【R18】渾沌の七竅

無憂

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七竅

13、豚刺史の突撃

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「殿下がたに是非申し上げたい儀がござる! お話を聞いてくだされ!」

 廉郡王が胡散臭そうに精悍な眉を露骨に顰める。

「はああ? 若い美眉かわいこちゃんのお話ならともかく、なんで脂ぎったオッサンの話なんか俺が聞かなきゃなんないんだよ。帰れよ、加齢臭きついぜ」
「び、美女もたんと用意してございますよ、もしご要望ならば……」
「だからー! 食えねぇ据え膳なんかいらねぇんだっつの!」
「美少年の方がお好みならば、それも今すぐに手配を……」
「あーもうっ! 美少年はユエリンだけで間に合ってる!」
「何をキモい話をしているんだよ、グイン」

 さすがに見かねたのか、背後から恭親王が声をかける。すでに上着も脱いで麻のシャツ一枚になり、釦も上から三つほど外れて隙間からしどけなく覗く白い肌が妖艶な色気を振りまいて、ランダは思わず唾を飲み込んだ。

「さっきから騒がしい。……皇子への謁見は傅役を通して然るべき手順を踏むべきだ。代々御史として上奏文と有職故実を司るクラウス家の者ならば、そのくらいは承知していよう」

 恭親王が扇を片手にし、部屋の前で仁王立ちする廉郡王の背後から肩に手を置いて上からランダを見下ろす。廉郡王はゾーイと同じくらいの高身長、恭親王はそれよりも少し背が低いが十分に長身の範疇に入る。

「急ぎの儀にございますれば」
「本当に急ぎなら宴会をしている暇もあるまいに。美女だの美少年だの、差し迫っているようには聞こえぬが」

 艶のある声で冷淡に言う恭親王の膝元に、ランダは縋るように跪いてひれ伏す。

「州内の厲蠻に、魔物を信奉する邪教が復活しつつあるのでございます!どうやら背後に扇動する者もあるようなのですが、騎士団が安寧に流れてそれらを野放しにしているために、最近では堤防に仕掛けをして再び決壊が起き、大被害が出ております!」
「堤防が決壊……?」

 そんな話聞いているか? と目だけでゲルフィンに問えば、こちらも片眼鏡モノクルをした右目を見開いている。

「そのような報告は上がっていなかったはずだが。何故、中央に報告していない」

 途端に雪原に吹き荒れる氷吹雪ブリザードのような声でゲルフィンが問いかけ、ランダがびくりと身を震わせる。

「……その……ご報告するほどのことでもないかと思ったのですが、調べてみますといろいろと……怪しいと申しますか、その……」
「場所はどこだ?」
「……三年前と同じ場所で……」

 どうりで、とゲルフィンは合点した。本来ならば、租税として集めた米を帝都に運ぶために、みなとは大忙しであろうに何だか閑散としているし、城内には食い詰めた乞食が溢れていた。収穫期の最も食糧が豊富なこの時期にと訝しんでいたのである。

「手抜き工事だな」
 
 ゲルフィンが言う前に、ずばりと恭親王が言ってしまう。ランダが見苦しくも悲鳴のように釈明した。

「工事は手抜きではございません!ですが、工事には厲蠻を徴発して工事に当たらせましたが、こいつらがおそらくは堤防に仕掛けを……」
「改修が終わったのはいつ?」
「昨年の春で……」

 一年半もの時間をかけて発動する時限式の仕掛けなど、このあたりの困窮した厲蠻に思いつくはずがない。だいたい自分たちの居住地を守る堤防にそんな仕掛けを埋め込むなど、自殺行為ではないか。どう考えてもただの手抜き工事か、資材をケチったか、あるいは両方だ。
 
「あ、あやつらは今でこそ陰陽を奉じておりますが、以前はおぞましい淫祀邪教の民でございます。怠惰で愚昧、正真正銘の蛮族で、最近では徴税にも応じず、徴税官に暴行を働く始末で……」

 蔑む言葉に恭親王が思わず眉を顰める。以前北方の本物の淫祀邪教の民に囚われていた彼からすれば、文化や歴史が異なるとはいえ、陰陽を奉じている民をそのように貶めるのは許しがたいことであった。

「南岸で何かが起きているようだが、皇子が討伐すべき案件であれば、騎士団より報告が入る。そうでなければ州県の民政に皇子が口を挟むことはない」

 きっぱりと言う恭親王に、ランダはなおも媚びるように言い募る。

「騎士団の連中はおそらく我々が苛政を敷いたからとか、好き勝手に申しましょう。ですが、我々としては帝国のために確実な徴税をと……」
「堤防が切れて被害が出ているのに中央に報告もしない時点で語るに落ちたな。私の方からも堤防の件を皇上に申し上げておくから、せいぜいうまい言い訳でも考えておけ」
「殿下!」

 ぶるぶる震えて悲鳴をあげるランダの醜い顔を、軽蔑しきった目で見下しながら付け加える。

「さっき廉郡王も言ったとおり、篭絡したいならせめて我々が食用可能な据え膳を用意しておけ。平民の女など、我々にとってはゲテモノもいいところだ」

 冷淡に言い捨てると、皇子たちはさっさと部屋に入って扉を閉め、ランダはゲルフィンとゾーイにより実力で部屋の前から排除された。
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