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三竅
11、振られ皇子
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「それがさ……振られたんだよね」
「「「えええええっ?!」」」
三人が一斉に成郡王を見る。肅郡王は慎重に小籠包を食べようとしたところを、驚きのあまりパクリと食べてしまい、中の熱いスープが口の中に広がって口内火傷で身悶える。
「……振られるってさ、断るって選択が、秀女にあるの?」
「普通はないんだけどさ……僕の場合、普通じゃないから……」
肩を落とした成郡王を見て、シウリンは箸から鍋貼が滑り落ちるのにも気づかなかった。
「ちょっと待てよ! 秀女の分際で皇子が側室に上げるってのを拒否できるわけないだろう」
グインが成郡王に詰め寄る。分際で、というのは言い方が悪いが、そもそもが秀女は皇子の側室候補として後宮にいるのである。断るという選択肢が秀女側にあるとは思えない。
「普通はね。でも、僕の場合はさ……下手すりゃ、此処を出てから食べていくのも無理かもって境遇だし……」
「それは任官したら解決するだろう」
「それ聞いたの今じゃん。さっきまで、僕はこの先もずっと無職で、巡検にすら呼んでもらえない皇子だったわけで……」
成郡王が肩を竦めるのに、シウリンが聞いた。
「彼女、何て言って断ったの?」
「いくら皇子様でも、仕事も金もない人の、それも側室なんて嫌だって」
「お金……ないの?」
シウリンが正直に尋ねる。経済のことは、いまだにさっぱり理解できていない。
「全くってわけじゃないし、後宮を出るときに支度金くらいは出るはずだけど……邸を作ったらパアかなあ。領地がもらえれば、そっちに住めば何とかなるかもしれないけれど……仮にも皇子だから、月々いくらかはお金出るはずだし、食うに困るような生活はしなくていいはずって思っていたけれど、成人したのに無役だったし、巡検の話も来ないあたりで、これはヤバイかもって考えてた。何より、皇帝陛下が僕のことをすっかり忘れているらしいことが、一番問題だったんだよね。一応、皇子だから迂闊な仕事もできないし、これは本気で神殿に入るしかないかもしれない、って思い始めていたんだ」
成郡王自体はさばさばした様子で、取り箸で焼きそばを皿にとりわけ、啜る。
「僕は何となくさ、そんな皇子でも、石竹は着いてきてくれる、て思い込んでたんだ。生活が貧しくても、僕は石竹が一緒なら大丈夫って思えたから、石竹の方もきっとそうだって、思い込んでた。……そんな訳ないよね。石竹は家族の生活を支えるために、後宮に入ったのに。まともな皇子ならともかく、選りによってこんな貧乏皇子じゃ」
豪華な部屋で、卓上満載の料理に囲まれながら、何とも不似合いな景気の悪い話である。
シウリンは貧乏を厭いはしないが、今の後宮の生活が当たり前だと思ったら、貧しい暮らしに耐えられないと思うかもしれない。成郡王がいかに不遇の皇子だとしても、仮にも皇子、絹服を着て、何品もの料理を並べ、絹の褥に寝てきたのだ。後宮の外に出ても、それなりのレベルの生活は皇子の体面上必要なのだ。
「それはさ……たとえば、母上の宝林が彼女に言いくるめているとかじゃ、ないの?」
肅郡王がいぶかしそうに言う。
「うーん。最初はさ、その可能性もあると思って、僕もいろいろ言ったんだけどさ。なんか本気で他の宮に移りたがっている雰囲気なんだよね……」
つまり、石竹としては後宮にいるあと数年のチャンスに賭けて、別の宮の皇子側室を狙うつもりらしいのだ。
「なんだよ、その女! 俺の宮にきたら追い出してやる!」
グインはいたくご立腹であったが、シウリンとしても、三年もたった一人の秀女として大切にしてもらったのに、その言い方はあんまりではないかと思う。
「……で、どうするの?」
シウリンが恐る恐る聞くと、成郡王は眉尻を下げて笑った。
「とりあえず、秀女の交代に応じることにする。しばらく秀女もいらないな、って思わなくもないけど、あんまり枯れた生活していると、それはそれで母上が心配なさるから」
