上 下
75 / 222
学園編

75 お嬢様とルキアの嫉妬

しおりを挟む
 いつの間にか私の以前してきた色んな約束事を、逐一と責められていた。
 私には幾つもの約束をさせられてきたが、どれもが大した内容でもないため結構破ってきたことは数しれず。

「ルビー。今はそんな話をしている場合じゃないのだけど」 

 ルビーは大きなため息をつき、紅茶を入れ直していた。
 でも、いろいろと言われたが、少しは私も落ち着くことが出来た。

「それで、その御方はどこの家のどなたでございますか?」

「ええっと……その、多分、公爵家の……」

「はぁ、またですか? グセナーレ家次期当主としてのご自覚をそろそろ意識してください」

 またしても大きなため息を付かれ、何時ものように手を額に当てていた。
 私に呆れた時は毎回そうしているので私もいい加減見慣れていた。
 それだけ苦労をかけてきたということ? 

「今度は大丈夫だよ。すこし待ってね……確か、最初に『ソ』から始まって……」

「ソですか? それはお名前の最初ですか?」

「レ? いや、ズだった……かしら?」

 ルビーは頭を抑え、私の人の名前の覚えの悪さに苛立ちを感じているようにも見える。
 私が悪いわけじゃないと思うのだけど……この世界の人の名前覚えづらいしね。
 なんてことを口にしようものなら、ルビーから何を言われることか……

「それはともかくとしてね」

「ともかくではありません。お嬢様のことが知られたと言うだけで、何か対策が必要だとは思わないのですか?」

「私のことを知られたのは色々とまずいような気がするけど……対策の立てようがないのよ」

 ルビーの仮定が正しいとして、私に接近してボロを出している以上向こうには確証がある。だとして、メリットは何かしら?
 相手は多分公爵家、お金に困ることはないだろう。だとしたら、日本での知識?

 オセロや将棋を、私が発案したことを想定したのなら他の物を作るつもり?
 私にはそれほどの知識もないし……

「とりあえず、二、三日、学園を休むわ」

「は?」

「数日も経てば、有耶無耶にできるかもしれないでしょ?」

「あまりにも浅はかではないでしょうか?」

「私は周りからは、避けられているようだし、数日居なくても大丈夫なんじゃないのかしら?」

「避けられている? お嬢様がですか?」

 ルビーの顔色が変わっている。
 私ではなく誰かに対して、怒りを顕にしていた。

 つい余計なことを漏らしてしまった。
 学園での生活は、誰も話をしていないから今の現状を知っているわけではない。
 
「避けられているて言っても、私みたいなのが、貴族達のご子息ご令嬢と仲良くできると思う?」

「お嬢様であれば、むしろ、彼等達が膝を付き頭を垂れるのが当たり前かと」

 私は一体何様なのよ……ここのいる人達を基準だと、私の常識らしきものは通用しない。
 どんなことだろうと、全てが私を優先であり、まるで崇拝していると言っても過言ではない。

「とりあえず、少し頭を休ませたいから、横になってもいい?」

「冷静さを取り戻すのも良いかもしれません」

 それにしても、私は何時になったら一人で着替えというものができるのだろう?
 こんな事をしているから一向に身長が伸びないとかないよね?

 彼女は何故私にあやとりを見せ、日本人という言葉を使ったのだろうか?
 最初から私のことを知っているかのような?

 これまでの学園生活から考えて、彼女との接点は一度しか無かった。この世界は魔法という不可思議なものがある。そのため、私のことを何らかの手段を用いて調べたということ?
 こんな事ばかり考えていたら、落ち着いて寝ても居られない……

 テラスの窓を開け置かれている椅子に座る。
 屋根に居たのだろうか、ルキアがテラスへ通りてきた。

「お休みになられたのではないのですか?」

「なかなか寝付けなくてね……街でも眺めようと思っただけよ」

「そうですか。日があるとは言え、外は危険ですので少しお待ち下さい」

 ルキアは、テラスの端へと行き手振りをして何かのサインを送っていた。
 辺りを見渡し、私の後ろに立つ。

「警護が整いました。どうぞ、お寛ぎください」

 なるほど、そういうことね。
 ただ屋根の上に居たわけじゃないのだろうけど……そこまでする必要が私にはあるの?

「ルキアもここに座って。少し話をしない?」

「はい」

 私が街を眺めると言ったからか、テーブルから少しだけ離れた所へと椅子をずらして座る。
 最初からルキアが居ると思っていなかったから、ただそう言っただけなんだけど……まあいいか。

「ずっと屋根で見張っていたの?」

「イクミ殿が帰られてからはそうですね。私はイクミ殿の護衛ですから」

「辛かったり、面倒だとは思わないの?」

「そういう事は考えたことはありませんが……」

「何か気になることでも?」

 ルキアにしては少し歯切れが悪い。クロとは違い、淡々と話す彼女にしてはこれはかなり珍しいことだった。
 何か気になることがあるのであれば、早めに対処をしておくべきじゃないだろうか?

「いえ、個人的な私情ですので、余計な事を言いました」

「話してよ。ルキアはいつもよくやってくれている。だけど、何か思っていることがあれば、話してくれないと私は分からないわ」

「ですが……」

 ルキアの手を取ると、振り払うことはなかったけど、椅子から降りて膝をついていた。
 誰もそんな事をしろと言ってないから……

「貴方が今思っていることを話して」

「わ、分かりました」

「そんな事をしなくていいから、ほら、座って。ね?」

 ルキアは申し訳無さそうに、椅子へと座り私の手を握り返してくれた。

「それで? どうしたと言うの?」

「実は……」

「実は?」

「わ、私もダンジョンの探索に行きたいと……思う所存にございます」

 は? ダンジョン?
 ルキアは私の護衛だよね?
 まあ、もう一人の護衛はそんな事も忘れて、バナンと一緒に向かっているけど……
 まさかルキアも行きたかったとは思わなかったよ。

「でも何でルキアが? ダンジョンに興味があるの?」

「別に興味はありませんが……クロが少し羨ましくてですね……」

 クロが羨ましい?
 でもそれって、ダンジョンに行きたいってだけじゃないの?

