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学園編

61 お嬢様は王都へ到着する?

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「ルビー、色々と聞きたいのだけど……これは何なのかしら?」

 長い時間をかけ、ようやく辿り着いた王都。かと思えば、私は馬車から降ろされると、クロとルキアに両手をガッチリと掴まれ街に中へと連れ出される。
 真っ先に向かったのは、あまりいい思い出のない服屋。ただの服屋ではなくドレス専門のブティックという言葉がよく似合っていると思う。 

 店員からは、少し距離を置かれる態度を取られてはいたけど。
 獣人とエルフがわざわざ、子供に見えなくもない私のためにドレスを新調するというのだから無理もないのだろうね。

 幾つかの着せ替えをすませると、また別の似たような店にへと駆り出される。
 二人は終始楽しそうにしていたが、私はすでに二軒目を終えた辺りで意気消沈。
 物言わぬ人形のごとく、二人に対しなすすべがない私はその成り行きに身を任せること、約五時間。

 私が疲れたとかではなく、ただ単に、夕暮れになったからという理由でようやく開放された。

 疲れ切っていたそんな私に追い打ちをかけるがごとく、ルビーが門の前で待っていた。
 鉄格子の門の向こう側に見える建物は、屋敷は以前住んでいた物も、三階から四階にグレードアップしている。

 階数が増えただけでなく、屋敷全体の大きさが横に二倍ほど大きいように見える。
 最近屋敷を見ていない事で、そう感じるのだと思うことにした。

 鉄格子が開かれるが、ガシャンと音を立てる鉄格子ですら物々しさすら感じるほどだった。
 見上げる塀の高さははるか遠く、その壁は私が三人ぐらい寝そべっても足りないほど分厚い。
 ここは何から身を守るつもりなのかしらね……

「あちらが、今日からお嬢様がお住いになるお屋敷にございます」

「寮もあるって聞いたよ? 学園というのだから私はてっきり、寮生活と思っていたのだけど……」

「私は存じ上げておりません。どうぞ中へ」

 学園の話はルビーから聞いたよ? 多くの学生は寮で生活してるって言ってたよね?
 私ってなんで隠し事ばかりそれているの? それとも、私を驚かせて喜んでいたりするの?

 開かれた格子から、使用人が玄関まで続く道の両端に立ち私を出迎えている。
 左の庭は広く開かれていて、右の庭には色とりどりの花が咲き揃い、手入れも行き届いている。
 屋敷、庭、花壇。そして、屋敷を囲む壁さえも、以前の屋敷とは違い真新しさを感じるのはなぜだろう……

「ちなみにこの屋敷は……借りたの?」

「この屋敷、全てお嬢様のものですが?」

 私の聞き方がおかしかったのかな?
 だけど、ルビーがこの手の話に冗談を言うわけがない。それでも、私は冗談だと思いたいよ。
 幾つか気にはなるところもあるけど。

 王都までの道のりを、なぜ遠回りをしたか。
 必要以上に魔物を倒し、大量の素材を馬車に詰めて、素材を各地で売りさばき。
 この王都来て、私はすぐに皆から引き剥がされ、何時間も拘束されていたのかをようやく理解することが出来た。

 しかし、それをとやかく言っても、どうせ皆はまた同じようなことを言うだろう。
 私は、感謝を胸に秘めつつ敷地内へと一歩進む。

「「お帰りなさいませお嬢様」」

 統制の取れたメイドたちの自然な挨拶に、もはや乾いた笑いすら出ない。
 見知った顔と、名札を側に付けている人は私が見覚えのない人たちだった。

 名札を付けてくれているけど、私の奴隷たちじゃない人達も混ざっているのかしら、何がどうなっているのだか……
 玄関前には執事服を着た、白髪頭に白い髭のご年配の姿があった。

「お初にお目にかかります。私めは執事を任されましたトワロと申します」

「うん、よろしくおねがいします」

 これぞ紳士という鏡というべきか、一つ一つの動作が少し目を奪われる。

「トワロさん? じゃあ、屋敷の中を案内してもらえるかしら?」

「ふむ……かしこまりました。それでは一階からご案内致します」

「トワロ。訂正を……」

 ルビーがそう言うと、トワロは再度頭を深く下げていた。

「イクミお嬢様。私は執事でございます。そのような敬称は不要にございます」

「どういうこと?」

「ルビー様がご心配されることが良くわかりました」

 ルビーだってただの侍女なんだけど。敬称つけているし、何がダメなの?
 トワロが言っている意味がよく分からない。

「イクミお嬢様。貴方様はいずれグレナーレ家の当主になられるお方。使用人対し先程のように敬称を付ける必要はございません。よろしいですかな?」

「トワロ……はさっきルビーに対して様をつけたよね? それと何が違うのかしら? 私はただ初めて話す人だったからそうしただけのことよ? それに、次期当主だとしても、私は別に貴族じゃないみたいだし細かく気にし過ぎよ」

「イクミお嬢様。仰るとおり、グセナーレ家は貴族にございません。ですが、イクミお嬢様には貴族としての教養が求められます。それに、ルビー様はイクミお嬢様専属の侍女でございます。我々使用人にも立場がございます」

「そういうものなの?」

 それにしても、おかしな話よね。貴族でないのに貴族としての教養が求められる?
 そういうことね。貴族の多い学園に通う私には、言動から振る舞いまで、貴族でなかろうとも強要されるというわけね。

「いかがさなれましたかな?」

 トワロの真剣な眼差しに気圧されて頷くしかなかった。
 帰りたい……帰れるものなら今すぐにでも。

「それでは、屋敷の中へどうぞ」

 トワロが隣にずれ、その大きな取っ手に触れる。

「イクミお嬢様。そのお手はどうされるおつもりですかな?」

「え? ドアを開けるのだけど?」

「なるほど、かしこまりました」

「二人だけ分かる話をしていないで早く中にはいるよ」

 扉を開け中へと入る私の姿に、ルビーはうつむき、トワロは手を額に当てていた。
 あれか、私の振る舞いがよく言われる淑女らしからぬというやつですか?

「これはこれは……」

「お恥ずかしい限りです」
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