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番外編 東西文化の違いについて
女子会
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アデライードの居間から締め出しをくらい、総督がふてくされて聖地に旅出ってしまうと、総督府に平穏が訪れた。
「ほんっと、あのエロ皇子様がいないと仕事がはかどるわー」
日々のルーティーンになっている仕事を午前中に終わらせてしまい、アンジェリカがうーんと大きく伸びをする。いつもなら蜜月期間で休暇中の総督が、デカい図体でアデライードの部屋で姫君に纏わりついて目ざわりな上に、目を離すと姫君を襲うので、アンジェリカもリリアも気の休まる暇がない。
「さっ、お掃除も済んだし、女子会の支度をしなくっちゃ~」
ふんふんと楽し気にスキップを踏みながら、先に厨房に向かっているリリアを追いかける。厨房にはすでに、菓子から軽食からスープまで、彩よく盛り付けられて配膳台の上に並べられていた。
リリアが厨房係の侍女と相談しながら皿やカトラリーをワゴンに乗せている。
「箸は割り箸が便利でしょう。グラスを人数分より多めに……」
「布巾もたくさん用意して……そうそう、リンリンのご飯も忘れないように」
アデライードは「月の障り」でお籠り三日目である。一番きつい日を終えて、午後は気晴らしを兼ね、ミハルやアリナを招いて女子会を開くのだ。
痛みは治まってもいろいろと鬱陶しいこの期間、女だけで集まってお喋りに興じるのは西の習慣だ。お互いに訪問し合って無聊を慰め、ベッドやソファに寝そべって、あれこれぶっちゃけトークを繰り広げるのである。アデライードの居間にも、すでに三台ものソファや寝椅子を持ち込み済みである。
部屋に帰るとすでにアリナが来ていて、アデライードの寝台の脇の椅子に座り、アデライードの手を握って魔力を循環させる手伝いをしていた。月経中は〈陰〉の気が強まって魔力制御が効きにくい。アリナの指示にしたがって魔力を体内に巡らせると、アデライードの体調はかなり改善された。
「遅くなってすみません!今すぐ準備しますから!」
アンジェリカが張り切って言うのを、アリナが苦笑した。
「慌てなくても大丈夫です。会が始まる前に魔力制御をお手伝いしようと思って、早めに来たのですから」
月経中の女子会なんて習慣は東にはないので、アリナは戸惑い気味である。もともと女騎士として、普段男に交じって鍛錬していたのである。ただ、月経中は太陽神殿の護衛任務を離れなければならないため、家で大人しく過ごしていた。
卓に薄いピンクのテーブルクロスが広げられ、その上に挟みパンやカナッペ、小ぶりのおにぎり、から揚げ、ボイルした腸詰、野菜のスティックなどが色どりよく並べられた銀の大皿が置かれる。飲み物はワゴンの上に、冷めない魔法鍋の中のスープが二種、温かいお茶、葡萄酒、果実水などなど。
「美味しそうねぇ。こんなご馳走が食べられるなら、鬱陶しい生理も悪くないわね」
アリナがきりりと微笑む、その男らしい様子にアンジェリカは胸が高鳴る。
だいたいの準備ができたころに、ミハルとゲルの妾のマーヤが連れ立ってやってきた。あと、客はエンロンの妻のミアとアウローラである。さらにメイドも兼ねる客としてスルヤという、最近総督府に入った女が加わる。
スルヤは先代の副総督の末の娘で、ソリスティアの騎士の家に嫁に行って、ソリスティアに残ったのである。その騎士の家は代々ソリスティアの警備隊を務めていて、リリアの家とは親戚になる。エンロンは当初、アデライードの侍女候補としてスルヤを思い浮かべたのだが、未婚の娘の方がいい、という恭親王の意向もあって、スルヤの親族であるリリアを推薦したのである。
ミアはソリスティアの豪商の娘で、アンジェリカとは旧知の間柄、アウローラは近隣の小領主の娘だが、気さくで穏やかな人柄である。いずれも二十代の半ば、手土産にソリスティアで評判の菓子屋の砂糖菓子を携えていた。
