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第1章 下積み編
1 悪役令嬢、引きこもりを決意する
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公爵家の館の一室。
太陽の光が若干ながら入り込むその部屋には1人の少女が黙々と作業に取り組んでいた。
――――――――いや、作業ではない。神業を施していた。
部屋の明るい場所とは反対の部屋の影で、彼女は自分の体よりも大きな板と向き合う。そして、右手に持った筆でその板に色を乗せていく。
彼女は国で名を知られている男性画家、“エドワード”
と名前を名乗って正体を隠しながら、絵を描く公爵令嬢エステル・ステラート。
彼女は乙女ゲームにおける悪役令嬢であった。
★★★★★★★★
私は美術部に所属する女子高校生だった。
――――ということを2年前ぐらいだっただろうか?
豪勢なベッドの中で思い出した。
前世の私は普段通り授業を終え、ルンルン気分で美術室に向かい、自分の身長より大きなキャンバスに絵を書いていたのだ。
そして、夜は真っ暗な部屋でペンタブを手に取って、男女問わず全裸をデジタルイラストで書いていた。
基本だもん!
全裸は人の体を練習するのに1番なの!
とやってはいけないことをやっている気分で全裸のイラストを描いて夜を過ごしていた。
そんな高校生活を送っていた高2の夏。
夜もいつも通りイラストを描いていた私はアイスを食べたくなったので、親に見つからないようにこっそり外へ抜け出し、近くのコンビニへと足を運んだ。
お気に入りのアイスを取って支払い、スキップでコンビニを出た私。帰路の途中にある横断歩道を渡っていると横から光ってくる何かが見えた。
――――――――あ、車だ。
気づいたときにはすでに遅し。私は車に轢かれて死んだ。
そこからの前世の記憶はなく、いつもよりフカフカなベッドの上で目を覚ました。
私は見知らぬ場所にいた。
ここはどこだ!? と、ベッドから起き上がり、部屋に合った鏡に映る顔を覗き込む。
そこには見覚えのある少女の顔が映っていた。
パステルカラーの艶やかな長い紫髪。猫のように吊り上がっている鋭い目つき。月のように黄色い瞳。
私は以前とは異なる姿だった。
見たことがある顔。これは……。
そう。
自分が乙女ゲームにおける“悪役令嬢”に転生してしまっていた。
「こ、これどういうこと??」
私はその美しい顔にベタベタと手で触れる。悪役令嬢であっても、この顔は前世の時より美人であった。
まぁ、でも、ヒロインちゃんの方が可愛いですよ。
今、私がいる世界の元となっている乙女ゲームだが、残念ながら私は少ししかプレイしたことがない。
死ぬまでちょくちょくだけどプレイはしていたんだよね。
友達に紹介されて始めた乙女ゲーム。私はそりゃもうハマったのですけれど、イラストには敵わず、ほんの少しずつ進めていた。
だって、絵も描いていたかったんだもん。こうなるって誰が予測できるんですか。
正直言うとどのルートも終えていない。しかし、友達がプレイする様子を見ていたし、どんな風なものなのかネタバレしない程度で教えてもらっていたので少しは情報を持っていた。だから、自分が転生してしまった悪役令嬢エステルについてちょっとは聞いていた。
「このエステルっていう公爵令嬢はね……ろくでもない最期しか迎えないんだよ」
……。うん、絶望。
しかって。1つぐらいエステルにもハッピーをくれよ。生かしてくれよ。
と今更言っても意味がないことは悟っていたので、私は生き残る道を考えた。
ヒロインちゃんが学園に入学するところからゲームがスタートする。エステルはどのような方法を使ったかは知らないが、その時すでに国の王子と婚約していた。そんなエステルは王子と仲良くなっていくヒロインちゃんに嫌がらせをしていく。そして、王子とヒロインちゃんが結ばれる時、エステルは断罪。嫌がらせを暴露されて、国外追放ののちに何者かに殺される。本当にろくな最期じゃないよ。
もちろん、王子以外の攻略対象キャラがヒロインちゃんと結ばれても、エステルはどうのこうのあって死ぬ。
ねぇ、どうにかしてよ。なんで公式はこんなにエステルを殺したがるのよ。
私はゲーム公式に文句を言っていると、ふとあるアイデアが思い浮かぶ。
ん?
待てよ。
これ、学園行かなかったら、私が死ぬことないんじゃない?
つまり、引きこもる。不登校。
引きこもりかぁ……。
引きこもったら、自由な時間が増える。つまり、好きなことをし放題ってこと。
私、公爵令嬢になったんだし、金持ちだし、好きなことして生きていいよね?
