上 下
44 / 62
第3章

第44話 問題児だYO!

しおりを挟む
 「……おい。これどういうことだよ」
 「どういうことってそのままの通りよ。あんたがバグみたいなレベルになってるの、世間にバレたのよ」

 リコリスはそう言って、新聞を奪い取り、代わりにサインペンとTシャツを渡してくる。俺はそのまま返した。

 別に、自分のレベルのことを隠してるわけじゃなかった。
 隠していたのは『自力で裏世界に行けること』。
 レベルは、先輩やアスカ、メミの時の戦いで、俺のレベルが二桁台じゃないことぐらいみんな気づいていて、その時には新聞に載っていたはずだろう。
 でも、今載るなんて……。

 「お兄様はかなり前からオッカム様よりも高いレベルになっていたのに……」
 「ああ、今更だな」
 「『アルカイドの勇者』のことまで……」
 「もう隠せないだろうな」

 事情を全部知っているメミは心配そうな表情を浮かべていた。
 まさかアルカイドの勇者であることも疑われるとは。
 確かに勇者になるやつはレベルの上りが早く、年齢の割に高いやつが多い。

 でも、レベルが高いってだけでイコール勇者にはならないじゃん。

 まぁ、多分、アルカイドの勇者は俺だと思うけどさー。
 他にいるのなら、ぜひそいつに勇者をしていただきたい。全部お任せしたい。

 フィー王女様が話していたが、勇者を自分の手元に置こうと、貴族たちが躍起になっている。
 そのごたごたが嫌で、勇者の印を隠していたんだがな。

 すると、遠くから「ネル様~!」という声が聞こえてきた。
 声がする方を見ると、大勢の人たちが走ってきている。

 ああ……来たな。
 あいつらも勇者を自分の近くにおいておきたいから、追いかけてくるんだろうな。
 まぁ、俺は誰の下にもいたくないけど。

 「兄様、追っ手が来ました」
 「ああ、逃げるぞ……ともかくリコリス。店はたため」
 「嫌よ。せっかくグッズを作ったのに売らないなんて、私損しただけじゃない!」
 「作った時点で損はしてる。利益を出すのは諦めろ」
 「なら、ネルに売り上げの5%は上げるわ」

 おい……俺を商品にしてるんだぞ。
 5%って少なすぎるだろ。

 「ダメだ。50だ」
 「えー。じゃあ、10ぱぁー
 「少ない、45」
 「むー、15ぱぁー
 「45」
 「……20ぱぁー
 「45」
 「……25」
 「45」
 「……30」
 「45」

 すると、リコリスはキィーと悲鳴を上げ、地団駄を踏んだ。

 「45、45って! ちょっとは寄りなさいよ! こっちは寄ってるのに!」
 「45だ」
 「むぅ~! もう! 分かったわよ! 45ね!」
 「おう! よろしく!」

 勝手に俺のグッズを売られたんだ。半分くらいはもらわないとな。
 そうして、俺はメミと大急ぎで教室に向かった。



 ★★★★★★★★



 「それで、ここにあたしのところに来るって」
 「だってほら、ここなら誰も来ないじゃん」

 リコリスに会ってから、俺はメミとともにアスカの研究室に逃げ込んでいた。
 最初は教室にいたんだが、ひっきりなしに声をかけられ、耐えに耐えきれず、こっちに来ている。
 
 研究室にいたのは、アスカの他に、リナ、ラクリア。
 3人とも授業をサボっているらしい。
 一時してから、ルンルン気分のリコリスもやってきた。

 俺は椅子に座り、机の向かいに座るツインテール女子アスカのパソコンいじりを眺めていた。
 俺の右隣にはメミ、左隣にはドーナツを食べるラクリア、アスカの隣にはリナが静かにお茶をしている。
 そして、少し離れたところで座っているリコリスは机にお金を広げ、売り上げを数えていた。
 あの感じだと結構売れたんだな…………。

 「まぁいいけど。それでどうするの? アルカイドの勇者とか言われているじゃない」
 「どうもしねーよ。俺は平穏に生きたいからな」
 「そうです。兄様はどこぞの勇者みたいにアイドルになったりはしません。兄様は私だけの兄様です」

 メミがそう言うと、アスカは分かりやすく顔をしかめる。

 「メミは仲直りしてからというものの、ブラコンまっしぐらね……こいつのどこがいいのやら」
 「全てです」

 メミは真剣に答えていた。一方、アスカは苦笑い。

 「……それで、リコリス。商品はどのくらい売れたの」
 「半分くらい売れたわー」
 「半分だけ? もっと売れたと思ったのに」
 「後の半分は予約済みなのー」
 
 と言って、リコリスは分かりやすくメミの方を見る。
 アスカは察したのか、はぁとため息をついていた。 

 「買い手がいるならいいわ」
 「おい、アスカ。お前はなんで俺のグッズのこと知ってるんだよ」

 こいつ、研究室の外に出ていないのに。

 「え? そりゃあ、あたしが商品を作ったからに決まってるじゃない」
 「…………」

 なるほど、そういうことですか。
 商品開発はアスカで、売り子がリコリスか。
 ……あー、納得。
 リコリスが1人でグッズとかを作るのはおかしいと思ったんだよな……。

