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第四章 嘘つき王子
嘘つき王子*
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「なんでそうなる!」
呆然とする俺に、エルシーが得意げに推理を開陳する。
「殿下には戦争前から好きな方がいらっしゃった。その方を理由に、ステファニー嬢との婚約は白紙に戻し、そうして戦争に行かれた。戦争から帰ったら、その方と結婚したいと思っていたのに、戦争から戻ってきたら、その方とはうまくいきそうもない。それで、手近に安全な処女で、お金で自由にできそうなわたしがいたから、愛人にして溢れる性欲を処理することにした。どうです? 完璧でしょ?」
前半は当たってるが、後半は全然違う! 手近の安全な処女ってなんだ! 溢れる性欲を処理? いったい何を言っているんだ、エルシー!
「俺は性欲を持て余してお前を抱いたわけじゃない! 誤解だ! 俺をサルか何かだと思っているのか!」
「だって……毎日しないと我慢できないってさっきもおっしゃったし……」
確かに言った! 我慢はできない! でもそれはエルシーだからであって! 女なら誰でもいいわけじゃあ、断じてない!
じとっと上目遣いに見られて、俺は絶望的な気分になる。
エルシーが俺のことどころか、リジーの存在自体をすっかり忘れているから、説明できないんじゃないか!
俺は思わず、ベッドの天蓋を仰ぎ、ため息をつく。
「お前、本当に何も覚えてないんだな……」
きょとんと首を傾げるエルシーの表情に、俺はどうしていいかわからなくなって、でも、身代わりだなんていう誤解だけは解きたくて、俺はエルシーの耳元に口を近づけ、言った。
「言っておくが、お前はけして、身代わりじゃない。それは確かだ」
まだ疑っているらしいエルシーの唇を塞ぎ、俺はそのままエルシーをベッドに沈めた。
エルシーの寝間着の紐を解き、素肌に掌を這わせる。俺の手が熱いせいか、ひんやりとして滑らかで、触れるだけで俺は興奮し、股間に血が集まってくる。
「エルシー……」
「どうして……」
「好きだと言っている。……何度も。なぜ、信じてくれない」
「嘘つき」
エルシーは目を閉じ、何かに耐えるように顔を背けたまま、言った。
俺はむきになって言った。
「嘘じゃない、愛してる。……ずっと」
「やっぱり嘘つき。調子のいいことばっかり言って。出会ってまだ二月にもならないのに」
だからそれはエルシーが忘れているだけで、俺は十二年間拗らせまくっているのに、それを説明することができない。
「……エルシー、それはだな……その……」
「やらせてくれる安全な女なら、誰でもよかったんでしょ」
エルシーが真下から睨んでくる、その視線が痛い。
「それは違う。誰でもいいなら、今頃ステファニーと寝てるだろ。俺がステファニーとは寝てない、ってのが、俺の誠実さの証だ」
俺はステファニーには、キスすらしたことがない。社交デビュー前のステファニーの目を盗んで、火遊びを繰り返したが、ステファニーとの婚約がなくなってからは、俺は誰も抱いていない。
あてつける相手がいなくなったら、一夜限りの火遊びには何の面白みもスリルも感じなかった。エルシーが抱けないのなら、他は誰でも同じだと思っていたけれど、エルシーが手に入るのなら、俺はエルシーに誠実でありたかった。
俺はエルシーの顔じゅうにキスを落とし、首筋を辿るように唇を這わせていく。唇が鎖骨に触れた時、エルシーがハッとして、俺の肩を押した。
「だめ、痕をつけないで!」
「エルシー?」
「人に見られたら困ります。……そこはやめてください」
俺は少し体を起こし、エルシーをじっと見た。見えるような場所にはつけていないつもりだったが、誰かに見とがめられたのか?
