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七竅
1、囲い者
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薔薇の香りの漂う庭で自家製の香草茶を傍らに、ユイファは本を読んでいた。
初夏の午後。日差しも日毎に強くなり、日向にいれば汗ばむこともある。木陰を選んでいるとはいえ、陽に焼けるのは肌によくないと、ユイファも知っているが、濃厚な薔薇の香りに包まれながら、夫の残した本を読むこの至福のひと時には代え難い。
頁を繰りながら、二杯目の香草茶に手を伸ばした時、足音が聞こえ、執事のヨウが近づいて来るのが見えた。背後には、肩に黒い鷹を止まらせた背の高い男を先導している。
ユイファは茶杯を卓に戻し、書を卓上に置いて立ち上がる。男が遠くから手振りで、座るように合図した。
「お久しぶりでございます。最近はお忙しいのですね」
ユイファは男に陶器の榻を薦める。鷹を庭の上空に放ってから、男は榻に腰かけて言った。
「それは嫌味……?なわけないか。私の足が遠のいても、ユイファはちっとも妬いてくれないな」
「妬くような仲でもございませんでしょう」
「あなたは一応、私の愛人ってことになっているんだけどな」
立て襟に飾り結びの釦のならぶ白い麻の衫の上に、藍染めの鮮やかな打ち合わせ式の袖なしの上着を着て、黒い脚衣に黒い長靴。艶やかな黒い髪を無造作に後ろに流し、整い過ぎた端正な顔に皮肉っぽい笑みを浮かべ、色気のある黒い瞳でユイファに流し目を送る。出会ってから二年、少年期の中性的な妖しいほどの美しさから、男性的な美へと変貌を遂げつつある。
(はあ……。今日も無駄に美しい……)
長い脚を組んで座り、扇を優雅に使う男のために、ユイファは新しい茶と、昨日焼いた茶菓子の準備を言いつける。
そもそもは困窮したユイファが売ろうとした書籍を買い取るという縁で、ユイファの家に出入りし始めた男は、ユイファの肩にのしかかる借財の始末と潤沢な「お手当」と引き換えに、悪友たちと三人でユイファを共有したのだ。
他の二人は半年ほどこの家に通ってきて、四人で痴態の限りを尽くしたが、やがてそれにも飽きたのか、ここ一年以上、ユイファの家を訪れてはいない。ただ、シウと名乗るこの男だけが、今でもユイファの家に通い続けている。一時期はそれこそ三日とあけずに通い詰めていたが、この半年ほどは家庭内の問題もあって間隔があいていた。今日の訪問は十日ぶりである。
ユイファの家に泊まる夜でも、男は一人の時はユイファを抱こうとはしない。寝台の上で二人、とりとめのない話をして、時には謎かけや言葉遊びをするだけで、大抵、シウはそのまま寝てしまう。
「寝ようと思えば三秒で眠れる」
と豪語するように、男の寝つきは神業レベルで素早かった。
つまり、ここ一年以上、ユイファとシウの間には、男女の行為はないということだ。
「今夜泊まってもいい?」
シウの囲い者であるユイファに、それを拒否する権利はない。ユイファを抱くわけでもないのに、彼がこの家に泊まり、また入り浸るのは、彼が自宅恐怖症に陥っているからだ。
今年十九だというシウには、すでに妻がいる。帝都で――というよりもこの大陸でも――最も高貴な血を享ける皇子である彼の好配にと、彼を鍾愛する皇帝が定めた名門出身の生粋の貴族令嬢だ。だが、彼はこの気位の高い妻を忌み嫌って、婚礼を上げて二年以上たつが、指一本触れていないという。
かつてユイファを嬲り尽くした旺盛な若い欲を、ではどのようにして解消しているのかといえば、例の二人の悪友と遊び歩くか、獣人奴隷を侍らせて淫戯を極めて、その欲を吐き出しているのだ。自邸には側室も一人いるが、正妻の嫉妬をまともにぶつけられて体調を崩し気味だという。いっこうに子ができないことを重く見た彼の母なる人が、強制的に新しい側室を娶らせたのが半年前。だが、新夫人にも懐妊の兆しはない。
