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12、女王の寝室

情交*

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「……しない、の?」

 アデライードの問いに、シウリンが長い白金色の髪をするりと撫でる。予感は、あった。アデライードが自ら彼との交わりを求める時は、彼女が不安の中にある時だ。特に元老院に立ち込めていた、何とも不快な、女王を値踏みし、侮るような気配は本当に苛立たしかった。――彼らが、ただ若く見かけが美しいという理由だけで、皇帝であるシウリンまでをも侮ってくれたのには、嗤ったけれど。

 シウリンはアデライードを抱き上げて、膝の上に引きあげる。跨るように膝に乗せ、唇と唇を合わせ、貪りながら夜着の帯を引き抜いて、くったりとした絹の夜着を肩から滑り落とす。目の前に現れた白い身体に唇を這わせ、大きな手のひらで白く滑らかな背中を撫でて、尻のまろみを掌で覆う。

「ふっ……んんっ……」
 
 アデライードもまた、唇や首筋、双丘の谷間に口づけをうけながら、白い手を動かしてシウリンの夜着を脱がせる。金鎖に通した神器の指輪が、魔力灯の淡い光を弾いて煌めいた。

「アデライード……愛してる」

 肩口に顔を埋めて呟けば、アデライードの身体が震え、白金の髪が揺れる。

「シウ、リン……ちょうだい……早く……怖いの、忘れたいの……」
「ああ、わかってる………すぐに……」

 素早く指を這わせ、彼女の準備が整っていることを確認すると、十分に昂った己を突き立てる。膝立ちになった状態からゆっくり腰を落として、アデライードが彼を飲み込んでいく。普段よりも性急な交わりなのに、アデライードの中はシウリンを求めるようにうごめき、彼を快楽に誘おうとする。

「くっ……すごいな……こんな………」

 彼の上で自ら白い裸身をくねらせるアデライードは、シウリンの目には壮絶なまでに妖艶に見えた。

「ずいぶんと淫乱な女王様だな……」

 わざと揶揄するように言えば、アデライードは白金の髪を振り乱し、半ば開いた唇から熱い吐息を零して、彼の耳元に唇を寄せ、右耳の翡翠の口に含む。耳朶から流れ込む彼女の〈王気〉に、脳が溶けそうだと思いながら、彼も大きく腰を突き上げる。

「ああっ……あ、あぁあっ……もうっ……」

 自ら上り詰めようと腰を振るアデライードが、今にも達しようと胸を突き出すようにして、身体を反らす。その瞬間、シウリンはアデライードの腰を両手でガッチリつかんで、彼女の動きを止めた。

「や……なん、……ああっ……そんな……」

 快楽への梯子を外されて、アデライードが自ら動こうと身を捩るけれど、彼の大きな手がそれを許さない。
 
「ああっおね、おねが……いや、こんな……もう少しで……」
「もう少しで、イけたのに? イきたい?」
「あ、やっ……やあっ……おねが、おねがい……もうっ……」

 ふぁさふぁさと髪を振って、アデライードがシウリンに懇願する。目じりには涙が浮かび、切なげに彼を見る。その表情に猛烈に劣情を刺激されるけれど、シウリンは意地悪そうに微笑んで、アデライードがイけない程度に、緩やかに腰を動かす。

「イきたい?……イかせて、ってお願いして。アデライード。そうしたら……」
「あっ……や、やああっ……」
「イきたいんでしょ? もっと気持よくなりたいって、お願いして……シウリン、お願いって……」

 その口調は辺境の神殿で交わった時の、十二歳のシウリンのように、優しくて意地悪だった。そう思うと、アデライードの身体の奥がさらに熱く滾って、勝手にその内壁を震わせていく。

「あああっ……そんなっ……やあああああっ」
「うわっ……ちょっと待って……動いてないのに、反則……」
「ああっもうっ……あああああああ!」

 ついにアデライードは大きく上半身を反らして絶頂してしまう。動いてもいないのに肉楔が締め付けられ、快感に弾けそうになるのをシウリンはぐっと堪えて、アデライードの腰を掴む手に力を籠める。

「ああっ……悪い女王様だ、アデライード……独りで勝手にイくなんて……お仕置きが、必要だな……」

 シウリンは繋がったままアデライードの腰を支えて、そのままゴロリと態勢を変えて反転し、白い太ももを掴んで両足を大きく広げ、絶頂に震える蜜洞に激しく腰をぶつけ、内部を穿った。

「あっやあああっ…ああ――――――――――っ」

 激しい抽挿にアデライードが悲鳴をあげ、両手で敷布を握りしめ、両脚の爪先までピンと硬直させてさらに深い快楽の渕に沈んだ。ひたすら頭を左右に動かして白金の髪を振り乱し、ただもう、全身でよがり狂った。

