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四竅
32、侵入者
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数日体調を崩していた恭親王が朝練に復帰した。やや病みやつれた恭親王には、抜き身の剣のような冷たく鋭い威厳が増し、どこか超然とした雰囲気を身に纏って、例の剛力を初めとする信奉者たちはただうっとりと見惚れるばかりだ。デュクトとゾーイの一件については、宝華楼の娼妓を取り合った痴情のもつれとして処理され、騒動の元になったデュクトとゾーイは一週間の謹慎処分を受けた。
ゾラとトルフィンは、年かさの傅役たちから蚊帳の外に置かれていることに不満はあったが、しかし敏い彼らは主と傅役たちが何か、大きな秘密を抱えていることに気づいていた。まだ若い彼ら二人には抱えられないほどの秘密なのだと判断されている以上、そこに無理に踏み込むことはできない。高貴な者に仕える以上、秘密は付き物だ。それに参画しうるだけの、器量を身に着けるまで、ただ見守るしかないのだ。
廉郡王は宿舎での様子より、どうやら主従の間にただごとでない騒動があったことを嗅ぎ取ったが、ゲルフィンがどれだけゾーイやトルフィンに食い下がっても、彼らは一言も事情を漏らさなかった。
やがて冬も深まり、皇子ら一行が帝都に帰る日も近づいてきた。新年の行事は皇宮でこなさねばならない。
北の砦の冬は厳しいが、その歳は特に厳冬であった。例年は、年が明けてから凍る大河ベルンが、臘月の半ばに凍ったのである。河が凍る。それは、異民族の侵入の、兆しでもあった。
出立を数日後に控えたある日、皇子たち一行は、近隣の村へ最後の視察に出て、村はずれの草地で焚火を囲みながら、少し遅めの昼食を取っていた。
耳のいいゾーイが、啜っていた湯から顔をあげ、いぶかし気に首を傾げる。
(何の音だ――?)
すでに食事を終えて、細い木の枝で焚火を所在なげに掻き回していた恭親王が、しきりに首筋をさすっている。ゾラが不思議そうに恭親王に尋ねた。
「殿下、さっきから、首がどうかしたんすか?」
「なんか、首筋がチリチリするんだ。虫にでも刺されたかな?」
「こんな寒空に虫なんか出るっすかね?」
ゾーイが地面に耳をつけて音を確かめる。それを見た恭親王が、ゾーイの行動を見て、首を傾げた。
「どうした? ゾーイ」
「いえ、何か、おかしな音が聞こえたような気がして……」
「おかしな音?」
「ええ……何か……これは……馬蹄……? しかしこんな大量な……」
地面からは、明らかな馬蹄の音が響いてきていた。間違いなく、武装した騎馬隊がこちらに向かってくる音だ。
「殿下、たくさんの騎馬の兵がこちらに向かってきます! すぐにお支度を!」
廉郡王が驚いて目を瞠る。廉郡王もまた、首筋をしきりに気にしていた。
「騎馬隊? 砦から迎えにきたのか?」
「それには方向がおかしい。砦とは逆方向……河の方から近付いてきます!」
大河ベルンの方向から近付く騎馬隊。その意味するものは河の対岸の異民族以外の何者でもなかった。一行は食べかけの食事や装備は捨てて、身支度をすると急いで馬に乗り、隊列を整えて砦へと向かおうとした。だが、騎馬の民である異民族の馬術は、彼らの技量を大きく上回る。背後の立ち枯れた森から鳥が一斉に飛び立ち、振り返れば黒々とした一団が砂埃を挙げながら近づく姿が目に入った。
「殿下らを守れ!」
