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第2ラウンド
第21話 嫌いじゃないッ!!
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「貴殿は女子」
怪しく光る長い長い彼の得物。
私の身長以上に長い古き日本の武器――大太刀。
刀の中では大きい部類に入るそれを、THE・武士の彼は容易く持っていた。
まぁ、それ自体に違和感はない。
――――ただ場所に違和感がある。
顔や総髪は戦国武将、服は現代的な水着、場所は侘寂などない騒がしいカジノ――まるで合成したかのような光景。生成AIが作り出しそうな意味不明な一枚。
「だが、第1ラウンドの様子からするに、手加減など無用だろう」
「ええ、そうね」
そんなことは些細なこと――――と気にする様子ゼロな彼。綺麗な弧を描く太刀をギラリと光らせ、構えていた。
「では参る」
「どうぞ」
キンッ――――。
刹那――――刃と刃がぶつかる。
その金属音がカジノ会場に響く。
遅れてやってきたのは空気の振動。
瞬間的に吹く風は私の髪を大きくなびかせる。
「ほう………貴殿は銃器だけでなく、刀も扱えるとは」
刀に入れる力をゆるめることなく、1人感心する彼。
長い得物を振るい、こちらの武器とぶつけ合い。
それでも彼は余裕の笑み、余裕の糸目を浮かべていた。
私はヒールの靴で踏ん張り、大太刀を受け止める。
現役騎士並みの武士男の力。
それはエイダンと同等に匹敵するもの。
負ける? 殺される?
いやいや、そんなわけないじゃない――――。
彼の大太刀を振り外し、そして。
「あっ、がっ………!!」
ビリヤード台を踏み台にして、彼の肩へ乗っかかる。
そして、足を武士男の首に巻き付け、ぎゅっと締めた。
「ただ切り合いだけが戦いってわけじゃないのよ」
相手の命を奪えば、それでOK。
それがデスゲーム。
「なる、ほどっ……!」
正面から飛んでくる彼の刃。だが、顔に直撃する前に、私は後ろに踏ん反りかえってイナバウアー。その勢いで男は後ろへと倒れ、私も一緒に床へと転がる。
それでも足は緩めない。下着同然の水着だし、際どすぎるポーズだがそんなことは気にしていられない。
まだ息絶えない彼は大太刀を私に振ってくる。私は打刀で振り払い、同時に足の締めをさらにきつくさせる。
「――――――っつ!?」
瞬間、電撃のような痛みが足に入る。
見ると、私の足には血と歯噛み痕。
彼が涎と泡を吹きながら、かじりついていた。
諦めまいと彼は肉を食う勢いで噛み、さすがにまずいと思った私は足を解放、一旦彼から離れた。
「ハッ、女子の綺麗なお肌に傷をつけるなんて、やってくれるじゃない」
「…………切り合いだけではない――そう貴殿がおっしゃったのでな」
よだれをぬぐい、息を荒げる糸目武士。相手の武器は1メートルを余裕で超えている大太刀で、こちらは短めの打刀。武器の差だけでいえば歴然。
でも、それだけが武器じゃない。
この全身が武器、戦略が武器、全てが武器。それが分かった彼は、さらに戦闘能力を挙げてくるだろう。
彼の成長に期待しながら、彼の首を狙って日本刀を振るう。当然のごとく、跳ね返されるが、さばいた後にできる隙をついて、足を引っかける。
後ろへ転倒しそうになる武士男。だが、彼はそのままの勢いで後方へと下がって、バク転。
でも、後ろに逃げたって逃げ道はない。
眩しいほどのライトで銀に輝く日本刀――――それを一直線に投げる。空中を飛んでいる最中の彼に回避は無理だ。
「ほう、武器を捨てるとは――――」
だが、彼は日本男児らしくない、逆にハリウッド映画っぽく――――宙でマト〇ックス避け。体を思いっきりひねらせ、刀の刃が鼻先に当たらないギリギリの所で避けた。
「では、お返ししよう」
――――――――ハッ、怪物じゃないの。
回避するだけでなく、飛んでくる刀の持ち手を掴み、投げ返してくる日本男児。彼の口元には、柔らかな弧を描いていた。
こんな戦いで楽しんでいるなんて………………。
うふふ……いいじゃないのっ――――!!