「新しい女の部屋には、月に一度はちゃんと通っているのに、なかなかできないんだよね。やっぱり魔力に差がありすぎるのかもしれない。子供なんて私はどうでもいいんだけど、血筋がよく魔力のある正室と寝ろって周囲が煩いんだよ」
「……魔力の問題ではなく、月に一度では懐妊は無理なんじゃありませんか?」
「一番妊娠しやすい日を選んでいるんだけどなぁ」
乳母のマーサが運んできた香草茶をユイファが淹れ、シウは美味そうに啜り、蕎麦粉の焼き菓子を頬張る。仮にも皇子の口に入れていいものではないが、シウはこれがお気に入りだった。
「正室も嫌いだけど、その新しい女も卑屈で鬱陶しいんだ。正直、月一以上会うつもりはないよ」
もともといた側室の方には週に一度は通っており、一人が寵愛を独占している状況に変わりはない。結局二人分の嫉妬が最も身分の低い寵姫に向かうことになり、邸内の雰囲気がさらに悪くなっただけであるという。
「ほんと、何もかも捨ててどっかに逃げたいよ」
溜息まじりに扇であおぎながら、ふとユイファが拡げたままだった読みかけの本に目を落とす。
「やだなあ、この詩。ちょうど今の私みたいじゃないか」
眉尻を困ったように下げて、シウは開かれた頁の古詩を詠み上げる。
出ずるに北門よりす 憂心殷殷たり
終いに窶れて且つ貧し 我が艱みを知るもの莫し
已んぬる哉 天実に之を為せり 之に何をか謂わんや
王事我に適き 政事も一えに我に埤益せり
我れ外より入れば 室人交も徧く我を讁む
已んぬる哉 天実に之を為せり 之に何をか謂わんや
(北の門から出ると、憂いの心に鬱々とする
いつまでも窶れて貧乏なまま。私の苦労を誰もわかってくれない
どうしょうもない。天がそのようにしたのだ。何を言っても無駄だ
王様のお仕事が私に降ってくるし、税金ばかりが重くなる
私が外から家に帰れば、家族はかわるがわる私を責める
どうしようもない。天がそのようにしたのだ。何を言っても無駄だ)
思うに任せない仕事と家庭に疲れ切った役人の心情をうたった詩だが、シウは自分の心情にぴったりだと思ったらしい。
「何をおっしゃるんだか。貧乏でもないし、キリキリ仕事をしているようにも見えないし、税金だってかかってないでしょう?」
「でも疲れていて家族や側近にはいっつも嫌味を言われるよ?」
「疲れているのは夜遊びのしすぎであって、嫌味を言われるのはあなたの素行が悪いからですよ」
ユイファがまるでやんちゃな弟でも窘めるように言うと、シウは軽やかな笑い声を上げた。
「まあ、素行が悪いことは認めるけどね。でも、結婚する前から素行は悪かったんだ。何度も結婚はやめた方がいいと言ったし、今でも離婚して欲しいとお願いしているのに、何を意地になっているのだか、絶対に離婚に応じてくれないのはあっちだよ。母親にも側近にも、結婚はイヤだとずっと言い続けているのに、誰も私の話を真面目に聞いてくれないし」
ユイファはシウの女遊びが結婚を厭いてのことだと知っているし、また彼がわざと自らを泥濘の中に沈めるかのような、荒んだ生活を送っているのも知っている。彼が卑怯にも複数がかりで、ユイファの貞操を奪ったのも、けして実を結ぶことのない初恋に殉じることができなかった彼の、苛立ちと自己嫌悪が歪みに歪んでユイファにぶつけられたせいなのだと、シウ自身より告白を受けたこともある。
全てを許され、何でも与えられたように見える彼の人生が、実は全く思うに任せない不本意で窮屈なものであり、その桎梏から抜け出せない自身を彼は軽蔑さえしているようにユイファには見えた。シウにとって、死んだ夫に貞操を捧げようとしていたユイファは、ある意味では彼の分身でもあり、それ故にその貞操を奪わずにはいられなかったのだろう。
