上 下
120 / 236
11、ナキア入城

ナキア攻撃

しおりを挟む
 ついに、からのナキア攻撃の勅命が下り、廉郡王は歓喜の雄たけびをあげた。

 生まれて二十三年。とにかく我慢が嫌いである。カンダハルは風光明媚で海の幸も豊富、今は皇帝となった友人が獣人の性奴隷も準備してくれて、生活に不自由はないが、ひたすら退屈で死にそうだった。

「やっとナキアかよ~、なんか美味いもんでも食いたいよな、カンダハルも飽きたし」
 
 暢気なことを言う廉郡王を、レイノークス辺境伯ユリウスが窘める。

「カンダハルとの物流が途絶えて、今のナキアは飢え死に寸前だよ! 美味いものなんて、食えるわけないだろ」
「マジで!……俺の楽しみが一つ減ったじゃねぇか」
「だから遊びに行くわけじゃないんだから!」

 戦争に行くってのは、理解しているらしいのだ。……何しろ、ものすごい戦闘狂だから、大っぴらに人殺しができるのが、嬉しくてたまらないようだ。
 
 つくづく、この人が皇帝にならなくてよかったと、ユリウスは思う。
 義弟が皇帝として即位したことに対して、ユリウスは複雑な思いはあるが、妹の夫だという点を抜きに考えれば、廉郡王よりも義弟の方がうんとマシだ。

「要するに、材料さえあれば、美味いもんは食えるんだろ?……以前に、ユリウスに連れて行ってもらった時は、飯は美味かったぜ。厨師の腕はいいんだ。料理も洗練されていて、悪くない」

 ナキアの地図を覗きこみながら、詒郡王が言う。

「なるほど、じゃあ、食いものを山ほど持っていけばいいんだな」
「まあ、それは一案だね。ナキアが俺たちの支配下に入れば、カンダハルとの物流も再開されて、食い物が山ほど溢れかえるってわかればいいんだよ」

 詒郡王がニヤリと笑う。

「民衆なんて単純なものさ。飢える正統の王よりも、飢えない謀反人。イフリート公爵や元老院がどんなご立派な御託を並べようが、民衆は腹の膨れる方を選ぶ」

 ユリウスが詒郡王を見て言う。
 
「まずは月神殿を制圧しろと――」
「月神殿は湖の中にあるんだよ? そこだけ確保なんてできるわけないだろ。月神殿を確保するには、ナキア全体を手中にしないと無理だ。ユエリン――じゃなくて、シウが言うには、元老院やらイフリート家の確保は後回しでいいって意味さ」

 ちなみに、本物のユエリン皇子は死んでいて、彼らの知る恭親王は、その双子の弟だったと明らかにされても、彼ら二人は別に何も気にしていないようだった。詒郡王曰く、

「俺は本物のユエリン皇子ってのは知らないし。別にもともとシウって呼んでもいたし。今さらだな」

 だし、廉郡王に至っては、

「俺? 俺は、元のユエリンとあいつが別人っての、気づいてたぜ? だって、元のユエリンは右利きで、ものすごい嫌な奴だったしな。馬から落ちたおかげで、いい奴と交代チェンジしてよかったくらいに思ってたからよ」

 などと嘯いた。そういうユリウスは実はショックを受けたクチだった。親友だと思ってたのに、水臭い――。まあ、迂闊に人に話せることじゃあないってのは、ユリウスも理解はする。

(でも、僕に相談もなく勝手に皇帝になるし、ちょっとアデライードを蔑ろにしすぎじゃないのか?)

 ユリウスはばさりと自慢の長いダークブロンドを振ってから、思う。

(戦争が終わったら、ちょっとばかしいい酒と肴と、できれば女をご接待してもらおう。そのぐらいの我儘は聞いてもらえるよね?)

 まあ、何はともあれ、ナキアを落とさないことには、話は進まない。
 ユリウスは詒郡王が眺めるナキアの地図を横目で盗み見る。

 異母妹アデライードの即位を、ユリウスは別に求めていたわけじゃない。むしろ、そんな面倒から逃れて、普通の男と幸せになってくれれば、それが一番よかった。でも、アデライードが幸せになるためには、ナキアを手に入れて、イフリート公爵を追い落とす以外に道がないのだ。

 ユリウスは考える。――アデライードのナキア支配を確立するために、彼がするべきことは何か。

 アデライードに立ちふさがるのは、イフリート公爵の外には、おそらくは元老院と、アルベラ。

(アルベラは今、どこにいるのか――)
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

隠された第四皇女

山田ランチ
ファンタジー
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...