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17、致命的な過ち

女王国の改革

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 新年祭は表面的には何事もなく終わり、諸侯はそれぞれの領地に戻っていった。難民の帰還にはまだまだ時間がかかるであろうが、魔物の害に遭った地域に対しては税の減免や、領民の生活の再建のための援助金の支出も決定し、女王国は本格的に混乱の修正に動き始める。新たな元老院議員の選挙の日程も決まり、諸侯たちは新しい政権下での、自身の立場を確立するための暗躍を始める。執政長官インペラトールにして帝国皇帝シウリンは、女王直属の諮問機関として枢密院の設立を計画し、詰めの作業に入っていた。これは元老院から女王を守るための、いわば楯のような機関だと、シウリンはアデライードに説明した。

 女王の権威を高めるために、シウリンがまず行っているのは女王家の所領と財産を増やすこと。――これは、没収したイフリート家の財産・所領のほとんどを女王家の財産へと組み入れることで、ほぼ達成される。あとは、夫である執政長官を元老院から引き離すことだ。

 女王の夫である執政長官が元老院の議長を兼ねる。しかし、執政長官は同時に、貴種の家の当主もしくは嫡子がほとんどで、それぞれ自家の利権を背負っている。結局、元老院と諸侯たちが束になって、寄ってたかって女王の権益を侵害する、そういう構図ができあがっていた。

 そうして、夫である執政長官は、ここ数百年の長きにわたり、女王を守る存在でなくなっていた。

 すでに三百年前のカリゲニア女王は、元老院の総意によって定められた夫――これもまたアリオス侯爵であった――と心を通わせることができず、夫は他の妻を愛してカリゲニアと夫婦の交わりを持とうとしなかった。白い結婚であることを理由に離婚を突きつけられた夫は、女王を蔑ろにしたかどで失脚するのを恐れ、西南辺境への視察を機会に女王の暗殺を目論んだ。その結果、女王は辺境の騎士に命を救われ、彼をナキアに連れて戻る。――これが、イフリート家の始祖であるという。
 
 もうずいぶんと昔から、諸侯たちは女王を、執政長官の椅子をもたらすだけの存在とみなしていた。この悪弊を改め、再び女王を頂点とする政体に戻すには、女王そのものの権力を拡大する必要がある。そして執政長官の地位を元老院から――もっと言えば、諸侯たちから――引き離し、女王の権力に依存させる。執政長官は何よりまず、女王の権力を守らねば自らが立ちいかないようにさせる。執政長官の権能は絶大であっても、その権力は全て、女王に基づくものと改めるつもりだった。

 執政長官が元老院の議長を兼ねる現在の制度をやめ、執政長官は新たに作られた枢密院の議長を兼ねる。枢密院はより女王に密着し、より機密性の高い政策決定を行う機関とし、元老院はその承認を行う機関とする。また執政長官は元老院の議席を有することは認めるが、八大諸侯家以下の貴種家の爵位を継承することはできず、ただ一代限りの公爵位を与えられるだけとした。――女王の夫を諸侯家の継承から除外することで、女王の夫が自身の家の継承のために、複数の妻を持たざるを得ない状況を、改めるためである。
 
 女王の側近には、その父方の親族のみならず、優れた見識を持つ女官を取り立てればよい。
 執政長官シウリンは一年後の新年祭の前に、女官と女騎士の登用試験を行うことを全土に公布した。
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