あの時、ユイファは彼と寝ることについては嫌ではなかった。
弟のような彼に好感を抱いていたし、ソールに媚薬を盛られて手籠めにされかかり、嫌な記憶を彼で上書きしたかった。
だが、彼はユイファと寝た直後に友人二人を寝室に引き込んで、三人がかりで彼女を嬲りものにしたのだ。そしてそれが初めからの計画されたことであった事実は、ユイファには到底、許せることではない。
圧倒的な身分差と彼らの持つ権力によって、ユイファは彼らの共有物に堕ちざるを得なかった。それはユイファの人としての尊厳を踏みにじる行為であるのに、彼ら三人は無邪気に、許されて当然だと思い込んでいた。特権に守られた歪んだ教育の果ての、あまりにも常識を逸したその無邪気さに、ユイファは呆れ、そして諦めた。
彼らがこの遊びに飽きるまで、玩具であるユイファは付き合うしかないのだ、と。
彼らが飽きるまでに半年もかかったことは、正直意外であった。その後もシウ一人がこの家に通い続けていることも。
皇子と、平民の未亡人。
あれだけのことをされて、それでもシウの訪問を受け入れている自分自身について、ユイファは不思議に思っていた。この繊細で優しく、残酷な青年を、ユイファはなぜだか、心から憎むことはできないのだった。
「二人っきりの時にわたしを抱かないのは、あの件についての贖罪のためなのですか?」
一度ユイファが聞いた時、シウの答えは否、であった。
「わたしはあの件を許してもらおうとは思っていないし、むしろ許してもらっては困る。生涯ずっと恨み続けてもらいたいし、高潔で誇り高いユイファが、自分を汚した悪い男に囲われているっていう状況に萌えるんだ。悪いことをしたとはわかっているから謝罪はするけど、贖罪はしないよ。抱かないのは、実はユイファのことが割りと好きになったからかな。好きな女は抱かない。私が抱くのは、愛していない女だけ」
その答えを聞いた時、見事なまでにねじくれてしまったシウの心を、本当に癒してくれる人が現れるのだろうかと、ユイファは少し、心配になった。
初夏の午後。日差しも日毎に強くなり、日向にいれば汗ばむこともある。木陰を選んでいるとはいえ、陽に焼けるのは肌によくないと、ユイファも知っているが、濃厚な薔薇の香りに包まれながら、夫の残した本を読むこの至福のひと時には代え難い。
頁を繰りながら、二杯目の香草茶に手を伸ばした時、足音が聞こえ、執事のヨウが近づいて来るのが見えた。背後には、肩に黒い鷹を止まらせた背の高い男を先導している。
ユイファは茶杯を卓に戻し、書を卓上に置いて立ち上がる。男が遠くから手振りで、座るように合図した。
「お久しぶりでございます。最近はお忙しいのですね」
ユイファは男に陶器の榻を薦める。鷹を庭の上空に放ってから、男は榻に腰かけて言った。
「それは嫌味……?なわけないか。私の足が遠のいても、ユイファはちっとも妬いてくれないな」
「妬くような仲でもございませんでしょう」
「あなたは一応、私の愛人ってことになっているんだけどな」
立て襟に飾り結びの釦のならぶ白い麻の衫の上に、藍染めの鮮やかな打ち合わせ式の袖なしの上着を着て、黒い脚衣に黒い長靴。艶やかな黒い髪を無造作に後ろに流し、整い過ぎた端正な顔に皮肉っぽい笑みを浮かべ、色気のある黒い瞳でユイファに流し目を送る。出会ってから二年、少年期の中性的な妖しいほどの美しさから、男性的な美へと変貌を遂げつつある。
(はあ……。今日も無駄に美しい……)
長い脚を組んで座り、扇を優雅に使う男のために、ユイファは新しい茶と、昨日焼いた茶菓子の準備を言いつける。
そもそもは困窮したユイファが売ろうとした書籍を買い取るという縁で、ユイファの家に出入りし始めた男は、ユイファの肩にのしかかる借財の始末と潤沢な「お手当」と引き換えに、悪友たちと三人でユイファを共有したのだ。