「あなたの名前、たしかミツカネ・ハクトだっけッ!?」
確か漢字では『光兼白兎』と書いたはず。
糸目、武士口調、武器は大太刀、と特徴ありまくり、属性掛け持ち状態の彼だが、乙女ゲームでは見かけなかった。サブキャラとしても登場しなかったはずだ。続編があれば、もしかすると出ていたかもしれないが、残念ながら私は未プレイ。
「貴殿が拙者の名を存じているとは!」
こちらが名前を知っている――――それが意外だったのか、ハクトは嬉しそうに感嘆の声を漏らす。
「当たり前でしょ! 参加者の名前は全員覚えてるわよ!」
このデスゲーム――――転移先がランダムがゆえに、誰と遭遇するか分からない。だから、ゲームが始まる前にプレイヤーとなる生徒全員の名前を頭に叩き込んだ。
自分が投げたはずなのに、逆に迫ってくる日本刀。その刃は雷光のように光り、私の眉間に向かって一直線。ハクトの狙いは正確だった。
だけど、焦燥はない。
死への恐怖もない。
「――――っと」
刃が肌に触れる――間一髪のところで刀を掴んでいた。
否――――挟んでいた。示指と中指――その2本の指で飛んでくる刃を挟み止めていた。少しでもタイミングを間違えば、刀は頭にぶっ刺さっていたことだろう。
「うふふ………」
だが、私は笑っていた。
静かな小さな笑みがこぼれていた。
ああ………楽しい、楽しいわ………………。
第2ラウンド開始早々に、こんな楽しい戦いができるなんて、私はとんでもなく幸運持ち。ラッキーガール。
普段はあなたに感謝も言わないし、祈りもしないけれど、今回だけは言ってあげる。
ありがとう、神様。
こんな楽しい人と戦わせてくれて――――。
「ほぉ……………」
見ていたハクトも私の曲芸に、手を止め、感心の声を漏らしていた。
ねぇ? どう?
私、凄いでしょ?
もっといい反応ちょうだいな。
戻ってきた刀を構え直し、私はビリヤード台の上を駆け、ポーカーテーブルの上を飛ぶ。そして、スロットマシーンの上を飛び越えて、ハクトに向かって剣を振るう。
カキンっ、カキンっ、カキンっ――――。
ハクトも私の斬撃を受け止め、刃が打ち合うその音が連続的に響く。
振るって、薙いで、攻めて。
それでもハクトは全てを払い、逆に攻めてくる。
だけど、こちらも負けず押し返す。
まさに拮抗状態――――。
学習したハクトは刀の攻撃だけでなく、足技、殴り技も組み合わせ、間隙入れることなく攻撃。
キンッ――――。
その瞬間、ハクトの大太刀が回転しながら宙を舞う。
彼の手から武器が離れていた。
「――――っ」
動揺――糸目なせいで瞳からは分からない。
が、顔には焦燥があった。
その隙を逃さず蹴り飛ばし、彼をビリヤード台へと追い詰める。
もらった――――。
ビリヤード台に寝そべるハクトの上に、私は馬乗り。
彼に武器はなく、上の乗っかる私には日本刀。
「王手ね――――」
彼の頭に向かって刀をぶっ刺す。
「まだだッ!!」
だが、刀はビリヤード台垂直に刺さっただけ。ハクトは刃が当たるすれすれのところで首を横に避けていた。
もう一度、と机に刺さった刀を抜く。だが、その途中ハクトに手で押さえられ、日本刀を封じられる。
なら――――。
「はいよッ!!」
「っゔ」
空いた拳で思いっきりハクトの顔を殴打。武器には制限があるけれど、相手の命を絶てるのならどんな方法で殺しても可。何度も何度も殴る。
「ふっ――――」
殴られているにも関わらず、彼は笑っていた。
死を恐れない………今までとは違う反応。
まるで自分の鏡を見ているかのような――――。
その瞬間、ハクトは反撃をかまし、私の脇腹を殴る。あまりにも強い一発で、私は彼の上から離れ、一旦身を引いた。
骨が一本いったかもしれない。
まぁ、気にしないけど。
それよりも………。
