上 下
43 / 222
奴隷商人編

43 お嬢様の協力者

しおりを挟む
「全て埋まりましたので、勝敗は色の数が多いほうが勝ちとなります。いかがでしたか?」

「これは、確かに……奥の深いものがあるようにも思えます。ですがやってて思ったのですが色を変えるのが少々面倒ですな」

 一枚変える程度ならそれほどでもないだろうけど、何枚も変えることになればかなり手間もかかってくるよね。

「先程も言いましたが、これは色がなかったので代用です。硬貨を重ねて、両面の色が違う木でできた丸い板だったらどうでしょう?」

 硬貨を二種類合わせ持ち何度か、手を反し何度か見せてみた。
 このヒントに気づいてくれるといいのだけど……

「なるほど、そういうことでしたか。交換するのではなくひっくり返すだけで色を変えるのなら、板の数もマス目分だけあればいいのですね」

「ルビーさん大正解。試しに簡単なものでいいから作れないかしら? 私から提案なんだけど、硬貨を使ったのは同じように丸い板で作って頂き、色は白と黒で。盤はマス目は細いくぼみに黒い線で作って欲しいの。どうでしょうか?」

「やってみましょう。出来上がりましたらお届けに行きます。それでそちらの文様は一体?」

「こちらはですね……」

 将棋の方はルールの説明が難しいので、盤と駒の作成を依頼した。
 自分が楽しむようだし物さえあればそれで十分だった。

「それでお支払いなのですが、角銀貨二十枚でどうにかなりませんか?」

「い、いやそれは流石に……」

「そうですか、ルビー。五十枚使ってもいい?」

「かしこまりました」

「ちょっと待って下さい。これですと、小銀貨八枚でも十分すぎます」

「でしたら、これからも色々とお願いをするかもしれませんので、投資も兼ねて三十枚でお願いします。こちらを二つずつ作ってください」

「わかりました。出来上がり次第、お屋敷の方に届けさせていただきます」

「よろしくお願いします」


 それから二日ほどが経った朝に、オセロと将棋の試作品を持ってラドレンさんがやってきた。
 出来栄えは思っていたものよりもかなり綺麗に仕上がっていた。
 オセロ版を眺めていた私に、ラドレンさんからオセロの再戦を申し込まれ。

 奴隷達に見守られつつもなんとか勝利することができた。
 なにこれ、二日前の話だよ? なんでこんなに考えて打っているのよ。
 それとも私ってこんなにオセロ弱いの?

「流石でございますグセナーレお嬢様。完敗です、丸一日娘とやっていた程度じゃ到底敵いそうにもありませんな」

「楽しんで頂いているようで何よりです」

 丸一日やっていたの? これをずっと?
 冗談で言っているのよね……本当だったら何も言えないわよ?
 私なら一時間経ったところで辞めているよ。

「さっきから気になっていたのだけど、なんで女将さんがいるの?」

「不躾で申し訳ないのですが、この商品を私の宿で使わせていただければとお願いに上がりました」

「オセロを? 別に私の許可なんていらないとは思うけど?」

「そういうわけには参りません。お嬢様には何度もお世話になっているだけでなく、このような頼みをすること自体本来は……」

「女将さんには奴隷たちがお世話になっているからね。許可とかそんなこと気にする必要はないよ。でもオセロを宿屋に……そうだ。いい方法があるよ」

 昔、喫茶店で流行っていたゲームがあった。
 いい年をした大人が、テーブルに百円玉を積み遊んでいたあれを私は思い出した。

 この娯楽のない世界だと、あの時のような結果が生まれるのかもしれない。
 それの派生とも言えるものも現代に根付いている。十分いい結果が生まれること間違いないかもしれない。

「料理を注文してくれたお客さんに、オセロを貸し出すの。時間は一時間とかにして、料理ができるまで時間もかかるだろうから、その時間を潰すのにも使える。時間制限を設けることで回転も維持できると思うの」

「さすがはお嬢様です。ラドレン、アンタ私のところに早く作りな」

 女将さんとは裏腹に、ラドレンさんの顔色はどこか思わしくない表情をしていた。

「この商品ですが、幾つかの問題があります」

「面白くないとか、流行らないとか? 作るのに手間がかかって思っている以上に高いのかしら?」

「全て逆です。単純だから覚えやすく、負ければもう一度と勝負したくなる。人数さえいれば一日何個作れるか……」

「それなら何が問題なんだい?」

「姉貴、昨日のことを思い出してくれ。結局、俺達は何時間やった? 作りも簡単、説明にも手間がかからねぇ。簡単に模造品も作れる」

 模造品って言われたら、今あるこれもそうなんですけどね。
 というよりも、ねぇ何時間やっていたの?
 昨日ってことは、私が行ったその日に出来上がっていない?