 「そういえば、ネル。今度のチーム戦は練習なしでするの?」

 話題を変えたいのか、アスカがそんなことを聞いてきた。
 チーム戦――この学園では恒例のイベント。
 学年別でトーナメントを組み、指定フィールド内で魔法バトルをするもの。
 そして、上位2組は、ザ・セブンの学園生徒が戦う「七星祭」に学生代表として参加できる。

 俺としては、「七星祭」には興味がないので上位2組にはなりたくないが、成績にも関わるので、最下位にはなりたくない。
 だから、ある程度は勝ち進みたいのだが。

 「練習なしはまずくないか。こっちはリコリスがいるんだぞ」 
 「ちょっと私をお荷物扱いしないでくれる? 私、リナよりもレベルは高いのよ」

 ふんとなぜか髪を後ろに揺らし、自信あり気に言ってくるリコリス。

 高くても、荷物なのは変わりないが……。
 同じことを思ったのか、リナが俺の気持ちを代弁してくれた。

 「…………レベルが高くても、お前はポンコツ。私よりも弱い」 
 「なんですってぇ――――!!」

 ぶちぎれたリコリスはリナをしばこうとする。
 が、リナもリナで、ひょいひょいと避けていた。

 「このっ! ちょこまかと動いて! じっとしないさいよ!」
 「…………ふははは」

 リナ、リコリスで遊んでるな……。
 2人は俺たちの周りを走り回った後、地下の実験室へと消えていった。
 あいつら、バトル始める気だな。

 1人は悪魔女だが、1人は器用なリナだ。
 リナなら、秒でリコリスの動きを封じるだろう。

 「あたしたちなら、練習なしでも大丈夫でしょ。あんた、強いし」
 「そうです。兄様は強いです」
 「まぁ、そうだな」

 冷静に考えて、俺以外にも、魔法道具の申し子アスカ、ASETの人間のリナ、チェケラ族のラクリアがいるんだ。
 何をしでかすか分からん悪魔女のことを目をつぶっても、勝てるだろう。

 「そういえば、お兄様。お聞きしましたか? 今回のチーム戦、上位2位以外はパリス先生の補習だそうですよ」 
 「「え?」」

 俺とアスカは思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
 あのパリス先生の補習だと……?
 そんなの初耳なんだが……。

 「そんな心配なさらずとも、お兄様なら大丈夫ですよ。補習になんかなりません。私と一緒に『七星祭』に行けます! 心配なら、リコリスさんを病欠にしましょう」
 「あ、それいいな」
 「病欠……悪くない案ね」
 「2人ともどれだけリコリスさんを問題視しているんだYO……」

 隣に座ってドーナツを食べていたラクリアが、呆れてそう言ってきた。

 「言っておくが、ラクリア。リコリスの次にお前がヤバいからな」
 「そうかしら? あたしは制御のできないネルの方がまずいと思うけど」
 「YEAH――!! ネルが問題児だYO!!」

 調子に乗ったラクリアは立ち上がって手をチェケラさせながら、「FO――!!」と叫ぶ。
 すると、メミが机をバンっと叩いた。

 「ラクリアさん、なんてことを言うんですか! 兄様は問題児なんかじゃありません!」
 「そうだ。俺は問題児じゃないぞ」
 「確かに兄様は魔法制御は下手ですが……」
 「ん?」
 「変態なところもありますけど……」
 「メミさん?」
 「でも、兄様は努力家で、とってもいい人です! 問題児なんかじゃありません! 失敗しても兄様なりに頑張ってるんです!」

 立ち上がったメミはラクリアに顔を寄せ、そう熱く語る。
 全然フォローになってない気がするけど、かわいいからいっか。
 すると、落ち着いたラクリアは、席に座り直した。

 「あ、そういえば、面白いことを聞いたYO」
 「面白いこと?」
 「えっと、会長さんがネルくん&アスカさん対策をしてることだYO」
 「「え?」」
 「会長さん、後輩を使ってネルくんをコテンパンにする予定だということも聞いたYO」
 「会長って、生徒会長か?」
 「それ以外に誰がいるYO?」
 
 俺はアスカと目を合わせる。
 
 「なんで会長が俺を……」
 「知らないわよ。あんたが何かしたんでしょ」
 「でも、編入してから、俺はアイツに全然関わってないぞ」
 「じゃあ、会長の気に食わないことなんかやったとか?」
 
 あ……それはありうるかもしれないけど。

 「えー……そんな理由で補習受けたくないんだけど」
 「あたしもよ。あのパリスと一緒に冬休みを過ごしたくないわ」

 てか、会長はあれでも学園のトップ。
 レベルが高い相手でも戦略で勝っちまうやつだ。
 そいつが俺をコテンパンにしようとしている、だ?