「アハッ。あんた、戦い楽しんでるでしょ?」
「ほう、ばれていたか」
「ええ、バレバレよ。別に隠さなくてもいいんじゃない?」
「先ほど友人に話したら、ドン引きされたのだが?」
「………………第1ラウンドでどれくらいの人殺した?」
「数えておらん」
数えていないって………それってたくさん殺し過ぎて覚えてないってことじゃない。武士みたいな男がデスゲームに向いているとか……………はぁ、面白すぎよ。
少しだけ聞いたことがあるが、東の国で100年前までは内戦が激しく住民同士が普通に殺し合っていた、とんでもカントリーだと。その生き残りなのだから、そりゃあ化け物に仕上がるわよね。
「一度きりの戦いをしてみたかった」
「…………死ぬとしても?」
「うむ」
笑みを浮かべたまま、はっきりと答えるハクト。
あーあ……さっさとコイツに会っておけばよかった。
踏み潰される蟻のように弱い雑魚を相手にするんじゃなくって、早く彼に会って殺し合いをしておけば、もっと楽しい時間が過ごせた。
ゲーム始まって以来の最大の後悔が襲ってくる。
同時に沸々と沸きあがるのは、熱い闘志。
――――決まりだ。
彼との戦いは誰にも邪魔させない。
私たち以外誰もいないここで、絶対倒す――――。
武器を取り戻したハクト。
彼はスロットマシーンを蹴り、天井へ飛び、バレルロールで走る。そして、大きく振りかぶって襲いかかる。
「甘いっ!!」
私は側転で回避、逆立ち状態で地面を手で押し、宙をジャンプ。ハクトの腹に向かって、ドロップキックした。彼の体は並ぶスロットマシーンに向かって飛んでいき、豪快にぶつかる。
さらに、間のビリヤード台を飛び越え、彼が起き上がる前を狙って、刀を振るう。だが、彼の回復速度と反射神経はジーナと争えるほど怪物級。態勢が悪いにも関わらず、私の一振りを払った。
「貴殿とはずっと話してみたかった!」
「そう!」
「君を助けれず、すまない!」
今までの人たちと違って、潔く謝罪する彼。
「だが、命乞いはしない。生きたいと乞うのであれば、勝てばいいだけの話。負けたのならば、それが拙者の運命と受け止めよう――――」
その清々しさは目を逸らせないぐらいに真っすぐで、気づけば私は笑みをこぼしていた。
「ハハッ! あんたのことは嫌いじゃないわ!」
ぶっちゃけ言えば、彼はほとんど学園での姿を見かけなかった。たまに廊下ですれ違うぐらいで、言葉を交わしたことがなかった。聞く話では、実家でごたごたがあったらしく、学園に通うこともままならなかったとか。
「そうか! それはよかった!」
憎い感情はコイツ――――ハクトにはない。
ゲームを始めた当初感じないと思っていた申し訳なさは若干ある。
――――――――が、これは戦争。
彼は殺さなければならない。
「ハクト! いい殺し合いをしましょぉう!?」
一歩を踏み出し、床の上を飛ぶ。
彼の間合いに入り、剣先を首に狙いを定める。
「させるかっ!」
「くっ!!」
ギラリと先を光らせる私の日本刀。だが、それはハクトの肌に触れることなく、大太刀に抑えられ、はじき返される。
風を切り、耳を塞ぎたくなるようなスロットマシーンの音すら聞こえなくなるぐらい、斬撃の音が響く。普通の人ではきっと捕えられない、剣さばき。
「っ――――!!」
それでも押し切り、大太刀を吹き飛ばす。
寸秒に見えたハクトの胸。
ようやく空いた甲冑も武装もない筋肉が美しい胸。
私は逃さず、その彼の心臓を――――一刺し。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
かはっと血を吐き、ようやく目を開いたハクト。
彼の瞳は琥珀色。
月の光を埋め込んだようで綺麗だった。
そのハクトの視線は刀が刺さった自分の胸から、上に向き、私と目を合わす。
