上 下
5 / 13

第5話 筋肉! 最強!

しおりを挟む
「貴様らは何のためにこれまで生きてきた!? 筋肉のためだろう!」
「イエスマム!」

 俺たちはれんげを回収して次に向かった場所。あの召喚された場所から東へと移動していた。 

「そうだ! もっと筋肉を輝かせてみせろ! いいぞ!」

 どこまでも響く女性の声。凛として透き通った声で、キビキビとしており思わず背筋が伸びる。向かった場所は騎士学校。

 回廊を歩いてすれ違うのは男性ばかりだが、一番聞こえてくるのはその女性の声だった。声の主を知らなければ、あたかも屈強な女性騎士が指導しているとでも思うだろう。

「ねぇ、柾」
「ああ、あの声は確かにあいつだ…………」

 だが、俺とれんげの考えは違った。
 筋肉のいるところ、それは花王ていかのいるところ――――。

「やっぱりここにいた」

 騎士学校には筋肉モリモリマッチョマンがわんさかいる。鎧の下に筋肉を隠す立派な騎士がそれはもういっぱいで、全員が筋トレをしていた。案の定、紺色髪の少女は訓練場で男たちの中央で叫んでいる。

 ふと思い出すのは転移した直後に叫んでいたていかの言葉。

『この世界、筋肉マッチョの臭いがする!』

 多分臭いだけでここまで来たんだろう。己の欲望のままに走ってきたのだろう。

 王城にも魅力的な騎士がたくさんいたが、ジムのように集まっているわけではなく、各場所に分かれている。しかし、騎士学校なら筋肉を持つ野郎どもが集合している。ていかにとってはバカンス。

 あいつ、筋肉の臭いだけ敏感なんだよな。ほんと筋肉バカ。

 ていかは俺が少し腹筋しただけで、次の日に「いい筋肉作ってるね。柾の筋肉楽しみにしてる」とか言ってくる。たった10回しかしていないんだぞ。普通に怖い。

「うむ! いい筋肉だ! 引き締まっている!」
「ありがとうございます! テイカ様!」

 1人の男の筋肉を眺め、叩き、褒めるていか。男たちも嬉しそうに顔を輝かせていた。

「な、なんですか、あれ………」
「ていか恒例、筋肉マッチョ育成イベント」
「えっ………」

 ていかの筋肉狂気っぷりにドン引きする姫さん。あいつとずっと過ごしてると、こんな場面を何度も目撃してしまう。俺たちは慣れてしまったが………。

 ていかはブレない。元の世界でもそうだったが、こっちに来ても筋肉………騎士学校の学生も学生だ。なんであんな奴に構っているんだよ。

 騎士さんあんなやつが入らなくても、十分立派な筋肉は作れるだろうに………。

 見ると、騎士のたまごたちの瞳は異常に輝いている。ていかを女神でも見るかのようなハイライトの眩しい目をしていた。

「なんで騎士全員がていかに惚れてるんだよ。女性とはあんまり関りがなくて興奮でもしてるのか?」
「何言ってるの、柾! 騎士になる子たちがそんなことで興奮するわけないでしょ! キモいこと言わないでよ!」
「………………」

 男の中身は獣だぞ…………と言ってやりたい。でも、「なら柾もなんだね!」って言われて脱線しそうだから、ここはぐっと堪えて。

「姫さん、こうなった経緯とか知らないか? 大方予想がつくけど」
「はい。部下からの報告によりますと、テイカさんが騎士訓練場に入り込みまして、数人片手で倒して力を見せつけたところ、みんなテイカ様に陶酔したようです」
「………………」

 あいつはここでもこんなことを…………。
 てか、騎士さんたちどういう頭してるんだよ。あのていかだぞ? 見た目は美人でも、中身が女子終了のゴングが鳴り止まない終わってる系の人間だぞ?

