【R18】女嫌いの医者と偽りのシークレット・ベビー

無憂

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【番外編】モーガン公爵夫人アイリス・ローレンソン

治療*

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 ハミルトン先生の手は大きく、温かかった。
 あの手に、もっと触れて欲しい。わたくしは先生の訪れを待ち望むようになった。

 二度ほど、同じような背中と肩を腰を揉む治療が続いた後、三度目にわたくしは言った。

「これでは、不調が改善されませんの。もう少し、解していただくことはできないでしょうか」
 
 ハミルトン先生は困ったように眉を寄せた。

「はあ……ですが、その先は治療とはいえ、その……患者さんによっては屈辱だと思われる方もおりますので……」
「屈辱……」
「夫婦でも恋人でもない、ただの医者の、僕がするのを望まないかたもいらっしゃいます」

 ――つまりそれは、本来、夫婦や恋人との間で行われることだ、と。

 わたくしは、夫婦の間で行われる営みを知らない。

「夫はあんな風ですの。もしお願いできるのでしたら」

 しばらく考えていたハミルトン先生が、諦めたように立ち上がり、フロックコートを脱いだ。ドレスシャツの腕を捲り、手を洗って、その日はうつ伏せではなく、仰向けに寝るように指示した。
 そしてわたくしに膝を曲げるように言い、下半身を薄い布で覆う。

「辛いとか、痛いとかありましたら、すぐに言ってください。無理はしなくてもいいのです」

 先生はそう言うと、ぴったりと閉じていたわたくしの膝を開くと、なんとモスリンのドレスの、スカートの中に手を入れてきた。

「ええ?」
 
 思わず驚いて身を固くすれば、先生はわたくしを振り返った。

「やはり、やめますか。……無理はしなくても――」
「い、いえ、大丈夫です……続けてください……」

 先生の大きな手が、わたくしの太ももにじかに触れ、優しく撫でるように脚の付け根に近づいていく。
 ドロワースを穿いていない秘所に触れられて、わたくしはビクリと震えた。

「大丈夫ですか?」
「は、……はい……」

 布に隠されて、その秘められた場所は先生の視線からも守られている。なのに、彼は指先に目があるのではと疑うほど的確に、わたくしですらよく知らない場所に触れてきた。

 つっと指で辿られて、ぞわぞわした感覚がせりあがる。ガチガチに緊張して身を固くするわたくしの様子を見て、先生が手を止めた。

「……もし、辛いならやめても……」
「い、いえ、大丈夫、続けてください……」
「では、力を抜いてください、それでは解れるものも解れません」

 先生が優しく言うが、まさかこんな不浄の場所を触れられるなんて思いもよらず、わたくしはパニックになってしまった。

「あ、……ああっ……」
「マダム?」

 先生が治療を中断し、サイドテーブルの白湯を取ってわたくしに飲ませる。

「もし、辛いならしない方がいいんですよ。僕は貴女を辱めたいわけではないのです」

 わたくしは震える手で白湯を飲んで、大きく息を吸う。

「先生……わたくし……」

 わたくしは、ハミルトン先生にすべてを話した。夫との結婚以来のこと、何もかも――

「え?……では、奥様は……」

 わたくしの告白に、先生は水色の目を瞠る。それから気まずそうに眉を寄せて俯き、何かを考えていた。

「そういうことでしたら、無理に僕が治療をせずとも……」
「治療しないと、体調不良は治らないのでしょう?」 
「いや……その、往々にしてヒステリーの原因は性的な欲求不満だとは言われておりますが、すべてがそうとも限りません。敬虔な修道女などは一生、純潔を守る方もいらっしゃる。あるいは産婆か修道女を――」
「わたくしは、先生に治療していただきたいのです」

 はっきり言ったわたくしに対し、先生は複雑な表情をなさった。

「僕は医師で、これは治療の一環です」

 わたくしが何を言われたのかわからずに、先生の顔を見つめると、先生が目を伏せる。

「……とくに、結婚しないまま過ごして来られた方に多いのですが、治療の域を超えた感情を抱かれる方がいらっしゃるので……」

 わたくしはハッとした。

「男性経験のない患者の方にとっては、直接肌に触れさせることはとてもハードルが高いのでしょう。僕に恋愛感情を抱くことで、心を守っているのかもしれません。正直申し上げて、そうでなもしなければ、この治療は辛い。……医師の中には、患者の了解もロクに取らず、決まった治療だからと強行する者もいますが、僕はそれはしたくないし、僕以外の、女性施術者の紹介もします」
「わたくしは――」
「繰り返しますが、僕は医師で、貴女は患者でしかない」

 本音を言えば、ハミルトン先生だからお願いしたいのかもしれない。この先に行われることが、夫婦や恋人同士の間でなされることに近いのだとすれば、なおさら――

 ハミルトン先生がためらう理由も納得できなくはないので、わたくしはしばらく考えるフリをした。

 ――答えは決まっている。

「今、主人がこんな状況で、他所に治療を頼む余裕はありませんの。そのまま先生にお願いしたいのです」
「……そういうことでしたら」

 ハミルトン先生はため息をついてもう一度、ベッドの脇に腰を下ろし、わたくしのスカートの中に手を入れる。そしてやはり、的確にわたくしの秘所に指を伸ばし、繊細に触れてきた。自分でもロクに見たこともなく、よくは知らない場所。先生の指が行き来するたびに、わたくしの息が上がり、ぞわぞわした感覚に腰が揺れてしまう。

「ふっ……んっ……」
「この部屋ならば、それほど音も漏れません。少しなら声を出しても大丈夫です」
「はっ……こん、なの……っうっ……」
「怖がらないで……大丈夫ですから……」

 わたくしは先生の肩口に縋りつき、ドレスシャツの袖をギュッと握り締める。ある場所を執拗に刺激され、わたくしは両足をギュッと丸め、身体の奥から湧きおこる激情に耐える。

「あ、あっ……ああっ……」

 ついに一つの波を越えて、わたくしは全身を震わせると、先生の手も止まり、穏やかな声で囁くように言った。

「大丈夫です、お上手ですよ」
「はあっ、はあっ……今のは……」

 何が起きたのかわからずに呆然と先生の顔を見上げるわたくしに、彼は美麗な笑顔を向ける。

「今、僕が刺激した場所は、数千の神経が通っていて、感覚が極めて鋭敏な場所なのです」
「わた、わたくし、あんな……はしたない……」

 我に返って戸惑うわたくしに、先生は手を洗ってリネンで拭きながら、穏やかに微笑む。

「女性が快楽を感じることを忌むような教えがありますが、ならばあのような、快楽を得るためだけにある器官を神が作るわけがありません。快楽を覚えることで男性を受け入れ、妊娠しやすくなる。あるいは女体を守るためと考えられています」

 先生はシャツの袖を直し、言った。

「だから、貴女が気になさることはありません。適度に骨盤回りを解すことで血流を促し、鬱血を解消すれば、体調も改善する。――そういうことになっています」

 その日、わたくしは生涯初めての絶頂に呆然として、先生の話も半ば聞いていなかった。




 それから、夫が亡くなるまでの数か月、わたくしは先生の治療を受けてその指の虜になってしまった。
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