「いい、太刀さばきであった………」
「…………」
「最期、に刀を交えれたのが………き、でんでよかった………」
すぐそこに黄泉の国が待っている。
だけど最後まで戦いの感想を話してくれるハクト。
彼は安心したような瞳を浮かべて、笑う。
「光兼白兎、楽しい戦いをありがとう」
「こちら、こそ……礼を言わね、ば…………」
「また戦いましょ。来世とかで」
「………ああ。また、会お、う………」
私と約束を交わし、優しく微笑みを浮かべる光兼白兎。
そうして、彼は立ったまま、息音を消した。
斬撃音がなくなったカジノ会場で響くスロットマシーンの音。
その中で小さく聞こえる私の息音。
目の前の彼に息はなし、蜂蜜色の瞳はハイライトを失っていた。
「………………」
これまでの戦いも楽しかった。
だけど、彼とのバトルは段違い――――心の底から“楽しかった”。
あの世に行った彼との戦闘に、もう一度はない。
だからこそ、楽しめたのかもしれないが。
「はぁ………もう少し戦いたかったなぁ………」
押し寄せるのは戦闘を終えてしまったという後悔。
あと1時間は戦っていたかった。いや、ずっと戦っていたかった。
でも、これは戦争、デスゲーム。
相手の死はつきもの。私にだって、時間があった。
でもなぁ………。
もう少しだけ楽しみたかったなぁ…………。
だが、その後悔を飲み込み、出かかった涙をぐっとこらえる。
「……………ううん! 他のみんなに期待しましょう!」
エイダンたちは本気でかかってきてくれる。
第1ラウンドを乗り越えてきた人間なら、人殺しという一線を超すのは時間次第だ。
――――みんな、どう化けるかしら。
「うふふ、楽しみね」
魂を失ったハクトの足元を中心に床に広がっていく、血だまり。
カジノという会場ではあったけれど、普通に和風ゲーしてるみたいでよかった。もし、いつか黄泉の世界で出会えたら、彼ともう一戦したい。
突っ立ったまま永遠の眠りについたハクト。太刀を引き抜いても、彼は立ったままで、銅像のように動かない。
そんな彼に私は深く一礼。
そして、もう一度顔を見て。
「よしっ――――じゃ、次行きましょっか」
ビリヤード台が壊れ、スロットマシーンが倒れ、ハチャメチャになったカジノ会場を出ていく。部屋を出る前にふと振り返ると、そこに残ったのは直立不動の1人の死体と壊れかけのスロットマシーンたち。
マシーンたちは賭博師が誰1人いない中で、空しく音を響かせていた。
怪しく光る長い長い彼の得物。
私の身長以上に長い古き日本の武器――大太刀。
刀の中では大きい部類に入るそれを、THE・武士の彼は容易く持っていた。
まぁ、それ自体に違和感はない。
――――ただ場所に違和感がある。
顔や総髪は戦国武将、服は現代的な水着、場所は侘寂などない騒がしいカジノ――まるで合成したかのような光景。生成AIが作り出しそうな意味不明な一枚。
「だが、第1ラウンドの様子からするに、手加減など無用だろう」
「ええ、そうね」
そんなことは些細なこと――――と気にする様子ゼロな彼。綺麗な弧を描く太刀をギラリと光らせ、構えていた。
「では参る」
「どうぞ」
キンッ――――。
刹那――――刃と刃がぶつかる。
その金属音がカジノ会場に響く。
遅れてやってきたのは空気の振動。
瞬間的に吹く風は私の髪を大きくなびかせる。
「ほう………貴殿は銃器だけでなく、刀も扱えるとは」
刀に入れる力をゆるめることなく、1人感心する彼。
長い得物を振るい、こちらの武器とぶつけ合い。
それでも彼は余裕の笑み、余裕の糸目を浮かべていた。
私はヒールの靴で踏ん張り、大太刀を受け止める。
現役騎士並みの武士男の力。
それはエイダンと同等に匹敵するもの。
負ける? 殺される?
