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第三章
婚約者
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妹と婚約者が帰ってから、カーティス大尉には謝罪を受けた。
「申し訳ありません、妹と婚約者が失礼なことを」
「二人で買い物をしていたのですから、誤解されても仕方がないわ。それよりも今日はどうもありがとうございます」
カーティス大尉のおかげで、無事に買い物ができた。――これから、大急ぎで刺繍をしなくては。間に合うのかしら?
カーティス大尉が少し考えてから、言った。
「シャーロットのことも、ありがとうございます。あんな風に、自信をなくしているなんて、想像もしていなくて」
わたしは少し躊躇ってから、大尉に尋ねた。
「デイジーというのは……」
カーティス大尉がハッと顔を上げる。そして慌てて視線を逸らし、早口で言った。
「デイジーはその……クリスの……いえ、兄の婚約者だった女性で、シャーロットの従姉になります。……兄は十年前に亡くなったんです」
彼のその様子に、どうやらデイジーという女性と彼の間には何かあったのでは、とわたしは思った。
十年前になくなったカーティス大尉の兄・クリスと、その婚約者だったデイジー。デイジーの従妹のシャーロットが、弟のジョナサンと婚約する。……そういう、込み入った間柄とまでは想像していなかった。
「ドロシーも言ったように、うちと、パーマー家は領地が隣で、家族ぐるみの付き合いなんです」
「……もしかして、お兄様の死後、デイジーとあなたが婚約するというお話しがあったとか……」
「!! どうしてそれを……!」
カーティス大尉が碧色の目を見開く。
「……いえ、田舎ならよくあることではと、思っただけです。でも、デイジーとあなたは婚約には至らなかった」
カーティス大尉は眉を顰めた。
「ええ……いくら何でも、兄の婚約者だった女性と、というのは……」
「シャーロット嬢の不安は、そのあたりに原因があるのではなくって? いえ、大尉にはそんなつもりはなくても、女はいろいろ、余計なことを考えるものですわ。あなたが気になさる以上に、シャーロット嬢は年の差を気にしていらっしゃったのかも」
「……そうかもしれません。僕は出征直前に、シャーロットと婚約しろと親に言われて、まだ十五の彼女なら、数年待たせても大丈夫だと思って、了承したんです。彼女の気持ちにあまりに無頓着でした。シャーロットが不安になって当然ですね」
カーティス大尉は苦笑いを浮かべて言った。
「シャーロットは昔から大人し過ぎて、何をしゃべっていいのかもわからなくて……」
「別に何か喋らないといけないわけでもないでしょう? 無理に喋ろうと思わなくてもいいんじゃないかしら」
カーティス大尉が緑色の目を見開く。
「そ……そうですか?」
「一緒に散歩でもなさったら? あるいは買い物に付き合うとか。何か無理にしなきゃならないってことはありませんわ。二人でボーっとなさるとか。そういうのも楽しそう」
「……二人でボーっとですか……二人っきりで何をすればいいのか、全く想像もつかなくて……」
カーティス大尉は困惑して、わたしをじっと見つめる。……そうよね、これが普通よね。殿下みたいに、二人っきりになったらヤるしかないだろう、みたいな人って、はっきり言って異常だわ。
その日、カーティス大尉は首を捻りながら帰っていった。
殿下からは、その夕方にメッセージが来た。
――帰国したばかりで、公務が押して顔を出せない。聖誕節は一緒に過ごせるように調整する。愛してる。リジー。
ハンカチに刺繍をしていたわたしは、メッセージを開いて溜息をつく。
「……なんて言うか、本格的に愛人じみてきたわ……」
わたしは刺繍は不得手ではなかったが、久しぶりだったので少しばかり手間取り、肩が凝ってしまった。
