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四竅
37、生贄*
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蝋燭の灯りの下で、恭親王の白い肢体が浮かび上がる。蜉蝣のように細く儚く、それでいて均整のとれた、しっかりと鍛えられた身体。肌は吸い付くように滑らかできめ細かく、長い手足は神の寵童にこそ相応しいと思われるほど、しなやかでバランスが取れている。
だが今、その美しき恭親王の肉体は、むくつけき北の蛮族の王に組み敷かれていた。毛むくじゃらの腕が白い身体を抱き込み、北風に曝され日差しに焼かれてガサガサになった掌が、その滑らかな肌を余すところなく撫でまわし、節くれだって黒い毛の生えた手の甲が首筋を撫で上げる。白い胸に、腹まで毛におおわれた巨躯が圧し掛かり、躊躇いなく蹂躙する。屈辱と苦痛、恐怖に苛まれながら、恭親王はけして声を上げまい、涙を見せまいとして、ぐっと奥歯を噛みしめて耐えていた。
しかし、デュクトによって慣らされた身体は、苦痛の下から容易に快感を拾ってしまう。堪えているのは苦痛か、それとも快楽か。
美しい眉根を寄せ、美貌を歪ませて、ただ、身をすくませて嵐の過ぎ去るのを待つ恭親王の心を知ってか知らずか、獰猛なボルゴールの淫楽は止む兆しすら見せなかった。
食事の後、ボルゴールの侍童が恭親王だけを族長の天幕に呼び出した時、恭親王は肅郡王と成郡王の貞操が守られたことにホッとしていた。兄や甥が、男に汚される現場も見たくなければ、自身が男に犯される現場も見られたくはない。少なくとも、今夜最悪の事態は避けられたことに、恭親王は天と陰陽に密かに感謝した。
恭親王を呼びに来た侍童は、北の民族としては肌も白く、整った目鼻立ちをしており、ボルゴールの「寵愛」を受けているのだろう。閨の相手を女に限らないというのは本当なのだと、恭親王は改めて思う。陰陽を奉じない彼らは、同性愛をタブー視しないのだろう。
が、その侍童が向けてくる嫉妬の眼差しには辟易した。好きで抱かれに行くわけじゃない。お前があの野蛮人の心をしっかり掴んでおかないからだ、と苦情の一つも言い立てたいくらいである。
それから、殊更に大きく立派な天幕に連れてこられ、まともな会話すらなく低い寝台に押し倒されて現在に至るのだ。
いつまで――この苦痛に耐えなければならないのか。
当初、デュクトとは段違いのボルゴールの巨体と、荒々しい行為に苦痛しか感じなかった身体もようやく慣れ、次第に快感を拾い始めている。
(いやだ――感じたくない――)
痛みをやり過ごすために吐いていた息が、甘い喘ぎに変わり始めていた。
(たすけて――たすけて――メルーシナ――たすけて――)
ゾーイに預けたために、指輪が近くにないことが恭親王の不安をいっそう煽る。身体が斧で、切り刻まれていくようだ。
恭親王はボルゴールに貫かれながら、その交接が本質的にデュクトとのそれと異なることに気づいた。
(これは――人、ではない――?)
身体の中に入っていくる〈気〉の感覚が、デュクトとは全く違っている。
ぞわぞわと、内部から蝕まれるような、おぞましい〈気〉。
デュクトとの行為は嫌だが、入ってくる〈気〉は心地良く、吐かれる精が含む〈陽の気〉は彼の魔力に溶けて彼の力を増す。
だが、この忌まわしい男の〈気〉はそうではない。
全身を〈気〉が巡る度に、自身が爛れ、腐っていくような不快感に苛まれる。このまま行為を続ければ、いつか自分の身体は腐敗し、崩壊してしまうのではないかと、恭親王は本能の部分で懼れた。それほど、今自分に圧し掛かる男は異質であった。
(いっそ――壊して欲しい――何も――感じなくなるまで――)
彼の願いも虚しく、身体の奥から立ち昇る、耐え難い快楽に翻弄されるまで、おそらく、あと少し――。
だが今、その美しき恭親王の肉体は、むくつけき北の蛮族の王に組み敷かれていた。毛むくじゃらの腕が白い身体を抱き込み、北風に曝され日差しに焼かれてガサガサになった掌が、その滑らかな肌を余すところなく撫でまわし、節くれだって黒い毛の生えた手の甲が首筋を撫で上げる。白い胸に、腹まで毛におおわれた巨躯が圧し掛かり、躊躇いなく蹂躙する。屈辱と苦痛、恐怖に苛まれながら、恭親王はけして声を上げまい、涙を見せまいとして、ぐっと奥歯を噛みしめて耐えていた。
しかし、デュクトによって慣らされた身体は、苦痛の下から容易に快感を拾ってしまう。堪えているのは苦痛か、それとも快楽か。
美しい眉根を寄せ、美貌を歪ませて、ただ、身をすくませて嵐の過ぎ去るのを待つ恭親王の心を知ってか知らずか、獰猛なボルゴールの淫楽は止む兆しすら見せなかった。
食事の後、ボルゴールの侍童が恭親王だけを族長の天幕に呼び出した時、恭親王は肅郡王と成郡王の貞操が守られたことにホッとしていた。兄や甥が、男に汚される現場も見たくなければ、自身が男に犯される現場も見られたくはない。少なくとも、今夜最悪の事態は避けられたことに、恭親王は天と陰陽に密かに感謝した。
恭親王を呼びに来た侍童は、北の民族としては肌も白く、整った目鼻立ちをしており、ボルゴールの「寵愛」を受けているのだろう。閨の相手を女に限らないというのは本当なのだと、恭親王は改めて思う。陰陽を奉じない彼らは、同性愛をタブー視しないのだろう。
が、その侍童が向けてくる嫉妬の眼差しには辟易した。好きで抱かれに行くわけじゃない。お前があの野蛮人の心をしっかり掴んでおかないからだ、と苦情の一つも言い立てたいくらいである。
それから、殊更に大きく立派な天幕に連れてこられ、まともな会話すらなく低い寝台に押し倒されて現在に至るのだ。
いつまで――この苦痛に耐えなければならないのか。
当初、デュクトとは段違いのボルゴールの巨体と、荒々しい行為に苦痛しか感じなかった身体もようやく慣れ、次第に快感を拾い始めている。
(いやだ――感じたくない――)
痛みをやり過ごすために吐いていた息が、甘い喘ぎに変わり始めていた。
(たすけて――たすけて――メルーシナ――たすけて――)
ゾーイに預けたために、指輪が近くにないことが恭親王の不安をいっそう煽る。身体が斧で、切り刻まれていくようだ。
恭親王はボルゴールに貫かれながら、その交接が本質的にデュクトとのそれと異なることに気づいた。
(これは――人、ではない――?)
身体の中に入っていくる〈気〉の感覚が、デュクトとは全く違っている。
ぞわぞわと、内部から蝕まれるような、おぞましい〈気〉。
デュクトとの行為は嫌だが、入ってくる〈気〉は心地良く、吐かれる精が含む〈陽の気〉は彼の魔力に溶けて彼の力を増す。
だが、この忌まわしい男の〈気〉はそうではない。
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(いっそ――壊して欲しい――何も――感じなくなるまで――)
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