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第三章
王妃の罪
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「どちらも壊れつつあることは、わかっていたのに、余は何もできなかった。ローズを手放すことも。アルバート以後、ローズもまた余の子を孕む兆候はなく、余にはもう、子はできぬと思っていた。……まさか、王妃が密かに、ローズに避妊薬を盛っていたなど、想像もせずに」
その言葉に、王太子夫妻がハッと息を呑む。――王子のいないことで悩む二人には、薬を使ってまで子を孕まぬようにするなんて、王妃にあるまじきことと思われたのかもしれない。
「……だが、ある時、ローズは孕んだ。余はついに、ローズを公妾にする決意を固めて、それを王妃に告げたのだが――」
「まさかそれで――」
アルバート殿下が身を乗り出す。わたしの手を握る、殿下の手が小刻みに震えていた。
「ひどい折檻を与えたのち、王妃はアルバートを攫うように連れてバールの離宮に向かった。報せを聞いた時にはもう、子は助からず、ローズの命も旦夕に迫っていた。余は、その罪を問いたかったが――」
「それを止めたのは私です、アルバート殿下」
静かに、エルドリッジ公爵が言った。
「もし、国王と王妃の不仲が公になれば、あるいはアルバート殿下の出生にも疑いをさしはさむ者が出てまいるでしょう。当時、王太子殿下は我が娘、ブリジットとの結婚を控えていて、世間を騒がすべきではないと。――わたしもまた、同罪なのです」
アルバート殿下が蒼白な顔で周囲を見回して、必死に深呼吸して激情を堪えていた。わたしはただ、殿下の震える手を握りしめる。それ以外、何も――何もできなかった。
「ローズは王立療養院に収容され、リンドホルムに急使を送り、マックス・アシュバートンとレディ・ウルスラが駆け付け、二人に看取られて旅立ったと聞いております」
エルドリッジ公爵の言葉に、アルバート殿下は頷く。
「ああ、知っている。……ウルスラ夫人に聞いた。体中、痣だらけでひどい状態だったと。神の許さない関係を持ったローズは確かに罪を犯した。でも、それを裁くのは人ではないはずだと。ウルスラ夫人はもう、王家を信じることはないと――」
――エルスペス……神罰は本当に下るのよ。だからお前も、神様の許さない関係を持ってはダメよ――
祖母の言葉がわたしの胸に蘇る。
国のために、そしてリンドホルムのために身を犠牲して、アルバート殿下を産んだローズへの、あまりにもむごい仕打ち。でも「嫡出の第三王子」であるアルバート殿下の立場を守るために、すべての不祥事は闇に葬られた。表向き王妃の「実の息子」であるアルバート殿下は、国王に対する人質でもあり、王妃宮の奥に隠され、王妃の歪みをぶつけられることになる。
わたしは殿下の手を握り締め、ただ俯いて唇を噛む。
誰が悪かったのかと言われれば、きっと間違いなく国王陛下で――でも、その間違いがなければ殿下はこの世にいなかった。ローズを奪われなかった父は、わたしの母と結婚することもなく、わたしもまた、この世に生まれていなかった。
結局、わたしには国王陛下も誰も、責めることはできない。だって自分自身の存在を否定することになってしまうから――。
「……それで、俺が池に落ちたことで、全てが明るみに出るのを恐れ、慌ててマックス・アシュバートンを呼び出し、俺を託した」
殿下の声は少し震えていたけれど、すでに激情は去っていた。国王陛下は頷く。
「そう。……もともと、王妃の元から取り戻したいと思っていた。ずいぶん痩せて、栄養状態も悪く、事情を知らぬ者の目に曝すことができなかった。だから余は、縋るようにマックス・アシュバートンを呼び出した」
父マックス・アシュバートンは、痩せ細ったアルバート殿下を見て、密かにリンドホルムの自分の城に連れ帰る。そこで数ヶ月休養させて、彼が健康を取り戻してから、改めて王都の士官学校に入学させ、寄宿舎に入れて王宮から引き剥がした。
