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17、致命的な過ち
仲直り
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「女王とは言っても……父方の血筋で言えば、ミカエラ様もわたしも、同じく辺境伯家の出です。それほどの格差はないと思っていらっしゃるかもしれない。――いえ、たぶんそうなのでしょう」
アデライードは、ミカエラのひどく挑戦的な視線を思い出して言う。先にシウリンの子を孕んだことを、見せつけるかのような、あの表情――。
「な……そんなこと、考えたこともなかった! 道理で……」
絶句するシウリンに、アデライードが言う。
「でもとにかく、あちらに男の子がお生まれになるのですから、きちんと形式を整えられた方が……」
「絶対嫌だ!」
シウリンが乱暴にゴブレットを卓上に置いて、アデライードを正面から見る。
「あんな女となぜ、私が結婚しなければならない! 子供のことは、あなたが気にすることじゃない。メイローズに全部任せてある。……あれは、ガルシア領の出なんだ。従者として付いてきた男とも、古い知り合いらしい」
「でも……」
「もともと、あの女はガルシア辺境伯の跡取りが必要だから、私と結婚したいと言っていたんだ。跡取りらしきがもう胎にいるのに、この上何をしに来たのか知らないが、もうこれ以上関わるつもりもない。あなたもだ。――もう、あんな女のことはあなたも忘れていい」
「シウリン――」
アデライードは溜息をついた。
「以前の――サウラとおっしゃるご側室の時にも思いましたけれど……ご自分の御子に対して無責任に過ぎませんか」
アデライードの苦言に、シウリンが眉間に皺を寄せる。
「……確かに、ヤった以上は責任を持てというのはわかる。でも妊娠を私に隠しておいて突然押しかけてきたり、わざわざあなたの面前に前触れもなくやってきたり、悪意があるとしか思われない。さらにミカエラに関しては、正直私は被害者だと思ってる。そんなつもりもないのを、酒や薬で前後不覚にさせて……男が同じことをしたら、立派な犯罪だぞ? しかも、髪の油まで普段とは変えて……計画的犯行じゃないか」
「それは……そうですが……。でも、御子には何の罪もないのですから……」
「そんなのはわかっている。だがな……そうだ、アデライード、想像するだけで発狂しそうだけれど、万一あなたが好きでもない男に無理矢理犯された上、妊娠してできた子供を、お前が生んだんだから責任もてと言われて、納得できるか?……いや、納得して愛情深く育てる女も世の中にはいるかもしれないが、その子供を見るたびに、辛いことを思い出して耐え難く思う女だって、世の中には普通にいると思うがな。私はどっちかというと、後者だ」
「それは……」
アデライードは反論できずに俯いてしまう。
「それに、アデライード……私は、今ほど怒っていることはないってくらい、怒っている。私はあの時――あの森の、黄金の枝の下であなたに誓った。生涯、あなた以外には触れないと。あの女やガルシア城の者たちは、その誓いを守りたいと思っていた私を踏みにじったんだ。その上さらにあなたの前に突然現れて、あなたを驚かせ、傷つけた。私は到底、あの女を許すことはできない。――腹の子は気の毒だとは思うが、しょうがないだろう。親に愛されない子供なんて、山ほどいる。……私が、そうだったように」
「シウ――」
アデライードが、翡翠色の瞳でシウリンを見つめる。シウリンの黒い瞳がまっすぐ、だが少しだけ不安そうに、アデライードを見ている。
「今回のこと、全てミカエラだけが悪いと言うつもりはない。でも、もう終わったことだ。無事に子供が生まれればガルシア領に戻し、成長後は辺境伯の爵位を継がせる。龍種としての待遇はするが、継承権は与えない。その方向でこれから詰める。あなたはもう、この問題にかかわらなくていい。いや、むしろ関わらないでくれ」
はっきり宣言され、アデライードは言葉を失う。シウリンが、アデライードを熱っぽい瞳で見つめ、言った。
「アデライード、愛しているのはあなただけだ。あなたを傷つけたことは詫びる。すまなかった。この先何があっても、あなた以外と私が寝ることはない。女王国のしきたりその他については、極力、考えるから。だから、あなたにも私を信じて欲しい」
「シウリン――」
「あなたは私を愛して、信じてくれる?」
「――ええ、もちろん」
微笑んで答えたアデライードに、シウリンがほっとしたように表情を緩める。
「じゃあ、急いで食事を終えてしまおう。そうして――」
シウリンがテーブル越しに顔を寄せ、アデライードの耳元で囁いた。
「やっぱり、私たちに今一番必要なのは、子供だから――いっぱいヤって、いっぱい、子供を作ろう」
あからさまな言葉にアデライードが口に含んだ水を噴き出しそうになる。その頬にシウリンがそっと口づけた。