「あああっあぁあ―――――――っ」
「くっはっ……ああもう、すごいよ、アデライード、こんなに、乱れて、ああっ……淫らな女王陛下……もっと、もっとイけるだろ?もっと、もっと乱れて、私に甘えて……」

 もう結合部はぐずぐずのどろどろに溶けあって、敷布はぐっしょり濡れて染みを作っている。それをさらにシウリンは翻弄するように腰を動かし、突き上げ、時には焦らしてアデライードの耳元で強請ねだる。

「ねえ、気持ちいい? あなたの中はどんな風? 今、どんな風に感じている? 教えて……アデライード、淫乱な私だけの女王様」
「やっ……そん、……なあっ……あああっ、きもち、きもちい……ああああっ、あつい、あつくて……あああんっ……」
「女王陛下のくせに奥まで突かれまくって、ぐちょぐちょに濡らして……ああもう、淫乱、淫乱女王様、奈落の底まで堕として差し上げるから、好きなだけイけばいいっ……」
「あああっ……やああっ、気持ちいいっ……あああっ、ああ――――――――っ」

 ついにもう一度達して気を失ったアデライードの、痙攣する膣の中からシウリンは己を抜き去り、アデライードの腹をめがけて吐精した。濃くて大量の精の飛沫が飛んで、アデライードの胸から白い頬までも汚す。

「くううっ……ああっ……いっそ、顔にかけてやればよかった……」

 はあっとすべて出し切ってから呟いたが、だが即位の初日からそんなことをしたとバレたら、いろいろ面倒なことになりそうだな、とシウリンは思う。

 ――何しろ一人は確実に、どこかからデバガメを決め込んでいるインポ野郎がいるわけだしな。
 
 この前のゲルフィンの時もそうだが、彼自身はすでに、人に見られようがなんだろうが、何とも思わなくなってしまった。だがアデライードは見られているなどと知ったら、二度とヤらせてくれなくなるかもしれない。そんなことを思いながら、敷布を剥がしてそれでアデライードの腹や秘部を拭う。

 枕許の魔導呼び鈴を鳴らせば、程なくして慣れた気配が天蓋布の外部に現れた。

「お呼びですか」
「……メイローズか。お前、枢機卿のくせに働き者だな」
「シャオトーズは王城の侍女たちに訓戒中でしてね。忙しいのですよ」
「久々にアデライードに強請られてヤりすぎた。ひと風呂浴びるから、その間に敷布を替えてくれ」
「……ご懐妊中の方に、何てまあ」

 呆れたようなメイローズの言葉に、シウリンが肩をすくめる。

「ヤったくらいで胎児に影響がでるなら、今頃、龍種なんてとっくの昔に滅んでるだろ」
「それはまあ、そうなのですがね」
  
 メイローズは絹のとばりを少しだけ持ち上げて、隙間からアデライードの夜着を差し入れる。シウリンはそれで気を失ったアデライードを包むと、自分は全裸のまま、彼女を抱き上げて寝台を降りる。一度部屋の外に出て他の宦官に伝達したらしいメイローズが戻ってきて、シウリンを浴室に導き、背後から手だけ伸ばして、アデライードの長い髪を器用に捩じって簪で留める。アデライードを覆っていた夜着をするりと抜き取って、アデライードを見ないよう、頭を下げたまま後向きに下がって浴室を出ていく。その一連の動作の隙の無さに、聖職者になったのはどう考えても間違いだろうと、シウリンは可笑しくなる。お湯にざっと浸かり、軽く汗と汚れを洗い流して、すぐに湯から上がる。気配を察したのか、メイローズがすぐに浴室内に入ってきて、準備してある湯上りでアデライードの濡れた身体を覆い、受け取って寝台へと戻る。シウリンも湯上りで身体を拭いて、新しい夜着を纏ってその後を追うと、すでに整えられた寝台の上に、メイローズがアデライードを横たえるところであった。

「今夜はもう、ご無理はさせないで下さいよ?」
「わかってる。久しぶりに暴走した。反省はしている」

 そう言って笑ったシウリンだが、不意に首筋に警告を感知した。

「メイローズ! 何か来るぞ!」
「ええっ?!」

 その瞬間、バンっと隣室との扉が開いて、黒い影が三人、女王の寝室に飛び込んできた。

「刺客だ――! イフリートの《黒影》だ!」
 
 シウリンの叫びに、咄嗟にメイローズが首に下げた呼子の笛を鳴らした。
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