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奴隷商人編
24 お嬢様の奴隷紋開放
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あれだけの屈辱的なことがあったというのに、誰だって反感を買うはず。
それなのに、クロはそんなことも何も気に留めていないということ?
それとも、機会を伺っているのかしら?
「どういうことなの? あれだけのことをした私に、そんな忠誠みたいなことを平然と言うのは何故?」
「発言をよろしいでしょうか?」
発言を求めるというのに、少しだけ驚いてしまった。
奴隷達の殆どは、私に意見を言うこともなく私の下した命令だけをこなしている。
例外なのは、バナンぐらいなものだったけど……奴隷達には、なにか心境変化でもあったというのかしら?
「どうぞ、好きなだけ話していいわ」
「有難うございます。私には妹がおり、このお屋敷で一緒に暮らしております。その妹が毎日楽しく暮らしているのを見て、私の行いがどれほど愚かだったのかを痛感しておりました」
何を言っているの……妹が楽しく暮らしているのを見たから?
そんな理由で? わからない……クロの場合はバナンとは違う。
奴隷だからといって、檻に閉じ込めることもなく冒険者をしていたというだけで、冒険者稼業を任せていた。
それが結果として、本人たちの生きる希望になっていた?
けれどクロは、すぐに虐げられ、言い方を変えれば妹は人質のようなものだ。
そんな相手に対して、敬う理由すら感じられないはず。
「あの頃の私に、妹は夜になればこっそり食事を持ってきてくれ、それを咎めるものは誰もいません。お嬢様から許可は貰っているとも聞きました。それだけではありません、冒険者たちの中でも獣人である私に、偏見を持たず接してくれる日々。奴隷であるにも関わらず給金を支給され、私はそのお金で妹に髪飾りを買いました」
さっきの光景を思い出し、クロの妹の髪にはなにかの飾りがついていたことを思い出していた。
しかし、それが何だというのだ?
「妹には、皆が似合っていると笑い合い、その様子を見て私はあの頃の反感を持っていた自分を殴りたいと思うほどです。護衛の話を聞いた時、私はできることならお嬢様のお役に立ちたいと、これが私の思いです」
「そう……言いたいことは分かったわ」
クロに近寄り奴隷紋に魔力を込めていく。
「奴隷紋開放」
二回目ということあり、魔力量の少ない私には立っているのも辛く、その場にへたり込んでしまう。
「お嬢様、何をなさって」
「お嬢……」
「クロ。私が憎くありませんか? 貴方の嫌う奴隷商人なのですよ? 今の私は、立つことすら出来ないほど弱っていますよ。チャンスだと思いませんか?」
魔力欠乏がこんなにもつらい症状になるとは……思っていた以上に苦しい。
ルビーは私を抱え、ソファに座らせる。それなのに、クロは体制を変えず自分の左手を見ていた。
「今一度、奴隷紋をお刻みください。私には資格がございません」
「クロ。貴方が私に逆らえない理由はその妹のことですね?」
「決してそのようなことはございません」
「私がその子を売ってしまうかもしれませんよ?」
「っ!?」
「お嬢!」
奴隷商人なのだから、奴隷を売買するのは当たり前。
この行動にこの世界の法で私を裁くことは出来ない。
可能性としてはゼロではない。
「奴隷をどう扱うかは全部私にあるよねルビー」
「はい、おっしゃる通りです。奴隷を生かすも殺すもお嬢様次第でございます。また、奴隷を開放されるもお嬢様のご自由です」
「お嬢様は決してそのようなことをされないと思われます」
「ルビー、クロの妹をここに連れてきなさい」
「どうされるおつもりですか?」
「いいから、早く連れてきて」
なら、クロにはもう一度……現実を知って貰う必要がある。
ルビーに背中を支えられ、クロの妹がここにやってくる。
私やクロを見て、何度も私達を見ていた。
「お嬢様、お姉ちゃん」
「貴方がクロの妹ね。名前は?」
「チロです」
「チロ。では、姉を叩きなさい」
「え? お嬢様?」
「これは命令よ? 早くクロを叩きなさい」
命令と言ったものの、私には奴隷紋を発動させる魔力はもう残ってはいない。
その言葉に戸惑うチロは首を振り、強く否定している。
