【R18】渾沌の七竅

無憂

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五竅

35、甘い毒*

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「……全部、挿いった……痛くない?」

 レイナの中が彼の剛直でいっぱいにうめられ、その熱と圧迫感にレイナは苦し気に眉を顰めて耐える。何度も何度も痛くないか聞かれる度に、レイナはぶんぶんと首を振った。

「じゃあ、動くよ……」
「あ……」

 ゆっくりと、男の肉楔が引き抜かれていく。

(いかないで……)

 埋め込まれたものが失われる喪失感に、レイナは思わず、恭親王の堅い肩に両手で縋りついていた。ギリギリまで引き抜かれたそれが、今度は一気に、最奥まで突き入れられる。

「はうっ……ああっ……」

 再びゆっくりと引き抜かれ、一気に打ち込まれる。抜き差しをくりかえされて、内部が擦りたてられ、結合部から快感が沸き上がって来る。

「ああっ……はああっ……」
「すごい……奥まで絡みついて……はっ……」
 
 恭親王が、端麗な顔を少しだけ歪ませ、荒い息を吐く。その熱い息が耳元にかかると、レイナは快楽で脳まで蕩かされて行くような気がした。

 深く、浅く、ときおり角度を変えながら、男はレイナの中を穿っていく。片脚を肩に担ぐようにして、レイナの一番奥深い場所に突き入れられると、レイナの身体に電流のような強烈な快感が走る。

「あああっあっそこはっ……だめっ……あああっ」
「だめというのは、イイってことか」

 男はその場所を重点的に抉るように突き、時に腰をグラインドさせるように動かす。

「やあっあああっああっあああっ……あっだっ……だめっ……」
「うわっ……締まってきた……お前……すごいな……くっ……」

 激しく腰を打ち付けながら、恭親王が妖艶な黒い瞳でレイナを見下す。その目は情欲にぎらつき、普段の涼やかな印象は消え去っていた。額は汗ばんで黒い髪が貼りつき、眉は悩まし気に寄せられて、壮絶な色気を発散する。レイナはその魔性の匂いすらする美しい姿にさらに快楽を煽られ、無意識にぎゅるぎゅると彼を締め付けていた。

「はあっ……ああああっ……もうっ……もうっ……あああああっ……ああ―――――っ」
「くっはあっ……締めすぎ……」

 担がれた脚の爪先までピンと伸ばしてレイナが達しても、男は構わずに責めたて続ける。ぐちゅぐちゅとした水音と、肌をぶつける音が寝台の上に響く。レイナはさっきからずっと嬌声をあげ続けていて、すでに意味のある言葉を発していなかった。

 達して敏感になったところをさらに擦られて、レイナは喘ぎ、白い喉をさらして頭を反らせ、黒い髪を振って乱れていく。

「ああっあああ―――――っ、あああっ、やっ、ああっ、やあっあっあっああ―――――っ」

 あっけなくもう一度達し、長い絶頂に茫然としているレイナを、男は眉を顰めて、だがまだ余裕のある表情で見下ろし、なおも責めるのをやめようとしない。

「気持……いいんだ……すごいね、絡みついて締め上げてくる……僕から……全部搾り取ろうと
するみたい……はあっ……」
「ああっああああ――っあっあっあっ……」
 
 レイナの両膝の裏をその胸に押し付け、真上から寝台に釘づけるようにさらに深く深く内部を抉る。

「ああ……僕も、気持ち、いい……こんなに、いいのは、久しぶりかも……」

 相性がいいのかな、とそんなことを呟きながら男はさらに速度を上げて腰を打ち付ける。レイナはもはや羞恥も何もかもかなぐり捨てて、ただひたすら首を左右に振り、黒髪を乱して枕を指で握りしめ、甲高い嬌声を上げて男から与えられる快楽に耐えている。何度も最奥を抉られて、レイナが再び達する。意識が真っ白に焼き切れるほどの快楽の海に投げ出され、レイナがはくはくと息を吐いていると、男が全く力を喪っていない、肉楔を抜き取る。

 この甘い責め苦からようやく解放されるのか、とレイナが思ったのも一瞬のこと。

 くるりと身体を裏返されて、俯せにされると、腰を高く掲げられ、あっと思う間もなく背後から一気に突きあげられる。

「やあああ―――――――っ」
 
 その一突きで急激に達してしまい、レイナの両手は自分を支えることもできなくなり、顔から枕につっぷして頽れるが、そのまま背後からガンガンに犯され続ける。男が両手でレイナの腰を持ち上げ、獣のように激しく打ち込んでくるのを、枕に頭をつけてただ受け止めるしかない。先ほどと打って変わった荒々しい行為に、なすすべもなく翻弄される。肌と肌がぶつかる音と、淫靡な水音、レイナの意志とは関係なく漏れ出る嬌声。

「ああっ、やっ、あああっ、ふああっ、やああっ、はああっ、んあああっ」

 男が腰を打ち付けるリズムに合わせて、身体の奥から絞り出されるように声が出てしまう。レイナの中から溢れ出た愛液が、男が肉茎を出し入れするたびに掻き出され、溢れ出て太ももを伝っていく。