いやいや、そんなわけないじゃない――――。
彼の大太刀を振り外し、そして。
「あっ、がっ………!!」
ビリヤード台を踏み台にして、彼の肩へ乗っかかる。
そして、足を武士男の首に巻き付け、ぎゅっと締めた。
「ただ切り合いだけが戦いってわけじゃないのよ」
相手の命を奪えば、それでOK。
それがデスゲーム。
「なる、ほどっ……!」
正面から飛んでくる彼の刃。だが、顔に直撃する前に、私は後ろに踏ん反りかえってイナバウアー。その勢いで男は後ろへと倒れ、私も一緒に床へと転がる。
それでも足は緩めない。下着同然の水着だし、際どすぎるポーズだがそんなことは気にしていられない。
まだ息絶えない彼は大太刀を私に振ってくる。私は打刀で振り払い、同時に足の締めをさらにきつくさせる。
「――――――っつ!?」
瞬間、電撃のような痛みが足に入る。
見ると、私の足には血と歯噛み痕。
彼が涎と泡を吹きながら、かじりついていた。
諦めまいと彼は肉を食う勢いで噛み、さすがにまずいと思った私は足を解放、一旦彼から離れた。
「ハッ、女子の綺麗なお肌に傷をつけるなんて、やってくれるじゃない」
「…………切り合いだけではない――そう貴殿がおっしゃったのでな」
よだれをぬぐい、息を荒げる糸目武士。相手の武器は1メートルを余裕で超えている大太刀で、こちらは短めの打刀。武器の差だけでいえば歴然。
でも、それだけが武器じゃない。
この全身が武器、戦略が武器、全てが武器。それが分かった彼は、さらに戦闘能力を挙げてくるだろう。
彼の成長に期待しながら、彼の首を狙って日本刀を振るう。当然のごとく、跳ね返されるが、さばいた後にできる隙をついて、足を引っかける。
後ろへ転倒しそうになる武士男。だが、彼はそのままの勢いで後方へと下がって、バク転。
でも、後ろに逃げたって逃げ道はない。
眩しいほどのライトで銀に輝く日本刀――――それを一直線に投げる。空中を飛んでいる最中の彼に回避は無理だ。
「ほう、武器を捨てるとは――――」
だが、彼は日本男児らしくない、逆にハリウッド映画っぽく――――宙でマト〇ックス避け。体を思いっきりひねらせ、刀の刃が鼻先に当たらないギリギリの所で避けた。
「では、お返ししよう」
――――――――ハッ、怪物じゃないの。
回避するだけでなく、飛んでくる刀の持ち手を掴み、投げ返してくる日本男児。彼の口元には、柔らかな弧を描いていた。
こんな戦いで楽しんでいるなんて………………。
うふふ……いいじゃないのっ――――!!