 惚れてるってどういうことなんだよ。

「おい! ていか! もうそろそろいい加減にしろ! またヤクザが来ても知らねぇーぞ!」
「ヤクザなどおらぬ! ここにいるのは盗賊と魔王軍! 我々はやつらを倒すために日々訓練を行っているのだ! さぁ、皆の者筋トレを行え!」
「「「はっ」」」

 右手を横に振り、命令するていか。騎士たちは整った声で返事をし、さっそく地面に寝転がり腹筋を始めた。ていかの近くにいた男性たちだけは立ったままで、命令を待っているかのようだった。

 後ろで手を組み背を見せるていかの姿はまるで軍官。学生服姿のせいもあって、ていかが本物の上官のように見えた。

「ようやく話しかけてくれたか、柾よ」
「…………気づいてたのかよ」
「ああ、まだ実っていない体が寄ってきていたからな。気づくのは当たり前だろう」

 たるんだ体にも反応するのか………本当に怖い。どうやって感知してるんだよ。

「それで柾、お前もここに来たからには鍛えに来たのだろう?」
「いや、そんな気は一切ございません」

 お前も回収に来ただけです。どうかこれ以上異世界に迷惑をかけるな。
 すると、ていかははぁと呆れたようにため息をついた。

「全く柾は嘘が下手だな………いっそのこと正直に話した方がよいぞ。声も出なくなっていたのは、大方予想がつく。最高の筋肉に仕上げようとする彼らに、柾も看過されたのだろう?」
「は?」
「やっと柾が我らの筋肉に惚れてくれる時が来たと思うと、我はとっても嬉しいぞ」
「…………お前、普段そんな一人称じゃないだろ。師匠ずらすんのやめろ」

 お前が筋肉師匠とか嫌だ。

「私は知っている。柾が1週間に1回鍛えているのを」
「………………」
「恐らくお前のことだ、姉のためだろう。そこは思わず『きっしょ……』と言いたくなるところだが、筋肉に罪はない。それで筋肉を鍛えてくれるのなら、嬉しい限りだ」
「………………」

 ………………なんでこいつ、姉さんのために鍛えていたことを知ってるんだ。怖い、怖い。ストーカーか? 筋肉ストーカーか?
 
「向こうの世界では感じなかったが、今の柾からはとんでもない筋肉が生まれると確信した! 私はその筋肉が覚醒する瞬間を! お前の筋肉が踊るその姿を猛烈に見たい!」

 ていかはバッと両手を横に広げ、口を開けて笑う。楽しそうだが、とてつもなく嫌な予感がした。今すぐ逃げてしまおうか。

「ここは異世界だ! 弱肉強食の世界だ! さぁ戦おう、柾! 筋肉を見せおう!」
「なぁ――んで、そうなるんだよ!? 異世界、弱肉強食の世界でなぜ筋肉を見せ合おうって思考になるんだよ!」

 れんげ同様、ていかも暴走し始めたら止まらないのは分かっていたけど! 元の世界以上にめんどくさくなってないか、コイツ!? 

