【R18】渾沌の七竅

無憂

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六竅

42、悪魔の契約

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 まさか最初から仕組んでいたのですか?そう、ユイファが聞こうとして口を開いた時、乳母のマーサが食事を運んできた。

「お嬢様、ほんにようございました。お身体の方はいかがですか?」
「……マーサ……!」

 乳母は寝台脇の卓に、土鍋で煮た粥を乗せた盆を置く。

「借金の方もこちらのシウ様とご親戚方が処理してくださったそうで、店も買い戻してこれからは生活も楽になりますよ。ほんとうによかったことで」

 マーサがにこにこと笑いながら湯気の出ている粥を土鍋から茶碗によそい、木の匙を添えてユイファに渡そうとするのを、横からシウがひょいと奪って、マーサに言った。

「あとは僕がするから。彼女にはまだ、説明していないこともあるし」

 マーサにむかって極上の笑みを浮かべると、マーサは年甲斐もなく赤くなって、

「では、これで失礼いたしますよ。ご用があればお呼びくださいませ」

と言い置いて部屋を出ていった。

 シウは茶碗の粥を木の匙でかき混ぜ、一匙掬うとふうふう息を吹きかけて冷ましてから、ユイファの口元に匙を運んだ。

「自分で食べられます」
「ダメ。言うことを聞かないとお仕置きするよ」

 お仕置き、と言われてびくりとシウの顔を見ると、いつもの穏やかな微笑みにちょっとだけ意地悪そうな笑みが浮かんでいる。思わずユイファの背筋が寒くなる。

「ほら、あーん」

 ユイファが逆らえずに口を開くと、温かい粥がそこに流し込まれる。

「美味しい?」

 シウの問いかけにユイファが頷くと、シウがくすりと笑った。ドロドロに煮た白い粥を見て、言う。

「……これ、何か別のものに似てるね。ふふ、ユイファは昨夜は僕のも飲んでくれたね。美味しかった?」

 粥を口に含んだまま、ユイファが目を見開いて硬直する。その見開いた瞳に自分が映るのを見て満足気に微笑んで、シウがユイファの耳元で囁いた。

「二人もユイファがとっても気に入ってね。また近いうちにくるってさ。……次はもっと面白いことをしようって、張り切っていたよ。……ふふふ、楽しみだね」

 甘い甘い毒を流し込むようなその言葉に、ユイファは真っ青な顔でシウを見つめる。

「どうして……」

 ユイファは昨夜の狂宴が最初から仕組まれていたものだと確信した。この優しく美しい悪魔が、自分を売り渡したのだと。

「どうしてって、二人が君を気に入ったからね。最初は借金を肩代わりする引き換えに、君を自由にしようと思ったけれど、意外と根が深くて苦労したよ。ソールがああも君に執着しているとは予想していなかったし。でもソールの件も片付いたし、借金はチャラになったよ。帝都の一等地の店を買い戻してあげるから、それを賃貸に出せば生活もできるしね。……時々、僕たちの相手をしてくれれば、後は自由だよ」

 ユイファは茫然とシウの笑顔を見上げ、ぶるぶると首を振った。

「い、いやあぁっ、あんな、あんなの、もう……」

 ユイファが昨夜自分に与えられた凌辱を思い出して目に涙を浮かべると、シウが一瞬目を見開いて、それからくすりと笑った。
 
「いやだった、ようには見えなかったけどなぁ。突然で、少し驚いた?でも、気持ちよかったでしょ?だってすっごい声でよがってたよ?実際、あのくらい強烈に感じないと、あの媚薬は抜けないんだよ。僕一人でも時間をかければ抜いてあげられなくはなかったけど、三人で一気にやる方が楽だと思ったからね」

 昨夜の嬌態を指摘され、ユイファは羞恥と恥辱で真っ赤になり、涙目でぶるぶると震えた。あんな身の内から灼けつくような快楽、生まれて初めてだった。しかし、男たちに身体を弄ばれた屈辱は二度と味わいたいとは思えない。

「いやですっ!あんなの……わたしは、娼婦でもあなたたち貴族の玩具でもなんでもないわ!」

 両手を握りしめてシウを睨みつけるユイファに、シウは首を傾げて思案顔をする。

「そう?あいつらは無茶苦茶やるけど、やり過ぎないように僕が監視するし、それほど悪くない話だと思うけどなあ。……でもどうしても嫌だというなら、無理強いはしないけれど。でも、その場合、借金の件はともかくとして、店の買戻しの件はどうしようかな」

 シウは言った。帝都の店舗については、エルとターシュがソールや役所と交渉することになっているのだという。

「君が彼らの相手をするのが嫌だと言い張るなら、僕からはもう、この件は頼めないな。店舗が買い戻せないとなると、この先の収入に困るよ。さっきの乳母は、これで生活が楽になるとすごく喜んでいたし、ようやく執事たちにも給料が払えるはずだったのだけど……」

 シウはユイファに妖艶な流し目をくれながら、言った。

「君さえあの二人の言うことを聞いてくれれば、苦労してきたここの使用人にも十分に報いてやれるのだけれど……。寮に入っている義弟くんの、学校の費用もカツカツだよね。僕たちでもっとお金を出してあげてもいいし……そうだ、知り合いの伝手で、皇宮で見習い勤務させてあげてもいいよ。皇宮で見習い出仕すると、文官登用試験の時にすごく有利になるそうじゃない?……全部、君次第だよ」

 苦労して仕えてくれていた使用人と、義弟の話をされるとユイファは弱かった。はっとした顔でシウの顔を見つめる。その揺れる瞳にシウが満足そうに目を細め、くすくすと笑った。

「そう、その顔。本当に君は素直で可愛いね。四つも年上なんてとても思えないよ。……亡くなった旦那さんは本当に、君に心を残しただろうね。僕たち三人でいっぱい可愛がってあげるよ。彼の分までね」

 シウはそう言って粥を掬ってはユイファの口元に運び、せっせと食べさせる。ユイファはそれに抵抗もできずに為すがままにされたが、その後の粥にはもう、何の味もしなかった。
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