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12、女王の寝室
認証式の前夜
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月神殿から、認証の間の魔法陣の修理が終わったと報せが入ったのは、冬至に先んずること僅か三日。慌てて各方面に連絡して、結局、認証式は冬至の前日にずれ込んだ。
先だっての襲撃のこともあり、アデライード近辺の警備は厳重を極めた。暗部や術師を駆使して、王城内の彼女の部屋は完璧な警備が整えられたけれど、月神殿に移動し、さらに認証の間となれば、その道中や神殿内の警備体制に念には念を入れる必要があった。
「賭けてもいいが、奴等、来るぞ?」
シウリンの言葉に、詒郡王も頷く。
「まあ、俺がイフリート公爵なら、これを狙うね。――結界も修復できず、女王の警備も手薄。むしろ狙わない方が、何を企んでるかわからなくて不気味ってレベルで、来るな」
「グインは月神殿全体の警備にあたってくれ。必ず術者を一人は伴って。魔物が憑いているなら、私たち龍種の〈気〉は必ず狙ってくるから」
「わあってるよ。火蜥蜴とか、ちょっと御免だな」
先日の襲撃で、黒影の男らしきに魔物が憑いていたことで、イフリート公爵の狙いがわかってきた。
「手駒を魔物に差し出してって、とんでもねえな。確かに、不死身にはなるだろうが、魔力の強くない人間が、憑依されるってかなりの苦痛だと思うけどなあ」
廉郡王が精悍な眉を顰める。
「おそらく、イフリート公爵も――」
シウリンがぽつりと言う。
「やはりそう思うの?」
詒郡王の言葉に、シウリンが複雑な表情で頷く。
「北方の奴等も、厲蕃のチャーンバー家も、その身の内に魔物を飼っていた。おそらく、イフリート家もそういう家だ。だとすれば、当主である公爵もまた……」
「じゃあ、不死身……」
「少なくとも、普通の剣や武器では傷つけることはできない」
シウリンが卓上に山と積まれた、書類を手に取って言う。
「世俗主義……〈禁苑〉の干渉を離れた世俗の王権ってのは、要するに、〈禁苑〉の教えと相容れない、イフリート家の恰好の隠れ蓑だった。〈禁苑〉主導の様々な祭祀なんかは、魔物憑きの公爵には参加することはできない。それを、世俗主義の言い訳で躱してきたんだよ。……まったく、女王も元老院も、騙されるにしたって三百年は長すぎだ」
「でもとにかく、どう転んでもこれで決着が着くはずだよ。……お姫様が死んだら、女王国も、そして帝国も、終わりだ。つまり奴等は、本気の本気でお姫様一人を殺しに来る」
詒郡王がいつにない真剣な表情でシウリンに言う。
「わかっている。……大丈夫だ。私がアデライードを命がけで守る。その覚悟はできている」
「シウが死んでもお姫様一人じゃあ、魔力が制御できない。シウも、死んだらダメだ」
「死なないよ、ここまで来て。――私が今まで、何度死にそうな目に遭ったと思っている」
シウリンが笑うと、詒郡王が眉尻を下げて言う。
「まったく……どういう運命のいたずらか知らないけど、本当にシウは天と陰陽にいいように使われてるよね」
その言葉に、シウリンが珍しくからからと笑った。
先だっての襲撃のこともあり、アデライード近辺の警備は厳重を極めた。暗部や術師を駆使して、王城内の彼女の部屋は完璧な警備が整えられたけれど、月神殿に移動し、さらに認証の間となれば、その道中や神殿内の警備体制に念には念を入れる必要があった。
「賭けてもいいが、奴等、来るぞ?」
シウリンの言葉に、詒郡王も頷く。
「まあ、俺がイフリート公爵なら、これを狙うね。――結界も修復できず、女王の警備も手薄。むしろ狙わない方が、何を企んでるかわからなくて不気味ってレベルで、来るな」
「グインは月神殿全体の警備にあたってくれ。必ず術者を一人は伴って。魔物が憑いているなら、私たち龍種の〈気〉は必ず狙ってくるから」
「わあってるよ。火蜥蜴とか、ちょっと御免だな」
先日の襲撃で、黒影の男らしきに魔物が憑いていたことで、イフリート公爵の狙いがわかってきた。
「手駒を魔物に差し出してって、とんでもねえな。確かに、不死身にはなるだろうが、魔力の強くない人間が、憑依されるってかなりの苦痛だと思うけどなあ」
廉郡王が精悍な眉を顰める。
「おそらく、イフリート公爵も――」
シウリンがぽつりと言う。
「やはりそう思うの?」
詒郡王の言葉に、シウリンが複雑な表情で頷く。
「北方の奴等も、厲蕃のチャーンバー家も、その身の内に魔物を飼っていた。おそらく、イフリート家もそういう家だ。だとすれば、当主である公爵もまた……」
「じゃあ、不死身……」
「少なくとも、普通の剣や武器では傷つけることはできない」
シウリンが卓上に山と積まれた、書類を手に取って言う。
「世俗主義……〈禁苑〉の干渉を離れた世俗の王権ってのは、要するに、〈禁苑〉の教えと相容れない、イフリート家の恰好の隠れ蓑だった。〈禁苑〉主導の様々な祭祀なんかは、魔物憑きの公爵には参加することはできない。それを、世俗主義の言い訳で躱してきたんだよ。……まったく、女王も元老院も、騙されるにしたって三百年は長すぎだ」
「でもとにかく、どう転んでもこれで決着が着くはずだよ。……お姫様が死んだら、女王国も、そして帝国も、終わりだ。つまり奴等は、本気の本気でお姫様一人を殺しに来る」
詒郡王がいつにない真剣な表情でシウリンに言う。
「わかっている。……大丈夫だ。私がアデライードを命がけで守る。その覚悟はできている」
「シウが死んでもお姫様一人じゃあ、魔力が制御できない。シウも、死んだらダメだ」
「死なないよ、ここまで来て。――私が今まで、何度死にそうな目に遭ったと思っている」
シウリンが笑うと、詒郡王が眉尻を下げて言う。
「まったく……どういう運命のいたずらか知らないけど、本当にシウは天と陰陽にいいように使われてるよね」
その言葉に、シウリンが珍しくからからと笑った。
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