わたしは刺繍の枠を投げ捨て、大きく伸びをする。
「――ピアノ、練習しなくちゃ」
わたしは刺繍は明日にして、新しい曲を練習することにした。
居間の暖炉には火が入り、パチパチとはぜる音がする。大きなモミの木には聖誕節の飾りつけ。――リーデンの聖節市場で買ってきた、木彫りのツリー飾りも飾ってもらった。
――あの、小さな駅で地元の子供たちから買った、木彫りの馬はここではなくて、わたしの部屋の、暖炉の上に飾っている。布の花束は切子細工のグラスに活けるようにして――。
やや薄暗くなった部屋の電灯を点けると、壁のコンソールの上の新聞が目に入った。
《アルバート殿下の帰還と、出迎える婚約者のレコンフィールド公爵令嬢》
駅のホームで並んで歩く二人の写真。周囲を取り巻く貴族院のお偉方。――結局、カーテンの陰から覗くことしかできなかった、日陰者のわたし。
聖誕節は一緒に過ごせるように調整する、と殿下のメッセージにはあったけれど、期待すべきじゃないだろう。
だって聖誕節は家族と過ごす大事な夜だ。――今までは、王都の家でおばあ様と二人、静かに過ごした。
暖炉でユール・ログ(リボンや常盤木で飾った薪)を燃やし、ジョンソンが買ってきたツリーを飾って。メアリーも豪華なご馳走に腕を振るい、わたしはジンジャービスケットを焼いた。
もっと昔――リンドホルムにいた時は、一年で一番、楽しみな日だった。
あの年、リジーがリンドホルムにいた年、秋口に彼とたくさん、約束していたのに。結局、リジーは冬になる前にリンドホルムからいなくなってしまった。――彼と、聖誕節を過ごしたことはないのだ。
飾り付けられたツリーを見て、わたしは何となく物悲しい気分になり、新聞を投げ捨てると、ピアノの前に立つ。ピアノの蓋を開け、ピアノの上に置いておいた、新しい楽譜を並べる。目で楽譜を追いながら、右手で鍵盤を辿る。繊細で、甘く切ないメロディーが流れだす。
何もない山の中の駅で、プロポーズされて――。
『俺と結婚してくれ、エルシー。一生、お前だけを大切にする』
その言葉に嘘はないと思うけれど、現実に、彼の婚約者はわたしではなくて――。
一瞬だけ、わたしの方を見たステファニー嬢と、目が合いそうになった。いや、合ったのかも、しれない。金色の髪に青い瞳。わたしよりちょっとだけ明るい、華やかな色彩。王妃の姪で王都の名門公爵家の令嬢で――。
おばあ様は我が家だって、建国以来の名家だと言ったけれど、古さだけが取り柄の田舎貴族に過ぎない。その爵位すら失って――。
物悲しいメロディが、わたしの心を塞いでいく。
翌日は、まずはロベルトさんから預かった書類のタイプ打ちをして、怒涛のごとく打ち上げてしまった。――本当にわたしはタイピストの天分があると思う。王子の妃にはまったく無用な才能だけど。
それから刺繍。勘を取り戻したので、昨日よりは仕事が捗る。――でも実を言えば、わたしは刺繍よりも編み物の方が好きだ。来年はもっと早くから取り掛かって、プルオーバーでも編もうかしら……そんなことを考えて、ハッとする。
――来年なんてあるかどうかわからないのに。
室内でグズグズしていると、どうしても余計なことばかり考えてしまって、わたしは溜息をついた。
聖誕節を一人で過すなんて初めてのこと。刺繍はとっくに、二枚もできてしまい、もっと凝った図案にするんだったと後悔しきり。暇なので、アンナに無理を言って、ジンジャービスケットを作らせてもらう。
山ほどできてしまった人型の「ジンジャーブレッドマン」を前に、さてどうしようと途方に暮れていると、ジェニファー夫人から、誘いがあった。わたしは「ジンジャーブレッドマン」を紙袋に小分けにし、リボンをかけてアグネスへのお土産にする。外出の用意ができた頃、今日はラルフ・シモンズ大尉が迎えに来た。
「カーティス大尉は婚約者殿のご機嫌を取るために、休暇に入りましたよ」