「ごめん、ちょっとよく分からないの。ダンジョンには興味ないけど、そのダンジョンに行っているクロが羨ましい?」

「そうです。先日、イクミ殿はクロの評価を大変喜ばれていた。その一方、私はただイクミ殿をお見送りするだけで……成果と呼べる何かを得ているとは言えません」

 つまり、護衛をそっちのけでダンジョンへと行ったにも拘らず、私はクロだけを評価したことにヤキモキしているということ?
 確かにあまり褒められるような話ではなかったとは思うけど……

「ごめんね、ルキア。そうよね、評価されないのは辛いよね」

「いえ……そのお気持ちだけで」

 私はルキアに抱きつき、ルキアもしっかりと受け止めてくれた。

「ありがとう、ルキア。貴方がそばにいてくれるから、私は安心できるわ」

「イクミ殿。私の方こそありがとうございます」

 ルキアだけではない。これまでも多くの奴隷たちは、私が直接お礼を言っただけですごく嬉しそうにしていた。
 それなのに、私は学園が始まり奴隷たちを蔑ろにしているのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

別離宣言!屑野郎と婚約なんて御免です。お義姉様は私が守る!

ユウ
恋愛
侯爵家には正反対の姉妹がいた。 気真面目で優秀な姉と活発で愛想の良い妹。 二人は何もかも正反対だった。 姉のコーデリアは侯爵家の血筋を引き継ぐ本物のお姫様で、妹のリリーは平民である母を持つ。 二人の関係は水と油で、世間ではコーデリアがリリーを苛めていると噂をし、婚約者もコーデリアとの婚約を破棄し、リリーとの婚約を望んだ。 そしてパーティーにて。 「コーデリア、君のような悪女とは婚約できない!この場で婚約破棄をする!」 王族や隣国の貴賓が参加する場でとんでもない事を告げてしまったが、これは仕組まれた事だった。 コーデリアを疎む父に侯爵家を乗っ取ろうとする義母と優秀なコーデリアを妬む婚約者のリーンハルトが仕組んだ事だった。 しかし予想できない事態になる。 「私はリリーと婚約を結ぶ」 声高らかに告げようとしたのだが… 「お断りしますわ!こんなストーキングでナルシスト男なんて願い下げです!」 大勢の前で姉の婚約者を罵倒し挙句の果ては両親を糾弾して姉の手を取り国を出てしまう。 残された両親と婚約者は唖然と立ち尽くすのだが、事態はそれだけ収まらなかった。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。

木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルティリアは、婚約者からある日突然婚約破棄を告げられた。 彼はアルティリアが上から目線だと批判して、自らの妻として相応しくないと判断したのだ。 それに対して不満を述べたアルティリアだったが、婚約者の意思は固かった。こうして彼女は、理不尽に婚約を破棄されてしまったのである。 そのことに関して、アルティリアは実の父親から責められることになった。 公にはなっていないが、彼女は妾の子であり、家での扱いも悪かったのだ。 そのような環境で父親から責められたアルティリアの我慢は限界であった。伯爵家に必要ない。そう言われたアルティリアは父親に告げた。 「私は私で勝手に生きていきますから、どうぞご自由にお捨てになってください。私はそれで構いません」 こうしてアルティリアは、新たなる人生を送ることになった。 彼女は伯爵家のしがらみから解放されて、自由な人生を送ることになったのである。 同時に彼女を虐げていた者達は、その報いを受けることになった。彼らはアルティリアだけではなく様々な人から恨みを買っており、その立場というものは盤石なものではなかったのだ。

【完結】胃袋を掴んだら溺愛されました

成実
恋愛
前世の記憶を思い出し、お菓子が食べたいと自分のために作っていた伯爵令嬢。  天候の関係で国に、収める税を領地民のために肩代わりした伯爵家、そうしたら、弟の学費がなくなりました。  学費を稼ぐためにお菓子の販売始めた私に、私が作ったお菓子が大好き過ぎてお菓子に恋した公爵令息が、作ったのが私とバレては溺愛されました。

余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~

藤森フクロウ
ファンタジー
 相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。  悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。  そこには土下座する幼女女神がいた。 『ごめんなさあああい!!!』  最初っからギャン泣きクライマックス。  社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。  真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……  そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?    ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!   第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。  ♦お知らせ♦  余りモノ異世界人の自由生活、コミックス3巻が発売しました!  漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。  よかったらお手に取っていただければ幸いです。    書籍のイラストは万冬しま先生が担当してくださっています。  7巻は6月17日に発送です。地域によって異なりますが、早ければ当日夕方、遅くても2~3日後に書店にお届けになるかと思います。  今回は夏休み帰郷編、ちょっとバトル入りです。  コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。  漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。  ※基本予約投稿が多いです。  たまに失敗してトチ狂ったことになっています。  原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。  現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。  

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

臥したる龍の獲物とは

airria
恋愛
徐々に 歪に 絡め取られていくー 西の大国、宗。 国の中枢、昴羽宮に務める織部は、女官ながら、式典を取り仕切る太后の直属の部下、典礼司代を務めていた。 6年ぶりの皇太子の帰還を知り、織部は不安を募らせる。 「帰ってくる・・あの方が」 胸に抱えた秘密が疼き出す。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

処理中です...