「その後は、極力、王妃と接触させぬようにしたが、休暇中などは周囲の目もあり、また王妃も狡猾で、表向きアルバートの母らしく振る舞っており、完全に没交渉とはいかなかった。王妃宮の者は王妃に掌握されておった故。士官学校を出た後は、邸と爵位を与えて独立させ、ようやく、王妃の虐待から引き離すことができた。だが……四年前、どうしてもアルバートを戦場に送らねばならぬ事態に、余はマックス・アシュバートンに出征を請うた。……初め、マックスは出征を拒否した」
わたしはハッとして顔を上げる。まっすぐに、国王陛下と目が合う。
「……まだこれ以上、王家は我が家に、見返りのない忠誠をお求めになられますか、と」
「……父が、そのようなことを?」
わたしが尋ねれば、国王陛下は白髪交じりの眉尻を下げた。
「『私は父親として、守るべき者がおります。アルバート殿下を守るのは、父親である陛下のお役目だ』と。ならば、余は国王の権力を以て、子であるアルバートを守るために、マックス・アシュバートンに勅命を下した。マックスには古来のしきたり通り、請願書を提出させて。『いかなることがあろうとも、リンドホルムの爵位、城、領地は、直系のウィリアム、もしくはエルスペスの子孫に受け継がれる』ことを確約した。……マックスは将来の、リンドホルムの危機を見越していたのかもしれん」
王妃の、ローズやアルバート殿下への仕打ちを見て、いずれその恨みが、ローズの実家とも言うべきアシュバートン家に向かうことは、十分、予想された。実際、父の心配は杞憂では終わらなかった。
アルバート殿下は国王陛下を見つめ、尋ねた。
「父上。俺はずっと、父上に聞きたいと思っていたのです。なぜ、エルシーの代襲相続が却下されるような、そんなあり得ないことが起きたのです? マックスの相続確約の請願すら無視されて。いったい、三年前に何があったと言うのです」
その問いは、わたしもずっと聞きたかったことだ。
王妃の狂気が、ローズの命を奪ったこともわかった。国王陛下が、アルバート殿下を愛し、守るために、父を護衛につけたことも。
出征前の請願は絶対に覆せない国王と貴族との誓約であり、また戦死者に女児しかいない場合、代襲相続が認められるのは、国の慣例だ。そのどちらをも破る形で、わたしの相続は却下された。それは、なぜ――。
「余は――余は、アルバートを守りたかった。マックスがリンドホルムと子供たちを守ろうとしたように、余にはアルバートだけだった。そして余は――余は国王であった。国王であるがゆえに、王妃の犯した罪を闇に葬るしかなかった。それゆえに余は――」
国王陛下は大きな、皺だらけの手で額を覆う。
「すべての罪は余が――」
俯いてしまった国王陛下に代わり、マールバラ公爵が手を挙げた。
「アルバート、マックス・アシュバートンの請願が反故にされるに至る状況は、わしから説明しよう。陛下には辛いことであろうから」
マールバラ公爵はそう言って、話を引き継いだ。
「我が国と、グリージャとルーセンと、三か国の国境が入り組む地域を、西部戦線が貫いていて、アルバートはそのシャルロー村にいた。グリージャは中立で、西部戦線は比較的穏やかだった。我が国は、シュルフト帝国と直接ぶつかる東部戦線では劣勢で、起死回生の策として、西部戦線からシュルフトに至るルートを考えていた。だがそれには、中立国のグリージャが邪魔だ」
マールバラ公爵の説明に、殿下がハッとして身じろぎする。
「つまり――」
「そうだ、グリージャと戦端を開きたいのはわが軍も同じ。できれば、向こうから宣戦を布告させたい。殿下をシャルローから退避させた上で、シャルローのさらに東側からグリージャに侵攻する計画を立てていた。そうして、間諜戦を駆使し、グリージャの参戦を誘っていた。……あくまで、秘密裡に」
わたしは目を見開いた。
