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第1章 完璧姫の秘密編
第1話 アズレリアの宝物庫
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自然豊かで魔法産業が非常に栄えている国――――アイオライト王国。
その王国には美男美女が多いことで有名だったが、一流のモデルであっても比べ物にならない美しさを持つ、そんな絶世の美女なお姫様がいた。
そのお姫様は精巧に作られた人形のように美しく。
式典で椅子に腰を掛ける凛とした姿は、幼い年齢の頃から恐れ多い輝きを放っていた。
青みを帯びた菫色の艶やかな髪。
吸い込まれそうになるぐらい透き通った灰色の瞳。
誰もが見とれる端麗なその姿。
だが、羨むのは外見だけではなかった。
姫の内面も美しく、寛容的で優しい。
また、王城の優秀文官をも圧倒する聡明があり、さらにさらに剣術や武術、魔術も極めていたので、周りからは「完璧姫」とも呼ばれた。
そんな彼女は、当然おモテになった。
隣国の王子や公爵子息たちからにはこれでもかというほど婚約を申し込まれ、噂を聞いた地球の反対側の国の王子からも求婚された。
「お断りいたします」
だが、完璧姫は求婚相手を一刀両断。
興味がないとも言いたげに、全ての申し込みを断った。
仲には友人となった男性もいたが、それはあくまでも友人。
決して誰とも婚約しようとはしなかった。
そんな完璧姫には少し変わったことがあった。
それは、自分の名前がついた宝物庫を持っていたこと。
王様も妃様も他の兄弟も、自分専用の宝物庫は持っていない。
だが、完璧姫だけ所有していた。
しかも、その宝物庫の出入りは完璧姫だけ。
王様も妃様もみんな出禁だった。
そのため、そこに何があるのかは他の人は知らない。
長年使える侍女や執事長すらも、宝物庫に何があるのか知らなかった。
噂では、金や宝石が置かれているのではないかと言われ、また、違う場所では代々受け継がれてきた書物が大切に保管されているのでは?とも言われた。
でも、誰にも真相は分からない。
そんな秘密だらけの宝物庫の名前は『アズレリアの宝物庫』。
完璧姫アズレリアがこの世で一番大切にしているものが、そこにはあった。
★★★★★★★★
俺の名前はイヴァン・カーター。
17歳の執事――友人には「働いてなさそー、ニートみたい」と言われる俺ですが、ちゃんと執事として職務を果たしている。
といっても、働き始めて半年しか経っていないのでまだ新米執事。
俺の家は代々、王族に使える執事の家。
なので、ある歳になると、執事見習いとして王城で働き出す――――が、俺はそうしなかった。
なぜか。
回答は単純――――「騎士になりたい」という夢があったから。
いつか見た騎士の姿が僕には魅力的で、自分もそれになりたいと願ったのだ。
そして、その夢を叶えるため、親を説得し、15歳でいざ騎士学校へ入学。
多分、察しのいい方は何となく想像がついていることだろう。
学校ではいい成績が出せなかった。
いくら頑張っても剣術は上達しない、試合では負けっぱなし。
まぁ、魔法は幾分マシな成績を出せていたが、魔法が使えたって騎士にはなれない。
そうして、2年後。
俺は騎士の才能がないと認め、夢を諦め学校を自主退学。
これからどうしようかと将来に悩んでいると、俺の祖父が執事として働かないかと誘われ、職につかないのも親に心配をかけると思い、執事学校に入学。
途中入学で、忙しい日々をを送っていたが、授業も実習も苦ではなかった。
むしろ簡単。手こずる同級生を、なぜこんなことで、と思わずにはいられなかった。
俺なんて執事なんて向いていない――――そう思っていたが、思い違いだったようで。
これなら意外とやっていけそうだな、と平穏に学校生活を送っていた。
そして、時が過ぎること1年。
俺は無事執事学校を卒業し、執事として働き始めた。
初めての職場はなんと王城――――いきなり王城でいいのかとは思ったが。
『イヴァン君はぁー才能があるから大丈夫ぅー』
と甘々祖父に言われ、即決定。
最初は見習いだから、裏方の雑用とかから始まるのかなーと思っていたが、配属されたのはまさかの専属執事。
しかも、『完璧姫』と謳われるアズレリア姫付きだった。
完璧姫の元で働くとか、執事も完璧でいなきゃでしょ?
