【R18】渾沌の七竅

無憂

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二竅

5、陰謀の芽

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「ゼクトを呼べ!」

 皇太子の言葉に、グインが嫌そうに眉を顰める。

「俺の傅役に何の用だよ」
「いいから呼べ!」

 呼ばれて現れたのは、三十過ぎの背の高い男。デュクトの従兄だけあって、ゼクトも容姿のいい男であった。

「お呼びでしょうか」
 
 ゼクトがグインの傍らに立つ。自分の主は彼だ、という無言の威嚇のようだ。
 
「デュクトのこと、何か聞いているか?」
「……従弟の……でございますか?」

 わかりきっているのに、わざわざ確認するところが、この男の食えないところである。

蟄居ちっきょを解かれたそうではないか」
「はい。ユエリン皇子がご本復になったとのことで。例の事件の時、デュクトは副傅のゲル卿とともに、太陽神殿まで願文と寄付を届けに出かけていて留守であったこと、事件が他の侍従の暴走の結果であるとのことで、殿下の容態が決まるまでは蟄居ということでございました」
「ユエリンが目覚めたのは、何時だ?」
「……十二月の頭、と聞き及んでおります」
「その時、デュクトに不審な点はなかったか?」

 ゼクトがちらり、と皇太子を見る。

「いえ、別に。どうやら十二月の頭に、後宮内に呼び出しがございました。殿下のご容態が動いたようだと、すぐに出かけ、その後、太陽神殿に籠ってご本復の祈りを捧げていたようです。それから、目を醒ました、という知らせが参りました故」
「……その、……ユエリンは本物なのか?」

 父親の発言に、ゼクトも、グインもぎょっとして目を見開く。

「……親父ぃ。確かにユエリンは別人みたいにイイ奴になっちまったけど、顔はユエリン以外の何物でもないぜ。あんなお綺麗な顔の奴が他にいるわけないし、だいたいそっくりさんを連れてきたところで、〈王気〉がなければバレバレじゃねぇかよ」
「はい。後宮内の宦官には望気者が多うございます。また、デュクトは魔力が強く、〈王気〉を視る力もございます。贋物を立てるのは不可能かと」

 ゼクトも請け負った。

「新たにユエリン皇子付きになった宦官は、陛下の近習を務めておりました美楼子メイローズでございます。あれは現在の後宮内でも最高の望気者。あれが〈王気〉もない皇子に仕えるはずはございません」

 皇太子は忌々しそうに唇を歪める。

「しかし、落馬直後はたとえ命があっても身体を動かすことは出来ぬとの話ではなかったか! それが普通に出歩けるほど回復するなど……!」

 皇太子の言葉に、ゼクトは少しだけ口角を上に上げて言った。

「ユエリン皇子殿下は、ご兄弟の中でも並外れて強い魔力をお持ちでございました。あの魔力を自己治癒に回しましたならば、多少のケガなどは跡も残らないのではございませんか?」

 皇太子はあまり魔力が強くなく、それがコンプレックスであった。ユエリンの魔力の強さをあっさり指摘されて、ギリギリと奥歯を噛みしめる。

 長い時間をかけて、素行の悪いユエリンの噂を流したというのに、グインの話が本当ならば、全て水の泡だ。

「デュクトってのが、太陽神殿の龍皇帝様の廟に籠ってんのは本当なのか?」

 グインがゼクトに尋ねる。

「はい……殿下の本復を感謝する、と言う名目ですが……実際には追い出されたようでして」

 くすり、と笑いながらゼクトが言った。

「追い出されたって、誰に?」
「どうやら、殿下ご本人とよろしくないようで。ゲル卿の方は、信頼も得ているようなのですが、どうにもデュクトは一本気というよりは融通が利きませんのでね。目を醒ましたばかりの殿下に、無茶を言ったようなのですよ」
「それで、追い出されたのか?」
「はい。ああ見えて、ユエリン殿下はなかなかしたたかでございますね。うまく賢親王殿下を言いくるめて、デュクトを神殿に追い払ったというのが、真相のようです」

 その話を聞きながら、皇太子は考えていた。
 ユエリンが正傅と関係がよくないのなら、そこに付け込めるのではないか、と――。
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