シモンズ大尉が笑い、わたしは尋ねた。
「シモンズ大尉はよろしいの? ご家族は――」
「俺は家族はいないんで、お気になさらず。いつも聖誕節の日は仕事を入れてました」
シッカリ厚着をして、向かった先はレングトン公園内のスケート場。夏はボートに乗る池が凍り、巨大なスケートリンクになるのだ。
「エルシー、よく来てくれたわ!」
ジェニファー夫人が立ちあがり、わたしも彼女に軽くハグをする。
「お誘いありがとう」
「こちらこそ。アグネスがスケートがしたいって言い張るけど、わたくし、さすがに氷に乗るわけにいかないでしょう?」
「ええ、とんでもないわ。転んだら大変!」
現在、マクガーニ家が雇っている家庭教師は年配の夫人で、到底、スケートに付き合わせるわけにはいかない。
「こんにちは、ミス・エルシー!」
「こんにちは、アグネス! お久しぶり!」
わたしは久しぶりに会うアグネスとも軽くハグをする。アグネスは栗色の髪を肩に垂らし、赤いウールのベレー帽に赤いコートを着て、早くスケートがしたいと今か今かと待っていたらしい。
「エルシーはスケートできるの?!」
「……できないわけではないわ。上手くはないけれど」
リンドホルム城の庭の湖は冬になると凍ったので、よく滑っていた。
貸靴を履いて、いざ、氷に乗る。シーズンの最初はドキドキするものだけど、三年ぶりのスケートの緊張感。ゆっくり、氷を蹴って滑り出す。
冬の午後、太陽の光は力なく樹々の隙間から零れ落ちる。氷上ですれ違う人々。頬に当たる冷たい風。
わたしはくるりと向きを変え、アグネスとジェニファー夫人のところに戻る。
「すごい、エルシー上手!」
「意外と覚えてました。……さ、アグネスも滑りましょう」
「わたしは不安なの。去年転んだから」
「わたしもいっぱい転んだわ!」
アグネスの手を取り、ゆっくりと滑り出す。
――実は、人がたくさんいる場所で滑るのは初めてだ。リンドホルム城の湖は貸し切りリンクだったから。至近距離をひょい、とすり抜けていく人が少し怖い。
気づけば、若い男性がすぐ後ろを滑っていた。
「エルスペス嬢、僕だよ」
声をかけられてびっくりして振り向けば、そこにいたのは――。
「ハートネル中尉……」
「申し訳ありません、妹と婚約者が失礼なことを」
「二人で買い物をしていたのですから、誤解されても仕方がないわ。それよりも今日はどうもありがとうございます」
カーティス大尉のおかげで、無事に買い物ができた。――これから、大急ぎで刺繍をしなくては。間に合うのかしら?
カーティス大尉が少し考えてから、言った。
「シャーロットのことも、ありがとうございます。あんな風に、自信をなくしているなんて、想像もしていなくて」
わたしは少し躊躇ってから、大尉に尋ねた。
「デイジーというのは……」
カーティス大尉がハッと顔を上げる。そして慌てて視線を逸らし、早口で言った。
「デイジーはその……クリスの……いえ、兄の婚約者だった女性で、シャーロットの従姉になります。……兄は十年前に亡くなったんです」
彼のその様子に、どうやらデイジーという女性と彼の間には何かあったのでは、とわたしは思った。
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「!! どうしてそれを……!」
カーティス大尉が碧色の目を見開く。
「……いえ、田舎ならよくあることではと、思っただけです。でも、デイジーとあなたは婚約には至らなかった」
カーティス大尉は眉を顰めた。
「ええ……いくら何でも、兄の婚約者だった女性と、というのは……」
「シャーロット嬢の不安は、そのあたりに原因があるのではなくって? いえ、大尉にはそんなつもりはなくても、女はいろいろ、余計なことを考えるものですわ。あなたが気になさる以上に、シャーロット嬢は年の差を気にしていらっしゃったのかも」