 もしかして、その日もやっていたりするの?
 それはいいとして、私が作ったものじゃないし、暇をつぶすための道具だから権利とかどうでもいいのだけど。
 オーダーメイドだから高いとして、一般的に流れるとしたら、銅貨?
 あの家具の価格からしたら、銀貨でも一枚の価値もない気がする。

「別に私は気にしないよ? 何だったら、女将さんの所で売れば?」

「お嬢様。いくら何でもそれではお二方ご迷惑になります。それにお二人のご様子からして、プルートよりも大きな街と、同程度のお金を生み出す可能性すらあります」

「私にはよく分からないけど、皆が楽しめるのならそれでいいんじゃないの? 販売の権利とか、利益とか本来であれば私の物じゃないんだし」

「それはどういうことで……」

 余計なことまで喋りすぎたかも。
 二人はよく分かっていないみたいだし、ルビーは私の失言に怒りに満ちた目つきを向けてくる。
 やばい、後で説教かもしれない……

「とにかく! ラドレンさんはオセロを作って、女将さんの所で宣伝と販売。私が作ったことは秘匿にすること、見返りとして私の奴隷たちにはいつでもご飯を提供してあげて」

「それでは……いえ、かしこまりました」

「あ、姉貴。本当にいいんですかい?」

「今後、私達が必要であれば、いつでもお申し付けください。どのようなことでも従います」

「うん。その時があれば気軽に言うね」

 二人が帰り、私は出来上がったばかりの将棋を並べていく。
 問題は私しか知らないこのゲームを、誰に教えて対戦するかという課題がある。

「ルールはちゃんと覚えてる。駒の出来も十分だし。まあ、一人将棋でもして忘れていた感覚をまず取り戻すとしますか」

 それから二時間ほど将棋で遊びつつ、バナンやトパーズの報告を聞き流していた。
 一人遊びでも十分楽しさはある。
 とはいえ、やっぱり対戦だから人と打ちたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界転生はうっかり神様のせい⁈

りょく
ファンタジー
引きこもりニート。享年30。 趣味は漫画とゲーム。 なにかと不幸体質。 スイーツ大好き。 なオタク女。 実は予定よりの早死は神様の所為であるようで… そんな訳あり人生を歩んだ人間の先は 異世界⁈ 魔法、魔物、妖精もふもふ何でもありな世界 中々なお家の次女に生まれたようです。 家族に愛され、見守られながら エアリア、異世界人生楽しみます‼︎

転生前のチュートリアルで異世界最強になりました。 準備し過ぎて第二の人生はイージーモードです!

小川悟
ファンタジー
いじめやパワハラなどの理不尽な人生から、現実逃避するように寝る間を惜しんでゲーム三昧に明け暮れた33歳の男がある日死んでしまう。 しかし異世界転生の候補に選ばれたが、チートはくれないと転生の案内女性に言われる。 チートの代わりに異世界転生の為の研修施設で3ヶ月の研修が受けられるという。 研修施設はスキルの取得が比較的簡単に取得できると言われるが、3ヶ月という短期間で何が出来るのか……。 ボーナススキルで鑑定とアイテムボックスを貰い、適性の設定を始めると時間がないと、研修施設に放り込まれてしまう。 新たな人生を生き残るため、3ヶ月必死に研修施設で訓練に明け暮れる。 しかし3ヶ月を過ぎても、1年が過ぎても、10年過ぎても転生されない。 もしかしてゲームやりすぎで死んだ為の無間地獄かもと不安になりながらも、必死に訓練に励んでいた。 実は案内女性の手違いで、転生手続きがされていないとは思いもしなかった。 結局、研修が15年過ぎた頃、不意に転生の案内が来る。 すでにエンシェントドラゴンを倒すほどのチート野郎になっていた男は、異世界を普通に楽しむことに全力を尽くす。 主人公は優柔不断で出て来るキャラは問題児が多いです。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

処理中です...