三年前のグリージャの突然の参戦。中立を守ってくれるならと、ずっと我が国が経済的にも支援していたにもかかわらず、突然、宣戦布告して牙をむいた裏切り者。――わたしはずっと、そう聞いていた。グリージャとの国境近くにいた父の部隊を、グリージャ軍が突如、襲ったのだ、と。
「あくまで秘密に、そして我が国の思惑通りに進んでいたはずなのに、計画よりも早く、グリージャが参戦した。しかも、アルバートのいたシャルロー村を正確に急襲した」
マールバラ公爵の言葉に、アルバート殿下が低い声で呻いた。
「そうだ、あの日突然、村にグリージャ軍が現れて――俺の部隊の位置も、王子の存在も、高度な機密情報のはずだった。俺も俺の部隊の者も、本国への連絡を制限され、手紙も、場所が特定できる内容などを書いていないか、写真も風景が特定できるものは同封禁止など、細かい検閲があった。俺があの時シャルロー村にいたと知っているのは、前線司令部のトップと、本国の王宮だけだ。にもかかわらず、俺の居場所がグリージャ軍に筒抜けだった。思い当たるのは――」
マールバラ公爵が頷く。
「王妃はアルバートの居場所を知ることができた。公的には、王妃はアルバート王子の実の母親であり、王妃とアルバート王子の確執は伏せられていた。バールの離宮にいる王妃に同情して、アルバート王子周辺の情報を流していた侍従が、後に逮捕されている」
国王陛下が苦い声で言った。
「ジョージの苦痛を和らげた祈祷僧こそ、シュルフトの間諜であった。祈祷僧は王妃が第三王子を憎んでいるのを知ると、そなたを呪うためには、正確な居場所を知る必要があると言い、様々な機密情報を入手し、本国やグリージャの上層部に流していた。王妃はそなたの無事を確かめるフリして、そなたの情報を王宮から手に入れ、それを祈祷僧に伝えていたのだ」
わたしは息を呑む。マールバラ公爵が淡々と引き継ぐ。
「シャルローの事件で我々は情報の漏洩を疑い、行きついたのがバールの離宮だった。当時、ジョージ殿下の病状はすでに重く、絶え間ない苦痛を和らげるために、鴉片を用いて祈祷を行っていた。祈祷僧は、アルバート王子が死ねば、ジョージの病は癒えるなどと、王妃を誑かしていたのだ」
「……そんな、理由で……」
わたしは思わず呟いていた。
アルバート殿下が九死に一生を得た、グリージャの奇襲攻撃は、殿下の存在を憎む王妃によって、敵に居場所がリークされた結果だった。
その言葉に、王太子夫妻がハッと息を呑む。――王子のいないことで悩む二人には、薬を使ってまで子を孕まぬようにするなんて、王妃にあるまじきことと思われたのかもしれない。
「……だが、ある時、ローズは孕んだ。余はついに、ローズを公妾にする決意を固めて、それを王妃に告げたのだが――」
「まさかそれで――」
アルバート殿下が身を乗り出す。わたしの手を握る、殿下の手が小刻みに震えていた。
「ひどい折檻を与えたのち、王妃はアルバートを攫うように連れてバールの離宮に向かった。報せを聞いた時にはもう、子は助からず、ローズの命も旦夕に迫っていた。余は、その罪を問いたかったが――」
「それを止めたのは私です、アルバート殿下」
静かに、エルドリッジ公爵が言った。
「もし、国王と王妃の不仲が公になれば、あるいはアルバート殿下の出生にも疑いをさしはさむ者が出てまいるでしょう。当時、王太子殿下は我が娘、ブリジットとの結婚を控えていて、世間を騒がすべきではないと。――わたしもまた、同罪なのです」
アルバート殿下が蒼白な顔で周囲を見回して、必死に深呼吸して激情を堪えていた。わたしはただ、殿下の震える手を握りしめる。それ以外、何も――何もできなかった。
「ローズは王立療養院に収容され、リンドホルムに急使を送り、マックス・アシュバートンとレディ・ウルスラが駆け付け、二人に看取られて旅立ったと聞いております」
エルドリッジ公爵の言葉に、アルバート殿下は頷く。