奴隷紋から苦痛もなく、泣きながらただ首を振るしかできないでいた。
「チロ、私なら大丈夫だ。耐えることはない」
「やだ、こんなのやだよ……お姉ちゃん」
「お嬢こんなことをして何になるんだ」
「チロ。もういいわ、ごめんなさい。これで分かったでしょ? 私はこういうことが平然とできる人間なのよ? それでも貴方は私に仕えるというの?」
「はい。私はお嬢様に仕えます。お嬢様、ここに居る奴隷達は皆お嬢様を嫌っているものはおりません。差し出がましいですが、私達を信じてください」
信じろ……か。
私は何を信じればいいのだろう。
この世界に来て、自分のためだけに奴隷商人となり。
自分のために奴隷を使いお金を稼ぐ。
今までのことは奴隷達のためではなく全部自分のため。
「なんで皆はそこまで私を慕うの? 町でもよく聞くわ、奴隷商人はろくな奴が居ないってね。それなのに皆は私に反感すら無い。けれど、街で見かけた奴隷は、皆主人に対して憎しみを込めた目で見ている」
強制的に働かれ、まともや食事もなく過酷な労働の日々を送る毎日。
ここに居る奴隷も同じだと思っていた。
効率を上げるために、多くの食事を与え、それなりに健康も向上させた。
全ては効率を上げるというのが目的なこと。私には彼らの思いなんて、一度も考えたことがないのだから。
「どうして……私はそんなに尽くされるような人間じゃないの」
「お嬢、最初は誰もがお嬢に対して良くは思ってなかったさ。だけどな、美味い飯が普通にありつけ、寝るのだって以前よりずっと快適だ。冒険者の依頼も音を上げるやつも居たが、誰もが前の状況に戻ることよりも懸命に頑張ることを選んだ」
「そうだよ。ご飯を食べないと、働くことなんてまともにできるはずないでしょ? それに、やせ細った奴隷よりも健康的な奴隷のほうが売れると考えたからだよ。ちゃんとした睡眠がなければお金を稼げないと思っただけ。それは貴方達のためじゃなくて結果的に全部自分のため」
それはあくまでも、私という立場を維持させるためであり、奴隷達を優先していたものではないのだ。
街にいる奴隷たちと私の奴隷たちは何も違わないと確信していたから。
「バナンの話も、稼げないと困るからそうしただけ。奴隷の解放も本当は躊躇していた。だって、本当に言うことを聞いてくれる自信がなかったから。クロの開放もそう、二人が居たから守ってくれると思ってた。だからあえて開放した。なのにこれはどういうことなの? 私には……理解できないよ」
「お嬢様。しっかりしてください。お嬢様」
私は奴隷商人なの。人の人生を狂わす最低な人間なんだよ。
そんな私を誰が信頼してくれるというのよ……
それなのに、クロはそんなことも何も気に留めていないということ?
それとも、機会を伺っているのかしら?
「どういうことなの? あれだけのことをした私に、そんな忠誠みたいなことを平然と言うのは何故?」
「発言をよろしいでしょうか?」
発言を求めるというのに、少しだけ驚いてしまった。
奴隷達の殆どは、私に意見を言うこともなく私の下した命令だけをこなしている。
例外なのは、バナンぐらいなものだったけど……奴隷達には、なにか心境変化でもあったというのかしら?
「どうぞ、好きなだけ話していいわ」
「有難うございます。私には妹がおり、このお屋敷で一緒に暮らしております。その妹が毎日楽しく暮らしているのを見て、私の行いがどれほど愚かだったのかを痛感しておりました」
何を言っているの……妹が楽しく暮らしているのを見たから?
そんな理由で? わからない……クロの場合はバナンとは違う。
奴隷だからといって、檻に閉じ込めることもなく冒険者をしていたというだけで、冒険者稼業を任せていた。
それが結果として、本人たちの生きる希望になっていた?
けれどクロは、すぐに虐げられ、言い方を変えれば妹は人質のようなものだ。
そんな相手に対して、敬う理由すら感じられないはず。
「あの頃の私に、妹は夜になればこっそり食事を持ってきてくれ、それを咎めるものは誰もいません。お嬢様から許可は貰っているとも聞きました。それだけではありません、冒険者たちの中でも獣人である私に、偏見を持たず接してくれる日々。奴隷であるにも関わらず給金を支給され、私はそのお金で妹に髪飾りを買いました」
さっきの光景を思い出し、クロの妹の髪にはなにかの飾りがついていたことを思い出していた。
しかし、それが何だというのだ?
