【R18】渾沌の七竅

無憂

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六竅

33、媚薬

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 少年の上品そうな外見には似合わない下世話な発言に、スールーも虚を衝かれるが、いちいちこの少年はソールの痛い処を突くらしく、ソールは挑発されてカッカする一方だ。
 スールーは打ち合わせにない少年の挑発に、慌てて間に入る。

「話が違いますよ、この男はこちらで好きに嬲っていいという約束です。おい、連れていくぞ」

 スールーが戸口で控えている破落戸ごろつきに指示を出す。彼らがシウの両脇を引っ立てて、引きずって部屋から連れ出そうとする。ソールに腕を掴まれて寝室に連れ込まれそうなユイファが、悲鳴をあげ、泣きながらシウの名を叫ぶ。

「シウ様! 嫌! 離して! シウ様に触らないで! シウ様―!」
「ユイファ、どうせ、おっさんは最後までできないから大丈夫!」
「うるさい、黙れ!」
「シウ様! シウ様―! いやー!」

 ユイファの懇願も虚しく、シウを連れた破落戸とスールーと呼ばれた男は部屋を出ていき、ユイファはソールに腕を掴まれて強引に寝室に連れ込まれる。

「やめて! 離して!」

 後ろ手に縛られた状態では碌な抵抗もできない。そのまま扉を閉められ、力任せに寝台に投げ落とされた。横向きに寝具の上に身体を打ち付け、一瞬、息が止まる。続いてソールが膝を乗り上げて寝台に上がってくるのを目の端に捉え、必死に尻と脚で後ろにいざってソールから逃れようとするが、すぐに掴まって寝台に押し付けられ、ソールに圧し掛かられて強引に唇を奪われた。

(いや! 穢い! いや!)

 恐怖よりも嫌悪感で身を捩り、わずかに自由になる脚をばたつかせてソールを蹴り上げようとするが、裳裾の長さが邪魔をして効果はなく、足を押さえつけられて動きも封じられてしまう。ソールの舌がねっとりとユイファの唇を舐め回すのが気持ち悪くて、必死に唇を引き結んでその侵入を拒むが、呼吸のためにわずかに開いたところに強引に割り込まれる。

(嫌!)

 咄嗟にユイファはその舌を噛むと、その痛みに驚いたソールに突き飛ばされ、さらに怒りに任せて頬を思いっきり張られる。これまで、そんな暴力にさらされたころのないユイファは、ソールへの恐怖と怒りと、そして屈辱で身体の中が滾るようだった。

「大人しいふりして、このアマが! いうことをきけ!」

 男の言葉に、ユイファは黒い瞳に憎しみを宿して睨みつける。

「とうとう本性を出したってわけ? いい人ぶって、中身は下種だったってこと?」

 ユイファは嫋やかな見かけをしているが、けして気が弱いわけではない。むしろ、気が強くなければ、破産した商家の未亡人などやってこられないのだ。その意味でも、ソールはユイファの内面を見誤っていたと言える。

「いつまでそうやって虚勢が張れるかな」

 唇の端の血を拭いながら、忌々しげにソールが吐き捨てた。その目には怒りと暗い情欲が燃え盛っている。嫌な雰囲気を感じてユイファが身を固くするのを、ソールは唇を歪めて笑い、懐から小さな小瓶を取り出した。

「……これ、どういう薬だと思うか?……スールーに準備させた、媚薬だ」
「媚薬……?」

 ユイファが眉を顰めると、ソールはいかにもいやらしい笑みを浮かべる。

「これを飲んだ女は、男が欲しくてたまらなくなるんだ。恥らいも理性も何もかも飛んで、男を求めてよがり狂うんだ。……見せてくれよ、私にも。お前のその貞淑な仮面を剥いで、女の欲を剥き出しにする姿を」
「ば、ばかじゃないの、そんな薬使って……」

 死んだ夫とは心から愛し合ってはいたが、二人の夜の生活は至ってノーマルで、どちらかと言えば淡泊だった。夫もユイファも、濃密な身体のふれあいには重きを置かない方で、身体を重ねなくとも自分たちの繋がりに些かの疑問も持たなかったからだ。
 媚薬のような怪しげな薬など使ったことはなかったし、そういうものに興味もなく、むしろ恐ろしいと思っていた。だからユイファは、そんな薬を使ってまで自分の身体を手に入れようとする男の心情を、ただ浅ましいと思うだけだ。

「ずっと夢に見ていたんだ、お前を……この手に抱いて、犯して、汚して……私のものにする日を!」
「やめて! わたしは夫を愛しているんです! 他の誰のものにもなりません!」

 ユイファは情欲を露わにする男に、軽蔑を含んだ憎しみの視線を投げかけ、首を振って不同意を表明する。

「ふん、あの青二才がお前を狙っていたのを気づかなかったとは言わせんぞ」

 ソールが劣情と嫉妬を交えた表情で言うと、ユイファは驚いて首を振った。

「シウ様とはそんな関係ではないわ! あの方はわたしなんかには不釣り合いな、高貴なお方です!」
「高貴だろうがなんだろうが、あの年頃の男なんてやりたい盛りに決まっておるわ!」
「シウ様をあんたみたいな下種と一緒にしないで!」

 ソールは左手でユイファの顎をつかむと指で唇をこじ開け、右手に持った小瓶のコルク蓋を口で抜いて、唇に当てて中身を無理矢理に流しこもうとする。ユイファも首を振って抵抗するが、男の力にはかなわず、一部を口の端から零しながらも甘ったるい匂いのする怪しげな薬を口に入れられ、結局は嚥下させられてしまった。
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