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18、永遠を継ぐ者
安産のお札
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「ホラ、山ほど貰って来たぞ、安産の御札!」
誇らしげに卓上にお札の山を積み上げる夫を見て、アデライードは溜息を零す。ジブリールが卓上に両の前足を上げ、そのお札の山の匂いをフンフンと嗅いでいる。
「そんなにたくさん……一枚で十分ですって、申し上げるのを忘れたわたしがいけなかったのかしら……」
「何を言う。西の女王のと東の皇帝の子なんだぞ。この世界数億人の陰陽の徒が、毎日安産祈願しまくってもいいくらいの、全世界待望の子なんだ。これくらいの御札、何でもない」
「ですから……あなたがお札の在庫を全部持ち去ってしまったせいで、安産の御札が貰えなかった、気の毒な妊婦がいたかもしれないと、どうして想像できないのですか」
「それは……」
シウリンは視線を逸らす。御札を貰い損ねた気の毒な妊婦もそうだが、結局赤子をロクに見もしないで戻ってきたのだと知られたら、きっとアデライードは怒るに違いない。ちらりとメイローズを睨みつける。
(お前……告げ口するなよ?)
メイローズはメイローズで、主の考えていることなど全て承知であるから、仕方ない、という風に眉尻を下げている。
「それで……赤ちゃんはお元気でしたの? もう、ずいぶんと大きくなったのでは」
「いや、ちっちゃかったぞ? ゾーイのところの子が生まれたばかりの時くらいしか、なかった」
ジブリールの白い腹毛を撫でてやりながら、シウリンはミカエラの腕の中の赤子を思い浮かべる。メイローズが苦笑した。
「フェロン坊っちゃんは、少しばかり、尋常ならざる大きさでございますから、比較の対象にはなりませんよ。……生育は至って順調です」
「そうなの……エドゥアルド、と仰ったかしら。いいお名前よね?」
アデライードの発言に、シウリンがぎょっとする。
「なぜ、名前を知っているのだ。私だって、今日、初めて聞いたのに」
アデライードが心底呆れたような顔で、溜息をつく。ジブリールも起き上って、馬鹿にするように「ワフン」と鳴いた。
「なぜって……報告を受けているからです。書類を作成したりするのにも名前は必要ですもの。陛下にも当然、報告は上がっているはずですのに、どうして今日まで知らないでいたのですか」
「……不快な情報は、耳が勝手に排除していたらしい……」
「本当に、アンジェリカが言う通り、女性関係にはとことん残念な方ですのね……」
シャオトーズが運んできた薬草茶を溜息交じりにかき混ぜ、受け皿に移して冷ましながら、アデライードが呟いた一言に、シウリンがぎくりと身を固くする。
「な……残念って! そういうのは、昔の私とか、今のゾラみたいな男に言うべきで、妻一人に愛を捧げようと必死になってる私に言うべき言葉じゃないだろう!」
取り縋らんばかりに詰め寄るシウリンに、アデライードが受け皿を手に持って、首を傾げる。
「だって、心配になりますもの。……御子に対して冷たすぎます。わたしの子にだって、もしかしてって、思ってしまいますわ」
「そんなわけないだろう! あなたの子だったらもう、目に入れても痛くないくらい、可愛がるに決まってる! 食えと言われれば、その排泄物だって口にできる自信があるぞ!」
その言葉にアデライードが一瞬、気が遠くなってふらりとよろめく。
「あ、アデライード! 大丈夫か! 貧血か! 治癒魔法師を呼んだ方がいいんじゃないのか!」
慌てて抱き留め、大げさに騒ぐシウリンに、メイローズもすっかり醒めた目で言う。
「……確かに、どうしょうもないくらい、残念ですね……」
主の狂騒が子が生まれるまであと数か月、続くのかと思うと、忠誠心の篤いメイローズですらうんざりする。
(でも次こそ、無事に生まれていただきたい)
そのためならば、己の命を削ることも何とも思わないと、メイローズは固く決意するのであった。
誇らしげに卓上にお札の山を積み上げる夫を見て、アデライードは溜息を零す。ジブリールが卓上に両の前足を上げ、そのお札の山の匂いをフンフンと嗅いでいる。
「そんなにたくさん……一枚で十分ですって、申し上げるのを忘れたわたしがいけなかったのかしら……」
「何を言う。西の女王のと東の皇帝の子なんだぞ。この世界数億人の陰陽の徒が、毎日安産祈願しまくってもいいくらいの、全世界待望の子なんだ。これくらいの御札、何でもない」
「ですから……あなたがお札の在庫を全部持ち去ってしまったせいで、安産の御札が貰えなかった、気の毒な妊婦がいたかもしれないと、どうして想像できないのですか」
「それは……」
シウリンは視線を逸らす。御札を貰い損ねた気の毒な妊婦もそうだが、結局赤子をロクに見もしないで戻ってきたのだと知られたら、きっとアデライードは怒るに違いない。ちらりとメイローズを睨みつける。
(お前……告げ口するなよ?)