 そんなの……。

 「アスカ、練習するか……」
 「そうね……下の実験室の調整しておくわ」

 そうして、俺とアスカはゆっくり立ち上がった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔力無し転生者の最強異世界物語 ~なぜ、こうなる!!~

月見酒
ファンタジー
 俺の名前は鬼瓦仁(おにがわらじん)。どこにでもある普通の家庭で育ち、漫画、アニメ、ゲームが大好きな会社員。今年で32歳の俺は交通事故で死んだ。  そして気がつくと白い空間に居た。そこで創造の女神と名乗る女を怒らせてしまうが、どうにか幾つかのスキルを貰う事に成功した。  しかし転生した場所は高原でも野原でも森の中でもなく、なにも無い荒野のど真ん中に異世界転生していた。 「ここはどこだよ!」  夢であった異世界転生。無双してハーレム作って大富豪になって一生遊んで暮らせる!って思っていたのに荒野にとばされる始末。  あげくにステータスを見ると魔力は皆無。  仕方なくアイテムボックスを探ると入っていたのは何故か石ころだけ。 「え、なに、俺の所持品石ころだけなの? てか、なんで石ころ?」  それどころか、創造の女神ののせいで武器すら持てない始末。もうこれ詰んでね?最初からゲームオーバーじゃね?  それから五年後。  どうにか化物たちが群雄割拠する無人島から脱出することに成功した俺だったが、空腹で倒れてしまったところを一人の少女に助けてもらう。  魔力無し、チート能力無し、武器も使えない、だけど最強!!!  見た目は青年、中身はおっさんの自由気ままな物語が今、始まる! 「いや、俺はあの最低女神に直で文句を言いたいだけなんだが……」 ================================  月見酒です。  正直、タイトルがこれだ!ってのが思い付きません。なにか良いのがあれば感想に下さい。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

ファーストキス覚醒 ~無能だからってパーティー追放されたんだけど、再会した幼馴染にキスされ覚醒!? 今更キスをしてと言っても遅いです~

せんぽー
ファンタジー
 地元の友人とパーティを組んで冒険者をしていた少年スレイズ。彼らのパーティーはギルド内でも特に注目されているパーティーであり、日々様々なクエストをこなしていた。  そんなある日。  スレイズがダンジョンに向かう準備をしていると、突然パーティリーダーからこう告げられる。  「スレイズ。お前、このパーティーから抜けてくれ」  冷めきった目はリーダーだけでなく、他の仲間、妹、自分の彼女までもが向けてきていた。さらにリーダーからレベルが上がらない無能はいらない、と言われる。  そうして、パーティ追放されたスレイズは行く当てもなく、仕方なく地元の街に戻った。  すると、街には長年会っていなかった幼馴染ナターシャの姿が。  まともに運動ができなかった以前とは違い、彼女は立派な魔導士に成長していた。  スレイズは村を出てからのことを全てナターシャに話し、またレベルが長い間上がっていないことから、自分が冒険者に向いていないことも告白。  ナターシャとの相談で、スレイズは地元で農家をやっていくことを決意し、彼女も手伝ってくれることになった。  そうして、農家として生きていくと決めた数日後、スレイズは突然ナターシャからキスをされる。  すると、彼の体が光だし、レベルが上昇。ステータスも全て上がっていた。  「俺ってまさか覚醒したのか?」  彼女がいたスレイズだが、ナターシャからのキスがファーストキスであった。  スレイズがステータスを確認すると、そこには「ファーストキス覚醒」の文字が。  その覚醒はファーストキスをした相手が一定範囲内にいると、自分とその相手のステータスがさらに上昇するものであった。    覚醒したスレイズはナターシャが作っていた最強パーティーに入ることになったが、そのメンバーたちのステータスもなぜか上昇して…………?  ファーストキスから始まる冴えない男の冒険物語。  ※小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。タイトルは文字数制限により少し変更しております。  正式タイトル「ファーストキス覚醒 ~レベルが上がらないからってパーティー追放されたんだけど、帰郷したら幼馴染にキスされ覚醒!? 最強パーティーにも加入しました。え? キスをして? 今更そんなことを言っても遅いです~」

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

異世界転生は、0歳からがいいよね

八時
ファンタジー
転生小説好きの少年が神様のおっちょこちょいで異世界転生してしまった。 神様からのギフト(チート能力)で無双します。 初めてなので誤字があったらすいません。 自由気ままに投稿していきます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

処理中です...