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奴隷商人編

37 お嬢様の懺悔

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 ルビーや、バナン達は今日の私に不満に思っているだろう。
 屋敷の人員補充をするために、危険な旅路をしてここまで来た。
 それを私の勝手な判断で、今の所なんの役にも立たず、私の勝手な我儘で大切なお金を無駄にした。

 キャンプまで戻ると、私は全員をここに集めるように指示を出した。
 エルフ達は腰に縄を付け近くに木にくくりつけている。首輪があっても、奴隷紋がないため勝手な行動をされても返って邪魔になる。

「偵察部隊も含め全員揃いました」

「そう……ですか」

 奴隷達はエルフを見るなり何かヒソヒソと話をする者や、浮かない様子をしたりと皆何かしら思う所があるのだろう。
 私は膝を付き、手を地面に付き、頭も地面につけた。

「お嬢」

「お嬢様」

「触らないで」

 ルビーの手を振り払い私は土下座を続けた。すると、奴隷達の何人もの人がやめてくれと声を出していた。
 今日の私の行動に納得をしない奴隷は必ず居る。

「皆、本当にごめんなさい。集めてくれたお金を私の勝手な都合で使ってしまい、申し訳ない」

「お嬢様、どうかお立ちになってください」

「うるさい。黙って聞いて欲しい。私はあの子達を元いた場所に返したい。皆も言いたいことは山ほど出るだろう。それでも私は、見ていられなかったんだ」

 エルフという種族が居るのは勉強をしていたので知っている。
 そんなエルフ達は、元々森に住み人間たちと交流している者はいない。
 ならなぜ、この奴隷市場にいたのかを、バナンが私を止めたのは何らかの曰く付きだということを理解してしまった。

 答えは至極簡単なもので、金のために捕まえられたということ。

「これはただの偽善だ。奴隷をこき使い、自身が守られているにも関わらず、それに駄々をこねる。今日を持って私の奴隷を辞めたい者は名乗り出て欲しい。魔力が少ない私だけど何日掛かっても、私はそれに答える」

 一日に開放できるのは二人が限界だけど、それでも私の元から去りたいというものが居るのなら私はそれに答える義務があると思う。
 目的を果たすこともなく、私的な感情で危険を犯してまで作ってくれたお金を使い、それをドブに捨てるかのような行為に等しい。

「お嬢、様。どうか顔を上げてください。それじゃあ、俺達の話を聞けんでしょ」

「そうか、全員というわけだな。それも当然か」

 私の前には全員が並んで、ぐるりと私を囲んでいた。
 皆は困った顔をしている。

「そりゃそうでしょ。俺たちゃいつまでもお嬢様の奴隷だ」

「な……何を言っている? だって、私は……」

「お嬢。まずは俺達の話を聞いてください。お嬢の話を聞いたのだから、今度はそっちが聞く番です」

「バナン、離しなさい。私には皆に謝罪する必要が……」

 両脇を抱えられると、私の体は軽々と持ち上がりそのまま立たされた。
 奴隷達は私を取り囲むが何故か皆笑顔だった。
 何度見渡しても、誰を見ても笑顔を向けてくる。私の頭の中には何故という言葉しか浮かばなかった。

「やっぱりお嬢は軽いな」

「てめぇ、何いいところ持っていきやがる。ささ、土がついてますぜ」

「馬鹿野郎! てめぇのきたねぇ手だと帰って汚れちまうだろうが」

「お嬢様がどう思っているのかは存じませんが、私達は皆お嬢様が好きですよ。嫌うものなどここにはおりませんよ。ですから、お嬢様はこの程度のこと、お気になさらなくてもよいのです」

「あ……」

 そう言ってカッシュは私の頭に手を置いた。
 私を嫌いことがない?

「「「カッシュ!!!」」」

「いい度胸しているなてめえは、お嬢様の頭を撫でるなんざ死にてえのか。ああん?」

「い、いや私はただお嬢様のためにと」

「野郎ども、しつ……周辺警邏の時間だ!!」

「いや、ちょっとお嬢様たす……けて」

「ほら行くぜ、カッシュ!」

 カッシュは数人に連れて行かけれたが、私はこれはどういう状況なのかが理解できていない。
 何も答えることが出来ずぽかんと小さく口を開けていた。
 私の行為は、間違っているはず。それを咎めることもなく、私から離れたいと思わない?

「お嬢様。彼らの想い、お分かりになりましたか?」

「私もですが。皆、イクミ様に救われているのです」

 クロは私の前で跪いている。
 救う? 何を持って救う?
 奴隷だった彼女が、護衛になったこと?
 だけど、皆が救われているという意味がわからない。

「私は……」

「イクミ様。この世界では奴隷に落ちた人間はもはや人ではありません。それなのにイクミ様は、私達を人として見てくれ、やりたいように生かしてくれる。奴隷でない人は当たり前に思うかもしれませんが、奴隷紋を刻まれた時点で人として終わるのです」

 どういう意味なのだろう……奴隷紋は、あの魔法には一体どんな効果があって、何を刷り込まれるのだろうか。
 私は……皆に何ができる。誰も助けてなんかいない……あのエルフだってただの我儘。

「お嬢は少し勘違いをしている。あの金はお嬢の物であってどう使おうが、買ったものをどう扱おうが、俺達は何も思わないさ。俺たちはお嬢のおかげでこれだけ楽しく暮らせているんだ。十分すぎる」

「でも、あのお金は……バナン達皆が、頑張って苦労をして作ってくれた物でしょ?」

「こんな事はあまり言いたくはないが、確かに簡単なことばかりではなかったが……だけど、だ。俺はお嬢の奴隷ではなくなったが、お嬢に尽くす忠誠を誓った。皆との仕事は十分やりごたえもある」

「お嬢様は、根本的に他の奴隷商人とはかけ離れています。奴隷を人として思いやり、物ではなく人として見てくれることに、それが私達にどれだけ救いがあるのか」

「私もです。最初はイクミ様に反感を持っておりましたが、それがどれほど愚かだったのかを痛感しました。妹の笑顔を見て、それに温かい食事を頂き、お側に仕えることを許してくれる」

「私は以前別の所で奴隷をしておりました。下働きの日々を過ごして、与えられる食事はごくわずか、気分次第で殴られました。ですがお嬢様は、私なんかが作った食事を美味しいと言ってくださいました。屋敷でも労いのお言葉を頂き、それがどれほど嬉しかったか……」

「そんなことで……」

「はい。お嬢様のそんなお言葉で私は幸せです。お嬢様にお仕えすることが出来、誇りに思っております」

「私もよろしいですか?」

 私とともに行動してくれたもう一人のメイド。初めて私が奴隷紋の印をつけたリーリアが深く頭を下げていた。
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