はー。緊張で胃に穴が空きそう。
心配で不安で緊張で、姫の所へ挨拶に行く当日は大量の胃薬を飲み、感情を誤魔化す。
腹をくくって、姫の所に向かったのだが――――。
「あら、あなたが今日からわたくしの執事さん?」
いざ行ってみるとそこまでもなく。
穏やかな微笑みを浮かべる姫は、温かく俺を迎えてくれた。
「イヴァンというのね。色々と迷惑かけると思うけれど、よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
緊張よりも、彼女の美に動揺。
姫様のあまりの美しさに惚れてしまいそうだった。
そうして、俺はアズレリア姫の下でせっせと働き始めた。
決まった時間に起き、決まった時間に食事をし、決まった時間に書斎に行き、陛下から任される仕事をてきぱきとこなしていく――――毎日が完璧だった。
むしろ完璧じゃない時間がない。
だからといって、俺らが大変なわけでもない。
時間が決まっているので、それに合わせるように準備をすればいい。何にも難しいことはなかった。
一方で気になることが1つ。
働き始めて分かったことだか、姫様には侍女は1人しかいない。
不思議なことに1人の侍女以外全員執事で、男だった。
どうやらアズレリア王女殿下が指示したことらしいが、理由は誰も知らないようで。
「もしかしたら、相手を探しているのかもね」
と同僚たちはそんな噂をしていた。
まさか夜にはあんなことやこんなことをさせられる?
俺、イヴァン・カーター、17歳童貞。
いやーん………そういうのやったことないから、わかんなーい。
だが、彼女からそう言ったお願いをされることはなく、俺は無難に仕事していた。
意外にも評価はよく、しょっちゅうみんなから「さすがカーター執事長のお孫さんだ。仕事が早い」と言われ、頼られた。
うーん………普通に仕事をこなしているだけなんだけどな。
そんな本音は言わず、「ありがとうございます」と返事。
そうして、執事の仕事をし始めて、1ヶ月。
これから夕食の時間だというのに、王女はどこかへ出かけようとしていた。
「殿下、今からどこへ?」
「ちょっと……ちょっとね?」
姫は珍しく頬をかき、「察して?」みたいな雰囲気を出す。
いや、そんな顔をされても。新米の俺には分かりませんよ。
「これから夕食の時間ですが、夕食はお召し上がりにならないんですか?」
「ええ。今、あまりお腹が空いていないからいいわ」
だが、姫は昼食以降何も食べていない。いいのだろうか?
あ、もしかして、ダイエット中?
えー、結構痩せてるのに。ダイエットする必要はないでしょうに。
そうして、僕が付いて行こうとすると、アズレリア姫はなぜか足を止めた。
「あ、イヴァンはこないで」
「え? なぜです?」
外に1人で行くのは危ないような気がする。
しかし、姫様は横に首を振り。
「理由は言えないけど、でも大丈夫だから。外には行かないから」
「そうですか。では、俺は就寝の準備でもしてますね」
「ええ、お願い」
外にいかないのなら、王城には兵士があちこちに待機しているし、大丈夫だろう。
そうして、部屋を出ていくアズレリア姫を見送り、俺は準備に取り掛かった。
――――――――数時間後。
一向にアズレリア姫は戻ってこない。
どこでなにをしているのやら。
もしかして、倒れた?