「……そうかもしれません。僕は出征直前に、シャーロットと婚約しろと親に言われて、まだ十五の彼女なら、数年待たせても大丈夫だと思って、了承したんです。彼女の気持ちにあまりに無頓着でした。シャーロットが不安になって当然ですね」
カーティス大尉は苦笑いを浮かべて言った。
「シャーロットは昔から大人し過ぎて、何をしゃべっていいのかもわからなくて……」
「別に何か喋らないといけないわけでもないでしょう? 無理に喋ろうと思わなくてもいいんじゃないかしら」
カーティス大尉が緑色の目を見開く。
「そ……そうですか?」
「一緒に散歩でもなさったら? あるいは買い物に付き合うとか。何か無理にしなきゃならないってことはありませんわ。二人でボーっとなさるとか。そういうのも楽しそう」
「……二人でボーっとですか……二人っきりで何をすればいいのか、全く想像もつかなくて……」
カーティス大尉は困惑して、わたしをじっと見つめる。……そうよね、これが普通よね。殿下みたいに、二人っきりになったらヤるしかないだろう、みたいな人って、はっきり言って異常だわ。
その日、カーティス大尉は首を捻りながら帰っていった。
殿下からは、その夕方にメッセージが来た。
――帰国したばかりで、公務が押して顔を出せない。聖誕節は一緒に過ごせるように調整する。愛してる。リジー。
ハンカチに刺繍をしていたわたしは、メッセージを開いて溜息をつく。
「……なんて言うか、本格的に愛人じみてきたわ……」
わたしは刺繍は不得手ではなかったが、久しぶりだったので少しばかり手間取り、肩が凝ってしまった。
わたしは刺繍の枠を投げ捨て、大きく伸びをする。
「――ピアノ、練習しなくちゃ」
わたしは刺繍は明日にして、新しい曲を練習することにした。
居間の暖炉には火が入り、パチパチとはぜる音がする。大きなモミの木には聖誕節の飾りつけ。――リーデンの聖節市場で買ってきた、木彫りのツリー飾りも飾ってもらった。
――あの、小さな駅で地元の子供たちから買った、木彫りの馬はここではなくて、わたしの部屋の、暖炉の上に飾っている。布の花束は切子細工のグラスに活けるようにして――。
やや薄暗くなった部屋の電灯を点けると、壁のコンソールの上の新聞が目に入った。
《アルバート殿下の帰還と、出迎える婚約者のレコンフィールド公爵令嬢》
駅のホームで並んで歩く二人の写真。周囲を取り巻く貴族院のお偉方。――結局、カーテンの陰から覗くことしかできなかった、日陰者のわたし。
聖誕節は一緒に過ごせるように調整する、と殿下のメッセージにはあったけれど、期待すべきじゃないだろう。
だって聖誕節は家族と過ごす大事な夜だ。――今までは、王都の家でおばあ様と二人、静かに過ごした。
暖炉でユール・ログ(リボンや常盤木で飾った薪)を燃やし、ジョンソンが買ってきたツリーを飾って。メアリーも豪華なご馳走に腕を振るい、わたしはジンジャービスケットを焼いた。
もっと昔――リンドホルムにいた時は、一年で一番、楽しみな日だった。
あの年、リジーがリンドホルムにいた年、秋口に彼とたくさん、約束していたのに。結局、リジーは冬になる前にリンドホルムからいなくなってしまった。――彼と、聖誕節を過ごしたことはないのだ。
飾り付けられたツリーを見て、わたしは何となく物悲しい気分になり、新聞を投げ捨てると、ピアノの前に立つ。ピアノの蓋を開け、ピアノの上に置いておいた、新しい楽譜を並べる。目で楽譜を追いながら、右手で鍵盤を辿る。繊細で、甘く切ないメロディーが流れだす。
何もない山の中の駅で、プロポーズされて――。
『俺と結婚してくれ、エルシー。一生、お前だけを大切にする』
その言葉に嘘はないと思うけれど、現実に、彼の婚約者はわたしではなくて――。
一瞬だけ、わたしの方を見たステファニー嬢と、目が合いそうになった。いや、合ったのかも、しれない。金色の髪に青い瞳。わたしよりちょっとだけ明るい、華やかな色彩。王妃の姪で王都の名門公爵家の令嬢で――。
