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84、後朝

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 翌朝、夜明けの光の差し込む寝台の上で、ラファエルの逞しい腕にしっかりと囚われた状態で、ジュスティーヌは目を覚ます。

 身を捩って腕を振りほどき、身体を起こせば、羽毛の枕に埋もれるようにして眠る、ラファエルの整った寝顔があった。銀色の髪は乱れて、だが驚くほど無邪気で、安らかな寝息を立てていた。

 ジュスティーヌは白い指で、ラファエルの乱れた前髪をかき分け、形のよい眉と、驚くほど長い、伏せられた睫毛を見下ろして、溜息をつく。

 こうしてみれば、大人しくて毛並みのいい、よく躾られた大型犬なのに、昨夜は野獣だった。

(いきなり噛みつくし……)

 ジュスティーヌが昨夜、噛まれた傷のことを想い出していると、ラファエルが身じろぎして、目を覚ました。銀色の睫毛に縁どられた、紫色の瞳が現れて、まっすぐにジュスティーヌを見上げる。

「姫……起きておられたのですか」
「いつまで姫なのです。わたくしはもう、あなたの妻なのに」
 
 ジュスティーヌが唇を尖らすようにして言えば、ラファエルは一瞬、紫色の瞳を丸くして、だがすぐにその目を笑わせて、言った。

「いつまでも姫ですよ? あなたは俺の妻であり、俺のご主人様ですから」

 そう言うと、ラファエルはジュスティーヌのうなじに大きな手を回し、強請るように言った。
 
「おはようの口づけをください。ご主人様」
「どっちが偉いのか、わからないじゃないの、変な人」

 それでもジュスティーヌは素直にラファエルの顔に顔を近づけ、その唇に口づける。そうしてしばらく、互いの唇を貪りあってから、ジュスティーヌがあることに気づいて身体を捩った。

「ちょっと、朝からどういうことですの?」
「どうって……その……男の生理的な問題で……」
「明るい場所ではしませんからね!」

 ジュスティーヌは慌てて絹の上掛けを素肌に巻き付け、肌を隠して言う。
 ジュスティーヌに上掛けを奪われて、ラファエルが露わになった裸の上半身を起こす。その脚の付け根には、例の如く、醜悪な怪物が頭をもたげていた。
 
 ラファエルは乱れた銀髪を掻きながら、ジュスティーヌに言う。

「じゃあ、自分でするので見ていていただくわけには……」
「朝からいい加減にして!」

 真っ赤になって上掛けを巻き付けているジュスティーヌに拒否され、ラファエルが困ったように肩を竦めた。
 
「あなたが朝から可愛らしすぎるのが、いけないんですよ。俺だけのせいじゃないと思うがなあ……」



 

 寝室の扉の外では、誰が朝のお茶を寝室に運んでいくかで、ソフィーとジャンヌとマリーが揉めに揉めていた。
 冬が近づくボーモン領、今朝も雲一つない、快晴であった。
 
 
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