上 下
139 / 222
学園編

139 お嬢様は誘拐される?

しおりを挟む
「おおー。なかなかにいい街ね」

「お嬢様、あまりそのようにはしゃぎ回らないようにしてくださいね」

「誰がお上りさんよ。私は王都にいたのだからね」

 ルビーからはため息をつかれ、クロはケラケラと笑っていた。
 とはいえ、プルートの街に比べても行き交う人も数も多く、見慣れないものが立ち並ぶ屋台ははそれだけでも興味が出てくる。
 貴族たちからすれば、全く興味すら示さない装飾品もできるだけ綺麗になるように施されている。衛生面なんて度外視の、ただ焼いただけのような肉も少しは興味がある。

「お嬢様。お一人で先に行こうとしないでください」

「いやいやいや、ワターシ、ミテタダケ」

「なんですかそれは……」

 ふー、危ない危ない。好奇心とは幾つになっても逆らえないものね。
 ルビーに手を引かれ、先に宿へと向かう。それでも自然と右を見たり左を見たりする分には何の問題もない。
 だけど……この状態ってどう考えても子供にしか……?

「それじゃ私は、馬車の見張りをしてます」

「クロ。頼んだぞ」

 それなりに高い宿であれば、金品などが奪われる可能性は低い。だけど、あの馬車の存在はメルが言うには頭がおかしい代物とまで言われる。
 悪い言い方ではないのだけど、それだけ高価という意味なんでしょうね。

「それではお嬢様、少しだけ散策へと参りましょうか」

「手は繋がなくても大丈夫よ。私を誰だと思っているのよ」

 威張るようなものではないのだけど……流石にあのまま歩き続けるのは恥ずかしい。
 ルビーとルキアがいれば、そもそも迷子になんてなることはない。

「と、思っていたのだけどね……あの二人でも、私を探すのは難しいのかしらね?」

 遠目で見るよりも、中へと入るとかなり人が多く、小さな私はスルスルと動き回れるが……二人にはそうはいかない。何より私が小さいから、一度目を離すと発見も難しくなる。
 そして……後悔しているのが、後で絶対に叱られることだった。
 これは、二時間は行くかもしれないわね……今から思っただけでも気が滅入ってくるよ。

「それはそうと、少し喉が渇いたわね……」

 ええっとー、つまりー、一文無し?
 服を叩いても、ジャンプしても全くの無意味でしかない。

 ルビーがいるときは、そもそも私がお金を持つことはない。トパーズからはある程度使っていいと渡されもするが、そのお金ルビーが持っている。

 この歳で迷子とかないわね……お金がないから何も出来ないし。
 いや、待てよ。宿に戻ればクロがいたわね。

「宿に戻れば……宿に戻ればいい」

 屋台から離れると、人通りは少なくなる。
 その分危険な可能性もあるのだろうけど……あの人混みよりもルキアが私を見つける可能性も高くなる。

 ただ、問題なのは……この町ってかなり入り組んでいるのね。現状において、一番やばいのは誰かに捕まるってことよね。
 下手をすれば死ぬ。

「早い所、ルビー達と合流しないとね」

 なんて思っていると、前方からフードを深く被った人が猛ダッシュでこちらへと走ってきている。
 い、いや……気のせいよね?
 あれはきっと急いでいるだけなのよね?

「あっ……あぁ」

 フードを被った人は私の前で立ち止まり、脇を捕まれ高々に持ち上げられる。
 声を上げることも出来ないでいた。
 これはまずいわね。こんなことなら、あの場所に居たほうがまだ……

「お姉さま!」

「は?」

 いやいや、私を誰と勘違いしていると言うの?
 どう見ても私よりも背丈は高いのに、私を姉だと勘違いする意味がわからない。

「会いたかったです。お姉さま」

 そう言われて抱きしめられるものの、私には全くの初対面だよね!?
 とはいえ、余計なことを言って豹変されても私の状態からしてまずい。
 ここはこの人に合わせるべきなの?

「お一人でどうされたのですか? もしかして道に迷われたのですか?」

 くっ、フードだけでなく、顔には黒い布が巻かれていて、目しか見ることが出来ない。
 私は二回頷き、肯定を促す。
 目だけしか見えないが、笑ったかのように目を閉じている。
 そして、首に手を置くように言われ左腕に腰掛け右手は落ちないようにと、体を支えてくれる。

 不思議なほど、慣れた手付きね。それにして、女性みたいだけど……小さいとは言え重くはないのかしら?
 なんて考えるが、私の頭の中では片手で父親を投げ飛ばすという前例のようなこともあり、そういう人もいるかと妙に納得してしまう。
 私を姉だと勘違いするのなら、この人のお姉さんも私と同じ色違いだったのかしら?

「私は少し用事があるので、先にそちらへと向かってもいいですか?」

 頷くと、しっかりと捕まるように言われ、さっきのように走り始めていくのだが……あ、これ、ヤバイやつ。

「お姉さま、ごめんなさい。少しここで休んでいてください」

 な、なんとか持ちこたえたわ。
 さすがに顔にリバースしようものなら……私の命がその瞬間に消えていたかもしれないわね。
 かなり古ぼけた家のようだけど。小さい割には洗濯物が多い……町からも少し離れているわね。少し高台にあるため、街の様子が一望できるのだが……ルキアが発見してくれるという可能性はなさそうね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別離宣言!屑野郎と婚約なんて御免です。お義姉様は私が守る!

ユウ
恋愛
侯爵家には正反対の姉妹がいた。 気真面目で優秀な姉と活発で愛想の良い妹。 二人は何もかも正反対だった。 姉のコーデリアは侯爵家の血筋を引き継ぐ本物のお姫様で、妹のリリーは平民である母を持つ。 二人の関係は水と油で、世間ではコーデリアがリリーを苛めていると噂をし、婚約者もコーデリアとの婚約を破棄し、リリーとの婚約を望んだ。 そしてパーティーにて。 「コーデリア、君のような悪女とは婚約できない!この場で婚約破棄をする!」 王族や隣国の貴賓が参加する場でとんでもない事を告げてしまったが、これは仕組まれた事だった。 コーデリアを疎む父に侯爵家を乗っ取ろうとする義母と優秀なコーデリアを妬む婚約者のリーンハルトが仕組んだ事だった。 しかし予想できない事態になる。 「私はリリーと婚約を結ぶ」 声高らかに告げようとしたのだが… 「お断りしますわ!こんなストーキングでナルシスト男なんて願い下げです!」 大勢の前で姉の婚約者を罵倒し挙句の果ては両親を糾弾して姉の手を取り国を出てしまう。 残された両親と婚約者は唖然と立ち尽くすのだが、事態はそれだけ収まらなかった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

臥したる龍の獲物とは

airria
恋愛
徐々に 歪に 絡め取られていくー 西の大国、宗。 国の中枢、昴羽宮に務める織部は、女官ながら、式典を取り仕切る太后の直属の部下、典礼司代を務めていた。 6年ぶりの皇太子の帰還を知り、織部は不安を募らせる。 「帰ってくる・・あの方が」 胸に抱えた秘密が疼き出す。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

処理中です...