不安がよぎり、部屋を飛び出て廊下を走りだす。
「あら、イヴァンさん」
「セレーナ殿下」
その道中でばったり会ったのは、アズレリア姫と同じ髪色を持つ、小さなお姫様。
アズレリア姫の妹君、セレーナ様だった。
「セレーナ殿下、アズレリア殿下をお見かけしませんでしたか?」
「お姉様? ああ、お姉様ならきっと宝物庫にいると思いますわ」
「ありがとうございます」
「いえいえ。でも、廊下は走らないように」
そう言って、セレーナ様はどこかに去っていった。
僕よりも年下だろうに、随分としっかりした人だ。
セレーナ様に感謝を再度述べ、アズレリア姫の居場所を知った俺は宝物庫へと向かった。
噂のアズレリア姫の宝物庫の部屋。
その入り口には豪勢な両開きドアがあった。
ドア上のプレートには『アズレリアの宝物庫』。
宝物庫がある場所は知っていたけど、ここには初めて来るな。
見ると、若干ドアが開いており、そこから中の光が漏れ出ていた。
宝物庫って金とか宝石とか貴重なものが置かれている場所だよな。
そんな宝物庫で、王女は一体何をしているんだ?
金とか宝石とかを眺めているのか?
『アズレリア姫の宝物庫には入ってはいけない』――――王城の暗黙のルール。
だが、もしアズレリア姫が倒れていたら?
何らかの病を突如発症していたら?
緊急事態なら、ルールなんて守るどころじゃない。
そう考え、俺はドアノブに手をかざし、重い扉をそっと押して入室。
「なんだこれ……?」
全ての壁に隙間なく設置されている棚。
そこにはぎっしりと本が置かれ、世界中の本を全て集めたぐらいの大量の本があり。
棚だけではなく、床にも本があって、積み上げられた本の山脈ができていた。
僕は山の頂上にあった1冊の本を手に取る。
「………………………………は?」
目を疑った。
世界を疑った。
俺が入ったのはアズレリア姫の宝物庫。
あの完全無欠の完璧姫の部屋だ。
部屋に大量の本があるのは分かる。勉強熱心だし、納得はいく。疑う余地などない。
だけど、この本は…………。
手に取った本の表紙。
そこにはキスをしようとする2人のイケメンが描かれていた。
これってBL本………だよな?
たまたま取った1冊が友人から貰い行き場をなくしたBL本かもしれない。
そう思い、というか信じられないので、他の本を見た。
「嘘だろ…………………………」
が、全て描かれているのは男同士でいちゃつくイケメンばかり。
山脈に置いてある本、全部BL本じゃね?
………………いや、床の本だけじゃねぇな。棚の本も、部屋にある全ての本がBLだわ。
………………え、うそ?
俺、あのアズレリア姫の宝物庫に入ったよな?
信じられずに、一旦部屋を出て、プレートを確認。
だが、プレートには確かに『アズレリアの宝物庫』の文字があった。
目をこすっても、それは変わらなかった。
夢の中にいるのかも、と思い頬をつねってみるも、頬の痛みは当然のように生じ。
あの完璧姫の宝物庫にBLがある、という事実を認めざるを得なかった。
いやいやい、完璧姫の宝物庫がBL本だらけなんて。俺、何かドッキリを仕掛けられてる? どっかにカメラとか隠されてない?
あたりを見渡したがそんなものはなく、仕掛人が出てくる様子もない。
…………ああ、そうだ。
姫はきっと誰かに脅されて、BL本を置いてるだけなんだ。
きっとそうだ。
………………………………。
………………………………。
………………………………いや、姫が誰に脅されるんだよ。
脅すとしても、陛下か、妃殿下、兄殿下ぐらいしかいない。
その中でBL好きな人なんているはずがない。
となるとやっぱり……。
「…………」
…………よし。
入っても、何も見なかったことにしよう。
そうしよう。それが一番だ。
何も見なかったふりをしてアズレリア姫を探しに、俺は宝物庫の中へもう一度入る。
再度見ると、部屋の奥には、BL本と書類だらけ大きな書机。
そこには俺の主である1人の少女がすやすやと突っ伏していた。
「殿下……?」
机に頭を乗せて眠りについているアズレリア姫。
眠る時はベッドがお決まりで、完璧姫と言われる彼女にしては珍しい光景。
幸せそうに眠っている彼女に心の中で謝罪しながら、俺はBL本を視界に入れないように、姫の肩を揺らし起こす。
「起きてくださーい。ここで寝たら、身体を痛めますよ」
「う゛ぅ……」
「殿下、起きてください」
「まだ……原稿はできてないわよ……」
原稿?
