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番外編

手紙

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 親愛なる マックスにいさま

 このようなお手紙を差し上げること、きっとにいさまはお許しくださらないと思います。いえ、手紙だけではなく、わたしはあまりに罪深く、けして許される日など来ないと、わかっております。それでもただ、にいさまにはどうしても、わたしの心の内を告げなければならないと思い、筆を執りました。

 にいさまが何度も、王都までも足をお運びくださったこと、マールバラ公爵閣下よりもお聞きいたしました。以前の約束のこと、閣下もお気に止められて、いくども陛下をお諫めいただきました。それでも、陛下のご意志は変わらないとおっしゃり、またわたしも、愛しいリジーの側を離れることは到底できないと思うのです。

 ああにいさま。
 こうして筆を執っても、思い出すのはあの、リンドホルムの閉じられた秘密の庭のことばかり。今頃はきっと、庭中を薔薇が覆い尽くしていることでしょう。ただ、この世界には光輝くものしかないと信じられた、あの頃。にいさまとずっと、ずっと、永遠にあの庭を守って生きていくのだと、何の疑いもなく信じておりましたのに。

 わたしは間違えたのです。大恩あるおば様と、にいさまを裏切り、神様の許さない関係の上で、リジーを産みました。わたしの罪は永遠に消えてなくなることもなく、あの美しい庭に戻ることも、もうできはしないのです。わたしはただ、リジーを守りたい。リジーの側にいて、リジーを抱き締めて生きたい。わたしが母だと告げることは一生できない子であっても、わたしはこの子を守らねばなりません。

 どうか、お許しください。いえ、許されざる罪であるとは、わかっております。わたしの罪は、わたしが地獄へと抱いてまいります。ですからにいさまは、わたしのことなど忘れて、幸せになっていただきたいのです。あの庭を、リンドホルムを、わたしの大切な思い出を、守り伝えてもらいたのです。すべては我儘だとわかっています。どうか。どうか――。

 わたしの、精一杯の愛と後悔を込めて

 愚かなあなたの妹 ローズ


*********


 偉大にして我が心よりの忠誠を捧げるべき国王陛下 

 シャルロー村は山間で、夏は過ごしやすく、村人は素朴です。お預かりした「レジナルド」は、戦地にも慣れ、のびのびと過ごしているように見えます。本国との手紙のやり取りに制限がかかっているのが、他の隊員には不満のようで、幾分か改善を望みます。

 同封いたしましたのは、以前、私の元に届いたた「ローズ」の手紙です。かれこれもう、十七年になりますか。何かのきっかけで、これが他の者の手に渡れば「レジナルド」のためにもよろしくないと思い、陛下のもとにお返しいたします。よろしくご処分いただければ幸いに存じます。「ローズ」が「レジナルド」のことを、どれほど思っていたか、その事実をお知らせしたいのです。

 王太子殿下に三人目のお子様がご誕生間近と伺っております。王子殿下がご誕生の暁には、王家における「レジナルド」の役割は終わります。これまでも彼が王室で受けていた扱いに、僭越ながら私は心を痛めておりました。今後、彼の立場がさらに悪くなるのではと、疑ってやみません。(けして陛下の、彼に対する愛情を疑うわけではありません。ただ、陛下はそのお立場故に、これまでも彼を守り切れてはいなかった、このことは否定なさらないでしょう。)

 かつて、彼は半年ほどを我が、リンドホルムにて過ごしました。彼はローズの残した庭を愛し、そして、私の幼い娘・エルスペスを愛しました。リンドホルムからの手紙を目にした「レジナルド」はエルスペスとの婚姻を望んでおります。私の方には否やはありませんが、陛下のご意向を伺ってからと答えました。

 私は一臣下として、陛下と国に忠誠を誓ってまいりました。その証として、私は最も愛する大切な薔薇を陛下にお捧げし、「忠誠」(レジナルド)を得ました。彼が大いなる役割を終えました上は、どうか、リンドホルムにお返しください。我が祖先よりの土地、リンドホルムと薔薇の庭を守るために。

 現在、かの秘密の庭を守るのは、私の娘・エルスペスです。我がリンドホルムの長き忠誠を嘉みし賜うたならば、お認めいただきたく、伏してお願い申し上げます。未来永劫、さらなる忠義を王家に尽くすことを誓います。

                             
   衷心よりの忠誠と尊敬を込めて
   マクシミリアン・アシュバートン


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