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番外編 東西文化の違いについて
食べ物の違い
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「お善哉、お替わりいかがです?姫様」
横でさりげなく姫君の世話を焼いていたスルヤが声をかける。この小豆に砂糖を入れて甘く煮て、白い餅を入れたスープは、東にしかない食べ物である。そもそも、餅は東でしか食べない。
「ありがとう。いただくわ。これ、初めて食べたけど、とっても甘くて美味しいわ」
アデライードがにこやかに言う。甘くて温かいスープというのが、アデライードには新鮮であったらしい。
「お善哉には塩昆布が付き物ですのに、こちらにはないんですのね」
ミハルも善哉を啜りながら眉を顰めるが、スルヤが言い訳するように言った。
「昆布がないんですの。こちらの人は海藻を食べないので、昆布とか海苔なんかは取り寄せになるんです。恭親王殿下が連れていらした厨係の人も困っていて、うちから少し融通しましたけど、塩昆布まではなかったので。餅も、ソリスティアに住む東の家からもらった分なのですよ。塩昆布の代わりに、青菜の塩漬けで我慢してください」
「文句を言っているわけではないの。東では当たり前にあるものが、意外とないのねぇ」
スルヤがアデライードにお替わりの善哉をよそい、手渡す。
「まずその、あっまいのと塩っ辛いのを一緒に食べるってのが、意味わかりません」
アンジェリカが言うと、ミアやアウローラもうんうんと頷く。
「別にお善哉だけでも十分、美味しいですわ」
「塩辛い物を食べることで、甘味がより一層、引き立つのですよ」
これについては一家言を持つアリナが力強く断言する。
「やはり、次に何か送ってもらう時、塩昆布もリストに入れましょう」
「お出汁用の昆布ももっと必要だと、厨係の方も力説しておられました」
スルヤも同調した。
「うちの旦那様はソリスティアに蕎麦がないと言って、ご自分で打って一人で食べておられたのですが、それがことのほか、殿下のお気に召したとかで、最近では週に一度は蕎麦を打っていらっしゃるの。最初のころは私たちもいただいたのですけど……どうにも食べにくくて」
「蕎麦は菓子に入れることもありますけど……ねぇ」
ミアとアウローラが顔を見合わせる。蕎麦は東西どちらでも貧乏人の食べ物なので、令嬢育ちの二人の口には合わないらしい。ミハルも汁蕎麦など食べたこともないが、トルフィンが殿下につき合わされてぶつぶつ言っていたのを聞いている。
「わたしもこの前いただいたけど、結構気に入ったわ。小エビと野菜のかき揚が乗っていて、おつゆも美味しいもの」
修道院で粗食に慣れて育ったアデライードは蕎麦にも抵抗がなかった。むしろアデライードも恭親王と同じく、脂っぽい肉の塊とか、味の濃い料理が苦手である。
「食事の好みが似通っているというのは、長く夫婦でいるのには重要なことだと、母が常々言っていました」
アリナが言うと、スルヤも頷く。
「私も最初、嫁いだ時は結構苦労しました。赤茄子の煮込みなんて作ったことはもちろん、食べたこともなかったので、姑に嫌味を言われながら必死で覚えたんですよ」
「同じ東の家に嫁いだお姉さまも、厨師が変わって料理の味が合わなくて、ホームシックになったそうですの。別の国に嫁いだら、本当に大変でしょうね」
ミハルも頷く。当然ながら、公爵令嬢であるミハルが自ら厨房に立つことなど、未来永劫ないであろう。
「姫様も、殿下とご一緒に暮らして、東と西の違いで戸惑うこととか、おありになりますか?」
横でさりげなく姫君の世話を焼いていたスルヤが声をかける。この小豆に砂糖を入れて甘く煮て、白い餅を入れたスープは、東にしかない食べ物である。そもそも、餅は東でしか食べない。
「ありがとう。いただくわ。これ、初めて食べたけど、とっても甘くて美味しいわ」
アデライードがにこやかに言う。甘くて温かいスープというのが、アデライードには新鮮であったらしい。
「お善哉には塩昆布が付き物ですのに、こちらにはないんですのね」
ミハルも善哉を啜りながら眉を顰めるが、スルヤが言い訳するように言った。
「昆布がないんですの。こちらの人は海藻を食べないので、昆布とか海苔なんかは取り寄せになるんです。恭親王殿下が連れていらした厨係の人も困っていて、うちから少し融通しましたけど、塩昆布まではなかったので。餅も、ソリスティアに住む東の家からもらった分なのですよ。塩昆布の代わりに、青菜の塩漬けで我慢してください」
「文句を言っているわけではないの。東では当たり前にあるものが、意外とないのねぇ」
スルヤがアデライードにお替わりの善哉をよそい、手渡す。
「まずその、あっまいのと塩っ辛いのを一緒に食べるってのが、意味わかりません」
アンジェリカが言うと、ミアやアウローラもうんうんと頷く。
「別にお善哉だけでも十分、美味しいですわ」
「塩辛い物を食べることで、甘味がより一層、引き立つのですよ」
これについては一家言を持つアリナが力強く断言する。
「やはり、次に何か送ってもらう時、塩昆布もリストに入れましょう」
「お出汁用の昆布ももっと必要だと、厨係の方も力説しておられました」
スルヤも同調した。
「うちの旦那様はソリスティアに蕎麦がないと言って、ご自分で打って一人で食べておられたのですが、それがことのほか、殿下のお気に召したとかで、最近では週に一度は蕎麦を打っていらっしゃるの。最初のころは私たちもいただいたのですけど……どうにも食べにくくて」
「蕎麦は菓子に入れることもありますけど……ねぇ」
ミアとアウローラが顔を見合わせる。蕎麦は東西どちらでも貧乏人の食べ物なので、令嬢育ちの二人の口には合わないらしい。ミハルも汁蕎麦など食べたこともないが、トルフィンが殿下につき合わされてぶつぶつ言っていたのを聞いている。
「わたしもこの前いただいたけど、結構気に入ったわ。小エビと野菜のかき揚が乗っていて、おつゆも美味しいもの」
修道院で粗食に慣れて育ったアデライードは蕎麦にも抵抗がなかった。むしろアデライードも恭親王と同じく、脂っぽい肉の塊とか、味の濃い料理が苦手である。
「食事の好みが似通っているというのは、長く夫婦でいるのには重要なことだと、母が常々言っていました」
アリナが言うと、スルヤも頷く。
「私も最初、嫁いだ時は結構苦労しました。赤茄子の煮込みなんて作ったことはもちろん、食べたこともなかったので、姑に嫌味を言われながら必死で覚えたんですよ」
「同じ東の家に嫁いだお姉さまも、厨師が変わって料理の味が合わなくて、ホームシックになったそうですの。別の国に嫁いだら、本当に大変でしょうね」
ミハルも頷く。当然ながら、公爵令嬢であるミハルが自ら厨房に立つことなど、未来永劫ないであろう。
「姫様も、殿下とご一緒に暮らして、東と西の違いで戸惑うこととか、おありになりますか?」
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