エルシーが指で示す場所、確かに、鎖骨の少し下に、俺は昨夜の痕をつけておいた。でもそこは、襟をきちんと締めていれば、人の目には触れないはず。
誰かがエルシーのシャツの襟を寛げて、口づけの痕を目にした――。
「……ハートネルか?」
エルシーが戸惑うように視線を逸らせる。
「会ったのか、何を言われた?」
どうしても声が低くなってしまう。司令部で顔を合わせるだけで、知られるはずはないと思っていたのに。
エルシーの気まずそうな様子から、何か言われただろうと予測がついた。
ハートネルは、俺がエルシーに執着しているのを知っている。家が近いと言っていたから、おばあ様が入院し、エルシーがあの家を出たことに気づいただろう。エルシーに惚れていたのなら、俺とエルシーの関係も察したかもしれない。
「あの野郎……どこまで知られた?」
俺の問いに、エルシーが気まずそうに言った。
「……祖母の入院のために、お金のために身体を差し出したのかって……」
俺は思わず舌打ちした。
それは、エルシーが一番、負い目に思っていることだ。エルシーにはどうにもならないことでも、エルシーは気にしている。
でも、すべて俺が卑怯だからだ。どうしてもエルシーが欲しくて、おばあ様の治療費が必要だという、エルシーを追い込んだ。責められるべきは俺のはずだ。
「エルシー、俺は……確かにお前の弱みに付け込んだことは、認める。でも、それは、俺も我慢の限界だったからと、あいつがウロウロしていて焦ったせいであって……」
関係を持ってしまったことを、ジョナサンもジェラルドも、そして何も言わないけれどラルフやロベルトまでも、批判的な目で見ていると、俺は感じる。責任は取るつもりでも、エルシーの尊厳を奪ったことは間違いがない。
俺は要するに、エルシーの祖母の入院費を盾に、体の関係に持ち込んだ卑怯な嘘つき王子で、本当に最低なのだけれど、でもこうしてエルシーの肌を知ってしまった今となっては、エルシーを誰かに奪われるなんて、耐えられない。ついでに、実際には俺は事務手続きをしただけで、入院を認めて金を払っているのは父上なのだが、それも口にできない。たぶん、一生――。
だが俺に対し、エルシーは微笑んで見せた。俺の首にすがるように両腕を回して――。
「でも、殿下のおかげで、祖母が助かったのも確かなんです。……そこは感謝しています」
そんな風に言われたら、俺の理性など木っ端みじんにふっとんでしまい、ただひたすらエルシーの肌に溺れてしまう。
嘘を粘土のようにこねて固めた泥人形の王子である俺は、嘘がバレた時には額の「emeth」の文字が「meth」に変わり、もとの醜い泥の塊に戻るのだろう。
でも嘘で固めたこの身体でエルシーを組み敷き、全身を舐めまわして貪っていく。汚れない神聖な身体を快楽の淵に堕とし、這い上がれないようにその羽を毟って、食べつくしてしまいたい。
体中に俺の愛の証を刻みつけ、脚の間の秘密の花園を唇と舌でさんざんに弄んで。
「お願い、もうっ……きて……」
エルシーに甘い声でねだられて、俺は興奮で何も考えられなくなる。本当は俺だって一つになりたい。一番深い場所でつながり、彼女の中を犯し、穿ち、内部を俺で満たしたい。
でも――もっと蕩かしたい。もっと、俺だけを求めるように。俺がエルシー無しでは生きられないように、エルシーもまた、俺なしでいられなくなるように。
もっと悦楽の深い淵に堕として、快楽の鎖で縛り付け、その白い身体を俺の執着の蜘蛛の巣でがんじがらめに絡めとって。
――たとえ、心が俺にないとしても。
「俺の、コレが欲しいのか?」
俺がエルシーを焦らすように、熱く滾った楔をエルシーの花弁に擦り付ければ、すっかり濡れそぼったそこは、ぐちゃぐちゃといやらしい音をたてた。
「エルシー……誓え、一生、俺のものだと。生涯、俺だけだと誓えよ、そうしたら……」
「あああっそんなっ……無理っ……」
先端で花弁を突いてやるだけで、エルシーは快感に悶えて首を振った。俺の辛抱だって限界だ。
「誓ってくれ、エルシー、俺だけだと。……俺も、誓う。だから――」
俺の心も体もすべてエルシーのものだ。額の「emeth」の文字が「meth」に変わるその日まで、いや、たとえ粘土に変わってこの身が塵に帰っても、俺は暗闇の中でエルシーだけを思うだろう。
だからせめて、この身体だけでも俺のものになってほしい。
泥人形の俺がひと時でも、人間であると信じられる瞬間だから。
「エルシー!」
「はっ……ああっ……もうっ……ちか、ちかい、ます……ああっ、はやく……」
「ああっ……エルシー、俺も誓う……」
「一生、あなた、だけ……」
俺は一気にエルシーの中に楔を突き立てる。
狭いのに、柔らかく俺を飲み込むエルシーの中。熱く蕩けそうな肉壁が俺を包み込み、うねる。
「くっ……ううっ、エルシー、エルシー……」
俺のもの、俺のものだ。
エルシーが抵抗をやめ、両手で俺に縋り付く。俺も両手でエルシーをぎゅっと抱きしめ、肌と肌が密着し、俺の硬い胸板が、エルシーの柔らかい胸を潰す。深い場所でつながり、脚を絡め合って、唇を合わせる。
二人で一つになり、快楽の淵に溶けてゆく――。
呆然とする俺に、エルシーが得意げに推理を開陳する。
「殿下には戦争前から好きな方がいらっしゃった。その方を理由に、ステファニー嬢との婚約は白紙に戻し、そうして戦争に行かれた。戦争から帰ったら、その方と結婚したいと思っていたのに、戦争から戻ってきたら、その方とはうまくいきそうもない。それで、手近に安全な処女で、お金で自由にできそうなわたしがいたから、愛人にして溢れる性欲を処理することにした。どうです? 完璧でしょ?」
前半は当たってるが、後半は全然違う! 手近の安全な処女ってなんだ! 溢れる性欲を処理? いったい何を言っているんだ、エルシー!