姫は何を言っているのやら。
寝ぼけているのかな?
姫の肩を揺らしつつ、机の周りを見る。
そこにはペンや大量の用紙、スケッチしたであろうノートなどがあった。
ペンは普通のじゃなさそうだし、変んなものさしがあるし……これって漫画を書く時の道具だよな。
と周りを見渡していると、姫が身体を起こした。
「ん? あれ? イヴァン?」
「ようやくお目覚めですか、殿下。さ、寝室に行きましょう?」
「寝室? 私はまだ寝室には……」
と言いかけたところで、姫はハッと息をのんで、突然立ち上がる。
「な、なんでここにイヴァンがいるの?」
「なんでって言われましても……」
帰ってこないアズレリア姫が心配になって来たんですよ……。
と答えようとした瞬間。
「うげっ」
突然立ち上がった姫に、俺はガっと胸ぐらをつかまれ、ガっと顔を近づけられる。
目の前にはあらゆる美を否定しそうなぐらい端正な姫の顔。
彼女の距離は、ちょっと動けばキスできるよう近さで、俺は思わずドキリと動揺してしまう。
だが、姫がこちらの気持ちなど気にする様子もなく、真剣な表情でこう言ってきた。
「イヴァン、今すぐ記憶を消しなさい!」
「え?」
「いや、命じてもダメね! 物理で消してあげる!」
直後、姫に殴られて、俺は気を失った。
その王国には美男美女が多いことで有名だったが、一流のモデルであっても比べ物にならない美しさを持つ、そんな絶世の美女なお姫様がいた。
そのお姫様は精巧に作られた人形のように美しく。
式典で椅子に腰を掛ける凛とした姿は、幼い年齢の頃から恐れ多い輝きを放っていた。
青みを帯びた菫色の艶やかな髪。
吸い込まれそうになるぐらい透き通った灰色の瞳。
誰もが見とれる端麗なその姿。
だが、羨むのは外見だけではなかった。
姫の内面も美しく、寛容的で優しい。
また、王城の優秀文官をも圧倒する聡明があり、さらにさらに剣術や武術、魔術も極めていたので、周りからは「完璧姫」とも呼ばれた。
そんな彼女は、当然おモテになった。
隣国の王子や公爵子息たちからにはこれでもかというほど婚約を申し込まれ、噂を聞いた地球の反対側の国の王子からも求婚された。
「お断りいたします」
だが、完璧姫は求婚相手を一刀両断。
興味がないとも言いたげに、全ての申し込みを断った。
仲には友人となった男性もいたが、それはあくまでも友人。
決して誰とも婚約しようとはしなかった。
そんな完璧姫には少し変わったことがあった。
それは、自分の名前がついた宝物庫を持っていたこと。
王様も妃様も他の兄弟も、自分専用の宝物庫は持っていない。
だが、完璧姫だけ所有していた。
しかも、その宝物庫の出入りは完璧姫だけ。
王様も妃様もみんな出禁だった。
そのため、そこに何があるのかは他の人は知らない。
長年使える侍女や執事長すらも、宝物庫に何があるのか知らなかった。
噂では、金や宝石が置かれているのではないかと言われ、また、違う場所では代々受け継がれてきた書物が大切に保管されているのでは?とも言われた。
でも、誰にも真相は分からない。
そんな秘密だらけの宝物庫の名前は『アズレリアの宝物庫』。
完璧姫アズレリアがこの世で一番大切にしているものが、そこにはあった。
★★★★★★★★
俺の名前はイヴァン・カーター。
17歳の執事――友人には「働いてなさそー、ニートみたい」と言われる俺ですが、ちゃんと執事として職務を果たしている。