「すごいな、ぐずっぐず……いやらしく僕を飲み込んでる……清楚な顔して、意外と淫乱だったんだ……」

 男がレイナの背中に圧し掛かるように身体を折り曲げ、耳元で意地悪く囁く。熱い息がさらにレイナの脳を灼いていく。

「や、はあっ、い、いあ、……ああっあああ―――――っ」
「ああ、また締まる、……イくの何度目?……くっ……悔しいけど、僕も、いい……はあっ……」

 男はレイナの耳を唇で咥え、片手でレイナの胸を弄りながら、腰を振るのをやめない。

「そろそろ、僕も、限界……出すよ……くっはあっ」

 男の抽挿のスピードが上がる。叩きつけるように腰がぶつかり、荒々しく内部を擦りたてられて、レイナが何度目かわからない絶頂を迎えると、その収縮する膣の動きに身を任せレイナの中に熱い精を吐き出す。数度出し入れを繰り返して全ての精を出し切ると、ぐったりと動けないレイナを背後から抱き込むようにして、耳元で囁いた。 

「はあっ……はあっ……レイナ……すごい、いい……」
「……でん、……か……」

 まだ繋がったままの状態で初めて名を呼ばれ、レイナは快楽の余韻に浸りながら、幸福な気分に包まれていた。
 恭親王の大きな、だが繊細な指が、乱れたレイナの黒髪を梳いている。

 うっとりと目を閉じようとした、その時、だがレイナの幸福はあっさりと打ち砕かれる。

「不思議だ……お前のことなんか、愛していないのに、すごいよかった……何でだろう……」
 
 これ以上ないほど優しい腕、低く甘い声。なのに――。

「すごくよかったから、これからも何度も求めると思うけど、誤解するなよ。……お前のことを、愛することはないから……」

 ずるりと出ていく男の感触が、レイナの歓びと熱を一気に冷ましていく。

『愛されて暮らしたいというのなら、僕のところはだめだ』

 以前、恭親王に言われた言葉がふいにレイナの頭に蘇える。
 信じられないほどの優しさと気遣いの裏で、男がレイナに対して決定的に欠いているもの。

 愛と、情熱――。

 後始末を終えてさっさと夜着を着こんでいる男の姿を見て、レイナは恭親王の言葉の意味をようやく理解する。
 この氷のように冷たい優しさと、快楽を与えられて、しかし自分は愛されないまま生きていくのだ。

 茫然としているレイナに向かい、恭親王は少し首を傾げ、さっき彼が剥ぎ取ったレイナの夜着を差し出す。

「……少し、やり過ぎたか?乱暴だったかな……?」

 何事もなかったようにレイナを気遣う男の言葉に、レイナははっと我に返る。

「いえ……だいじょうぶ、です……」
「そう。今夜は一回だけにするけど、慣れてきたら回数増やしてもいい?」
「……殿下の、お心のままに」

 辛うじて答えるレイナを見て、恭親王は身体が辛いせいだと思ったらしく、レイナの肩に夜着を着せ掛けてしごきまで結んでくれた。横になると、恭親王の胸がすぐそばにあった。
 さっき自分を蹂躙した堅い身体。紗幕の中に充満する、汗と、精の匂い。

 いつものように、男は目を閉じると驚くべき速さで眠りに落ちていた。薄暗がりの中で、規則正しい寝息がレイナの耳に聞こえる。

『僕にだって、人並みに欲はあるんだよ。――好きでもない女を抱ける程度にはね』

 恭親王が自分を愛していないのは明らかで、一片の疑いの余地すらない。
 レイナと恭親王の身分の隔たりは大きい。辺境の一子爵の娘であるレイナでは、この閨に侍ることですら望外の温情と思わねばならない。さらに彼は、蛮族に囚われながらも策を以て彼らを殲滅し、無事に帝都に帰りついた英雄だ。皇上が御位を譲りたいと思うのはこの皇子だと噂されている高貴な皇子に対し、愛を請うなど僭上な望みであるとも理解している。

 恭親王がレイナを側室にすると決めたのは、愛故でなく、肅郡王の遺言のためだ。

 わかっている。お側に仕えるだけで、寝台を供にするだけで、それ以上のことは望むまい。たとえ愛されずとも、自分を救い、故郷を救ってくれたこの人の側にいられるだけでいい。
 愛されたい、愛して欲しいと願わないと言えば嘘になるが、多くを望むまいとレイナは自分に言い聞かせていた。

 しかし、その恭親王自身が、レイナが生涯側にいることを許してくれた。レイナをできる限り守ると誓ってくれた。レイナが幸せになれるよう、努力すると言ってくれた。レイナが抱いて欲しいと言えば、抱いてくれた。

 今までの誰よりも優しく、甘い時間。繰り返し与えられる蕩けるような快楽は、レイナをして自分が愛されていると錯覚させるには十分だった。

 それなのに――。 

『誤解するなよ。……お前のことを、愛することはないから……』

 わかっていたつもりだったが、ああまではっきりと断言されて、レイナは打ちのめされた。
 知らず知らずのうちに、いつかは愛を分けてもらえると、期待してしまったのだろうか。

(わかっていたはずなのに――)

 レイナは、目を閉じた。涙が溢れて目じりから落ち、そのまま枕を濡らしていく。
 まだしも、徹頭徹尾冷淡に扱われ、身体だけを乱暴に貪られた方がましだった。何の期待もせず、それでも、レイナは彼を愛し続けると言い切れる。でも――。

 彼はあまりに優しく、あまりに冷たい。
 この人が与えてくれる優しさと快楽は、甘くて冷たい毒だ。
 いつか、レイナの中に侵食し、レイナを壊すだろう。

 それならば、それでもいい。
 壊れるまで、この人の側にいよう。見返りのない愛を注ごう。
 レイナの、一生分の涙が涸れるまで――。
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