【R18】渾沌の七竅

無憂

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四竅

4、離宮行幸

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 皇帝の避暑離宮への行幸の日程が明らかになり、随行する人員も発表された。
 今年も、帝都の留守居は賢親王で、体調のよくない皇太子は居残り、もちろん恭親王以下の皇子たちも随行することになる。幼少時には毎年同行していたらしいが、何しろ恭親王は何も

 「アイリンの兄上やグインやマルインも行くんだよね?」

 恭親王が不安げにデュクトを見上げた。

 「成郡王殿下はご同行に選ばれました。おかげで母の宝林《ほうりん》様も初めて離宮行幸に同行を許されたのですよ」

 成郡王の母宝林は、皇帝の気まぐれの寵愛で妊娠し、成郡王を生んだ後は無視を通り越して冷遇に近い扱いを受けていた。離宮にも同行したことはなく、今回が初めてである。基本、皇帝の妃嬪単位で動くために、母が同行しなければ子も同行しない。母だけが同行して子が居残ることはあっても、逆はありえなかった。

 「皇上は殿下が成郡王殿下とことにお親しいことを重視なさり、特に成郡王殿下を随行にお加えになりました」

 デュクトが心なし誇らしげである。要は愛児の恭親王が退屈しないように、皇帝はわざわざ、仲良しの成郡王をも同行させることにしたのだ。今まで、一度も離宮行幸に伴ったことのない、成郡王の母宝林を伴ってまで、である。この処置は、皇帝がいかに恭親王を可愛がっているか示すに余りあると言えよう。

 確かに、成人の後は前朝の乾坤宮けんこんきゅうに呼ばれることも増えた。一度、成人祝いと言う名目で非公式な夕食に招かれたこともあり、父の皇帝が恭親王に特別に目をかけているのは間違いないらしい。が、それ以外での交流などほとんどないわけで、恭親王としては無駄に緊張するだけなので、できればやめてほしかったのだが。

 「じゃあ、グインやマルインは?」
 「あちらは、皇太子殿下も同行されませんのでね。皇太子殿下を差し置いて、その皇子方だけを同行させるのも不自然ですし」

 皇太子が、太子監国として留守居をする場合は別であるが、今回も東宮まるごと居残ることになるという。

 「グインがいないんじゃ、つまんないよね」

 成郡王とは仲が良いけれど、立場が違い過ぎて子分のような扱いになってしまう。恭親王はそういうのが少しばかり苦手であった。その点、廉郡王はボスタイプだし、恭親王に全く遠慮するということがない。

 「……殿下がお願いしてみれば、同行が適うかもしれません」
 「僕が?」

 デュクトが説明する。
 今回、恭親王のために成郡王を特に同行させるという処置を取り、さらに廉郡王の方は帝都に居残りとなると、皇帝の意向が完全に恭親王に向いているとみなす向きも出てくるかもしれない。そうなると、ただでさえ神経を尖らせている皇太子側を、無意味に刺激することになりかねない。

 「皇太子殿下は無理でも、廉郡王殿下だけでも同行する方が、見た目としてはつり合いが取れますし、皇太子殿下も少し安心されますでしょう」

 何分、恭親王はまだ成人したばかり。ここで、皇太子との対立が表面化するのは、年若い恭親王にとっては不利になる。

 「……でも、そんな機会がないよ」
 「そうですね……」

 恭親王は面倒くさいな、と思いながら首を振り、デュクトもひとまずは同意した。わざわざこちらからお願いに行くほどの内容でもないからだ。

 が、その夜に早速機会が訪れた。皇帝から夕食の招きがあったのだ。
 その夜は母である皇后が乾坤宮に伺候していた。息子の恭親王も一緒に食事を、ということになったらしい。

 慌てて衣服を整えて乾坤宮に向かう。乾坤宮は前朝側の執務棟と、半ば後宮にかかる皇帝のプライベートスペースに分かれていた。恭親王が導かれたのも、そのプライベートエリアである。

 大陸の半ば以上を統べる大帝国の皇帝とはいえ、居室は意外と質素である。丸い紫檀の卓上に、すでにとりどりの料理が並べられていた。紫檀の椅子に掛けている父皇帝に対し、礼法通りの拝礼を行う。

 「今宵は家族水入らずの宴だ。楽にせよ」

 髪に白いものが混じり始めてはいるが、まだまだ皇帝は壮健である。隣りの皇后にも同様に拝礼し、勧められた席に座った。

 夏らしい、涼し気な料理が並ぶ。水月クラゲの冷製、春雨の和え物、アヒルの水掻き、黒醋猪排スペアリブの黒醋煮、白身魚の酸辣スワンラー煮込み、干した胡瓜の炒め物、冬瓜湯トウガンのスープ、担々麺。

 「そなたには久しぶりの離宮行きとなる。これまでのように子供としてではなく、大人として同行するわけだ。狩りや撃鞠ポロなどにも参加することになる。そのあたりの準備も怠りなくしておくように」
 「……はい」
 「秋の巡検に向け、鍛錬も普段通り精進するように。この機会に他の皇子たちとも交流を持ち、帝国の皇子として、恥ずかしくない立居振舞を身に着けるのだ」
 「……はい」

 皇帝の訓辞に従順に頷いて、ぽそぽそと料理を食べていく。

 「何か、そなたの方から要望はあるか?」

 皇帝から聞かれ、恭親王はチャンスだと思って皇帝に言った。

「あの……グイン……廉郡王なのですが」
「廉郡王がいかがした」
「あとマルイン……肅郡王もですが……一緒に離宮に行くことはできませんか?」
「……二人も同行させよとな?だが、皇太子は今年も体調が悪く、帝都に残るのだ」
「はい。そのように聞きましたが……」

 恭親王は少し考えて、言った。

「グインもマルインも、今は僕の武芸指南であるマフ家のゾーイの指導を受けています。特にグインは身体が大きいので、ゾーイのような大男でなければ大剣の指導ができなくて……ゾーイをこちらに残しておくのもおかしな話ですし、少し困っているのです」
「ふむ……。あれらは朕の息子ではなく、孫じゃ。皇太子が扈従こじゅうしていれば連れていけるのじゃがな」
「皇太子殿下がいなければ無理ですか……」

  恭親王ががっかりして言うと、皇帝は少し考えて、言った。

「……ふむ、二人とも成人しておるし……確約は出来ぬが、エリンやその他の者とも相談してみよう」

  恭親王は、皇帝の言葉を聞いてにっこりと微笑んだ。

「ありがとうございます! 四人で行けた方が絶対、楽しいので」

  皇帝は愛息子の美しい笑みに対し、満足気に頷いた。
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