おばあ様は我が家だって、建国以来の名家だと言ったけれど、古さだけが取り柄の田舎貴族に過ぎない。その爵位すら失って――。
物悲しいメロディが、わたしの心を塞いでいく。
翌日は、まずはロベルトさんから預かった書類のタイプ打ちをして、怒涛のごとく打ち上げてしまった。――本当にわたしはタイピストの天分があると思う。王子の妃にはまったく無用な才能だけど。
それから刺繍。勘を取り戻したので、昨日よりは仕事が捗る。――でも実を言えば、わたしは刺繍よりも編み物の方が好きだ。来年はもっと早くから取り掛かって、プルオーバーでも編もうかしら……そんなことを考えて、ハッとする。
――来年なんてあるかどうかわからないのに。
室内でグズグズしていると、どうしても余計なことばかり考えてしまって、わたしは溜息をついた。
聖誕節を一人で過すなんて初めてのこと。刺繍はとっくに、二枚もできてしまい、もっと凝った図案にするんだったと後悔しきり。暇なので、アンナに無理を言って、ジンジャービスケットを作らせてもらう。
山ほどできてしまった人型の「ジンジャーブレッドマン」を前に、さてどうしようと途方に暮れていると、ジェニファー夫人から、誘いがあった。わたしは「ジンジャーブレッドマン」を紙袋に小分けにし、リボンをかけてアグネスへのお土産にする。外出の用意ができた頃、今日はラルフ・シモンズ大尉が迎えに来た。
「カーティス大尉は婚約者殿のご機嫌を取るために、休暇に入りましたよ」
シモンズ大尉が笑い、わたしは尋ねた。
「シモンズ大尉はよろしいの? ご家族は――」
「俺は家族はいないんで、お気になさらず。いつも聖誕節の日は仕事を入れてました」
シッカリ厚着をして、向かった先はレングトン公園内のスケート場。夏はボートに乗る池が凍り、巨大なスケートリンクになるのだ。
「エルシー、よく来てくれたわ!」
ジェニファー夫人が立ちあがり、わたしも彼女に軽くハグをする。
「お誘いありがとう」
「こちらこそ。アグネスがスケートがしたいって言い張るけど、わたくし、さすがに氷に乗るわけにいかないでしょう?」
「ええ、とんでもないわ。転んだら大変!」
現在、マクガーニ家が雇っている家庭教師は年配の夫人で、到底、スケートに付き合わせるわけにはいかない。
「こんにちは、ミス・エルシー!」
「こんにちは、アグネス! お久しぶり!」
わたしは久しぶりに会うアグネスとも軽くハグをする。アグネスは栗色の髪を肩に垂らし、赤いウールのベレー帽に赤いコートを着て、早くスケートがしたいと今か今かと待っていたらしい。
「エルシーはスケートできるの?!」
「……できないわけではないわ。上手くはないけれど」
リンドホルム城の庭の湖は冬になると凍ったので、よく滑っていた。
貸靴を履いて、いざ、氷に乗る。シーズンの最初はドキドキするものだけど、三年ぶりのスケートの緊張感。ゆっくり、氷を蹴って滑り出す。
冬の午後、太陽の光は力なく樹々の隙間から零れ落ちる。氷上ですれ違う人々。頬に当たる冷たい風。
わたしはくるりと向きを変え、アグネスとジェニファー夫人のところに戻る。
「すごい、エルシー上手!」
「意外と覚えてました。……さ、アグネスも滑りましょう」
「わたしは不安なの。去年転んだから」
「わたしもいっぱい転んだわ!」
アグネスの手を取り、ゆっくりと滑り出す。
――実は、人がたくさんいる場所で滑るのは初めてだ。リンドホルム城の湖は貸し切りリンクだったから。至近距離をひょい、とすり抜けていく人が少し怖い。
気づけば、若い男性がすぐ後ろを滑っていた。
「エルスペス嬢、僕だよ」
声をかけられてびっくりして振り向けば、そこにいたのは――。
「ハートネル中尉……」
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