メイローズはメイローズで、主の考えていることなど全て承知であるから、仕方ない、という風に眉尻を下げている。
「それで……赤ちゃんはお元気でしたの? もう、ずいぶんと大きくなったのでは」
「いや、ちっちゃかったぞ? ゾーイのところの子が生まれたばかりの時くらいしか、なかった」
ジブリールの白い腹毛を撫でてやりながら、シウリンはミカエラの腕の中の赤子を思い浮かべる。メイローズが苦笑した。
「フェロン坊っちゃんは、少しばかり、尋常ならざる大きさでございますから、比較の対象にはなりませんよ。……生育は至って順調です」
「そうなの……エドゥアルド、と仰ったかしら。いいお名前よね?」
アデライードの発言に、シウリンがぎょっとする。
「なぜ、名前を知っているのだ。私だって、今日、初めて聞いたのに」
アデライードが心底呆れたような顔で、溜息をつく。ジブリールも起き上って、馬鹿にするように「ワフン」と鳴いた。
「なぜって……報告を受けているからです。書類を作成したりするのにも名前は必要ですもの。陛下にも当然、報告は上がっているはずですのに、どうして今日まで知らないでいたのですか」
「……不快な情報は、耳が勝手に排除していたらしい……」
「本当に、アンジェリカが言う通り、女性関係にはとことん残念な方ですのね……」
シャオトーズが運んできた薬草茶を溜息交じりにかき混ぜ、受け皿に移して冷ましながら、アデライードが呟いた一言に、シウリンがぎくりと身を固くする。
「な……残念って! そういうのは、昔の私とか、今のゾラみたいな男に言うべきで、妻一人に愛を捧げようと必死になってる私に言うべき言葉じゃないだろう!」
取り縋らんばかりに詰め寄るシウリンに、アデライードが受け皿を手に持って、首を傾げる。
「だって、心配になりますもの。……御子に対して冷たすぎます。わたしの子にだって、もしかしてって、思ってしまいますわ」
「そんなわけないだろう! あなたの子だったらもう、目に入れても痛くないくらい、可愛がるに決まってる! 食えと言われれば、その排泄物だって口にできる自信があるぞ!」
その言葉にアデライードが一瞬、気が遠くなってふらりとよろめく。
「あ、アデライード! 大丈夫か! 貧血か! 治癒魔法師を呼んだ方がいいんじゃないのか!」
慌てて抱き留め、大げさに騒ぐシウリンに、メイローズもすっかり醒めた目で言う。
「……確かに、どうしょうもないくらい、残念ですね……」
主の狂騒が子が生まれるまであと数か月、続くのかと思うと、忠誠心の篤いメイローズですらうんざりする。
(でも次こそ、無事に生まれていただきたい)
そのためならば、己の命を削ることも何とも思わないと、メイローズは固く決意するのであった。
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