上 下
223 / 236
エピローグ

金銀の星の海

しおりを挟む
 夜の帳が下りた寝台の上で、シウリンはアデライードの白い胸を抱え込むようにして、その乳首を口に含んでいた。普段よりも二割増しで大きくなった胸に、巨乳嫌いだったはずだが巨乳も悪くないと思い始めている、現金なシウリンであった。

「甘い……あいつら、こんないいものを飲んでいるんだな」

 口を離してうっとりと言うシウリンの、唇の端に白いものが滲んでいる。それを見降ろして、アデライードが首を傾げる。

「そんなに美味しいものでもなかったと思いますが……」
「飲んだのか?」
「一応、味見はしましたが……」

 子供も夫も非常に美味そうにごくごく飲むので、好奇心に駆られたアデライードも舐めてみたのだ。

「あなたの身体から出るものは全部甘いよ。なんなら排泄物でも……あがっ」

 ベシっと頭をはたかれて、シウリンが額を抑える。

「全く何てこと仰るのかしら。子供の前では絶対にやめてくださいね」
「わかっているよ、アデライード。子供産んだら急に強くなるんだから」
「旦那様がこんなんだから、わたしが強くなるしかないじゃありませんの」 
 
 シウリンはアデライードの胸から顔を離し、まっすぐに顔を見て言った。

「そういえば……ミハルのこと、聞いたか?」
「……ええ。なんだかずいぶん、悪阻つわりがきついのだとか。食事も摂れないので、しばらく神殿に入ると――」
「そうなんだ。トルフィンがもう、おろおろして、あいつまで仕事にならないからな。それで、後任の秘書官はどうする?」
「ああ、それなら、クリスティナ様に来てもらうことにしました」
「クリスティナ?」
「ええ、あの方、実はすごく計算に強いのです」 

 意外な言葉にシウリンがへぇと思う。

「一応、あなたの婚約者ですから、王城にもずっと出入りしていて慣れていらっしゃるし……それに園芸が趣味で、菜園の手入れなどもしておられて、農業に興味があるんですって」
「婚約者って……それ、まだ有効なのか?……ていうか、農業? 貴族の娘が?」

 エイロニア侯爵の四女クリスティナは、ユリウスの妻イリスの妹で、シウリンが側室除けに名目的に婚約者にしていた女だが、シウリン自身はクリスティナに全く興味がなく、口もろくにきいたことがない。機会を見てランパに押し付けるつもりでいるが、数字に強くて農業に興味があるとか、初耳だ。

 だがアデライードはこともなげに言う。

西こっちでは、嫁いだら夫の領地の仕事を妻が分担するでしょう? だから計算とか、法律関係とか、あるいは農業についてとか、何らかの得意分野を持っておくのが強みになるんですって。わたし、普通の西の貴族の夫人なんて、とても務まらなかったわ。――あ、でも魔法が使えるから」
「やめてくれ!」

 シウリンが悲鳴のような声をあげ、アデライードに圧し掛かって寝台に押し倒す。

「アデライード……魔法は大事だけど、治癒術以外はそんなに使うな。こっちの心臓がもたない」
「旦那様……」

 シウリンが覆いかぶさるようにしてその唇を奪う。しばらく互いに舌を絡ませあってから、シウリンが唇を離し、耳元で囁く。

「女王様は私だけの女王様だ……昼の間は子供たちに貸すけどな」
 
 そう言って欲望の籠った黒い瞳でアデライードを見つめる。

「あなたの一番の仕事は、私とめいっぱい愛し合って、陰陽の調和に励んで……星の数ほど子供を生むことだ。……そうだろう?」
「それは……」

 シウリンの手がアデライードの敏感な場所に伸び、まさぐり始めると、それだけでアデライードはあっさり陥落して彼に身を任せる。

「愛してるアデライード……永遠に、あなただけ」
「わたしも……愛してるわ」

 寝台の上で身体の深い場所で繋がりあう二人の上では、金銀の光の龍がやはり睦み合って光の粉をまき散らし始めた。それは夜の空気の中を天空へと立ち上って、やがて天上に煌く星空の海へと溶け込んで、世界に遍く広がっていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...