「ああ、知っている。……ウルスラ夫人に聞いた。体中、痣だらけでひどい状態だったと。神の許さない関係を持ったローズは確かに罪を犯した。でも、それを裁くのは人ではないはずだと。ウルスラ夫人はもう、王家を信じることはないと――」
――エルスペス……神罰は本当に下るのよ。だからお前も、神様の許さない関係を持ってはダメよ――
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わたしは殿下の手を握り締め、ただ俯いて唇を噛む。
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結局、わたしには国王陛下も誰も、責めることはできない。だって自分自身の存在を否定することになってしまうから――。
「……それで、俺が池に落ちたことで、全てが明るみに出るのを恐れ、慌ててマックス・アシュバートンを呼び出し、俺を託した」
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「そう。……もともと、王妃の元から取り戻したいと思っていた。ずいぶん痩せて、栄養状態も悪く、事情を知らぬ者の目に曝すことができなかった。だから余は、縋るようにマックス・アシュバートンを呼び出した」
父マックス・アシュバートンは、痩せ細ったアルバート殿下を見て、密かにリンドホルムの自分の城に連れ帰る。そこで数ヶ月休養させて、彼が健康を取り戻してから、改めて王都の士官学校に入学させ、寄宿舎に入れて王宮から引き剥がした。
「その後は、極力、王妃と接触させぬようにしたが、休暇中などは周囲の目もあり、また王妃も狡猾で、表向きアルバートの母らしく振る舞っており、完全に没交渉とはいかなかった。王妃宮の者は王妃に掌握されておった故。士官学校を出た後は、邸と爵位を与えて独立させ、ようやく、王妃の虐待から引き離すことができた。だが……四年前、どうしてもアルバートを戦場に送らねばならぬ事態に、余はマックス・アシュバートンに出征を請うた。……初め、マックスは出征を拒否した」
わたしはハッとして顔を上げる。まっすぐに、国王陛下と目が合う。
「……まだこれ以上、王家は我が家に、見返りのない忠誠をお求めになられますか、と」
「……父が、そのようなことを?」
わたしが尋ねれば、国王陛下は白髪交じりの眉尻を下げた。
「『私は父親として、守るべき者がおります。アルバート殿下を守るのは、父親である陛下のお役目だ』と。ならば、余は国王の権力を以て、子であるアルバートを守るために、マックス・アシュバートンに勅命を下した。マックスには古来のしきたり通り、請願書を提出させて。『いかなることがあろうとも、リンドホルムの爵位、城、領地は、直系のウィリアム、もしくはエルスペスの子孫に受け継がれる』ことを確約した。……マックスは将来の、リンドホルムの危機を見越していたのかもしれん」
王妃の、ローズやアルバート殿下への仕打ちを見て、いずれその恨みが、ローズの実家とも言うべきアシュバートン家に向かうことは、十分、予想された。実際、父の心配は杞憂では終わらなかった。
アルバート殿下は国王陛下を見つめ、尋ねた。
「父上。俺はずっと、父上に聞きたいと思っていたのです。なぜ、エルシーの代襲相続が却下されるような、そんなあり得ないことが起きたのです? マックスの相続確約の請願すら無視されて。いったい、三年前に何があったと言うのです」
その問いは、わたしもずっと聞きたかったことだ。
王妃の狂気が、ローズの命を奪ったこともわかった。国王陛下が、アルバート殿下を愛し、守るために、父を護衛につけたことも。
出征前の請願は絶対に覆せない国王と貴族との誓約であり、また戦死者に女児しかいない場合、代襲相続が認められるのは、国の慣例だ。そのどちらをも破る形で、わたしの相続は却下された。それは、なぜ――。