といっても、働き始めて半年しか経っていないのでまだ新米執事。
俺の家は代々、王族に使える執事の家。
なので、ある歳になると、執事見習いとして王城で働き出す――――が、俺はそうしなかった。
なぜか。
回答は単純――――「騎士になりたい」という夢があったから。
いつか見た騎士の姿が僕には魅力的で、自分もそれになりたいと願ったのだ。
そして、その夢を叶えるため、親を説得し、15歳でいざ騎士学校へ入学。
多分、察しのいい方は何となく想像がついていることだろう。
学校ではいい成績が出せなかった。
いくら頑張っても剣術は上達しない、試合では負けっぱなし。
まぁ、魔法は幾分マシな成績を出せていたが、魔法が使えたって騎士にはなれない。
そうして、2年後。
俺は騎士の才能がないと認め、夢を諦め学校を自主退学。
これからどうしようかと将来に悩んでいると、俺の祖父が執事として働かないかと誘われ、職につかないのも親に心配をかけると思い、執事学校に入学。
途中入学で、忙しい日々をを送っていたが、授業も実習も苦ではなかった。
むしろ簡単。手こずる同級生を、なぜこんなことで、と思わずにはいられなかった。
俺なんて執事なんて向いていない――――そう思っていたが、思い違いだったようで。
これなら意外とやっていけそうだな、と平穏に学校生活を送っていた。
そして、時が過ぎること1年。
俺は無事執事学校を卒業し、執事として働き始めた。
初めての職場はなんと王城――――いきなり王城でいいのかとは思ったが。
『イヴァン君はぁー才能があるから大丈夫ぅー』
と甘々祖父に言われ、即決定。
最初は見習いだから、裏方の雑用とかから始まるのかなーと思っていたが、配属されたのはまさかの専属執事。
しかも、『完璧姫』と謳われるアズレリア姫付きだった。
完璧姫の元で働くとか、執事も完璧でいなきゃでしょ?
はー。緊張で胃に穴が空きそう。
心配で不安で緊張で、姫の所へ挨拶に行く当日は大量の胃薬を飲み、感情を誤魔化す。
腹をくくって、姫の所に向かったのだが――――。
「あら、あなたが今日からわたくしの執事さん?」
いざ行ってみるとそこまでもなく。
穏やかな微笑みを浮かべる姫は、温かく俺を迎えてくれた。
「イヴァンというのね。色々と迷惑かけると思うけれど、よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします!」
緊張よりも、彼女の美に動揺。
姫様のあまりの美しさに惚れてしまいそうだった。
そうして、俺はアズレリア姫の下でせっせと働き始めた。
決まった時間に起き、決まった時間に食事をし、決まった時間に書斎に行き、陛下から任される仕事をてきぱきとこなしていく――――毎日が完璧だった。
むしろ完璧じゃない時間がない。
だからといって、俺らが大変なわけでもない。
時間が決まっているので、それに合わせるように準備をすればいい。何にも難しいことはなかった。
一方で気になることが1つ。
働き始めて分かったことだか、姫様には侍女は1人しかいない。
不思議なことに1人の侍女以外全員執事で、男だった。
どうやらアズレリア王女殿下が指示したことらしいが、理由は誰も知らないようで。
「もしかしたら、相手を探しているのかもね」
と同僚たちはそんな噂をしていた。
まさか夜にはあんなことやこんなことをさせられる?