他の二人は半年ほどこの家に通ってきて、四人で痴態の限りを尽くしたが、やがてそれにも飽きたのか、ここ一年以上、ユイファの家を訪れてはいない。ただ、シウと名乗るこの男だけが、今でもユイファの家に通い続けている。一時期はそれこそ三日とあけずに通い詰めていたが、この半年ほどは家庭内の問題もあって間隔があいていた。今日の訪問は十日ぶりである。
ユイファの家に泊まる夜でも、男は一人の時はユイファを抱こうとはしない。寝台の上で二人、とりとめのない話をして、時には謎かけや言葉遊びをするだけで、大抵、シウはそのまま寝てしまう。
「寝ようと思えば三秒で眠れる」
と豪語するように、男の寝つきは神業レベルで素早かった。
つまり、ここ一年以上、ユイファとシウの間には、男女の行為はないということだ。
「今夜泊まってもいい?」
シウの囲い者であるユイファに、それを拒否する権利はない。ユイファを抱くわけでもないのに、彼がこの家に泊まり、また入り浸るのは、彼が自宅恐怖症に陥っているからだ。
今年十九だというシウには、すでに妻がいる。帝都で――というよりもこの大陸でも――最も高貴な血を享ける皇子である彼の好配にと、彼を鍾愛する皇帝が定めた名門出身の生粋の貴族令嬢だ。だが、彼はこの気位の高い妻を忌み嫌って、婚礼を上げて二年以上たつが、指一本触れていないという。
かつてユイファを嬲り尽くした旺盛な若い欲を、ではどのようにして解消しているのかといえば、例の二人の悪友と遊び歩くか、獣人奴隷を侍らせて淫戯を極めて、その欲を吐き出しているのだ。自邸には側室も一人いるが、正妻の嫉妬をまともにぶつけられて体調を崩し気味だという。いっこうに子ができないことを重く見た彼の母なる人が、強制的に新しい側室を娶らせたのが半年前。だが、新夫人にも懐妊の兆しはない。
「新しい女の部屋には、月に一度はちゃんと通っているのに、なかなかできないんだよね。やっぱり魔力に差がありすぎるのかもしれない。子供なんて私はどうでもいいんだけど、血筋がよく魔力のある正室と寝ろって周囲が煩いんだよ」
「……魔力の問題ではなく、月に一度では懐妊は無理なんじゃありませんか?」
「一番妊娠しやすい日を選んでいるんだけどなぁ」
乳母のマーサが運んできた香草茶をユイファが淹れ、シウは美味そうに啜り、蕎麦粉の焼き菓子を頬張る。仮にも皇子の口に入れていいものではないが、シウはこれがお気に入りだった。
「正室も嫌いだけど、その新しい女も卑屈で鬱陶しいんだ。正直、月一以上会うつもりはないよ」
もともといた側室の方には週に一度は通っており、一人が寵愛を独占している状況に変わりはない。結局二人分の嫉妬が最も身分の低い寵姫に向かうことになり、邸内の雰囲気がさらに悪くなっただけであるという。
「ほんと、何もかも捨ててどっかに逃げたいよ」
溜息まじりに扇であおぎながら、ふとユイファが拡げたままだった読みかけの本に目を落とす。
「やだなあ、この詩。ちょうど今の私みたいじゃないか」
眉尻を困ったように下げて、シウは開かれた頁の古詩を詠み上げる。
出ずるに北門よりす 憂心殷殷たり
終いに窶れて且つ貧し 我が艱みを知るもの莫し
已んぬる哉 天実に之を為せり 之に何をか謂わんや
王事我に適き 政事も一えに我に埤益せり
我れ外より入れば 室人交も徧く我を讁む
已んぬる哉 天実に之を為せり 之に何をか謂わんや
(北の門から出ると、憂いの心に鬱々とする
いつまでも窶れて貧乏なまま。私の苦労を誰もわかってくれない
どうしょうもない。天がそのようにしたのだ。何を言っても無駄だ
王様のお仕事が私に降ってくるし、税金ばかりが重くなる
私が外から家に帰れば、家族はかわるがわる私を責める
どうしようもない。天がそのようにしたのだ。何を言っても無駄だ)
思うに任せない仕事と家庭に疲れ切った役人の心情をうたった詩だが、シウは自分の心情にぴったりだと思ったらしい。