「俺は性欲を持て余してお前を抱いたわけじゃない! 誤解だ! 俺をサルか何かだと思っているのか!」
「だって……毎日しないと我慢できないってさっきもおっしゃったし……」
確かに言った! 我慢はできない! でもそれはエルシーだからであって! 女なら誰でもいいわけじゃあ、断じてない!
じとっと上目遣いに見られて、俺は絶望的な気分になる。
エルシーが俺のことどころか、リジーの存在自体をすっかり忘れているから、説明できないんじゃないか!
俺は思わず、ベッドの天蓋を仰ぎ、ため息をつく。
「お前、本当に何も覚えてないんだな……」
きょとんと首を傾げるエルシーの表情に、俺はどうしていいかわからなくなって、でも、身代わりだなんていう誤解だけは解きたくて、俺はエルシーの耳元に口を近づけ、言った。
「言っておくが、お前はけして、身代わりじゃない。それは確かだ」
まだ疑っているらしいエルシーの唇を塞ぎ、俺はそのままエルシーをベッドに沈めた。
エルシーの寝間着の紐を解き、素肌に掌を這わせる。俺の手が熱いせいか、ひんやりとして滑らかで、触れるだけで俺は興奮し、股間に血が集まってくる。
「エルシー……」
「どうして……」
「好きだと言っている。……何度も。なぜ、信じてくれない」
「嘘つき」
エルシーは目を閉じ、何かに耐えるように顔を背けたまま、言った。
俺はむきになって言った。
「嘘じゃない、愛してる。……ずっと」
「やっぱり嘘つき。調子のいいことばっかり言って。出会ってまだ二月にもならないのに」
だからそれはエルシーが忘れているだけで、俺は十二年間拗らせまくっているのに、それを説明することができない。
「……エルシー、それはだな……その……」
「やらせてくれる安全な女なら、誰でもよかったんでしょ」
エルシーが真下から睨んでくる、その視線が痛い。
「それは違う。誰でもいいなら、今頃ステファニーと寝てるだろ。俺がステファニーとは寝てない、ってのが、俺の誠実さの証だ」
俺はステファニーには、キスすらしたことがない。社交デビュー前のステファニーの目を盗んで、火遊びを繰り返したが、ステファニーとの婚約がなくなってからは、俺は誰も抱いていない。
あてつける相手がいなくなったら、一夜限りの火遊びには何の面白みもスリルも感じなかった。エルシーが抱けないのなら、他は誰でも同じだと思っていたけれど、エルシーが手に入るのなら、俺はエルシーに誠実でありたかった。
俺はエルシーの顔じゅうにキスを落とし、首筋を辿るように唇を這わせていく。唇が鎖骨に触れた時、エルシーがハッとして、俺の肩を押した。
「だめ、痕をつけないで!」
「エルシー?」
「人に見られたら困ります。……そこはやめてください」
俺は少し体を起こし、エルシーをじっと見た。見えるような場所にはつけていないつもりだったが、誰かに見とがめられたのか?