「あなたの名前、たしかミツカネ・ハクトだっけッ!?」
確か漢字では『光兼白兎』と書いたはず。
糸目、武士口調、武器は大太刀、と特徴ありまくり、属性掛け持ち状態の彼だが、乙女ゲームでは見かけなかった。サブキャラとしても登場しなかったはずだ。続編があれば、もしかすると出ていたかもしれないが、残念ながら私は未プレイ。
「貴殿が拙者の名を存じているとは!」
こちらが名前を知っている――――それが意外だったのか、ハクトは嬉しそうに感嘆の声を漏らす。
「当たり前でしょ! 参加者の名前は全員覚えてるわよ!」
このデスゲーム――――転移先がランダムがゆえに、誰と遭遇するか分からない。だから、ゲームが始まる前にプレイヤーとなる生徒全員の名前を頭に叩き込んだ。
自分が投げたはずなのに、逆に迫ってくる日本刀。その刃は雷光のように光り、私の眉間に向かって一直線。ハクトの狙いは正確だった。
だけど、焦燥はない。
死への恐怖もない。
「――――っと」
刃が肌に触れる――間一髪のところで刀を掴んでいた。
否――――挟んでいた。示指と中指――その2本の指で飛んでくる刃を挟み止めていた。少しでもタイミングを間違えば、刀は頭にぶっ刺さっていたことだろう。
「うふふ………」
だが、私は笑っていた。
静かな小さな笑みがこぼれていた。
ああ………楽しい、楽しいわ………………。
第2ラウンド開始早々に、こんな楽しい戦いができるなんて、私はとんでもなく幸運持ち。ラッキーガール。
普段はあなたに感謝も言わないし、祈りもしないけれど、今回だけは言ってあげる。
ありがとう、神様。
こんな楽しい人と戦わせてくれて――――。
「ほぉ……………」
見ていたハクトも私の曲芸に、手を止め、感心の声を漏らしていた。
ねぇ? どう?
私、凄いでしょ?
もっといい反応ちょうだいな。
戻ってきた刀を構え直し、私はビリヤード台の上を駆け、ポーカーテーブルの上を飛ぶ。そして、スロットマシーンの上を飛び越えて、ハクトに向かって剣を振るう。
カキンっ、カキンっ、カキンっ――――。
ハクトも私の斬撃を受け止め、刃が打ち合うその音が連続的に響く。
振るって、薙いで、攻めて。
それでもハクトは全てを払い、逆に攻めてくる。
だけど、こちらも負けず押し返す。
まさに拮抗状態――――。
学習したハクトは刀の攻撃だけでなく、足技、殴り技も組み合わせ、間隙入れることなく攻撃。
キンッ――――。
その瞬間、ハクトの大太刀が回転しながら宙を舞う。
彼の手から武器が離れていた。
「――――っ」
動揺――糸目なせいで瞳からは分からない。
が、顔には焦燥があった。
その隙を逃さず蹴り飛ばし、彼をビリヤード台へと追い詰める。
もらった――――。
ビリヤード台に寝そべるハクトの上に、私は馬乗り。
彼に武器はなく、上の乗っかる私には日本刀。
「王手ね――――」
彼の頭に向かって刀をぶっ刺す。
「まだだッ!!」
だが、刀はビリヤード台垂直に刺さっただけ。ハクトは刃が当たるすれすれのところで首を横に避けていた。
もう一度、と机に刺さった刀を抜く。だが、その途中ハクトに手で押さえられ、日本刀を封じられる。
なら――――。
「はいよッ!!」
「っゔ」
空いた拳で思いっきりハクトの顔を殴打。武器には制限があるけれど、相手の命を絶てるのならどんな方法で殺しても可。何度も何度も殴る。
「ふっ――――」
殴られているにも関わらず、彼は笑っていた。
死を恐れない………今までとは違う反応。
まるで自分の鏡を見ているかのような――――。
その瞬間、ハクトは反撃をかまし、私の脇腹を殴る。あまりにも強い一発で、私は彼の上から離れ、一旦身を引いた。
骨が一本いったかもしれない。
まぁ、気にしないけど。
それよりも………。
「アハッ。あんた、戦い楽しんでるでしょ?」
「ほう、ばれていたか」
「ええ、バレバレよ。別に隠さなくてもいいんじゃない?」
「先ほど友人に話したら、ドン引きされたのだが?」
「………………第1ラウンドでどれくらいの人殺した?」
「数えておらん」
数えていないって………それってたくさん殺し過ぎて覚えてないってことじゃない。武士みたいな男がデスゲームに向いているとか……………はぁ、面白すぎよ。
少しだけ聞いたことがあるが、東の国で100年前までは内戦が激しく住民同士が普通に殺し合っていた、とんでもカントリーだと。その生き残りなのだから、そりゃあ化け物に仕上がるわよね。
「一度きりの戦いをしてみたかった」
「…………死ぬとしても?」
「うむ」
笑みを浮かべたまま、はっきりと答えるハクト。