「全く筋肉筋肉うるさい! この筋肉の奴隷が!」
「筋肉の奴隷になれるのなら、本望だ。ありがとう、柾」
「クソっ!!」

 興奮して頬を染めるていか。可愛い顔は台無しして、鼻息を荒げる彼女は大胆にも制服を脱ぎ捨てる。後ろにいた男どもがていかの服を拾っていた。

「て、テイカ様何を!」

 姫さんはていかの奇行に思わず叫ぶ。他の護衛たちも見まいと視線を逸らしていた。だが、俺とれんげは逸らさない。期待しているものなど見ることはない。

「柾! 準備はいいか!」
「よくねぇよ!」

 制服を脱いだその下には、あらまぁ不思議スポーツウェア。こいつはいつだって制服の下にスポーツウェアを着ている。どうしてかって? まぁ察しろ。

 ていかの周りに武器を構え始める半裸の男ども。もう彼らは彼女の部下だった。俺と戦う準備はOK。俺は全然はOKじゃないんだが。

「さぁ! 柾! お前の勇者の闘志筋肉を見せる時だ!」

  ……………ああ、逃げ出したいよ。姉さん。




 ★★★★★★★★

 明日も更新します!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

NTRエロゲの世界に転移した俺、ヒロインの好感度は限界突破。レベルアップ出来ない俺はスキルを取得して無双する。~お前らNTRを狙いすぎだろ~

ぐうのすけ
ファンタジー
高校生で18才の【黒野 速人】はクラス転移で異世界に召喚される。 城に召喚され、ステータス確認で他の者はレア固有スキルを持つ中、速人の固有スキルは呪い扱いされ城を追い出された。 速人は気づく。 この世界、俺がやっていたエロゲ、プリンセストラップダンジョン学園・NTRと同じ世界だ! この世界の攻略法を俺は知っている! そして自分のステータスを見て気づく。 そうか、俺の固有スキルは大器晩成型の強スキルだ! こうして速人は徐々に頭角を現し、ハーレムと大きな地位を築いていく。 一方速人を追放したクラスメートの勇者源氏朝陽はゲームの仕様を知らず、徐々に成長が止まり、落ちぶれていく。 そしてクラス1の美人【姫野 姫】にも逃げられ更に追い込まれる。 順調に強くなっていく中速人は気づく。 俺達が転移した事でゲームの歴史が変わっていく。 更にゲームオーバーを回避するためにヒロインを助けた事でヒロインの好感度が限界突破していく。 強くなり、ヒロインを救いつつ成り上がっていくお話。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 カクヨムとアルファポリス同時掲載。

【 60話完結済み】ゲームっぽい世界に転生したので人間性を捨てて限界まで頑張る ~転生勇者もヒロインズも魔王もまとめてぶちのめす~

無職無能の自由人
ファンタジー
経験値2倍?秘密ルート?スキルビルド?勝手にやってろ ゲームっぽい世界に転生したので頑張って頑張っていこう! 馬鹿で才能が無く特別な知識も無い、それでも人格持ち越しこそがウルトラチート

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界で魔法使いとなった俺はネットでお買い物して世界を救う

馬宿
ファンタジー
30歳働き盛り、独身、そろそろ身を固めたいものだが相手もいない そんな俺が電車の中で疲れすぎて死んじゃった!? そしてらとある世界の守護者になる為に第2の人生を歩まなくてはいけなくなった!? 農家育ちの素人童貞の俺が世界を守る為に選ばれた!? 10個も願いがかなえられるらしい! だったら異世界でもネットサーフィンして、お買い物して、農業やって、のんびり暮らしたいものだ 異世界なら何でもありでしょ? ならのんびり生きたいな 小説家になろう!にも掲載しています 何分、書きなれていないので、ご指摘あれば是非ご意見お願いいたします

女神に同情されて異世界へと飛ばされたアラフォーおっさん、特S級モンスター相手に無双した結果、実力がバレて世界に見つかってしまう

サイダーボウイ
ファンタジー
「ちょっと冬馬君。このプレゼン資料ぜんぜんダメ。一から作り直してくれない?」 万年ヒラ社員の冬馬弦人(39歳)は、今日も上司にこき使われていた。 地方の中堅大学を卒業後、都内の中小家電メーカーに就職。 これまで文句も言わず、コツコツと地道に勤め上げてきた。 彼女なしの独身に平凡な年収。 これといって自慢できるものはなにひとつないが、当の本人はあまり気にしていない。 2匹の猫と穏やかに暮らし、仕事終わりに缶ビールが1本飲めれば、それだけで幸せだったのだが・・・。 「おめでとう♪ たった今、あなたには異世界へ旅立つ権利が生まれたわ」 誕生日を迎えた夜。 突如、目の前に現れた女神によって、弦人の人生は大きく変わることになる。 「40歳まで童貞だったなんて・・・これまで惨めで辛かったでしょ? でももう大丈夫! これからは異世界で楽しく遊んで暮らせるんだから♪」 女神に同情される形で異世界へと旅立つことになった弦人。 しかし、降り立って彼はすぐに気づく。 女神のとんでもないしくじりによって、ハードモードから異世界生活をスタートさせなければならないという現実に。 これは、これまで日の目を見なかったアラフォーおっさんが、異世界で無双しながら成り上がり、その実力がバレて世界に見つかってしまうという人生逆転の物語である。

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

処理中です...