俺、イヴァン・カーター、17歳童貞。
いやーん………そういうのやったことないから、わかんなーい。
だが、彼女からそう言ったお願いをされることはなく、俺は無難に仕事していた。
意外にも評価はよく、しょっちゅうみんなから「さすがカーター執事長のお孫さんだ。仕事が早い」と言われ、頼られた。
うーん………普通に仕事をこなしているだけなんだけどな。
そんな本音は言わず、「ありがとうございます」と返事。
そうして、執事の仕事をし始めて、1ヶ月。
これから夕食の時間だというのに、王女はどこかへ出かけようとしていた。
「殿下、今からどこへ?」
「ちょっと……ちょっとね?」
姫は珍しく頬をかき、「察して?」みたいな雰囲気を出す。
いや、そんな顔をされても。新米の俺には分かりませんよ。
「これから夕食の時間ですが、夕食はお召し上がりにならないんですか?」
「ええ。今、あまりお腹が空いていないからいいわ」
だが、姫は昼食以降何も食べていない。いいのだろうか?
あ、もしかして、ダイエット中?
えー、結構痩せてるのに。ダイエットする必要はないでしょうに。
そうして、僕が付いて行こうとすると、アズレリア姫はなぜか足を止めた。
「あ、イヴァンはこないで」
「え? なぜです?」
外に1人で行くのは危ないような気がする。
しかし、姫様は横に首を振り。
「理由は言えないけど、でも大丈夫だから。外には行かないから」
「そうですか。では、俺は就寝の準備でもしてますね」
「ええ、お願い」
外にいかないのなら、王城には兵士があちこちに待機しているし、大丈夫だろう。
そうして、部屋を出ていくアズレリア姫を見送り、俺は準備に取り掛かった。
――――――――数時間後。
一向にアズレリア姫は戻ってこない。
どこでなにをしているのやら。
もしかして、倒れた?
不安がよぎり、部屋を飛び出て廊下を走りだす。
「あら、イヴァンさん」
「セレーナ殿下」
その道中でばったり会ったのは、アズレリア姫と同じ髪色を持つ、小さなお姫様。
アズレリア姫の妹君、セレーナ様だった。
「セレーナ殿下、アズレリア殿下をお見かけしませんでしたか?」
「お姉様? ああ、お姉様ならきっと宝物庫にいると思いますわ」
「ありがとうございます」
「いえいえ。でも、廊下は走らないように」
そう言って、セレーナ様はどこかに去っていった。
僕よりも年下だろうに、随分としっかりした人だ。
セレーナ様に感謝を再度述べ、アズレリア姫の居場所を知った俺は宝物庫へと向かった。
噂のアズレリア姫の宝物庫の部屋。
その入り口には豪勢な両開きドアがあった。
ドア上のプレートには『アズレリアの宝物庫』。
宝物庫がある場所は知っていたけど、ここには初めて来るな。
見ると、若干ドアが開いており、そこから中の光が漏れ出ていた。
宝物庫って金とか宝石とか貴重なものが置かれている場所だよな。
そんな宝物庫で、王女は一体何をしているんだ?
金とか宝石とかを眺めているのか?
『アズレリア姫の宝物庫には入ってはいけない』――――王城の暗黙のルール。
だが、もしアズレリア姫が倒れていたら?
何らかの病を突如発症していたら?
緊急事態なら、ルールなんて守るどころじゃない。
そう考え、俺はドアノブに手をかざし、重い扉をそっと押して入室。
「なんだこれ……?」
全ての壁に隙間なく設置されている棚。
そこにはぎっしりと本が置かれ、世界中の本を全て集めたぐらいの大量の本があり。
棚だけではなく、床にも本があって、積み上げられた本の山脈ができていた。
僕は山の頂上にあった1冊の本を手に取る。
「………………………………は?」
目を疑った。
世界を疑った。
俺が入ったのはアズレリア姫の宝物庫。
あの完全無欠の完璧姫の部屋だ。
部屋に大量の本があるのは分かる。勉強熱心だし、納得はいく。疑う余地などない。
だけど、この本は…………。
手に取った本の表紙。
そこにはキスをしようとする2人のイケメンが描かれていた。
これってBL本………だよな?