一行と護衛を含めて約二百騎であるが、近づく一団はざっと見ても千騎はいそうであった。みるみる距離を詰められ、荒地に雪崩こんできた騎馬の集団は弧を描くように散開して、瞬く間に包囲の輪を閉じようとしている。
先を行く廉郡王ら一行とダヤン皇子らの一行に、どうしても馬術の練度が低い肅郡王と成郡王が遅れ気味になる。恭親王は彼らの背後に就くようにして二人を励ましながら、何とか前に着いていこうとする。デュクトとゾーイ、ゾラが皇子たち三人を庇い、ゲルとトルフィンは足手まといにならぬように必死に駆ける。
追って来る一団から一騎が飛び出し、矢をつがえて放つ。過たず矢は肅郡王の乗馬の尻に刺さり、馬が倒れ、肅郡王は馬上から投げ出される。その馬の混乱に引きずられて、成郡王の乗馬も後ろ脚で立ち上がり、制御できずに成郡王も馬から落ちる。年かさの者が少年らを庇う隙に、彼ら主従は異民族の騎馬隊の包囲の輪の中に閉じ込められた。
幸い、二皇子とも落馬の衝撃は命に関わるほどでなく、成郡王は軽い打ち身程度、肅郡王は肩を強く打ち付けて痛そうではあったが、周囲をすっかり異民族の騎馬隊に囲まれた絶望的な状況下では、とにかく耐えてもらうしかない。
「デュクト、ゾーイ。変に刺激しないで、時間を稼げ。我々がこいつらを引きつければ、その間に少なくともグインとダヤンは無事砦に着ける」
小さな、しかし凛とした声で恭親王が言うのに、ゾーイははっとする。
「彼らが砦で状況を知らせれば、我々を救う道もできるだろう」
「殿下……」
歳若い少年三人を庇って立つ彼らの前に、ひときわ見事な武装をした髭の濃い騎馬武者が進み出る。
鉄の兜に、鉄の鋲を打った鎧。髪は背中に長く垂れ、一本に編まれている。
「砦の兵か。……それにしても年が若いな」
その隊の責任者らしい髭武者の言葉に、デュクトが返す。
「我々は村の視察の途中だった。いったいこれは何事か?」
髭武者はニヤリと笑って言った。
「大河ベルンが凍れば、河の南も我々のものだ。天の恵みを受け取りに来ただけのことだ」
(ただの略奪行にしては、大規模すぎる)
ゾーイが油断なく目を光らせる。鎧兜に身を固めた異民族に対し、皇子ら一行は単なる視察の途中であるから、せいぜい革鎧を着た程度である。
「あの目障りな砦にも挨拶しようとは思っていた。おぬしらとここで出会ったのは、幸先がよいわ」
「我々に砦への道案内を頼もうというのか?」
ゾーイの皮肉に、髭武者が笑う。
「道案内など必要ない。ただ、おぬしらの首は、手土産にちょうどよいと思っただけだ」
「首などもらっても喜ぶ性癖の者などおらぬぞ。手土産ならば、相手の喜ぶものを持っていかないと、そもそも砦の中に入れてもらえないではないか」
まだ、完全に声変わりしない少年の声が、軽く笑みを含んで指摘する。
髭武者が不愉快そうに眉を顰めるのに、少年は恐れげもなく尋ねる。
「そなたの名を聞こうではないか。そして改めて尋ねよう。多勢に無勢、いきなり矢を射かけるのが誇り高き大河ベルンの北側を支配するベルンチャ族の礼儀か?」
見ると、周囲に守られるように頭一つほど背の低い、ほっそりした少年が彼を見上げて嫣然と微笑んでいる。まるで少女かと見まごうような、美しい微笑みだ。
「なんだ、まだ娘っ子のようなガキではないか。そのようなこと、語る必要がないわ!」
「いきなり矢を射かけるのがその方らの礼儀ならば、我々も矢を射かけないと失礼にあたるではないか。我ら中原の者からすれば野蛮な風習だが、そなたらの礼儀に合わせてやろうというに、話の通じぬ髭よの」