「何をおっしゃるんだか。貧乏でもないし、キリキリ仕事をしているようにも見えないし、税金だってかかってないでしょう?」
「でも疲れていて家族や側近にはいっつも嫌味を言われるよ?」
「疲れているのは夜遊びのしすぎであって、嫌味を言われるのはあなたの素行が悪いからですよ」
ユイファがまるでやんちゃな弟でも窘めるように言うと、シウは軽やかな笑い声を上げた。
「まあ、素行が悪いことは認めるけどね。でも、結婚する前から素行は悪かったんだ。何度も結婚はやめた方がいいと言ったし、今でも離婚して欲しいとお願いしているのに、何を意地になっているのだか、絶対に離婚に応じてくれないのはあっちだよ。母親にも側近にも、結婚はイヤだとずっと言い続けているのに、誰も私の話を真面目に聞いてくれないし」
ユイファはシウの女遊びが結婚を厭いてのことだと知っているし、また彼がわざと自らを泥濘の中に沈めるかのような、荒んだ生活を送っているのも知っている。彼が卑怯にも複数がかりで、ユイファの貞操を奪ったのも、けして実を結ぶことのない初恋に殉じることができなかった彼の、苛立ちと自己嫌悪が歪みに歪んでユイファにぶつけられたせいなのだと、シウ自身より告白を受けたこともある。
全てを許され、何でも与えられたように見える彼の人生が、実は全く思うに任せない不本意で窮屈なものであり、その桎梏から抜け出せない自身を彼は軽蔑さえしているようにユイファには見えた。シウにとって、死んだ夫に貞操を捧げようとしていたユイファは、ある意味では彼の分身でもあり、それ故にその貞操を奪わずにはいられなかったのだろう。
あの時、ユイファは彼と寝ることについては嫌ではなかった。
弟のような彼に好感を抱いていたし、ソールに媚薬を盛られて手籠めにされかかり、嫌な記憶を彼で上書きしたかった。
だが、彼はユイファと寝た直後に友人二人を寝室に引き込んで、三人がかりで彼女を嬲りものにしたのだ。そしてそれが初めからの計画されたことであった事実は、ユイファには到底、許せることではない。
圧倒的な身分差と彼らの持つ権力によって、ユイファは彼らの共有物に堕ちざるを得なかった。それはユイファの人としての尊厳を踏みにじる行為であるのに、彼ら三人は無邪気に、許されて当然だと思い込んでいた。特権に守られた歪んだ教育の果ての、あまりにも常識を逸したその無邪気さに、ユイファは呆れ、そして諦めた。
彼らがこの遊びに飽きるまで、玩具であるユイファは付き合うしかないのだ、と。
彼らが飽きるまでに半年もかかったことは、正直意外であった。その後もシウ一人がこの家に通い続けていることも。
皇子と、平民の未亡人。
あれだけのことをされて、それでもシウの訪問を受け入れている自分自身について、ユイファは不思議に思っていた。この繊細で優しく、残酷な青年を、ユイファはなぜだか、心から憎むことはできないのだった。
「二人っきりの時にわたしを抱かないのは、あの件についての贖罪のためなのですか?」
一度ユイファが聞いた時、シウの答えは否、であった。
「わたしはあの件を許してもらおうとは思っていないし、むしろ許してもらっては困る。生涯ずっと恨み続けてもらいたいし、高潔で誇り高いユイファが、自分を汚した悪い男に囲われているっていう状況に萌えるんだ。悪いことをしたとはわかっているから謝罪はするけど、贖罪はしないよ。抱かないのは、実はユイファのことが割りと好きになったからかな。好きな女は抱かない。私が抱くのは、愛していない女だけ」
その答えを聞いた時、見事なまでにねじくれてしまったシウの心を、本当に癒してくれる人が現れるのだろうかと、ユイファは少し、心配になった。
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