たまたま取った1冊が友人から貰い行き場をなくしたBL本かもしれない。
そう思い、というか信じられないので、他の本を見た。
「嘘だろ…………………………」
が、全て描かれているのは男同士でいちゃつくイケメンばかり。
山脈に置いてある本、全部BL本じゃね?
………………いや、床の本だけじゃねぇな。棚の本も、部屋にある全ての本がBLだわ。
………………え、うそ?
俺、あのアズレリア姫の宝物庫に入ったよな?
信じられずに、一旦部屋を出て、プレートを確認。
だが、プレートには確かに『アズレリアの宝物庫』の文字があった。
目をこすっても、それは変わらなかった。
夢の中にいるのかも、と思い頬をつねってみるも、頬の痛みは当然のように生じ。
あの完璧姫の宝物庫にBLがある、という事実を認めざるを得なかった。
いやいやい、完璧姫の宝物庫がBL本だらけなんて。俺、何かドッキリを仕掛けられてる? どっかにカメラとか隠されてない?
あたりを見渡したがそんなものはなく、仕掛人が出てくる様子もない。
…………ああ、そうだ。
姫はきっと誰かに脅されて、BL本を置いてるだけなんだ。
きっとそうだ。
………………………………。
………………………………。
………………………………いや、姫が誰に脅されるんだよ。
脅すとしても、陛下か、妃殿下、兄殿下ぐらいしかいない。
その中でBL好きな人なんているはずがない。
となるとやっぱり……。
「…………」
…………よし。
入っても、何も見なかったことにしよう。
そうしよう。それが一番だ。
何も見なかったふりをしてアズレリア姫を探しに、俺は宝物庫の中へもう一度入る。
再度見ると、部屋の奥には、BL本と書類だらけ大きな書机。
そこには俺の主である1人の少女がすやすやと突っ伏していた。
「殿下……?」
机に頭を乗せて眠りについているアズレリア姫。
眠る時はベッドがお決まりで、完璧姫と言われる彼女にしては珍しい光景。
幸せそうに眠っている彼女に心の中で謝罪しながら、俺はBL本を視界に入れないように、姫の肩を揺らし起こす。
「起きてくださーい。ここで寝たら、身体を痛めますよ」
「う゛ぅ……」
「殿下、起きてください」
「まだ……原稿はできてないわよ……」
原稿?
姫は何を言っているのやら。
寝ぼけているのかな?
姫の肩を揺らしつつ、机の周りを見る。
そこにはペンや大量の用紙、スケッチしたであろうノートなどがあった。
ペンは普通のじゃなさそうだし、変んなものさしがあるし……これって漫画を書く時の道具だよな。
と周りを見渡していると、姫が身体を起こした。
「ん? あれ? イヴァン?」
「ようやくお目覚めですか、殿下。さ、寝室に行きましょう?」
「寝室? 私はまだ寝室には……」
と言いかけたところで、姫はハッと息をのんで、突然立ち上がる。
「な、なんでここにイヴァンがいるの?」
「なんでって言われましても……」
帰ってこないアズレリア姫が心配になって来たんですよ……。
と答えようとした瞬間。
「うげっ」
突然立ち上がった姫に、俺はガっと胸ぐらをつかまれ、ガっと顔を近づけられる。
目の前にはあらゆる美を否定しそうなぐらい端正な姫の顔。
彼女の距離は、ちょっと動けばキスできるよう近さで、俺は思わずドキリと動揺してしまう。
だが、姫がこちらの気持ちなど気にする様子もなく、真剣な表情でこう言ってきた。
「イヴァン、今すぐ記憶を消しなさい!」
「え?」
「いや、命じてもダメね! 物理で消してあげる!」
直後、姫に殴られて、俺は気を失った。
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そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
公爵家の末っ子娘は嘲笑う
たくみ
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圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。
アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。
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自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。
このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。
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※小説家になろうさんで投稿始めました
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
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鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
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第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
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「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
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全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
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だったのですが。
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