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5、護衛騎士

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 その場の全員が飛び上がるほど驚いた。ようやく狒々爺ヒヒジジイの元から解放されたというのに、若い身空で修道院に入りたいなど、とんでもない話であった。

「だめよ、ジュスティーヌ、せっかく帰ってこれたのに、そんな哀しいこと言わないで」
「そうよ、しばらく王宮で楽しく過ごせば、辛気臭い気分も吹っ飛ぶわよ。ちょうどいい季節だし、野遊びピクニックに行きましょうよ。あなたが帰ってきたんだから、お茶会もいっぱい開きましょ?」
「歓迎の舞踏会を開くべきよ!ね、お父様!」

 だが、姉たちの楽しい計画を聞いても、ジュスティーヌは気後れしたようにただ、黒いヴェールを被った頭を振るだけだ。

「いいえ、わたくし、そういう華やかな場所はちょっと……どうかご容赦くださいませ」

 金色の睫毛を伏せて俯くジュスティーヌを見て、イザベルが気遣うように言った。

「やっと戻ってこられたのですから、しばらくお義母様やわたくしたちと、ゆっくり過ごされたらよろしいわ。城の庭園も今は花の盛りですし……そうそう、王太后様の離宮にご挨拶に伺うのはいかが? あの離宮はさぞかし薔薇が見事でございましょう」
「おばあ様の……」
 
 ジュスティーヌがはっと顔をあげ、青い瞳を見開く。郊外の湖の畔にある離宮は、王太后の隠居所となっていた。
 
「そうだ、それがよい。おばあ様にご挨拶申し上げ、あちらで数日ゆっくりしてもいい。お前はあの離宮がお気に入りだっただろう」
 
 マルスランが言い、王も頷く。

「それがよかろう。母上もそなたの帰国を心待ちにしていた。顔を見せて差し上げれば、きっとお喜びになろう」

 ジュスティーヌも頷いて、近々離宮を訪問することが決まった。
 そこへちょうど国王の侍従が呼びに来て、積る話の尽きない女たちをその場に残し、王と王太子は執務室に戻ることにした。




「ジュスティーヌの護衛を正式に任命しなければなりません」
 
 マルスランの言葉に、王も頷く。

「そうだな。離宮からこちらに来る時は、誰が担当したのだ」
「私の近衛の中から、ラファエルに命じました。ジロンド伯の次男です」
 
 名を聞いて、王はしばらく考えてから、思い出したようにうんうんと頷いた。

「例の、砦で功績をあげたが叙爵が滞っている騎士か」
「はい。引き続き彼に任せようと思います」
「問題なかろう」

 王が広い執務室の、壁際の大きな机に陣取る秘書官二人に目配せすると、秘書官が立ち上がってこちらに歩みより、王の前に片膝をつく。

「王女の護衛の任命書を――」

 心得た秘書官が、金の装飾の入った豪華な革の書類ばさみから、すでに準備していた書類を王の卓上に置いた。王が一読して、例の騎士の名が入っているのを確認し、羽根ペンを走らせて署名する。

「早速呼び出してくれ」
 
 秘書官の一人が部屋を出て騎士を呼びに行き、もう一人の秘書官も席を外して、執務室は壁際に数名の衛士と小姓だけになる。周囲に人のいなくなった機会に、マルスランが言う。

「彼はまだ婚約者もいないと聞いています。ジュスティーヌと結婚させ、王都に近い領地に封爵したいのですが」

 王の眉がピクリと上がる。以前から、王太子がこの騎士を高く買っているのは知っていた。

「封爵は構わないが、ジュスティーヌと結婚させる必要はあるのか?」
「第一には彼が誠実で高潔な人柄で、容姿も家柄も優れているからです。彼ならジュスティーヌを託してもいい。第二に、彼には王都に近い場所を領地として与えたい。将来、私の右腕として働いてもらいたいし、遠い辺境の領地では厄介です。だが、現状、王都周辺の直轄地を割譲して、新規の封地として与えるのは、守旧派が黙っていないでしょう。王女の婿であれば、文句も出にくいかと」

 マルスランの提案に、だが王は不満そうであった。

「それはわかるが――先ほどのジュスティーヌの様子から言って、あまり結婚を急がせるべきではないのでは」
「それはそうですが、いい男はすぐに売れてしまいますよ。父上さえ賛同してくださるのなら、まず彼から約束を取り付けてしまいたいのです」

 何せラファエルは評判の美男で、人柄も折り紙付きなのだ。狙っている令嬢は山ほどいるだろう。
 本当に独り身なのか? 王が思わず疑問を口にする。

「あの容姿に家柄で、信じられぬのだが」
「次男で爵位を継げませんし、ちょうどいい婿入り先もなくて、騎士を志したそうです。爵位さえ得てしまえば、それこそあっという間に売れてしまうでしょう」

 なるほど、と王も納得した。
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