思えば、エステルはなんだかんだ優秀な令嬢だった。親の言うことは聞いてたし、成績も悪くなかった。周りからの評判も良かったし、非の打ち所がない令嬢だった。ただ、王子に愛されることはなかったのだけれど。
完璧公爵令嬢だったから、王子と婚約もできたのかもね。
「よし! 引きこもるぞっ!」
そうして、私は広すぎる部屋で仁王立ちして決意した。
太陽の光が若干ながら入り込むその部屋には1人の少女が黙々と作業に取り組んでいた。
――――――――いや、作業ではない。神業を施していた。
部屋の明るい場所とは反対の部屋の影で、彼女は自分の体よりも大きな板と向き合う。そして、右手に持った筆でその板に色を乗せていく。
彼女は国で名を知られている男性画家、“エドワード”
と名前を名乗って正体を隠しながら、絵を描く公爵令嬢エステル・ステラート。
彼女は乙女ゲームにおける悪役令嬢であった。
★★★★★★★★
私は美術部に所属する女子高校生だった。
――――ということを2年前ぐらいだっただろうか?
豪勢なベッドの中で思い出した。
前世の私は普段通り授業を終え、ルンルン気分で美術室に向かい、自分の身長より大きなキャンバスに絵を書いていたのだ。
そして、夜は真っ暗な部屋でペンタブを手に取って、男女問わず全裸をデジタルイラストで書いていた。
基本だもん!
全裸は人の体を練習するのに1番なの!
とやってはいけないことをやっている気分で全裸のイラストを描いて夜を過ごしていた。
そんな高校生活を送っていた高2の夏。
夜もいつも通りイラストを描いていた私はアイスを食べたくなったので、親に見つからないようにこっそり外へ抜け出し、近くのコンビニへと足を運んだ。
お気に入りのアイスを取って支払い、スキップでコンビニを出た私。帰路の途中にある横断歩道を渡っていると横から光ってくる何かが見えた。
――――――――あ、車だ。
気づいたときにはすでに遅し。私は車に轢かれて死んだ。
そこからの前世の記憶はなく、いつもよりフカフカなベッドの上で目を覚ました。
私は見知らぬ場所にいた。
ここはどこだ!? と、ベッドから起き上がり、部屋に合った鏡に映る顔を覗き込む。
そこには見覚えのある少女の顔が映っていた。
パステルカラーの艶やかな長い紫髪。猫のように吊り上がっている鋭い目つき。月のように黄色い瞳。
私は以前とは異なる姿だった。
見たことがある顔。これは……。
そう。
自分が乙女ゲームにおける“悪役令嬢”に転生してしまっていた。
「こ、これどういうこと??」
私はその美しい顔にベタベタと手で触れる。悪役令嬢であっても、この顔は前世の時より美人であった。
まぁ、でも、ヒロインちゃんの方が可愛いですよ。
今、私がいる世界の元となっている乙女ゲームだが、残念ながら私は少ししかプレイしたことがない。
死ぬまでちょくちょくだけどプレイはしていたんだよね。
友達に紹介されて始めた乙女ゲーム。私はそりゃもうハマったのですけれど、イラストには敵わず、ほんの少しずつ進めていた。
だって、絵も描いていたかったんだもん。こうなるって誰が予測できるんですか。
正直言うとどのルートも終えていない。しかし、友達がプレイする様子を見ていたし、どんな風なものなのかネタバレしない程度で教えてもらっていたので少しは情報を持っていた。だから、自分が転生してしまった悪役令嬢エステルについてちょっとは聞いていた。
「このエステルっていう公爵令嬢はね……ろくでもない最期しか迎えないんだよ」
……。うん、絶望。
しかって。1つぐらいエステルにもハッピーをくれよ。生かしてくれよ。
と今更言っても意味がないことは悟っていたので、私は生き残る道を考えた。
ヒロインちゃんが学園に入学するところからゲームがスタートする。エステルはどのような方法を使ったかは知らないが、その時すでに国の王子と婚約していた。そんなエステルは王子と仲良くなっていくヒロインちゃんに嫌がらせをしていく。そして、王子とヒロインちゃんが結ばれる時、エステルは断罪。嫌がらせを暴露されて、国外追放ののちに何者かに殺される。本当にろくな最期じゃないよ。
もちろん、王子以外の攻略対象キャラがヒロインちゃんと結ばれても、エステルはどうのこうのあって死ぬ。
ねぇ、どうにかしてよ。なんで公式はこんなにエステルを殺したがるのよ。
私はゲーム公式に文句を言っていると、ふとあるアイデアが思い浮かぶ。
ん?
待てよ。
これ、学園行かなかったら、私が死ぬことないんじゃない?
つまり、引きこもる。不登校。
引きこもりかぁ……。
引きこもったら、自由な時間が増える。つまり、好きなことをし放題ってこと。
私、公爵令嬢になったんだし、金持ちだし、好きなことして生きていいよね?
思えば、エステルはなんだかんだ優秀な令嬢だった。親の言うことは聞いてたし、成績も悪くなかった。周りからの評判も良かったし、非の打ち所がない令嬢だった。ただ、王子に愛されることはなかったのだけれど。
完璧公爵令嬢だったから、王子と婚約もできたのかもね。
「よし! 引きこもるぞっ!」
そうして、私は広すぎる部屋で仁王立ちして決意した。
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