穏やかに微笑む成郡王を見て、皇子でさえなければ、もっと簡単に幸福を掴めそうなのに、とシウリンは思わずにいられなかった。
「「「えええええっ?!」」」
三人が一斉に成郡王を見る。肅郡王は慎重に小籠包を食べようとしたところを、驚きのあまりパクリと食べてしまい、中の熱いスープが口の中に広がって口内火傷で身悶える。
「……振られるってさ、断るって選択が、秀女にあるの?」
「普通はないんだけどさ……僕の場合、普通じゃないから……」
肩を落とした成郡王を見て、シウリンは箸から鍋貼が滑り落ちるのにも気づかなかった。
「ちょっと待てよ! 秀女の分際で皇子が側室に上げるってのを拒否できるわけないだろう」
グインが成郡王に詰め寄る。分際で、というのは言い方が悪いが、そもそもが秀女は皇子の側室候補として後宮にいるのである。断るという選択肢が秀女側にあるとは思えない。
「普通はね。でも、僕の場合はさ……下手すりゃ、此処を出てから食べていくのも無理かもって境遇だし……」
「それは任官したら解決するだろう」
「それ聞いたの今じゃん。さっきまで、僕はこの先もずっと無職で、巡検にすら呼んでもらえない皇子だったわけで……」
成郡王が肩を竦めるのに、シウリンが聞いた。
「彼女、何て言って断ったの?」
「いくら皇子様でも、仕事も金もない人の、それも側室なんて嫌だって」
「お金……ないの?」
シウリンが正直に尋ねる。経済のことは、いまだにさっぱり理解できていない。
「全くってわけじゃないし、後宮を出るときに支度金くらいは出るはずだけど……邸を作ったらパアかなあ。領地がもらえれば、そっちに住めば何とかなるかもしれないけれど……仮にも皇子だから、月々いくらかはお金出るはずだし、食うに困るような生活はしなくていいはずって思っていたけれど、成人したのに無役だったし、巡検の話も来ないあたりで、これはヤバイかもって考えてた。何より、皇帝陛下が僕のことをすっかり忘れているらしいことが、一番問題だったんだよね。一応、皇子だから迂闊な仕事もできないし、これは本気で神殿に入るしかないかもしれない、って思い始めていたんだ」
成郡王自体はさばさばした様子で、取り箸で焼きそばを皿にとりわけ、啜る。
「僕は何となくさ、そんな皇子でも、石竹は着いてきてくれる、て思い込んでたんだ。生活が貧しくても、僕は石竹が一緒なら大丈夫って思えたから、石竹の方もきっとそうだって、思い込んでた。……そんな訳ないよね。石竹は家族の生活を支えるために、後宮に入ったのに。まともな皇子ならともかく、選りによってこんな貧乏皇子じゃ」
豪華な部屋で、卓上満載の料理に囲まれながら、何とも不似合いな景気の悪い話である。
シウリンは貧乏を厭いはしないが、今の後宮の生活が当たり前だと思ったら、貧しい暮らしに耐えられないと思うかもしれない。成郡王がいかに不遇の皇子だとしても、仮にも皇子、絹服を着て、何品もの料理を並べ、絹の褥に寝てきたのだ。後宮の外に出ても、それなりのレベルの生活は皇子の体面上必要なのだ。
「それはさ……たとえば、母上の宝林が彼女に言いくるめているとかじゃ、ないの?」
肅郡王がいぶかしそうに言う。
「うーん。最初はさ、その可能性もあると思って、僕もいろいろ言ったんだけどさ。なんか本気で他の宮に移りたがっている雰囲気なんだよね……」
つまり、石竹としては後宮にいるあと数年のチャンスに賭けて、別の宮の皇子側室を狙うつもりらしいのだ。
「なんだよ、その女! 俺の宮にきたら追い出してやる!」
グインはいたくご立腹であったが、シウリンとしても、三年もたった一人の秀女として大切にしてもらったのに、その言い方はあんまりではないかと思う。
「……で、どうするの?」
シウリンが恐る恐る聞くと、成郡王は眉尻を下げて笑った。
「とりあえず、秀女の交代に応じることにする。しばらく秀女もいらないな、って思わなくもないけど、あんまり枯れた生活していると、それはそれで母上が心配なさるから」
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