「余は――余は、アルバートを守りたかった。マックスがリンドホルムと子供たちを守ろうとしたように、余にはアルバートだけだった。そして余は――余は国王であった。国王であるがゆえに、王妃の犯した罪を闇に葬るしかなかった。それゆえに余は――」
国王陛下は大きな、皺だらけの手で額を覆う。
「すべての罪は余が――」
俯いてしまった国王陛下に代わり、マールバラ公爵が手を挙げた。
「アルバート、マックス・アシュバートンの請願が反故にされるに至る状況は、わしから説明しよう。陛下には辛いことであろうから」
マールバラ公爵はそう言って、話を引き継いだ。
「我が国と、グリージャとルーセンと、三か国の国境が入り組む地域を、西部戦線が貫いていて、アルバートはそのシャルロー村にいた。グリージャは中立で、西部戦線は比較的穏やかだった。我が国は、シュルフト帝国と直接ぶつかる東部戦線では劣勢で、起死回生の策として、西部戦線からシュルフトに至るルートを考えていた。だがそれには、中立国のグリージャが邪魔だ」
マールバラ公爵の説明に、殿下がハッとして身じろぎする。
「つまり――」
「そうだ、グリージャと戦端を開きたいのはわが軍も同じ。できれば、向こうから宣戦を布告させたい。殿下をシャルローから退避させた上で、シャルローのさらに東側からグリージャに侵攻する計画を立てていた。そうして、間諜戦を駆使し、グリージャの参戦を誘っていた。……あくまで、秘密裡に」
わたしは目を見開いた。
三年前のグリージャの突然の参戦。中立を守ってくれるならと、ずっと我が国が経済的にも支援していたにもかかわらず、突然、宣戦布告して牙をむいた裏切り者。――わたしはずっと、そう聞いていた。グリージャとの国境近くにいた父の部隊を、グリージャ軍が突如、襲ったのだ、と。
「あくまで秘密に、そして我が国の思惑通りに進んでいたはずなのに、計画よりも早く、グリージャが参戦した。しかも、アルバートのいたシャルロー村を正確に急襲した」
マールバラ公爵の言葉に、アルバート殿下が低い声で呻いた。
「そうだ、あの日突然、村にグリージャ軍が現れて――俺の部隊の位置も、王子の存在も、高度な機密情報のはずだった。俺も俺の部隊の者も、本国への連絡を制限され、手紙も、場所が特定できる内容などを書いていないか、写真も風景が特定できるものは同封禁止など、細かい検閲があった。俺があの時シャルロー村にいたと知っているのは、前線司令部のトップと、本国の王宮だけだ。にもかかわらず、俺の居場所がグリージャ軍に筒抜けだった。思い当たるのは――」
マールバラ公爵が頷く。
「王妃はアルバートの居場所を知ることができた。公的には、王妃はアルバート王子の実の母親であり、王妃とアルバート王子の確執は伏せられていた。バールの離宮にいる王妃に同情して、アルバート王子周辺の情報を流していた侍従が、後に逮捕されている」
国王陛下が苦い声で言った。
「ジョージの苦痛を和らげた祈祷僧こそ、シュルフトの間諜であった。祈祷僧は王妃が第三王子を憎んでいるのを知ると、そなたを呪うためには、正確な居場所を知る必要があると言い、様々な機密情報を入手し、本国やグリージャの上層部に流していた。王妃はそなたの無事を確かめるフリして、そなたの情報を王宮から手に入れ、それを祈祷僧に伝えていたのだ」
わたしは息を呑む。マールバラ公爵が淡々と引き継ぐ。
「シャルローの事件で我々は情報の漏洩を疑い、行きついたのがバールの離宮だった。当時、ジョージ殿下の病状はすでに重く、絶え間ない苦痛を和らげるために、鴉片を用いて祈祷を行っていた。祈祷僧は、アルバート王子が死ねば、ジョージの病は癒えるなどと、王妃を誑かしていたのだ」
「……そんな、理由で……」
わたしは思わず呟いていた。
アルバート殿下が九死に一生を得た、グリージャの奇襲攻撃は、殿下の存在を憎む王妃によって、敵に居場所がリークされた結果だった。
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