髭、と揶揄されて、馬上の武者が激昂する。おのれ!と剛剣を抜き放ち、周囲の緊張が高まるが、恭親王はなおも嘲笑をやめない。だがその首筋は、〈王気〉が発する警告を感知してチリチリと灼けるようであった。
「おやおや、名前も名乗らず剣を抜くとは、誇り高き大河の民は随分と気が短いのだな。そんなに血の気が多くては、興奮のあまり鼻血を吹くのではないか?それとも、鼻血でも吹いて少しばかり血抜きをしてちょうどよいくらい、血の気が無駄に多い髭ということか」
「黙れ小童が!」
激情にかられて打ちかかる髭武者の剣を、ゾーイがはじき返し、デュクトが正確に喉元に剣を突き付ける。その時、騎馬隊の中から威厳のある声が響いた。
「やめよ!」
進み出たのは見事な鷹の羽飾りのついた黄金色に輝く兜をかぶり、鋲打ちの鎧の上に精緻な刺繍の入った陣羽織を羽織った偉丈夫だ。黒い口髭は艶やかで髪はやはり編んで、背中に垂らしている。
「その者はラグージャと申して余が一軍を任せる腹心、少々気が短い奴でな。無礼は余が代わりに詫びよう。剣を引かれよ」
デュクトがちらりと恭親王を見るのに、彼が頷くと、デュクトは剣を下ろした。
馬上の偉丈夫は恭親王を見て目を細める。
「これまた、見たこともないほどの、見事な金の龍の〈王気〉よの。余は北方ベルンチャ族の王、ボルゴール。北の砦には今、五人の帝国の皇子が滞在中と聞くが、貴公らははそのうちの三人とお見受けする」
「私が皇子と知ってなお、馬上から見下ろすか」
包囲されても一歩も引かぬ傲岸とも言える皇子の態度に、ボルゴールと名乗る偉丈夫は黒い目を細める。
「我らが礼は常に馬上にて為される。貴公らも馬に乗られよ」
馬に乗せても皇子ら一行を逃さない自信があるのであろう。皇子たちは素直にそれぞれの乗馬に跨る。肅郡王の馬は怪我をしているので、肅郡王は侍従武官のバードの馬の後ろに乗った。
「殿下の御名をお聞きしていなかったな」
ボルゴールの言葉に恭親王は薄く笑う。
「我らがしきたりで、皇族は名を名乗らぬ。わが爵位は親王、称号が恭だ」
「ほう、では皇后の唯一の子、月の名を持つ皇子であるか。……ついて参られよ、我らが客人としてベルンの北岸に招待しよう」
こうして恭親王、成郡王、肅郡王の三皇子らと、その近習たちは、ベルンチャの王、ボルゴールの客人とされた。
ゾラとトルフィンは、年かさの傅役たちから蚊帳の外に置かれていることに不満はあったが、しかし敏い彼らは主と傅役たちが何か、大きな秘密を抱えていることに気づいていた。まだ若い彼ら二人には抱えられないほどの秘密なのだと判断されている以上、そこに無理に踏み込むことはできない。高貴な者に仕える以上、秘密は付き物だ。それに参画しうるだけの、器量を身に着けるまで、ただ見守るしかないのだ。
廉郡王は宿舎での様子より、どうやら主従の間にただごとでない騒動があったことを嗅ぎ取ったが、ゲルフィンがどれだけゾーイやトルフィンに食い下がっても、彼らは一言も事情を漏らさなかった。
やがて冬も深まり、皇子ら一行が帝都に帰る日も近づいてきた。新年の行事は皇宮でこなさねばならない。
北の砦の冬は厳しいが、その歳は特に厳冬であった。例年は、年が明けてから凍る大河ベルンが、臘月の半ばに凍ったのである。河が凍る。それは、異民族の侵入の、兆しでもあった。
出立を数日後に控えたある日、皇子たち一行は、近隣の村へ最後の視察に出て、村はずれの草地で焚火を囲みながら、少し遅めの昼食を取っていた。
耳のいいゾーイが、啜っていた湯から顔をあげ、いぶかし気に首を傾げる。
(何の音だ――?)