「妹には、皆が似合っていると笑い合い、その様子を見て私はあの頃の反感を持っていた自分を殴りたいと思うほどです。護衛の話を聞いた時、私はできることならお嬢様のお役に立ちたいと、これが私の思いです」
「そう……言いたいことは分かったわ」
クロに近寄り奴隷紋に魔力を込めていく。
「奴隷紋開放」
二回目ということあり、魔力量の少ない私には立っているのも辛く、その場にへたり込んでしまう。
「お嬢様、何をなさって」
「お嬢……」
「クロ。私が憎くありませんか? 貴方の嫌う奴隷商人なのですよ? 今の私は、立つことすら出来ないほど弱っていますよ。チャンスだと思いませんか?」
魔力欠乏がこんなにもつらい症状になるとは……思っていた以上に苦しい。
ルビーは私を抱え、ソファに座らせる。それなのに、クロは体制を変えず自分の左手を見ていた。
「今一度、奴隷紋をお刻みください。私には資格がございません」
「クロ。貴方が私に逆らえない理由はその妹のことですね?」
「決してそのようなことはございません」
「私がその子を売ってしまうかもしれませんよ?」
「っ!?」
「お嬢!」
奴隷商人なのだから、奴隷を売買するのは当たり前。
この行動にこの世界の法で私を裁くことは出来ない。
可能性としてはゼロではない。
「奴隷をどう扱うかは全部私にあるよねルビー」
「はい、おっしゃる通りです。奴隷を生かすも殺すもお嬢様次第でございます。また、奴隷を開放されるもお嬢様のご自由です」
「お嬢様は決してそのようなことをされないと思われます」
「ルビー、クロの妹をここに連れてきなさい」
「どうされるおつもりですか?」
「いいから、早く連れてきて」
なら、クロにはもう一度……現実を知って貰う必要がある。
ルビーに背中を支えられ、クロの妹がここにやってくる。
私やクロを見て、何度も私達を見ていた。
「お嬢様、お姉ちゃん」
「貴方がクロの妹ね。名前は?」
「チロです」
「チロ。では、姉を叩きなさい」
「え? お嬢様?」
「これは命令よ? 早くクロを叩きなさい」
命令と言ったものの、私には奴隷紋を発動させる魔力はもう残ってはいない。
その言葉に戸惑うチロは首を振り、強く否定している。
奴隷紋から苦痛もなく、泣きながらただ首を振るしかできないでいた。
「チロ、私なら大丈夫だ。耐えることはない」
「やだ、こんなのやだよ……お姉ちゃん」
「お嬢こんなことをして何になるんだ」
「チロ。もういいわ、ごめんなさい。これで分かったでしょ? 私はこういうことが平然とできる人間なのよ? それでも貴方は私に仕えるというの?」
「はい。私はお嬢様に仕えます。お嬢様、ここに居る奴隷達は皆お嬢様を嫌っているものはおりません。差し出がましいですが、私達を信じてください」
信じろ……か。
私は何を信じればいいのだろう。
この世界に来て、自分のためだけに奴隷商人となり。
自分のために奴隷を使いお金を稼ぐ。
今までのことは奴隷達のためではなく全部自分のため。
「なんで皆はそこまで私を慕うの? 町でもよく聞くわ、奴隷商人はろくな奴が居ないってね。それなのに皆は私に反感すら無い。けれど、街で見かけた奴隷は、皆主人に対して憎しみを込めた目で見ている」
強制的に働かれ、まともや食事もなく過酷な労働の日々を送る毎日。
ここに居る奴隷も同じだと思っていた。
効率を上げるために、多くの食事を与え、それなりに健康も向上させた。
全ては効率を上げるというのが目的なこと。私には彼らの思いなんて、一度も考えたことがないのだから。
「どうして……私はそんなに尽くされるような人間じゃないの」
「お嬢、最初は誰もがお嬢に対して良くは思ってなかったさ。だけどな、美味い飯が普通にありつけ、寝るのだって以前よりずっと快適だ。冒険者の依頼も音を上げるやつも居たが、誰もが前の状況に戻ることよりも懸命に頑張ることを選んだ」
「そうだよ。ご飯を食べないと、働くことなんてまともにできるはずないでしょ? それに、やせ細った奴隷よりも健康的な奴隷のほうが売れると考えたからだよ。ちゃんとした睡眠がなければお金を稼げないと思っただけ。それは貴方達のためじゃなくて結果的に全部自分のため」
それはあくまでも、私という立場を維持させるためであり、奴隷達を優先していたものではないのだ。
街にいる奴隷たちと私の奴隷たちは何も違わないと確信していたから。
「バナンの話も、稼げないと困るからそうしただけ。奴隷の解放も本当は躊躇していた。だって、本当に言うことを聞いてくれる自信がなかったから。クロの開放もそう、二人が居たから守ってくれると思ってた。だからあえて開放した。なのにこれはどういうことなの? 私には……理解できないよ」
「お嬢様。しっかりしてください。お嬢様」
私は奴隷商人なの。人の人生を狂わす最低な人間なんだよ。
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