あーあ……さっさとコイツに会っておけばよかった。
踏み潰される蟻のように弱い雑魚を相手にするんじゃなくって、早く彼に会って殺し合いをしておけば、もっと楽しい時間が過ごせた。
ゲーム始まって以来の最大の後悔が襲ってくる。
同時に沸々と沸きあがるのは、熱い闘志。
――――決まりだ。
彼との戦いは誰にも邪魔させない。
私たち以外誰もいないここで、絶対倒す――――。
武器を取り戻したハクト。
彼はスロットマシーンを蹴り、天井へ飛び、バレルロールで走る。そして、大きく振りかぶって襲いかかる。
「甘いっ!!」
私は側転で回避、逆立ち状態で地面を手で押し、宙をジャンプ。ハクトの腹に向かって、ドロップキックした。彼の体は並ぶスロットマシーンに向かって飛んでいき、豪快にぶつかる。
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「貴殿とはずっと話してみたかった!」
「そう!」
「君を助けれず、すまない!」
今までの人たちと違って、潔く謝罪する彼。
「だが、命乞いはしない。生きたいと乞うのであれば、勝てばいいだけの話。負けたのならば、それが拙者の運命と受け止めよう――――」
その清々しさは目を逸らせないぐらいに真っすぐで、気づけば私は笑みをこぼしていた。
「ハハッ! あんたのことは嫌いじゃないわ!」
ぶっちゃけ言えば、彼はほとんど学園での姿を見かけなかった。たまに廊下ですれ違うぐらいで、言葉を交わしたことがなかった。聞く話では、実家でごたごたがあったらしく、学園に通うこともままならなかったとか。
「そうか! それはよかった!」
憎い感情はコイツ――――ハクトにはない。
ゲームを始めた当初感じないと思っていた申し訳なさは若干ある。
――――――――が、これは戦争。
彼は殺さなければならない。
「ハクト! いい殺し合いをしましょぉう!?」
一歩を踏み出し、床の上を飛ぶ。
彼の間合いに入り、剣先を首に狙いを定める。
「させるかっ!」
「くっ!!」
ギラリと先を光らせる私の日本刀。だが、それはハクトの肌に触れることなく、大太刀に抑えられ、はじき返される。
風を切り、耳を塞ぎたくなるようなスロットマシーンの音すら聞こえなくなるぐらい、斬撃の音が響く。普通の人ではきっと捕えられない、剣さばき。
「っ――――!!」
それでも押し切り、大太刀を吹き飛ばす。
寸秒に見えたハクトの胸。
ようやく空いた甲冑も武装もない筋肉が美しい胸。
私は逃さず、その彼の心臓を――――一刺し。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
かはっと血を吐き、ようやく目を開いたハクト。
彼の瞳は琥珀色。
月の光を埋め込んだようで綺麗だった。
そのハクトの視線は刀が刺さった自分の胸から、上に向き、私と目を合わす。
「いい、太刀さばきであった………」
「…………」
「最期、に刀を交えれたのが………き、でんでよかった………」
すぐそこに黄泉の国が待っている。
だけど最後まで戦いの感想を話してくれるハクト。
彼は安心したような瞳を浮かべて、笑う。
「光兼白兎、楽しい戦いをありがとう」
「こちら、こそ……礼を言わね、ば…………」
「また戦いましょ。来世とかで」
「………ああ。また、会お、う………」
私と約束を交わし、優しく微笑みを浮かべる光兼白兎。
そうして、彼は立ったまま、息音を消した。
斬撃音がなくなったカジノ会場で響くスロットマシーンの音。
その中で小さく聞こえる私の息音。
目の前の彼に息はなし、蜂蜜色の瞳はハイライトを失っていた。
「………………」
これまでの戦いも楽しかった。
だけど、彼とのバトルは段違い――――心の底から“楽しかった”。
あの世に行った彼との戦闘に、もう一度はない。
だからこそ、楽しめたのかもしれないが。
「はぁ………もう少し戦いたかったなぁ………」
押し寄せるのは戦闘を終えてしまったという後悔。
あと1時間は戦っていたかった。いや、ずっと戦っていたかった。
でも、これは戦争、デスゲーム。
相手の死はつきもの。私にだって、時間があった。
でもなぁ………。
もう少しだけ楽しみたかったなぁ…………。
だが、その後悔を飲み込み、出かかった涙をぐっとこらえる。
「……………ううん! 他のみんなに期待しましょう!」
エイダンたちは本気でかかってきてくれる。
第1ラウンドを乗り越えてきた人間なら、人殺しという一線を超すのは時間次第だ。
――――みんな、どう化けるかしら。
「うふふ、楽しみね」
魂を失ったハクトの足元を中心に床に広がっていく、血だまり。