アデライードは、ミカエラのひどく挑戦的な視線を思い出して言う。先にシウリンの子を孕んだことを、見せつけるかのような、あの表情――。
「な……そんなこと、考えたこともなかった! 道理で……」
絶句するシウリンに、アデライードが言う。
「でもとにかく、あちらに男の子がお生まれになるのですから、きちんと形式を整えられた方が……」
「絶対嫌だ!」
シウリンが乱暴にゴブレットを卓上に置いて、アデライードを正面から見る。
「あんな女となぜ、私が結婚しなければならない! 子供のことは、あなたが気にすることじゃない。メイローズに全部任せてある。……あれは、ガルシア領の出なんだ。従者として付いてきた男とも、古い知り合いらしい」
「でも……」
「もともと、あの女はガルシア辺境伯の跡取りが必要だから、私と結婚したいと言っていたんだ。跡取りらしきがもう胎にいるのに、この上何をしに来たのか知らないが、もうこれ以上関わるつもりもない。あなたもだ。――もう、あんな女のことはあなたも忘れていい」
「シウリン――」
アデライードは溜息をついた。
「以前の――サウラとおっしゃるご側室の時にも思いましたけれど……ご自分の御子に対して無責任に過ぎませんか」
アデライードの苦言に、シウリンが眉間に皺を寄せる。
「……確かに、ヤった以上は責任を持てというのはわかる。でも妊娠を私に隠しておいて突然押しかけてきたり、わざわざあなたの面前に前触れもなくやってきたり、悪意があるとしか思われない。さらにミカエラに関しては、正直私は被害者だと思ってる。そんなつもりもないのを、酒や薬で前後不覚にさせて……男が同じことをしたら、立派な犯罪だぞ? しかも、髪の油まで普段とは変えて……計画的犯行じゃないか」
「それは……そうですが……。でも、御子には何の罪もないのですから……」
「そんなのはわかっている。だがな……そうだ、アデライード、想像するだけで発狂しそうだけれど、万一あなたが好きでもない男に無理矢理犯された上、妊娠してできた子供を、お前が生んだんだから責任もてと言われて、納得できるか?……いや、納得して愛情深く育てる女も世の中にはいるかもしれないが、その子供を見るたびに、辛いことを思い出して耐え難く思う女だって、世の中には普通にいると思うがな。私はどっちかというと、後者だ」
「それは……」
アデライードは反論できずに俯いてしまう。
「それに、アデライード……私は、今ほど怒っていることはないってくらい、怒っている。私はあの時――あの森の、黄金の枝の下であなたに誓った。生涯、あなた以外には触れないと。あの女やガルシア城の者たちは、その誓いを守りたいと思っていた私を踏みにじったんだ。その上さらにあなたの前に突然現れて、あなたを驚かせ、傷つけた。私は到底、あの女を許すことはできない。――腹の子は気の毒だとは思うが、しょうがないだろう。親に愛されない子供なんて、山ほどいる。……私が、そうだったように」
「シウ――」
アデライードが、翡翠色の瞳でシウリンを見つめる。シウリンの黒い瞳がまっすぐ、だが少しだけ不安そうに、アデライードを見ている。
「今回のこと、全てミカエラだけが悪いと言うつもりはない。でも、もう終わったことだ。無事に子供が生まれればガルシア領に戻し、成長後は辺境伯の爵位を継がせる。龍種としての待遇はするが、継承権は与えない。その方向でこれから詰める。あなたはもう、この問題にかかわらなくていい。いや、むしろ関わらないでくれ」
はっきり宣言され、アデライードは言葉を失う。シウリンが、アデライードを熱っぽい瞳で見つめ、言った。
「アデライード、愛しているのはあなただけだ。あなたを傷つけたことは詫びる。すまなかった。この先何があっても、あなた以外と私が寝ることはない。女王国のしきたりその他については、極力、考えるから。だから、あなたにも私を信じて欲しい」
「シウリン――」
「あなたは私を愛して、信じてくれる?」
「――ええ、もちろん」
微笑んで答えたアデライードに、シウリンがほっとしたように表情を緩める。
「じゃあ、急いで食事を終えてしまおう。そうして――」
シウリンがテーブル越しに顔を寄せ、アデライードの耳元で囁いた。
「やっぱり、私たちに今一番必要なのは、子供だから――いっぱいヤって、いっぱい、子供を作ろう」
あからさまな言葉にアデライードが口に含んだ水を噴き出しそうになる。その頬にシウリンがそっと口づけた。
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*WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。
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