こんな事を言うのはルビーぐらいなものよ?

「ああ、それは、トワロですね」

 そうか、トワロか……これは相当溜まっているわね。
 ぜ、善処します。
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