すでに食事を終えて、細い木の枝で焚火を所在なげに掻き回していた恭親王が、しきりに首筋をさすっている。ゾラが不思議そうに恭親王に尋ねた。
「殿下、さっきから、首がどうかしたんすか?」
「なんか、首筋がチリチリするんだ。虫にでも刺されたかな?」
「こんな寒空に虫なんか出るっすかね?」
ゾーイが地面に耳をつけて音を確かめる。それを見た恭親王が、ゾーイの行動を見て、首を傾げた。
「どうした? ゾーイ」
「いえ、何か、おかしな音が聞こえたような気がして……」
「おかしな音?」
「ええ……何か……これは……馬蹄……? しかしこんな大量な……」
地面からは、明らかな馬蹄の音が響いてきていた。間違いなく、武装した騎馬隊がこちらに向かってくる音だ。
「殿下、たくさんの騎馬の兵がこちらに向かってきます! すぐにお支度を!」
廉郡王が驚いて目を瞠る。廉郡王もまた、首筋をしきりに気にしていた。
「騎馬隊? 砦から迎えにきたのか?」
「それには方向がおかしい。砦とは逆方向……河の方から近付いてきます!」
大河ベルンの方向から近付く騎馬隊。その意味するものは河の対岸の異民族以外の何者でもなかった。一行は食べかけの食事や装備は捨てて、身支度をすると急いで馬に乗り、隊列を整えて砦へと向かおうとした。だが、騎馬の民である異民族の馬術は、彼らの技量を大きく上回る。背後の立ち枯れた森から鳥が一斉に飛び立ち、振り返れば黒々とした一団が砂埃を挙げながら近づく姿が目に入った。
「殿下らを守れ!」
一行と護衛を含めて約二百騎であるが、近づく一団はざっと見ても千騎はいそうであった。みるみる距離を詰められ、荒地に雪崩こんできた騎馬の集団は弧を描くように散開して、瞬く間に包囲の輪を閉じようとしている。
先を行く廉郡王ら一行とダヤン皇子らの一行に、どうしても馬術の練度が低い肅郡王と成郡王が遅れ気味になる。恭親王は彼らの背後に就くようにして二人を励ましながら、何とか前に着いていこうとする。デュクトとゾーイ、ゾラが皇子たち三人を庇い、ゲルとトルフィンは足手まといにならぬように必死に駆ける。
追って来る一団から一騎が飛び出し、矢をつがえて放つ。過たず矢は肅郡王の乗馬の尻に刺さり、馬が倒れ、肅郡王は馬上から投げ出される。その馬の混乱に引きずられて、成郡王の乗馬も後ろ脚で立ち上がり、制御できずに成郡王も馬から落ちる。年かさの者が少年らを庇う隙に、彼ら主従は異民族の騎馬隊の包囲の輪の中に閉じ込められた。
幸い、二皇子とも落馬の衝撃は命に関わるほどでなく、成郡王は軽い打ち身程度、肅郡王は肩を強く打ち付けて痛そうではあったが、周囲をすっかり異民族の騎馬隊に囲まれた絶望的な状況下では、とにかく耐えてもらうしかない。
「デュクト、ゾーイ。変に刺激しないで、時間を稼げ。我々がこいつらを引きつければ、その間に少なくともグインとダヤンは無事砦に着ける」
小さな、しかし凛とした声で恭親王が言うのに、ゾーイははっとする。
「彼らが砦で状況を知らせれば、我々を救う道もできるだろう」
「殿下……」
歳若い少年三人を庇って立つ彼らの前に、ひときわ見事な武装をした髭の濃い騎馬武者が進み出る。
鉄の兜に、鉄の鋲を打った鎧。髪は背中に長く垂れ、一本に編まれている。
「砦の兵か。……それにしても年が若いな」
その隊の責任者らしい髭武者の言葉に、デュクトが返す。
「我々は村の視察の途中だった。いったいこれは何事か?」
髭武者はニヤリと笑って言った。
「大河ベルンが凍れば、河の南も我々のものだ。天の恵みを受け取りに来ただけのことだ」
(ただの略奪行にしては、大規模すぎる)
ゾーイが油断なく目を光らせる。鎧兜に身を固めた異民族に対し、皇子ら一行は単なる視察の途中であるから、せいぜい革鎧を着た程度である。