「それではまず、姫君のご健勝と、ミハル様のご婚約を祝しまして、カンパーイ!」
「ほんっと、あのエロ皇子様がいないと仕事がはかどるわー」
日々のルーティーンになっている仕事を午前中に終わらせてしまい、アンジェリカがうーんと大きく伸びをする。いつもなら蜜月期間で休暇中の総督が、デカい図体でアデライードの部屋で姫君に纏わりついて目ざわりな上に、目を離すと姫君を襲うので、アンジェリカもリリアも気の休まる暇がない。
「さっ、お掃除も済んだし、女子会の支度をしなくっちゃ~」
ふんふんと楽し気にスキップを踏みながら、先に厨房に向かっているリリアを追いかける。厨房にはすでに、菓子から軽食からスープまで、彩よく盛り付けられて配膳台の上に並べられていた。
リリアが厨房係の侍女と相談しながら皿やカトラリーをワゴンに乗せている。
「箸は割り箸が便利でしょう。グラスを人数分より多めに……」
「布巾もたくさん用意して……そうそう、リンリンのご飯も忘れないように」
アデライードは「月の障り」でお籠り三日目である。一番きつい日を終えて、午後は気晴らしを兼ね、ミハルやアリナを招いて女子会を開くのだ。
痛みは治まってもいろいろと鬱陶しいこの期間、女だけで集まってお喋りに興じるのは西の習慣だ。お互いに訪問し合って無聊を慰め、ベッドやソファに寝そべって、あれこれぶっちゃけトークを繰り広げるのである。アデライードの居間にも、すでに三台ものソファや寝椅子を持ち込み済みである。
部屋に帰るとすでにアリナが来ていて、アデライードの寝台の脇の椅子に座り、アデライードの手を握って魔力を循環させる手伝いをしていた。月経中は〈陰〉の気が強まって魔力制御が効きにくい。アリナの指示にしたがって魔力を体内に巡らせると、アデライードの体調はかなり改善された。
「遅くなってすみません!今すぐ準備しますから!」
アンジェリカが張り切って言うのを、アリナが苦笑した。
「慌てなくても大丈夫です。会が始まる前に魔力制御をお手伝いしようと思って、早めに来たのですから」
月経中の女子会なんて習慣は東にはないので、アリナは戸惑い気味である。もともと女騎士として、普段男に交じって鍛錬していたのである。ただ、月経中は太陽神殿の護衛任務を離れなければならないため、家で大人しく過ごしていた。
卓に薄いピンクのテーブルクロスが広げられ、その上に挟みパンやカナッペ、小ぶりのおにぎり、から揚げ、ボイルした腸詰、野菜のスティックなどが色どりよく並べられた銀の大皿が置かれる。飲み物はワゴンの上に、冷めない魔法鍋の中のスープが二種、温かいお茶、葡萄酒、果実水などなど。
「美味しそうねぇ。こんなご馳走が食べられるなら、鬱陶しい生理も悪くないわね」
アリナがきりりと微笑む、その男らしい様子にアンジェリカは胸が高鳴る。
だいたいの準備ができたころに、ミハルとゲルの妾のマーヤが連れ立ってやってきた。あと、客はエンロンの妻のミアとアウローラである。さらにメイドも兼ねる客としてスルヤという、最近総督府に入った女が加わる。
スルヤは先代の副総督の末の娘で、ソリスティアの騎士の家に嫁に行って、ソリスティアに残ったのである。その騎士の家は代々ソリスティアの警備隊を務めていて、リリアの家とは親戚になる。エンロンは当初、アデライードの侍女候補としてスルヤを思い浮かべたのだが、未婚の娘の方がいい、という恭親王の意向もあって、スルヤの親族であるリリアを推薦したのである。
ミアはソリスティアの豪商の娘で、アンジェリカとは旧知の間柄、アウローラは近隣の小領主の娘だが、気さくで穏やかな人柄である。いずれも二十代の半ば、手土産にソリスティアで評判の菓子屋の砂糖菓子を携えていた。
「それではまず、姫君のご健勝と、ミハル様のご婚約を祝しまして、カンパーイ!」
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