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2、聖地・太陰宮
祈りの島
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聖地は太古の造山活動の結果、大陸より分離されてできた一つの大きな島――むしろ、亜大陸と呼ぶべき――である。
島の中央部には万年雪を頂く霊峰プルミンテルンと、それを取り巻く高山地帯が聳え、世界の中心、聖山として崇られている。山地より北は禁足地で人の立ち入りは禁じられている。島の北側は針葉樹林とツンドラが広がり、そのまま氷の海へと連なると伝えられるが、もとより人の立ち入らぬ場所で実際にはわからない。
島の東側の沿岸は断崖絶壁が連なり、西側もリアス式海岸となって荒波を砕き、島に上陸することはできない。唯一、南側の海岸だけが扇状地より入り江を形成して天然の良港をなし、そのただ一つの〈港〉によって大陸へと開かれている。
〈港〉は多数の神殿娼婦を擁する小神殿と広場を中心に、多くの巡礼者向けの宿屋や食堂、土産物屋が軒を連ね、聖地一の賑わいを見せるが、そこを一歩抜けると、中央部に向かって緩やかに傾斜する野原と荒地と森のはざまに、神殿や僧院が点在する祈りの島となる。
〈港〉に一番近い、島の南側の一帯は、月女神を主神とする太陰宮の境域。月神殿を中心に、十一の小神殿とそれに祈りを捧げる千人の女神官、二十人ほどのごくわずかにいる男神官と、附設の女子修道院があって、遠く聖地の外からも貴族令嬢を行儀見習いとしても受け入れている。荒地と森のはざまには、世俗を捨てた尼僧たちが自給自足で暮らす尼僧院が点在する。およそ六百人の尼僧が暮らし、神殿の治安を二百人の女戦士が守る。
太陰宮の北は、太陽神を主神とする太陽宮の境域となり、太陽神殿を頂点に、計十二の小神殿があり、岩まじりの痩せた土地には女人禁制の大小六十もの僧院を拠点に、合わせて三千人の僧侶が祈りと労働の日々を送り、治安を守るために五百人もの僧兵を擁する。
さらにその北、霊峰プルミンテルンを取り巻く山地の中腹に、最も閉鎖的で巡礼者すら受け入れない陰陽宮があり、百人足らずの宦官によって維持される。陰陽宮より北は聖なる領域であり、禁足地となっていて、何人も足を踏み入れることはできない。
聖山プルミンテルンが見下ろす太陽宮、太陰宮、陰陽宮の〈禁苑三宮〉は、陽と陰、天と地、男と女……あらゆる事象が陰陽の調和の上に成り立つとするこの世界の、宗教的中心地、宗教的権威として、そして天に最も近い場所として、陰陽の調和を至上命題に、二千年にわたり絶対の聖性を保持してきた。
かつて、世界は一万年にわたって〈混沌〉の闇に閉ざされていた。その闇を切り拓いて光と闇が調和する世界をもたらしたのが、太陽の龍騎士と月の精靈ディアーヌの交合であった、とされる。太陽の龍騎士の子孫は大陸の東側三分の二を占める大帝国を築き、二千年の繁栄を極めている。西の三分の一は月の精靈ディアーヌの子孫が治める女王国である。陰陽二元論に基づく世界において、東の皇帝は太陽神――陽――の、西の女王は月の女神――陰――の地上における代理人であり、二つの国の調和によって世界は平和に保たれてきた。
しかし現在、女王国では女王の空位が一年にも及び、深刻な危機に立たされていた。
島の中央部には万年雪を頂く霊峰プルミンテルンと、それを取り巻く高山地帯が聳え、世界の中心、聖山として崇られている。山地より北は禁足地で人の立ち入りは禁じられている。島の北側は針葉樹林とツンドラが広がり、そのまま氷の海へと連なると伝えられるが、もとより人の立ち入らぬ場所で実際にはわからない。
島の東側の沿岸は断崖絶壁が連なり、西側もリアス式海岸となって荒波を砕き、島に上陸することはできない。唯一、南側の海岸だけが扇状地より入り江を形成して天然の良港をなし、そのただ一つの〈港〉によって大陸へと開かれている。
〈港〉は多数の神殿娼婦を擁する小神殿と広場を中心に、多くの巡礼者向けの宿屋や食堂、土産物屋が軒を連ね、聖地一の賑わいを見せるが、そこを一歩抜けると、中央部に向かって緩やかに傾斜する野原と荒地と森のはざまに、神殿や僧院が点在する祈りの島となる。
〈港〉に一番近い、島の南側の一帯は、月女神を主神とする太陰宮の境域。月神殿を中心に、十一の小神殿とそれに祈りを捧げる千人の女神官、二十人ほどのごくわずかにいる男神官と、附設の女子修道院があって、遠く聖地の外からも貴族令嬢を行儀見習いとしても受け入れている。荒地と森のはざまには、世俗を捨てた尼僧たちが自給自足で暮らす尼僧院が点在する。およそ六百人の尼僧が暮らし、神殿の治安を二百人の女戦士が守る。
太陰宮の北は、太陽神を主神とする太陽宮の境域となり、太陽神殿を頂点に、計十二の小神殿があり、岩まじりの痩せた土地には女人禁制の大小六十もの僧院を拠点に、合わせて三千人の僧侶が祈りと労働の日々を送り、治安を守るために五百人もの僧兵を擁する。
さらにその北、霊峰プルミンテルンを取り巻く山地の中腹に、最も閉鎖的で巡礼者すら受け入れない陰陽宮があり、百人足らずの宦官によって維持される。陰陽宮より北は聖なる領域であり、禁足地となっていて、何人も足を踏み入れることはできない。
聖山プルミンテルンが見下ろす太陽宮、太陰宮、陰陽宮の〈禁苑三宮〉は、陽と陰、天と地、男と女……あらゆる事象が陰陽の調和の上に成り立つとするこの世界の、宗教的中心地、宗教的権威として、そして天に最も近い場所として、陰陽の調和を至上命題に、二千年にわたり絶対の聖性を保持してきた。
かつて、世界は一万年にわたって〈混沌〉の闇に閉ざされていた。その闇を切り拓いて光と闇が調和する世界をもたらしたのが、太陽の龍騎士と月の精靈ディアーヌの交合であった、とされる。太陽の龍騎士の子孫は大陸の東側三分の二を占める大帝国を築き、二千年の繁栄を極めている。西の三分の一は月の精靈ディアーヌの子孫が治める女王国である。陰陽二元論に基づく世界において、東の皇帝は太陽神――陽――の、西の女王は月の女神――陰――の地上における代理人であり、二つの国の調和によって世界は平和に保たれてきた。
しかし現在、女王国では女王の空位が一年にも及び、深刻な危機に立たされていた。
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