「あの目障りな砦にも挨拶しようとは思っていた。おぬしらとここで出会ったのは、幸先がよいわ」
「我々に砦への道案内を頼もうというのか?」
ゾーイの皮肉に、髭武者が笑う。
「道案内など必要ない。ただ、おぬしらの首は、手土産にちょうどよいと思っただけだ」
「首などもらっても喜ぶ性癖の者などおらぬぞ。手土産ならば、相手の喜ぶものを持っていかないと、そもそも砦の中に入れてもらえないではないか」
まだ、完全に声変わりしない少年の声が、軽く笑みを含んで指摘する。
髭武者が不愉快そうに眉を顰めるのに、少年は恐れげもなく尋ねる。
「そなたの名を聞こうではないか。そして改めて尋ねよう。多勢に無勢、いきなり矢を射かけるのが誇り高き大河ベルンの北側を支配するベルンチャ族の礼儀か?」
見ると、周囲に守られるように頭一つほど背の低い、ほっそりした少年が彼を見上げて嫣然と微笑んでいる。まるで少女かと見まごうような、美しい微笑みだ。
「なんだ、まだ娘っ子のようなガキではないか。そのようなこと、語る必要がないわ!」
「いきなり矢を射かけるのがその方らの礼儀ならば、我々も矢を射かけないと失礼にあたるではないか。我ら中原の者からすれば野蛮な風習だが、そなたらの礼儀に合わせてやろうというに、話の通じぬ髭よの」
髭、と揶揄されて、馬上の武者が激昂する。おのれ!と剛剣を抜き放ち、周囲の緊張が高まるが、恭親王はなおも嘲笑をやめない。だがその首筋は、〈王気〉が発する警告を感知してチリチリと灼けるようであった。
「おやおや、名前も名乗らず剣を抜くとは、誇り高き大河の民は随分と気が短いのだな。そんなに血の気が多くては、興奮のあまり鼻血を吹くのではないか?それとも、鼻血でも吹いて少しばかり血抜きをしてちょうどよいくらい、血の気が無駄に多い髭ということか」
「黙れ小童が!」
激情にかられて打ちかかる髭武者の剣を、ゾーイがはじき返し、デュクトが正確に喉元に剣を突き付ける。その時、騎馬隊の中から威厳のある声が響いた。
「やめよ!」
進み出たのは見事な鷹の羽飾りのついた黄金色に輝く兜をかぶり、鋲打ちの鎧の上に精緻な刺繍の入った陣羽織を羽織った偉丈夫だ。黒い口髭は艶やかで髪はやはり編んで、背中に垂らしている。
「その者はラグージャと申して余が一軍を任せる腹心、少々気が短い奴でな。無礼は余が代わりに詫びよう。剣を引かれよ」
デュクトがちらりと恭親王を見るのに、彼が頷くと、デュクトは剣を下ろした。
馬上の偉丈夫は恭親王を見て目を細める。
「これまた、見たこともないほどの、見事な金の龍の〈王気〉よの。余は北方ベルンチャ族の王、ボルゴール。北の砦には今、五人の帝国の皇子が滞在中と聞くが、貴公らははそのうちの三人とお見受けする」
「私が皇子と知ってなお、馬上から見下ろすか」
包囲されても一歩も引かぬ傲岸とも言える皇子の態度に、ボルゴールと名乗る偉丈夫は黒い目を細める。
「我らが礼は常に馬上にて為される。貴公らも馬に乗られよ」
馬に乗せても皇子ら一行を逃さない自信があるのであろう。皇子たちは素直にそれぞれの乗馬に跨る。肅郡王の馬は怪我をしているので、肅郡王は侍従武官のバードの馬の後ろに乗った。
「殿下の御名をお聞きしていなかったな」
ボルゴールの言葉に恭親王は薄く笑う。
「我らがしきたりで、皇族は名を名乗らぬ。わが爵位は親王、称号が恭だ」
「ほう、では皇后の唯一の子、月の名を持つ皇子であるか。……ついて参られよ、我らが客人としてベルンの北岸に招待しよう」
こうして恭親王、成郡王、肅郡王の三皇子らと、その近習たちは、ベルンチャの王、ボルゴールの客人とされた。
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