エルシーが指で示す場所、確かに、鎖骨の少し下に、俺は昨夜の痕をつけておいた。でもそこは、襟をきちんと締めていれば、人の目には触れないはず。
誰かがエルシーのシャツの襟を寛げて、口づけの痕を目にした――。
「……ハートネルか?」
エルシーが戸惑うように視線を逸らせる。
「会ったのか、何を言われた?」
どうしても声が低くなってしまう。司令部で顔を合わせるだけで、知られるはずはないと思っていたのに。
エルシーの気まずそうな様子から、何か言われただろうと予測がついた。
ハートネルは、俺がエルシーに執着しているのを知っている。家が近いと言っていたから、おばあ様が入院し、エルシーがあの家を出たことに気づいただろう。エルシーに惚れていたのなら、俺とエルシーの関係も察したかもしれない。
「あの野郎……どこまで知られた?」
俺の問いに、エルシーが気まずそうに言った。
「……祖母の入院のために、お金のために身体を差し出したのかって……」
俺は思わず舌打ちした。
それは、エルシーが一番、負い目に思っていることだ。エルシーにはどうにもならないことでも、エルシーは気にしている。
でも、すべて俺が卑怯だからだ。どうしてもエルシーが欲しくて、おばあ様の治療費が必要だという、エルシーを追い込んだ。責められるべきは俺のはずだ。
「エルシー、俺は……確かにお前の弱みに付け込んだことは、認める。でも、それは、俺も我慢の限界だったからと、あいつがウロウロしていて焦ったせいであって……」
関係を持ってしまったことを、ジョナサンもジェラルドも、そして何も言わないけれどラルフやロベルトまでも、批判的な目で見ていると、俺は感じる。責任は取るつもりでも、エルシーの尊厳を奪ったことは間違いがない。
俺は要するに、エルシーの祖母の入院費を盾に、体の関係に持ち込んだ卑怯な嘘つき王子で、本当に最低なのだけれど、でもこうしてエルシーの肌を知ってしまった今となっては、エルシーを誰かに奪われるなんて、耐えられない。ついでに、実際には俺は事務手続きをしただけで、入院を認めて金を払っているのは父上なのだが、それも口にできない。たぶん、一生――。
だが俺に対し、エルシーは微笑んで見せた。俺の首にすがるように両腕を回して――。
「でも、殿下のおかげで、祖母が助かったのも確かなんです。……そこは感謝しています」
そんな風に言われたら、俺の理性など木っ端みじんにふっとんでしまい、ただひたすらエルシーの肌に溺れてしまう。
嘘を粘土のようにこねて固めた泥人形の王子である俺は、嘘がバレた時には額の「emeth」の文字が「meth」に変わり、もとの醜い泥の塊に戻るのだろう。
でも嘘で固めたこの身体でエルシーを組み敷き、全身を舐めまわして貪っていく。汚れない神聖な身体を快楽の淵に堕とし、這い上がれないようにその羽を毟って、食べつくしてしまいたい。
体中に俺の愛の証を刻みつけ、脚の間の秘密の花園を唇と舌でさんざんに弄んで。
「お願い、もうっ……きて……」
エルシーに甘い声でねだられて、俺は興奮で何も考えられなくなる。本当は俺だって一つになりたい。一番深い場所でつながり、彼女の中を犯し、穿ち、内部を俺で満たしたい。
でも――もっと蕩かしたい。もっと、俺だけを求めるように。俺がエルシー無しでは生きられないように、エルシーもまた、俺なしでいられなくなるように。
もっと悦楽の深い淵に堕として、快楽の鎖で縛り付け、その白い身体を俺の執着の蜘蛛の巣でがんじがらめに絡めとって。
――たとえ、心が俺にないとしても。
「俺の、コレが欲しいのか?」
俺がエルシーを焦らすように、熱く滾った楔をエルシーの花弁に擦り付ければ、すっかり濡れそぼったそこは、ぐちゃぐちゃといやらしい音をたてた。
「エルシー……誓え、一生、俺のものだと。生涯、俺だけだと誓えよ、そうしたら……」
「あああっそんなっ……無理っ……」
先端で花弁を突いてやるだけで、エルシーは快感に悶えて首を振った。俺の辛抱だって限界だ。
「誓ってくれ、エルシー、俺だけだと。……俺も、誓う。だから――」
俺の心も体もすべてエルシーのものだ。額の「emeth」の文字が「meth」に変わるその日まで、いや、たとえ粘土に変わってこの身が塵に帰っても、俺は暗闇の中でエルシーだけを思うだろう。
だからせめて、この身体だけでも俺のものになってほしい。
泥人形の俺がひと時でも、人間であると信じられる瞬間だから。
「エルシー!」
「はっ……ああっ……もうっ……ちか、ちかい、ます……ああっ、はやく……」
「ああっ……エルシー、俺も誓う……」
「一生、あなた、だけ……」
俺は一気にエルシーの中に楔を突き立てる。
狭いのに、柔らかく俺を飲み込むエルシーの中。熱く蕩けそうな肉壁が俺を包み込み、うねる。
「くっ……ううっ、エルシー、エルシー……」
俺のもの、俺のものだ。
エルシーが抵抗をやめ、両手で俺に縋り付く。俺も両手でエルシーをぎゅっと抱きしめ、肌と肌が密着し、俺の硬い胸板が、エルシーの柔らかい胸を潰す。深い場所でつながり、脚を絡め合って、唇を合わせる。
二人で一つになり、快楽の淵に溶けてゆく――。
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