カジノという会場ではあったけれど、普通に和風ゲーしてるみたいでよかった。もし、いつか黄泉の世界で出会えたら、彼ともう一戦したい。
突っ立ったまま永遠の眠りについたハクト。太刀を引き抜いても、彼は立ったままで、銅像のように動かない。
そんな彼に私は深く一礼。
そして、もう一度顔を見て。
「よしっ――――じゃ、次行きましょっか」
ビリヤード台が壊れ、スロットマシーンが倒れ、ハチャメチャになったカジノ会場を出ていく。部屋を出る前にふと振り返ると、そこに残ったのは直立不動の1人の死体と壊れかけのスロットマシーンたち。
マシーンたちは賭博師が誰1人いない中で、空しく音を響かせていた。
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転生したら大好きな乙女ゲームの世界だったけど私は妹ポジでしたので、元気に小姑ムーブを繰り広げます!
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なんちゃってヴィクトリア王朝を舞台にした乙女ゲーム、『ネバーランドの花束』の世界に転生!? しかし、そのポジションはヒロインではなく少ししか出番のない元婚約者の妹! これはNTRどころの騒ぎではないんだが!
第一章で殺されるはずの推しを救済してしまったことで、原作の乙女ゲーム展開はまったくなくなってしまい――。
***
黒髪で、魔法を使うことができる唯一の家系、ブラッドリー家。その能力を公共事業に生かし、莫大な富と権力を持っていた。一方、遺伝によってのみ継承する魔力を独占するため、下の兄弟たちは成長速度に制限を加えられる負の側面もあった。陰謀渦巻くパラレル展開へ。
しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記
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ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。
そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。
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※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています
※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。
悪役令嬢の慟哭
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前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
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「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
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『魔王討伐クエスト』で役に立たないからと勇者パーティーに追い出された回復師は新たな仲間と無双する〜PK集団が英雄になるって、マジですか!?〜
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1プレイヤーとして、普通にVRMMOを楽しんでいたラミエル。
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ラミエルは失意のドン底に落ち、現状を嘆くが……『虐殺の紅月』というパーティーに勧誘されて?
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荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
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使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
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